ファフナー
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
2部分:第二章
第二章
「これで我慢しろ」
「ラインの黄金の力は知っている」
ふとだ。ファゾルトが呟いた。
「この世を支配できる力が備わっているな」
「そんなことは知らないがな」
あえてだ。ローゲはとぼけてみせた。
「だが。御前達にこれをやろう」
「本当にいいのだな?」
「神は嘘を吐かない」
この言葉自体が嘘だ。ローゲにしろ彼と共にいるヴォータンにしろ策を好む。嘘を言うことなぞ常だ。だがローゲは平然としてこう言ってみせた。
そしてそのうえでだ。巨人族の兄弟に言うのだった。
「この指輪をやることは事実だ」
「富だけでなくそれもか」
「我々にくれるというのか」
「そうだ。やろう」
こう言ってだ。実際にだった。
ローゲは山の様な黄金や宝石に財宝、そしてその指輪を巨人族の前に積んだ。それを報酬にしたのだ。
その報酬を前にしてだ。まずはだ。
兄のファゾルトがだ。こんなことを言い出した。
「では俺が貰おう」
「待て、何を貰うつもりだ」
「富を半分に指輪を貰う」
「そして世界を手に入れるつもりか?」
ファフナーはすぐにだ。兄の前に立って抗議した。
「待て、それは許さんぞ」
「では御前は何が欲しいのだ」
「富は全て兄者にやる」
そんなものは最早どうでもいいというのだ。
「それはだ。しかしだ」
「指輪は御前がだというのか」
「そうだ。指輪は俺が貰う」
世界を手に入れるそれはだというのだ。
「いいな、そうするぞ」
「馬鹿を言え。では俺は富はいらない」
兄もだ。弟にこう返す。
「御前にやる、それはな」
「そして指輪は兄者がだというのか」
「そうだ。それで文句はあるまい」
胸を張りだ。弟を睨んでの言葉だった。
「いや、言わせないぞ」
「ふざけるな。富は兄者だ」
「そして御前が指輪か」
「そうしろ。文句はあるか」
「ない筈があるか。それではだ」
「ああ、こうなればだ」
自然とだ。お互いに手に持っている棍棒でだ。両者は殴り合いに入った。そうしてだった。
激しい殴り合いの末だ。ファフナーは兄でありファゾルトを殴り殺した。そのうえでだ。
空虚を見て仰向けになっている彼にだ。忌々しげに言ったのだった。
「大人しく富だけにしていれば死なずに済んだのにな」
兄を忌々しげに見ての言葉だった。そうしてだ。
ファフナーは富も指輪も全て持ってその場を立ち去った。その彼を見てだ。
ローゲはそっとだ。こうヴォータンに囁いた。
「あの指輪にはですが」
「わかっている。アルベリヒが呪いをかけているな」
「はい」
彼等がその指輪を手に入れる時だ。指輪を奪われたニーベルング族、小人達の王アルベリヒは指輪に呪いをかけたのだ。指輪を手にしている者には破滅する様にだ。
その呪い故にだ。ファフナーもだというのだ。
「あの巨人もやがてです」
「しかしだ。あの指輪にはだ」
「この世を支配する力があるというのですね」
「あの男は世界を支配するのではないのか」
「さて、どうでしょうか」
ローゲの口調は急に素っ気無いものになった。
「そうなれば彼にとってはいいことでしょうが」
「そうはならないか」
「あの指輪の呪いはかなりのものです」
ローゲはファフナーが去ったその荒野を見ながら話した。
「そうはいかないでしょう」
「そうか」
「そしてヴォータン、貴方もです」
ここでだ。ローゲはヴォータンに顔を向けた。そのうえで彼にこう告げたのだ。
ページ上へ戻る