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ソードアート・オンライン~狩人と黒の剣士~

作者:村雲恭夜
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最終決戦

キリトとアスナの後を追うように、俺とダークは、空を飛翔する。
とは言えど、先行する二人の速度が遅いせいも在り、恐らくアリスに追い付くのは三分を有するだろうと言うことは解りきっていた。
すると、ダークが言う。
「ライト。まずはお帰り、と言っておこう」
「おう」
後ろを向かず、ダークに言う。後ろを向けば恐らく般若の形相で此方を睨んでるに違いない。
「……ライト。お前は俺に謝る事が在るのでは無いか?」
「何の事っすかね?」
「とぼけるな。……最初の時、帰ると言ったのに帰ってこずに、お前は戦争に巻き込まれてる事に付いてだ」
その事かと思い、頭を押さえる。
事実上、放電と闇を必要以上に使ってしまったため、闇に飲まれた……なんて言えばそれこそ神VS人の全面戦争になりかねない。それだけはーーー避けようと思えば今の俺なら可能だがーーー極力避けたい。
「そう言えば、キリトのチートぶりも拍車が掛かってるが、お前のせいか」
「……元々、このアンダーワールドは俺が新たなVRゲームとして、造り出そうとした発展型の世界だ。菊岡に要請されて、数年前からアップデート要因等でラースに所属してる。……茅場さんも、それを知ってたよ」
「だから、サブマスター権限を渡されてたのか」
俺は静かに頷く。神聖術も、元を正せば俺の造り出そうとしたゲームの名残だし、剣術は、ザ・シード規格で適応されたソードスキルがメインだ。そのソードスキルも、元を正せば俺と茅場さんの創った剣術になる。……まぁ、キリトはそれらを応用して飛んでいるのは本当に想定外過ぎるが。最近、ダークより神様染みてる気がする。腕生やすわ、剣再生させるわ。ヘファイストスか。それともアスクレピオスか。
「俺は唯、正しいと思ったことをやっただけだ。菊岡の意図は知らん。が、少なくとも、あの人は信頼してる。そういう仲だ」
「……馬鹿だな」
「馬鹿だからこそ人を信頼できる。プログラマー冥利に尽きるだけさ」
俺は言うと、頭の中央に直接、切迫した大声が鳴り響いた。
『桐ヶ谷君!天城さん!聞こえるか!!』
『え……あんたか?菊岡さん?』
「どうした、菊岡二佐?」
『済まん……大変な事になった!!時間加速倍率が……奴等、STRAのリミッターを……!!』
「何ぃ!?」
俺は叫ぶ。
「菊岡二佐!リミッターは千二百が限界の筈だろう!?」
『比嘉君が言うには、人間がダイブする際のリミッターで、人工フラクトライトの場合は五千が限界らしい。が、限界加速フェーズに移行すると内部は五百万倍に加速する!その場合、アンダーワールド内部では二百年を経過する!!』
「『に………』」
口走りそうになり、俺とキリトは飲み込んだ。どうやら、ダークは元より、アスナには聞こえてないらしい。
『良いか、キリト君、ライトさん、後十分だ!それまでにコンソールに辿り着き、自力ログアウトしてくれ!どうしても不可能なら、自ら天命を全損すると言う方法も在るが……これは不確実な上に危険が大きい、理由は……』
その言葉を、キリトが遮る。
『分かった、何とかコンソールからの脱出を目指してみる!勿論、アリスも連れていくからそのつもりで準備しといてくれ!』
『……済まん。だが、この際アリスの確保よりも、君達四人の脱出を優先してくれ!良いか、例えログアウト後に記憶が消去出来るとしても、二百年と言う時間は人間の魂寿命を遥かに越えている!正常に意識回復出来る可能性は……ゼロに等しい』
「心配するな、必ず帰る」
俺は言うと、菊岡から通話が切れた。
「菊岡からか?」
ダークが俺に言う。
「ああ。十分後に加速再開するから急いでくれって話だ」
「俺は魂と言う概念自体無いから幾らでも居られるが……嫁が待ってるからな」
キリトが加速したと同時に、俺はダークの背に乗る。
「キリトを追い越せ!アリスを捕まらせないために!!」
「了解!!」
ダークは心意の翼を出すと、加速してキリトを追い抜く。
そしてーーーー
「雷神皇・ドラゴンバイト!!」
竜たちと追跡者の間で飛び降りた俺が、闇を打ち砕いた。
それに続き、キリトが地面に降り立ち、アリスを見た。俺は追跡者の方を見る。
「彼奴が追跡者……闇の神ベクタか」
「オッサンじゃんな」
ダークの横っ腹を叩くと、キリトが横に現れる。
「別れは終わりか?」
「ああ」
「なら……行くぞ」
俺達三人は、敵の前に立ちはだかり、敵は動きを止める。
装備は軍人っぽき服装だが、その手には銃では無く剣。恐らくは米軍関係の一員で在ることは変わり無い。
「テメェ、何者だ?」
俺は敵に言う。
「求め、盗み、奪う者だ」
「何を求める」
「魂を」
すると、今度は敵が言う。
「お前たちこそ何者だ。何故そこに居る。何を根拠に私の前に立つのだ」
逆に、問い。
俺が、何者?
