ソードアート・オンライン~狩人と黒の剣士~
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雷撃皇牙
前書き
守りたいものがある。
守らなきゃならないものがある。
その為に俺は、立ち上がる。
絶望を払い除け、俺は進む。
補給部隊と合流したダーク達は、的確な行動で人員を動かし、部隊を移動させる準備は然程掛からず終えた。
負傷者も、ユリア達によってすぐに治療がなされ、全快している。
「レンリ、指示を」
ダークが言うと、緊張した面持ちで、しかし力強く頷いたレンリは、右手を高く掲げ、叫んだ。
「全隊……進行開始!!」
レンリの飛竜とダークが先頭となり、前に進む。
残る敵はベクタただ一人。そのベクタも、今はベルクーリが追っている。
ダークはそれを確認すると、翼を広げ、はためかせた。
数分後、黒い木々の連なる森が途切れ、前方にすり鉢状の巨大な盆地が姿を現した。まるでクレーターの様なくぼ地を貫き、細い道が南へと伸びている。
そのクレーターの縁を越え、下り坂を駆け降りーーーすり鉢の底に部隊が差し掛かった。
その時、何かが震えた。
ぶうぅぅ……ん、と言う、虫の羽音の様な振動音。
「何だ!?」
ダークはいち早く気付き、辺りを見回す。
そして、真後ろを向いたとき、その音の発生源を捉えた。
黒く、細い、線。
ランダムに途切れ、点滅するラインが、赤い空から一直線に地面に降りてくる。
「第二軍かよ、洒落にならねぇ……」
ダークが呟く。
ザァアアアアッ!
と言う、轟音が一気に炸裂した。ラインは左右に広がりながら、無数に降り注ぐ。クレーターの縁に沿って、何千、万を越える勢いで南に進み、部隊の進行方向を閉ざす。
「……どうやら、ベクタはかなりのキレモノらしい」
ダークが言うと、ラインの溜まった地点に、またもリアルワールドプレイヤーが出現した。
「ぜ……全隊、止まるな!!突撃!!突撃ーーーーー!!」
ダークの隣で、レンリが的確な指示を出す。動揺し掛けた隊の、そこかしこから馬のいななきが響き渡る。
ダークは背の狼竜弓を展開すると、ドッ、と重い音と共に、部隊の速度が増す。クレーターの斜面を、今度は真っ直ぐに駆け上がる。
途端、レンリが先行し始めた。
「レンリ!?」
「後はお願いします!!」
レンリはダークに言うと、飛竜の口に炎をちらつかせ、突撃していく。
「馬鹿野郎!!」
ダークは叫ぶと、そこにロードが現れる。
「ロード!?」
「任せて!!」
ロードは言うと、手から雷鳴を放つ。
それらは前線のリアルワールドプレイヤーを殲滅し、そして同時にレンリを止める。
そして、その瞬間空の色が、変わった。
血の赤に染まっている筈のダークテリトリーの空が、四方八方に引き裂かれ、その奥に紺碧の青空が広がっていた。
「……漸く味方神第二弾ってか!?レンリ、ロード、下がれ!!」
ダークはその奥から太陽が降りてくるのを見た。
紺碧の鎧を纏い、白いスカートを履き、水色の髪を揺らしている。
白く輝くのは、左手に装備された巨大な弓。と、そこまで見てダークは叫ぶ。
「全く、可愛い奴だ!」
ダークは笑った。途端、弓を構えてリアルワールドプレイヤーに向ける。
「神嵐・天禍月地!!」
矢から手を離すと、一際鋭い閃光と共に、嵐が巻き起こった。
そして、無数のレーザーと共に、彼らを殲滅していく。
「殺戮ですね、完全」
ダークは卓越した口調で言うと、ブーメランモードに切り替えて、残る馬鹿を首チョンパで葬った。
「……うえ、感触がキモい……」
ダークはブーメランモードを戻し、血を払うように振る。なら、斬らなきゃ良いのに。
