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ソードアート・オンライン ~紫紺の剣士~

作者:紫水茉莉
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アインクラッド編
  3.出会い

かつん、かつんと、履いている靴が音を立てる。見渡す限り、全て石だ。迷宮区はさることながら、建物や橋なんかに至るまで。
ここは第21層。この層自体はもう既に突破されていて、今の最前線は26層だ。最近の話題と言えば、25層でアインクラッド解放隊がボスモンスターにやったらめったらに叩きのめされた。俺はあのギルドはあまり好きではなかったのだが、やはり解放のために戦っているプレイヤー、通称《攻略組》が減ったというのは痛い。まぁ、アインクラッド解放隊の代わりに《血盟騎士団》なるギルドが頭角を表してきているのだが。

ともかく、一応は《攻略組》―――アスナに言われて仕方なく出ているだけなのだが―――の俺がここで何をしているのかと言うと、ここで俺が持っている両手剣の強化素材がとれるからだ。

21層は別名《石フロア》と言われている。主街区が石で構成されているのに加え、湧出(ポップ)するモンスターもほぼ全てゴーレムと呼ばれるような、石でできている奴ばかりだからだ。
しばらくフィールドを歩き回っていると、俺の索敵スキルに反応があった。名前は《lead・golem》――レッド・ゴーレム。そのまんま、鉛のゴーレムだ。全身が鉛でできていて、弱点は首と顔のみというなかなかの難敵だが、倒すとレアな鉱石をドロップする。こいつが俺の目的だ。
むこうはまだ俺に気づいていない。そっと距離を測りつつ、剣を担ぐように構える。両手剣突進技《アバランシュ》。
「シッ・・・!」
軽めの気合いと共に、俺は全速力で飛び出した。ソードスキルは普通でも速いが、足の蹴りと腕の振りでさらに加速させる。上から下への斬撃がゴーレムの左肩口をとらえ、HPがわずかに減少。
「ぐるうっ!」
ゴーレムの口がどこにあるのかは知らないが、そもそも発声器官があるのかどうか疑わしいところだが、ともかくゴーレムはそんな悲鳴をあげてのけ反った。そこを逃さず追撃のソードスキル《ブラスト》。
どれもヒットはするが、首をあまり捉えられていないのでHPは微妙な減り具合だ。
「ぐおっ!」
ゴーレムが吠え、右手を高々と振り上げた。3連続パンチの予備動作だ。剣で受けてもいいが、耐久度減少が馬鹿にならないのでここはバックステップで回避する。直後、ズガガッ!と拳が打ち出される。ここでゴーレムは一瞬硬直するので、カウンターのソードスキル《スコッピード》。ゴーレムの首にクリティカルヒットし、HPがイエローゾーンに落ちた。ゴーレムの腕の動きを確かめつつ、更に強攻撃を2発叩き込み、レッドゾーンにまで落ちる。ぐるぐるッ!とゴーレムが悲鳴を上げて、凄まじい勢いで両腕を振り回した。一撃受けただけで結構な量のHPを持っていかれるが、攻撃範囲は狭いのでそう恐れる必要もない。
ゴーレムのバーサークが途切れた瞬間、両手剣4連撃技《ライトニング》で止めを指した。



もう何体かゴーレムを倒したところで、気づけばもう夕方になるところだった。今から近くの圏内村に向かえば、丁度晩飯の時間ぐらいになるだろう。
そう思って、村に向かって歩いている時だった。キン、キンという音が聞こえてきた。十中八九、戦闘音だ。木陰から覗いてみると、パーティーがモンスター群と戦っているのが見えた。しかも、若干押されている。
「ん・・・」
唸り声を上げながら、俺は音のする方向をにらんだ。戦っているモンスターは4体。そのうち2体はイエローゾーンになっているが、残り2体はほとんど減っていない。普通なら出ていって助けてやるべきなのだろうが、俺は人付き合いが嫌いな上に攻略組だと知られたら嫌な顔をされるかもしれない。まぁ、別に嫌な顔をされても気にすることはないが。それに、グリーンの2体は俺が狙っていた獲物だ。
しばらく悶々と悩んだ末に、やっと俺は出ていくことを決意した。木の陰からぱっと飛び出し、リーダーっぽい片手剣使いに声をかける。
「グリーンの2体、俺が相手しましょうか」
「え!だ、大丈夫!?満タンだよ!?」
「大丈夫です」
「そ、そうなの?・・・じゃあ、お願い!」
こちらを心配しながらもかなり焦っていたらしく、片手剣使いの少女は頷いた。俺も頷き返すと、HPをイエローゾーンにまで落としながら前線を支えていた盾使いに「スイッチ!」と叫んでモンスターの目の前に飛び込んだ。


最後のモンスターが悲鳴を上げて砕け散った瞬間、ばしっと背中に何やら衝撃が来た。やや迷惑げに後ろを振り返るとさっきの少女が満面の笑みを浮かべて立っていて、思わずたじろいでしまう。
「いやーありがとうね君!今のはちょっと危なかったよ!ゴメンね迷惑かけて!」
「いや別にいいけど・・・何故あんな事になってたんですか」
言いつつ、目の前の少女の顔から視線を落とす。使われている防具はかなりグレードの高そうなものばかりだ。他の4人も――このパーティは5人だった―――よい装備を使っている。この層でモンスターに押されるはずがない。
すると、俺の質問を受けた少女は、何故か俺から微妙に目を逸らした。
「あ、え~っと、それはねぇ、う~ん・・・あ」
答えになっていない言葉を呟いていた少女は、急に掌をぱん!と打ち合わせた。にこーっと笑顔を浮かべ、次いで信じられないことを言い出した。
「ねえ君!私たちのギルドに入らない?」






たっぷり時間を置いた後、俺が言えたのはこれだけだった。
「・・・・・・・・・・・は?」 
 

 
後書き
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