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戦国異伝

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第二百二話 関東入りその三

 氏康は一族の長老である幻庵にだ、二人になった時にこう言った。
「叔父上はどう思われすか」
「家臣の結束が、ですな」
「左様、それは崩れるか」
「織田信長は一かどの者、ですから」
「それを乱しにくるな」
「城を攻めるのは下計にございます」
 幻庵はここで孫子を出した。
「そして人を攻めるのが」
「上計であるな」
「織田信長は間違いなくわかっています」
 このことをというのだ。
「ですから」
「人を攻めてくるな」
「この小田原城は確かに堅城です」
「そう容易には陥ちぬ」
 氏康も言う。
「それは間違いない」
「はい、しかし」
「それでもな」
「城は人が守るものです」
「人がなくては守られぬ」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「人を攻められれば」
「その心がな」
「その時はです」
「小田原城も陥ちるな」
「そして当家自体も」
「敗れる」
「そうなります」
 こう氏康に語るのだった。
「拙僧はそう考えますが」
「その通りじゃな」
「織田信長は間違いなくこの小田原に来ます」
「そして囲んで来る」
「そのうえでどうするかです」
 そのことが、というのだ。
「わかりませぬが」
「人を攻めてくるな」
「その心を」
「やはり手強いな」
「間違いなく」
 それは、と返す幻庵だった。
「そしてその織田に見せ」
「そのうえでじゃな」
「どうして北条家を守るのか」
「それがわしの見せどころじゃな」
「殿ならばです」
 氏康、彼ならというのだ。
「果たしてくれます」
「家を守るというのじゃな」
「拙僧も織田には勝てぬと思います」
 北条の力では、というのだ。
「関東も織田家のものになりますが」
「それでもじゃな」
「家を守ることは出来ます」
「その通りじゃ」
「ですからそれをどうするか」
「それがじゃな」
「殿のお務めにございます」
 それに他ならないというのだ。
「それがおわかりでしたら」
「ならばじゃな」
「拙僧は殿と共に」
「最後まで来てくれるか」
「その考えです」
 こう答えるのだった。
「北条の者として」
「済まぬな」
「ははは、何を言われます」
 幻庵は氏康の今の言葉には笑って返して言った。
「拙僧の居場所はここにしかありませぬ」
「北条家にじゃな」
「はい、そうです」
 だからだというのだ。
「最後の最後まで共におります」
「そしてじゃな」
「共に家を守りましょうぞ」
 こう話してだった、幻庵はここでこうも言ったのだった。
「しかし」
「しかし?」
「武蔵に南光坊天海という者がいましたが」
「あの幕府におったという」
「怪しき者ですな」
「何でも齢百二十だそうじゃな」
 このことを言う氏康だった。
「その様な者がおるとは」
「考えられませぬな」
「とてもな」
 そうだとだ、氏康も答える。
「人の寿命は五十、それがな」
「百二十ですからな」
「それだけで怪しいがな」
「その生まれもよくわかりませぬ」
「武蔵におったことはわかっておるがな」
「それ以外は」
 どうにもと言う幻庵だった。 
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