そして、そのレーザーを放ったプレイヤーは、ゆっくりと、アスナの元へ舞い降りて行った。
「……ああ、やっぱりシノンか」
弓の名手と言えばシノンしか居ない。既に確信していたのだろう。
「んじゃまぁ……突撃開始と行こうぜ!!あ、レンリは来んなよ」
レンリに言うと、ダークは翼を出して飛翔し、ロードは雷撃を帯びて駆ける。
「ロード!!」
「任せて!!『ラスタードカノン』!!」
ロードが言うと、銃口を向けて、引き金を引く。
途端、それらは雷電を帯びて放たれ、数秒後、レーザーと化して追尾、貫いていく。
「ナミング・インパクトォオオオオオッ!!」
ダークは先頭に居るプレイヤーに対し、ナミング・インパクトを放つ。本来の仕様とは異なる攻撃方法だが、それでもそのプレイヤーから雷撃が飛び散り、幾つものプレイヤー達を拘束する。
「黒雷牙竜撃!!」
そこに、分割した狼竜弓を振り回して、竜の牙を放つ。
ダークは地面に降りると、一点目掛け走る。
片手剣剣技「ヴォーパル・ブレイク・ランサー」。
次々とプレイヤー達を刺し殺していき、そこにロードの雷撃は走る。
最早殲滅戦になっていた。
†††
数分後、シノンの後を追うように移動する部隊の馬車に乗った騎士らとアスナを見たダークは呆れてその場に座った。理由は単純明快、シノンがアスナの指示でベルクーリを助けに行ったからだ。
「……アスナ、何か言うことは」
「ごめんなさい……」
しゅんとしたアスナに、ダークは呆れて更に言おうとすると。
『そこまでにしておきなよ、ダーク』
聞き慣れた声の聞き覚えのない静止の言葉が響いた。
後ろを向くと、ロードがそこに立っていた。
だが、ロードの様子が可笑しい。
白のローブは翡翠色に変わっており、赤色の髪は蒼っぽい翡翠に、眼は蒼に変わっていた。
『聞く限り、アスナはベルクーリの旦那を助けるためにシノンに頼んだんじゃ無いか?ダークも貴重な戦力だ、離れるわけには行かないだろ?』
ロードの声を聞いた一同が、シーンとなる。
「ろ、ロード殿……ですよね?」
レンリが言うと、口を開く。
『俺はロードであってロードではない存在』
そう答えると、ダークが立ち上がって言う。
「まさか……ライト、なのか……?」
ダークの問いに、その人物は首を横に振る。
『否だ、俺はコード:ゼロ。もう一つの名は……『停滞した者』、と呼ばれている』
ゼロは言うと、更に続ける。
『更に言えば……俺はライトのその先だ』
それを言うと、ダークは目を見開く。
『……だが、それを言うのは干渉に値する。下手をすれば、他の神に接触を切られないとも限らない。よく聞け、ダーク』
ゼロは言うと、ダークは頷く。
『ライト……天城来人が目覚める可能性が在るのは、『繋がり』だ。何かの連結を、繋がりを、途絶えさせるな。それが、目覚める唯一の可能性だ』
「……何の繋がりを、守ればいい?」
すると、ゼロは言う。
『希望だ』
ゼロは言うと、ダークは笑う。
「あっははははははっ!!」
「ダーク君!?」
アスナが驚き、他の騎士らもポカーンとする。
そして、ダークは言う。
「希望……希望か!!ハハッ!まさに馬鹿だな!!アハハッ!!アー……」
笑いを収めると、ダークは言う。
「任せろ、誰かとか関係無く、俺が守ってやるよ、そのライトの希望って奴を!」
『……此方でも、お前が生きていればさぞ愉快だっただろうな』
ゼロは言うと、装備が戻り、元のロードに戻る。
「ふぇっ!?な、何々!?」
「……ロード。勝つぞ、この戦い」
何も理解していないロードに対し、ダークは改めて、戦うことを決意した。
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