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暗路

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第三章

「だからな」
「離れるなっていうのね」
「いいな」 
 絶対にという言葉だった。
「俺の横からな」
「ううん、そのお話嘘でしょ」
 優子は道夫の話を信じないでこう返した。
「幾ら何でもね」
「そんな化けものいないっていうのか?」
「いないわよ」
 多分、という感じの返事だった。
「そんな化けもの」
「そう言い切れるのか?」
「言い切れるかっていうとそうじゃないけれど」
 けれど、というのだ。
「そんな話あったら大騒ぎになってるじゃない」
「そういう話になってるんだよ」
「お兄ちゃんの学年だと?」
「そうだよ、本当に知らないんだな」
「そんなの初耳よ、というか学校から」
 優子は優子で小学校の方を見た、灯りのない小学校の方はというと。
 朝昼にいた時と全く違い甚だ不気味な雰囲気だった、誰もおらず暗がりの中にあってだ。まさに今にもだった。
「何か出て来るんじゃ」
「幽霊とかか」
「校庭に何かいない?」
 フェンスの向こうのその校庭を見ての言葉だ。
「何かね」
「いないだろ」
「そうかしら」
「ああ、とにかくな」
 道夫はまた言って来た。
「離れるなよ」
「二人一緒でよね」
「進んでいくからな」
「うん、ただここって」
 見回すとだ、本当に朝昼と違い。
「灯りないし何もいないし」
「家もなくてな」
「本当に怖いわね」
「学校もな」
 校庭だけでなく校舎の方を見てもだった。
「怖いな」
「不気味よね」
「相当にな」
「七不思議の話本当よね」
 優子は足がいつもより遅くなっているのを感じながら兄に問うた。
「あの話」
「全部な」
 これが兄の返事だった。
「本当のことだよ」
「本当に?」
「本当の本当だよ」
 こう強調するのだった。
「何で嘘言うんだよ」
「だってお兄ちゃんよく私に嘘言うじゃない」
 優子は道夫に口を尖らせて反論した。
「昨日阪神勝ったとか隣町でサーカスやってるとか」
「それは冗談だよ」
「七不思議のことは違うっていうの?」
「当たり前だろ、先生に教えてもらったんだぞ」
「どの先生に?」
「俺の担任の田中先生にな」
 その先生にというのだ。
「教えてもらったんだよ」
「ああ、田中先生ね」
「あの人は嘘言わないだろ」
「うん、それだったらね」
「とにかくな」
 意固地になってさえいる道夫だった。
「この話は嘘じゃないからな」
「そうなのね」
「ああ、何度も言うぜ」
 その意固地さをさらに強くさせての言葉だった。
「七不思議は本当なんだよ」
「じゃあ音楽室のピアノとか理科室の骨格模型とか」
「そうだよ、職員室前の鏡に十二時になると幽霊が出てきたりとかな」
「全部本当なのね」
「体育館の開かずの間も新校舎に真夜中になると出て来る兵隊さんも屋上の女の子もな」
「屋上って」
 屋上と聞いてだ、思わずだった。
 優子はその校舎の屋上を見た、すると。
 何かが見えた気がしてだ、道夫に言った。 
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