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ソードアート・オンライン 蒼藍の剣閃 The Original Stories

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ALO編 Running through in Alfheim
Chapter-13 仲間との絆
  Story13-5 決意を灯す瞳

第3者side

キリトとリーファは一目散に街の入り口を目指して走っていた。



前を見るとゴツゴツした通路はすぐ先で石畳に変わり、その向こうに開けた空間が見え、青黒い湖水が仄かに光っている。

湖の中央を石造りの橋が一直線に貫くその彼方には、空洞の天井までまで繋がる巨大な城門が聳え立っていた。


鉱山都市ルグルーの門が見え、少しばかり安堵したリーファが後方を振り返る。


追手の灯す赤い光とはまだ距離があったようで、此方に視線を戻した。


「どうやら逃げ切れそうだな」

「水中に大型のモンスターいるから、落っこちないでね」

二人は短く言葉を交わしながら、橋の中央に設けられた円形の展望台に差し掛かった。

その時、頭上の暗闇を、背後から2つの光点が高速で通過した。


その光点は10m先に落下し、ゴゴーン!と重々しい轟音とともに、橋の表面から巨大な岩壁が高くせり上がる。

そして、完全に行く手を塞いだ。


リーファが顔をしかめ、毒づく。

「やばっ……」

「な……」

キリトも一瞬目を丸くしたが、走る勢いは緩めることはなかった。

「キリト君!待って!!」

制止の声は届かず、背の愛刀を鈍い金属音と共に抜き放つと、それと一体になって岩壁へと突進していき、愛刀を思い切り岩に打ち込んだ。

ガツーン!という衝撃音と共に、弾き返されて橋に尻餅をつく。


褐色の岩肌には傷ひとつ付いていなかった。

「無理ならもっと早く言ってくれ……」

「キリト君が聞かないからだよ…………これ、土魔法の障壁だから物理攻撃じゃ破れないわ。

破るには攻撃魔法を数発撃ち込めばいいんだけど…………」


ちらりと背後を見た。キリトもそれに気づいたらしく

「その余裕はなさそうだな……」

背後を振り返る。

丁度、血の色に輝く鎧を纏った集団の先頭が橋のたもとに差し掛かるところだった。

「飛んで回り込む……のは無理なのか。

湖に飛び込むのはアリ?」

「さっきも言った通り、水中には高レベルの水竜型モンスターが棲んでる。

ウンディーネの援護なしじゃ、水中戦は無理よ」

「じゃあ戦うしかないわけか」

「でも、ちょっとヤバいかも……

サラマンダーがこんな高位の土魔法を使えるってことは、よっぽど手練れのメイジが混ざってるんだわ……」


橋の幅は狭いので、多数の敵に包囲されて全滅というのはまずない。

ただ、このダンジョン内ではリーファは飛ぶことができない。

リーファが得意とする空中での乱戦、それに持ち込むことができないので地上戦しかない。

「なんとかして乗り切るぞ」

重い金属音を響かせて接近してくる敵の一団はもうはっきりと目視できていた。


先頭の横一列に並んだ巨漢のサラマンダー3人は、先日のサラマンダーたちより一回り分厚いアーマーに身を固めいる。その左手にはメイスなどの片手武器、そして右手には巨大な金属盾を携えていた。

