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すり

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2部分:第二章


第二章

 それを放っておいてまた小遣いを稼いだ。するとだ。また黒子ができた。
 する度に黒子が増えていきだ。やがてだ。
 両手がほくろだらけになった。まるで蜂の巣だ。このことにだ。
 おみよは眉を顰めさせた。そしてこう呟いた。
「何だってんだよ。醜いったらありゃしないよ」
 白い手が自慢だった。しかしその手にだ。
 これでもかと黒子ができてだ。嫌に思ったのだ。だが黒子はできたらどうしようもない。こればかりはどうしようもなかった。そして相変わらずすりを続けた。
 だがある日を境にだ。おみよは町に出ることがなくなった。すりをしなくなったのだ。
 そして自分の長屋で洗濯物だけを受け取って洗って返す。その際も姿を見せることはなくなった。おみよは急に大人しくなったのだ。
 このことをだ。三次は妙に思った。それで子分の久吉、小柄でひょっとこみたいな顔の彼にだ。屋台でそばを食いながらこう尋ねた。
「どう思う。おみよのこと」
「あの女すりですかい」
「そうだよ。あいつどう思う?」
 甲高い声で返してきた久吉にさらに問うたのだった。
「最近全然姿を見せないけれどな」
「やっぱりおかしいでしょ」
 すぐにだ。久吉はこう返してきた。
「幾ら何でも一ヶ月でやんすよ」
「町に出ずに引き篭もってな」
「それで表の仕事やってるなんて」
「まさかと思うがな」 
 ここで三次は難しい、心配する顔になりだ。久吉に言った。
「夜鷹に鞍替えしたのか?」
「夜鷹でやんすか」
「そうだ。まさかと思うがな」
「夜鷹。あれはちょっと」
「ああ、瘡毒になる奴が多いからな」
 そうした商売の常だった。それで死ぬ者が後を絶たなかった。これは客でも同じでだ。江戸では鼻が落ちあちこちに瘡蓋が出来て死ぬ者が案外多かった。
 それではないかとだ。三次は心配する顔で言ったのである。
「だとするとな」
「心配でやんすか?」
「あいつを捕まえるのは俺だからな」
 対抗心を出してだ。三次はそばをすすった。
「だからな」
「成程。じゃあ見に行きやすか?ちょっと」
「あいつの長屋までか」
「はい。そうしたらどうでやんしょ」
「そうだな」
 久吉のその提案にだ。三次は。
 考える顔になってそのうえでだ。こう答えたのだった。
「少し見に行ってな」
「今何をしているのか見るのも悪いないでやんすよ」
「その通りだな。それじゃあな」
「あいつの長屋に行ってみやすか?」
「よし、そうするな」
 久吉のその提案に頷いてだ。三次は決めたのだった。
 すぐに長屋、おみよの住んでいるそこに入ってだ。そのうえでだった。
 長屋の住人達におみよのことを聞いてみる。しかしだ。
「誰も同じこと言うな」
「そうでやんすね」
 長屋と長屋の間の小道を歩きながらだ。三次は久吉に言った。久吉もそれに応える。
「ずっと長屋の中に引き篭もってかい」
「表の稼業の洗濯屋に専念してるでやんすね」
「真面目に足を洗ったってことか?」 
 このことからだ。三次はまずはこう考えた。
「それなら有り難いんだがな」
「そうでやんすね。けれど兄貴が知ってるあの女はそういう奴でやんすか?」
「すりから簡単に手を洗うかってんだな」
「へい。その辺りはどうでやんしょ」
「そんな筈がねえ」
 すぐにだ。三次はきっぱりと答えた。
「あいつはそんなタマじゃねえ」
「そうでやんすか」
「あいつのことを気付いてる奴は俺位なものだ」
 おみよの住んでいるその長屋、江戸の何処にでもある部屋が連なり障子で区切られ溝があるその長屋の小道を歩きながらだ。三次は言った。
「あいつは相当な腕前でな」
「すりの腕がでやんすね」
「そうだよ。すった財布から中身を幾らか取り出して元の持ち主に返すんだ」
「その財布をでやんすか」
「そんなことができる奴は滅多にいねえ」
 眉を顰めさせてだ。三次は話す。
 
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