アンダーワールドの創世者?ーーーー当たってはいる。
人界を守る騎士?ーーーー否だ。
SAOをクリアした英雄の一人?ーーーーそれも否だ。
“狩人”?“雷獣”?“レイドキラー”?ーーーー全て否だ。
ならば俺は誰か?
ーーーー答えは簡単だ。
「俺はキリト。剣士キリトだ」
「俺はライト。雷撃士ライト」
「俺はダーク。闇の神ダークだ」
俺らが答えると、いつの間にか着いていた闇の触手を弾いていた。
(直接干渉を可能にする……か。だが、俺達にそれが通用するかな?)
俺は不敵に笑うと、敵も名乗る。
「ガブリエル。私の名はガブリエル・ミラー」
「ガブリエル……天使の一翼の名か」
俺は言うと、各々が剣、刀を抜き放ち、構える。
「ーーーー行くぜ、ガブリエル!!」
キリトが叫び、翼に変形させたマントの裾を羽ばたかせる。
高く舞い上がりながら、剣を交差させる。
「ジェネレート・オール・エレメント!」
キリトは全ての素因をそれぞれ数十個同時に生成すると、急降下と共に発射する。
「ディスチャージ!」
全属性が武器と化してガブリエルに飛んでいく。
だが、ガブリエルは回避行動をせず、両手を上げただけだった。
キリトの攻撃を受け、上半身をぐらつかせ、そしてキリトが上昇すると同時、出た闇が身体に戻り、何事もなかったかのように立つ。
(ガブリエルの属性は斬撃、刺突、火炎、凍結、旋風、岩弾、鋼矢、晶刃、光線、闇呪に対する吸収(ドレイン)……か)
次に、俺が突撃する。
「雷神皇・千刃撃覇(せんじんげきは)!!」
雷撃を帯びた四肢で攻撃を放ち、下がると、ダメージが入ってないように立つ。
「三分やろう。私を楽しませてくれ」
すると、戻ってきたキリトが言う。
「……気前が良いことだな」
「ライト、勝算は?」
すると、俺は言う。
「在るよ?」
「「あんの!?」」
「在る。奴には銃撃耐性が無い。俺はロードのを最生成し直したソードブラスターが在るが、流石に隙は与えてくれんだろ」
「……確かに」
「だから、俺が突っ込む!」
ガブリエルが乗っていた有翼生物を刺して翼を出したと同時に地面を蹴って雷撃化して突進する。
「うらぁあああっ!!」
天城流・三ノ型雷閃・閃撃を放ち、ガブリエルを攻撃する。
ーーーーどうだ!?
打撃耐性も無い筈なので、少なくとも、ダメージとしては入っている筈。
だが、ガブリエルは黒い闇を腕に戻し、言う。
「成る程な。しかし残念ながら、そんな大技はショウ・アップされたテレビ向けの代物だ」
「はん!嘗めん……なぁああああっ!!」
すぐに腕を掴むと、背負い投げに移行。ガブリエルは地面に叩き付けられる。
「……成る程な。その手があるか」
そこに、ダークが刀を持って降下してくる。
「甘い!」
俺を吹き飛ばし、闇でダークを受けると、闇を吸収し始めるダーク。
「何……?」
「闇は俺の食事の一つだよ!!」
闇を喰らい終えたダークが、立ち上がったガブリエルを吹き飛ばす。
そこに、キリトが飛び込み、ラッシュを掛ける。
無限にも思えるラッシュが暫く続き、キリトが吹き飛ばされてくる。
「うおっ!」
キリトを慌てて受け止めると、ダークが影のダークで漆黒のラインをかき消して行く。
「忍法・影操り」
「それっぽいけどパナイな……」
キリトを退かせ、回復させると、ガブリエルを睨む。
ガブリエルは更に翼を四枚出すと、計六枚となった巨大な翼を羽ばたかせる。
「……まるで死の天使だなありゃ」
ダークは呆れながら言うと、真の姿ーーーーダークネスウイングになる。だが、それは半分が白で構成されているダークネスウイングだった。
「リベレーションモード、全面解放!!」
刀を巨大な防壁に変換すると、青紫の稲妻を纏ったガブリエルが突撃してきた。
ガガァアアアン!!
