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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第18話 「フローリアン姉妹」

 アリシアが落ち着きを取り戻した頃、特撮のヒーローのような掛け声が響いてくる。声がした方へ顔を向けると

「グランツ研究所へ」
「ようこそ~ん♪」

 と、海聖小学校の制服を着た少女達が立っていた。
 毛先にウェーブの掛かっている少女のほうは至って平気そうな顔をしているが、もうひとりの赤毛の少女は顔を真っ赤に染めている。
 そんな彼女達を見ている俺達は、全員呆気に取られた顔をしている。理由は単純にして明快だ。
 目の前にいる海聖小学校の制服を着た人物達は、高町達のように海聖小学校に通う児童ではない。エルトリア・ガールズ・ハイスクールに通う学生なのだ。ハイスクールという言葉から分かるとおり、彼女達は高校生。
 つまり、今俺達の目の前には小学生のコスプレをしている高校生が立っていることになる。初対面であろう小学生組はもちろん、長年の付き合いがある俺やディアーチェ達でも何とも言えない気持ちになるだろう。

「どどどうするんですかキリエ! あなたが親睦を深めるには同じ格好をするのが1番よん♪ と言うからこんな格好をしましたが、みなさん呆然としてるではありませんか!」
「あれ~ん?」
「おふたりとも」
「年をわきまえよ」
「はぅ! ……ショ、ショウさん、無言で立ち去らないでください!」

 いやいや、ここで引き止めずに立ち去らせてくれよ。小学生のコスプレをする高校生と知り合いだなんて思われたくないんだから。まあ話しかけられた時点でアウトなんだろうけど。

「……いいか君達、ああいう大人になっちゃいけないぞ」
「あぅ! ショウさ~ん、ですからこれはキリエが……」
「お姉ちゃん、確かに言ったのは私だけど、着ることを決めたのはお姉ちゃんの意思よん。人のせいにするのはどうかと思うわ」
「そ、それはそうですが……というか、なぜキリエはそんなに平然としているのですか!」
「恥ずかしくないからに決まってるじゃない。私のキャラ的にお姉ちゃんに向けられる反応はされないし」

 確かにアミタよりはキリエのほうが違和感ないけども……もう少し羞恥心は持ったほうがいいと思うのだが。まあ研究所の周りにある花壇を褒めたりすると照れるんだけど。

「お姉ちゃんと違って若いからねん♪」
「わ、私だってまだ若いです!」
「でもこの中では最年長よ」
「それはそうですが、私はまだ高校2年生です!」

 そうだな。アミタは高校2年生だから世間で言えばまだまだ若いよな……でもさ、俺やディアーチェは中学生だからまだいいとして、高町達からすれば高校生って結構年上だと思うんだよな。小学生のコスプレをするのはどうかと思う。というか、着替えるか話を進めるべきじゃないかな。
 俺と視線が合ったキリエはこちらの内心を察したのか、アミタに話を進めるように促した。

「あ……改めまして、グランツ研究所へようこそ。私はアミティエ=フローリアン。ディアーチェ達の就学の手伝いをしている家のものです。気軽にアミタって呼んでください」
「私はキリエ=フローリアンよ。いわゆるザ・ホストファミリー、T・H・Fってやつね」
「は、はじめまして……」
「なんでうちの制服を……」
「むしろどこで手に入れたかのほうが気になるわ」

 うん、バニングスの言葉は最もだな。原本は海聖小学校に通わなければ手に入らないはずだし、高校生サイズのものが売っているとは考えにくい。もしかして……

「それは言いっこなしでお願いよん。すずかちゃんにアリサちゃん」
「何で私達の名前を?」
「ま、まさか……」
「海聖小学校のマニアだったのか?」

 それならば制服を手作りしてしまうのも、月村達の名前を知っているのも頷ける。俺の言葉にバニングスは大いに共感してくれているようだし、これは

「違います! ショウさん、いじめるのはやめてください!」

 いじめるだなんて失礼な。アミタがコスプレなんてしたのがそもそもの原因だろうに。
 というか、年下相手に弄られるのはどうなのよ。赤面に加えて目元に涙が見えるからこれ以上はしないけどさ。

「まあまあお姉ちゃん落ち着いて。ショウ君はあまり人のことをいじめたりする子じゃないのよ。考え方を変えれば、お姉ちゃんは特別ってこと。ほら、気になる子には素直になれずにいじめちゃう子っているじゃない」
「なななな、いや確かにそのような方もいらっしゃるとは思いますが……ショ、ショウさんがわわ私を」

 キリエ、落ち着けって言っておきながらからかうのはやめろよ。というか、誤解を招くようなこと言わないでくれるか。別に好きな相手にいたずらしたりしないから。素直じゃないって部分は……まあ認めなくはないけど。

「アミタ」
「は、はい!」
「……とりあえず落ち着こうな。別に特別扱いとかしてるつもりはないから。今の場合は弄ったほうがこの子達に受け入れられるかと思ってのことだし」
「ショウ君、それはかえってお姉ちゃんを傷つけてるんじゃないかしら」

 それをきっぱりと言ったキリエのほうがアミタを傷つけてると思うぞ。そもそも、お前が変なこと言わなければ今のも口にしてないから。最も悪いのはお前だぞ。

「話がおかしな方向に逸れているが、ここはブレイブデュエルの総本山とも呼べる場所だ。当然急上昇中の新チームの情報は入ってくる。仮にも貴様らは我らに土をつけたのだからな。注目されるのも当然と言えよう」
「うちに来る子達にもなのはさん達はすごく人気なんですよ」