「…………リーファ、悪いが今回は回復に専念してくれないか?
決して君の腕を信じてないわけじゃないんだけど」

――…………たしかに、この狭い橋の上で乱戦をするのは危険ね

「え、ええ。わかったわ」

戸惑いながらも、リーファもそれがいいと踏んだのであろうか了承した。


リーファは軽く地を蹴り、橋を遮る岩壁ぎりぎりの場所まで退いた。




キリトが腰を落とすと体を捻り、愛刀を体の後ろ一杯に引き絞った。

津波のような重圧で3人のサラマンダーが迫る。

キリトの大きいとはいえない体が、ぎりぎりと音がしそうな程に捻転していき、蓄積されたエネルギーの揺らぎが眼に見えてくる。


そして、両者の距離は見る見るうちに縮まり、やがて……


「セイッ!!」

気合一閃、キリトは左足をずしんと一歩踏み出すと、青いアタックエフェクトに包まれた剣を、サラマンダーたちに向かって横薙ぎに叩きつけた。


空気を断ち割る唸り、橋を揺るがす振動、かつてない程の威力を秘めた斬撃。


だが、三人のサラマンダーは武器を振りかぶることもせず、ぎゅっと密集すると右手にある盾を前に突き出して、その影に身を隠した。

「えっ……!?」

横に居るリーファの唖然とした声が耳に入る。

ガァン!!という大音響を轟かせ、キリトの剣が並んだタワーシールドの表面を一文字に薙いだ。


ビリビリと空気が震え、湖面に波紋が広がる。


しかしサラマンダーたちは僅かに後方に押し動かされただけで、キリトの攻撃を耐え切った。


相手のHPを確認する。


3人揃って1割以上減少しているが、それは直ぐに背後にいる数人のサラマンダーから立て続けのヒールスペル詠唱と共に水色の光に包まれ回復する。


そして、その直後。


鋼鉄の城壁にも似た大型シールドの後方から、オレンジ色に光る火球が次々に発射され、大空洞の天井に無数の弧を引いてキリトに降り注ぎ、炸裂した。


湖面を真っ赤に染めるほどの爆風が巻き起こり、彼の姿を飲み込んでいく。

「キリト君!!」

リーファの悲鳴にも似た叫び声と共にキリトのHPバーが急減少し、一瞬でイエロー域へと突入した。


普通ならば初撃で即死してもおかしくない密度の多重魔法攻撃。シャオンほどの敏捷力がないキリトは避けることが出来ない。


彼らは間違いなくキリトの凄まじい物理攻撃力を知った上で作戦を練ってきている。

前衛3人は一切攻撃に参加せず、ひたすら分厚いシールドで身を守り、残る9人は恐らく全員メイジで、一部が前衛をヒールで回復させ、残りの者が曲線弾道の火炎魔法で攻撃する。

物理攻撃に秀でたボスモンスターに使うフォーメーション。

「こんなの……ないよ……!