と言う衝撃音と共に、火花を散らす。
「ぐ……っ」
ダークネスウイングが苦痛の声を上げた。
「ダーク!」
「下がれ……馬鹿者!!」
ダークは叫ぶと、俺とキリトは下がり、途端、防壁を突破してダークが倒れた。
「甘く見てた……完全に……!」
俺は言うと、ソードブラスターが消え、装備が消滅、最構成され始める。
「ガブリエル・ミラー。俺に本気を出させるとはな!!」
翡翠色の眼をガブリエルに向け、青緑の雷撃を纏い、青緑髪が伸びる。
ジンオウガの爪が。尾が。ジンオウガの意匠となるその機関が装備を介して生成される。
ーーーーアォオオオオオン!
何処かで吼えた狼の声が、雷撃を呼び寄せた。
「さぁ……終焉の時だ!」
雷神皇・ハイパーリンクモード。
体内に居るジンオウガの能力・姿・技を肉体に変換する特殊能力。此処まで来ると最早怪物レベルだが……元々、怪物。それ以上に評価が下がるわけでは無い。
「うぉおおおおっ!!」
ガブリエル目掛け、突進を開始する。
ガブリエルはそれを見ると、避けて、キリトを狙う。
「させるかよっ!!」
地面を強く蹴り、一歩で上空に出ると、尾に雷撃を溜める。
「覇雷撃!」
叩きつけられた尾に、ガブリエルは反応できず食らう。そのままキリトの横に立つと、ガブリエルは立つ。
「良い……実に良い。お前たちの感情、記憶、心と魂の全てを……今、喰らってやるぞ」
「無理だね」
俺は断言する。
「心も、記憶も、お前には奪えない。身体は唯の器だ。思いは何時も、俺達の側に在る!俺には見える、沢山の人の絆、思い、そして力を!!」
叫んだ途端、俺の手には希望の未来が握られ、それは白い雷撃を帯びている。
「キリト!」
「リリース・リコレクション!!」
同時、キリトが青薔薇の剣でガブリエルを締め付け、夜空の剣は空を無限の夜空で覆う。
「俺達には在る!帰るべき場所、帰りを待つ仲間たちが!!見えたぜ……お前の終着点!!」
途端、ガブリエルは拘束を断ち切り、キリトの両剣は輝き始める。
「お……おおおおおおお!!」
「せ……ぇええええええっ!!」
「LLLLLLLLLLLLL!!」
そして、次の瞬間、神速が如き速さで連撃が繰り広げられた。
俺達は輝く武器を振るう度、誰かの言葉が聞こえる。
『若者達よ、殺意を捨てるのだ。あやつの虚ろなる魂は、殺の心意では斬れぬ』
『恐れるな、少年達。お前さんらの剣には、世界そのものの重さが乗ってるんだぜ』
『さぁ、見せてみなさい。私から受け継いだ、お前達の神威なる力の全てを』
『キリトよ、ライトよ、信じるのじゃ。おぬしらが愛し、おぬしらを愛する、沢山の人々の心を』
そして、俺は、希望の未来を分割した二振りの刀を持ち、俺達が嘗て最も修練し、最も頼った剣技を放った。
“スターバースト・ストリーム”連続十六回攻撃。
“黒雷牙竜撃”連続十六回攻撃。
「「う……おおおおおおおお!!」
星の光に満たされた剣と、青緑の稲妻を纏った刀が、宙に眩い軌跡を引きながら撃ち出されていく。
同時に、ガブリエルの六翼一刃が、全方位から放たれる。
光と虚無が立て続けに激突する度に、巨大な閃光と爆発が世界を震わせる。
速く。
もっと速く。
「「オオオオオーーーーッ!」」
俺達は吼えながら意識を一体化させた肉体を何処までも加速させ振るい続ける。
ーーー受け取りやがれッ!
先に十六回目の攻撃を放った俺はすぐに下がりキリトに道を開ける。
そしてキリトの十六連撃が当たる直前、キリトの左腕が吹き飛んだ。 
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