一目瞭然
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第一章
一目瞭然
八条大学漫画研究会の部室の中でだ、三木谷優樹はあるヒーロー漫画を読みつつだ。友人であり共に漫画研究会の仲間である堀江達也にこう言った。
「ねえ堀江氏」
「何だい、三木谷氏」
堀江は三木谷の言葉に応え顔を彼に向けた、二人共眼鏡をかけていて髪の毛はぼさぼさだ。ただ三木谷は痩せていて堀江はいささか太っている。だが二人共清潔な感じであり服装も野暮ったくはない。そこが世間のヲタクのイメージとは違う。
その堀江にだ、三木谷はこう言ったのである。
「今君が読んでいる漫画だけれど」
「この漫画だね」
「その漫画はライトノベルをコミカライズしたものだったね」
「そうだよ」
その通りだとだ、堀江は三木谷に答えた。
「あのライトノベルの大家が原作だよ」
「何作も出ている」
「そうだよ、中田外絵だよ」
「中田さんねえ」
その名前を確認してだ、三木谷は難しい顔になった。
それからだ、こう堀江に言ったのだった。
「堀江氏は中田さんについてどう思う?」
「どうもね」
「そう、どうもだね」
「変な政治的主張が多過ぎて」
「しかもその変な政治的主張がだね」
「極左だから」
つまり思想的にかなり偏っているというのだ、彼のその政治的主張は。
「それも日本の悪口ばかり書く」
「それが問題だね」
「うん、しかもこの漫画が原作の小説も」
もっと言えば今堀江が読んでいるその漫画もだ。
「政治的主張がやたら多くて」
「漫画ではキャラクターが言うだけだけれどね」
「いや、それでもね」
「やたら出て来るんだね」
「そうだよ、しかも主人公が」
登場人物の話にもなった。
「エリートで実家は大金持ちの権力者、万能で美人でスタイルもいい」
「チートだね」
「そう、チートだよ」
まさにそうとしか言えない存在だというのだ。
「頭脳明晰でね」
「悪いのは性格だけだね」
「その性格が最悪なんだよ」
堀江は苦い顔で三木谷に語った。
「あからさまな権力者なのに反権力めいたことを言ってばかりで自分勝手で攻撃する相手はいたぶって」
「全然賛同出来ないね」
「うん、何の魅力も感じないよ」
その主人公にというのだ。
「これは中田さんの他の現代ものでもだよ」
「あの四兄弟」
「何なのだろうね。彼等は」
その作品の主人公達の話にもなるのだった。
「一体」
「やっぱり反権力を言うけれどね、彼等」
「自己中心的で独善的でね、やっぱり美形でチートな能力で」
「相手には容赦せずいたぶるね」
「そう、しかも反権力だけれど」
それでもなのだ、そちらの主人公達にしても。
「物凄く強くてやっぱり頭がよくて。お金にも困っていなくて」
「正体出したら街一つ位平気で潰せるからね」
「彼等は国家権力を批判するけれどね」
「権力は一つじゃないよ」
三木谷ははっきりと言い切った。
「この世に幾つでもあるんだよ」
「政治家や官僚、経営者だけじゃなくてね」
「そんな三十年か四十年前の社会派漫画じゃないんだから」
所謂徒手空拳の主人公が圧倒的な権力に向かうタイプの漫画だ。主人公の能力は超絶的でありカリスマもあり仲間達をどんどん集めていき権力と戦うのだ。
「自分達にしてもね」
「そうそう、そこまで強いとね」
「権力だよ」
「権力とは何か」
堀江はこのことについても語った。
「相手に何かを強制出来る力だね」
「暴力も権力だからね」
「中田さんの作品の主人公は強いよ」
それもかなりだ。
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