 ディアーチェとユーリが見事にフローリアン姉妹が壊してしまった空気を修復してくれる。さすがは我が校でも屈指の優等生と頑張り屋な子だ。シュテルやレヴィ、フローリアン姉妹と癖の強い人間が多いのにここが無事に回っているのは彼女達の頑張りがあってこそだろう。

「そうなんです! ですからみなさん、ぜひ遊んでいきませんか!」
「いいんですか?」
「もちろん、熱烈歓迎です!」

 アミタさん、今日も熱いですな……さすがは学校で風紀お姉ちゃん《あみたん》の名称で慕われているだけのことはある。ちなみにこの手の情報を教えてくれるのはキリエだ。
 別に俺は聞きたいと思っていないのだが、何かあればすぐに教えてくれる。はたから見れば、アミタをからかうための下準備なのだろうが、キリエはなんだかんだでアミタのことが好きな子だ。アミタと接するためにそういうことをしているのだろう。

「あらん、ショウ君そんなにお姉さんのこと見つめちゃって。もしかしてお姉さんの魅力に気づいちゃったのかしらん?」
「何言ってるんだよ。キリエの良いところは前からそれなりに知ってる」
「え、あっ……その返しは考えてなかったわ」

 キリエは言い淀んだあと、こちらに背中を向けた。おそらく俺の返答を予想していなかったため、照れているのだろう。今までに散々玩具にされたことがあるだけに、俺もどのように返せば効果的か理解しているのだ。まああまりやると誤解を招きかねないので、いつもはできないだろうが……

「そこは何をイチャついておるのだ」

 ……うわぁ、何か王さま怒ってるよ。付き合いが長いだけに声だけで、見なくても表情が分かってしまう。ここ最近やたらと睨まれたりしている気がするけど……。
 まさかディアーチェは俺のことを……そんなわけないよな。あいつが怒ってるのって、アリシアとかはやてとかシュテルとか、男女の距離感を意図的に無視して接してくる連中と関わってるときだけだし。今のも集団の和を乱してるから言っただけだろうからな。

「あらん、王さまやきもちかしら♪」
「や、やきもちなぞ焼いておらぬわ!」
「あらそう。でも~、ディアーチェとショウ君って少し前まで許婚じゃなかったかしらん」

 ……キリエ、仕返しとばかりに何て話題を持ち出すんだ。俺やディアーチェだけでなく、恋愛に興味津々な小学生達の表情も変わってるじゃないか。せっかく落ち着いたのにまた騒がしくなるぞ。

「えぇ、ちょっとそんなの聞いてないよ。いったいどういうことなの!」
「ちびひよこ、落ち着かぬか!」
「落ち着けるわけないでしょ。そりゃ前から何だか距離感近いなぁっとか思ってたけどさ。ショウは将来うちのお店を担っていく大切な人なんだからね!」

 アリシア、落ち着けないのは分かるが、最後のはいくらなんでもおかしいだろ。勝手に人の将来を決めないでほしいんだが。
 それとフェイト、今のはアリシアが勝手に言ってるだけだから鵜呑みにしないでくれ。別に君やアリシアと結婚したりする話なんて出てないから。
 そもそも、プレシアさんに娘さんをくださいとか言えないからね。今でさえ何だかマークされてるんだから。というか、リンディさん達だっているんだからクロノとエイミィあたりがやっていく可能性が1番高いんじゃないかな。

「後半部分に言いたいことはあるが、よく聞け。我とショウがい、許婚という関係にあったことは一度としてない。我らの親が知り合いだった故に、酒の席でそのような話が冗談で出ただけだ!」
「冗談? 割と本気だったんじゃないの?」
「そのようなことは……」
「本気であれ冗談であれ、許婚の話はなかったことになっている。それが事実だ」

 ディアーチェが怯んでしまったので代わりに答えたが、話の内容が内容だけにアリシア達は納得してくれていないようだ。

「信じてない目をしてるな。その話をしていたのは俺達の父さんで大分酔ってたと聞いてるし、前に俺がはっきり許婚の件については断ってる。俺もディアーチェも自分の相手は自分で決めるってな……ディアーチェには確認してなかったけど」
「いや……我も同じ考えだ。それにすでに終わった話なのだから、今更あれこれ言っても仕方がなかろう」
「ありがとな」
「ふん、別に礼を言われるようなことではないわ」

 昔からだけど本当に素直じゃないよな。まあこういうところもこいつの可愛いところだし、これぞディアーチェって感じなんだけど。
 これで一段落……かと思いきや、まだまだ小学生組は納得してないみたいだな。どうしたものか……

「……あ、桃子さんに聞いてみればいい」
「え、桃子さんって……私のお母さんですか?」
「ああ。俺の母さんもパティシエしてて、確か君のお母さんとは昔からの知り合いだったはずだ。最近はあれだけど前は年に何度かは訪ねてたはずだし、この話についても知ってると思うけど」

 必要以上のことを話されてしまう可能性もあるが、まあ桃子さんは常識人だしさじ加減はきちんとしてくれるだろう。

「……というか、今日はこんな話をしに来たわけじゃないだろ。いい加減に話を進めないか?」
「あ、はい、それもそうですね。では、奥のほうへと向かいましょう!」
「あ、私は着替えてくるから先に行っといてねん」
「わ、私も着替えてきますので皆さん後ほど! チヴィットは受付で預けちゃってください!」


 
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