キリト君……もう一度…………やり直そうよ」

「嫌だ…………」

キリトの強い意志がこもった声。


「俺が生きてる間は……仲間を傷つけさせはしない!」


リーファは、その一瞬だけ、ここが仮想世界であることを忘れた。

「うおおおおっ!!」

キリトは突進攻撃の後、タワーシールドに手をかけてこじ開けようとする。

「なんだコイツ……!」

無謀ともいえるその攻撃でない攻撃にサラマンダーたちも少なからず驚く。

「リーファさん、次の魔法を防いでください!」

いつの間にかリーファの肩にいたユイが叫ぶ。



リーファが次の爆撃を必死に防ぐと

「パパ!今です!」

ユイの言葉で、キリトは走りながら何かをつぶやいた。

そして、光の収束が彼を包み込んだ。


次の瞬間、キリトはスプリガンの幻惑魔法で魔物に姿を変えていた。


そのまま、メイジ隊の真ん中に走っていく。

リーダーの男は喉を詰まらせたような悲鳴を上げ、右手をぶんぶん振り回す。


「た、退却!たいきゃーー」


だが、その言葉が終わらない内に、悪魔は一瞬身を縮めると大きく跳躍した。

ズシンと橋を揺るがして着地したのは、集団の真っ只中だった。


それからはもう、戦闘と呼べるものではなかった。


悪魔の鉤爪が唸るたびに、その軌跡にエンドフレイムが飛び散っていく。


中には健気に杖で肉弾戦を挑もうとする者もいたが、武器を振り下ろす間もなく頭から牙に呑まれ、絶命した。


暴風圏から器用に逃げ回っていたリーダーが、最早これまでと見てか、橋から身を躍らせ、水柱を上げて湖面に飛び込んだ。

奴はそのまま猛烈なスピードで彼方の岸目指して泳いでいく。


この世界では水に落ちても、装備重量が一定値以下なら沈まない。

リーダーはメイジの軽装が幸いしてか、見る見るうちに橋から遠ざかっていった。

しかし、水面下から影が忍ばよってきて、パクリと人のみにされてしまった。


悪魔(キリト)は敵リーダーの末路に興味を示さなかったようで、とうとう最後の1人となった不運なメイジを両手で高々と持ち上げる。

「おい!そいつ生かしといて!聞きたいことがあるから!」

リーファの言葉をキリトも理解したらしく、そいつ手につかんだままこちらに戻ってきた。

すごかったですね〜と、呑気な感想を述べるユイを肩に乗せたまま、歩き出した。

リーファが右手の長刀を男の足の間に突き立てる。

「さあ、誰の命令とかあれこれ吐いてもらうわよ!!」


リーファがドスの聞いた声で叫んだが、男は逆にショックから醒めたらしく、顔面蒼白ながらも首を横に振った。


「こ、殺すなら殺しやがれ!」

「なっ…………この……!」


その時、上空から様子を見下ろしていた悪魔が、黒い霧を撒き散らしながらゆっくりとその巨躯を消滅させ始めた。

顔を上げると、宙に溶けていく霧の中央から小さな人影が飛び出し、すとんと橋に着地した。


「いやあ、暴れた暴れた」

呑気な声が聞こえてきた。

「よ、ナイスファイト」

「はぁ…………?」

「ところで君、これ、さっきの戦利品なんだけどさ」

キリトがサラマンダーたちから手に入れた戦利品をトレードウィンドウを示す。

「これ、君にあげちゃおうかなーって思ってるんだけど?」

サラマンダーは仲間の蘇生時間が過ぎたのを確認すると

「マジで?」

キリトに確認する。

「マジマジ」

男二人は顔を見合せ頷き合う。その姿を見て、リーファとユイは…………

「男の人って」

「身も蓋もないですね…………」







サラマンダーは話し出すと饒舌だった。

「今日の夕方かなあ、ジータクスさん、あ、さっきのメイジ隊リーダーなんだけどさ、あの人から携帯メールで呼び出されてさ、オレ飯食ってたから断ろうとしたら強制招集だっつうのよ。

入ってみたら2人を十何人で狩る作戦だっつうじゃん、イジメかよオイって思ったんだけどさ、昨日カゲムネさんをやった相手だっつうからなるほどなって……」

「そのカゲムネってのは誰だ?」

「ランス隊の隊長だよ。

シルフ狩りの名人なんだけどさ、昨日珍しくコテンパンにやられて逃げ帰ってきたんだよね。

あんたがやったんだろ?」


シルフ狩りという言葉にリーファは顔をしかめた。

そして、キリトとリーファは視線を交わす。


恐らくは昨夜キリトが撃退したサラマンダー部隊のリーダーのことだろう。


「……で、そのジークタスさんはなんであたしたちを狙ったの?」

「ジークタスさんよりもっと上の命令だったみたいだぜ。

なんか、作戦の邪魔になるとか……」

「作戦っていうのは?」

「マンダーの上のほうでなんか動いてるっぽいんだよね。

俺みたいな下っぱには教えてくれないんだけどさ、相当でかいこと狙ってるみたいだぜ。

今日入ったとき、すげぇ人数の軍隊が北に飛んでくのを見たよ」


「……世界樹の攻略に挑戦する気なの?」

確かに、リーファがそう思うのも頷ける。

サラマンダー領の首都、ガタンから真っ直ぐ北に飛べば、キリトたちのいる環状山脈にぶつかるし、そこから西に回ればルグルー回廊がある。東に行けば山脈の切れ目のひとつ、竜の谷がある。

どちらを通過するにせよ、その先にあるのは央都アルンと世界樹だ。


しかし、リーファの問いに男はぶんぶんと首を横に振った。

「まさか。さすがに前の全滅で懲りたらしくて、最低でも全軍に古代武器(エンシェントウェポン)級の装備が必要だってんでユルド貯めてるとこだぜ。

おかげでノルマがきつくてさ……

でもまだ目標の半分も貯まってないらしいよ」

「ふうん……」

「…………さっきの話、ホントだろうな?」

「取引で嘘はつかないよ」

キリトは戦利品をトレードすると、残したサラマンダーのプレイヤーはほとぼりを冷ますために帰っていった。


リーファはその後ろ姿を見つめた後、思い付いたようにキリトに質問した。

「あ、ねえ! さっきのってキリト君、だよね?」

「あれか〜……多分……」

「た、多分って……」

「さっきのはユイに魔法教わって試してみたら、なんか急におっきなって……」

「ぼりぼり齧ったりもしてましたよ〜」

「ああ、そう言えば。

モンスター気分が味わえてなかなか楽しい体験だったぜ」

「あのさ、その……味とかしたの?

サラマンダーの……」

「……ちょっと焦げかけの焼肉の風味と歯ごたえが……」

「わっ、やっぱいい、言わないで!」

キリトに向かってリーファがぶんぶんと手を振る。 と、キリトは何を思ったのか、不意に彼女の手を掴み

「がおう」

一声唸るとキリトは大きく口を開け、指先をぱくりと咥えた。

「キャァァァーーー!」

リーファの悲鳴と、それに続くゴンッ!という音が地底湖の水面を僅かに揺らした。

「うう、いててて……」

リーファに思い切り叩かれた頬っぺたをさすりながらキリトがとぼとぼと歩く。

「さっきのはパパが悪いです!」

「ホントホント。失礼しちゃうわ」

リーファとユイが口々に言うと、キリトは叱られた子供のような顔で抗弁した。


「殺伐とした戦闘のあとの空気を和ませようというウィットに満ちたジョークじゃないか……」

「次やったらぶった斬るからね」

リーファは瞼を閉じてツンと顔をそらし、歩調を速めた。















Story13-5 END 
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