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暗路

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第一章

                       暗路
 柳葉道夫は妹の優子にこんなことを言っていた。
「小学校の前の路通れるか?」
「えっ、そんなの簡単じゃない」
 その路のことを聞かれてだ、優子は兄に何を言っているのかという顔で返した。
「だって私達がいつも通ってる学校じゃない」
「違う、夜にだよ」
「夜に?」
「そうだよ、夜にあの路通れるか?」
 こう妹にだ、道夫は笑って問うのだ。それも馬鹿にしている顔で。
「それが出来るか?」
「夜って」
「あそこ灯りないしな」
「それに夜は人気がなくて」
「学校から何か出て来るかもな」 
 笑って言う道夫だった、やはり馬鹿にしている顔である。
「妖怪とか幽霊とかな」
「えっ、妖怪とかって」
「知ってるか?うちの学校そういう話多いんだよ」
「それ本当?」
「七不思議ってあるんだよ」 
 こうした話は多くの学校にある、理科室の骸骨の模型が動くだの音楽室のピアノがひとりでに鳴るだのだ。
「もう色々とな」
「それで学校から」
「出るかもな」
 道夫は幽霊の手をしてみせて優子にこうも言った。
「その時は」
「ちょっと、妖怪とか幽霊とか」
 どうかとだ、優子は怖がる顔で兄に返した。
「そんなのいる筈ないじゃない」
「それはどうだろうな」
「いないわよ」
 むきになって言うところに本音が出ていた。
「そんなの」
「どうかな、けれど御前は歩けないんだな」
「何よ、そんなのね」
「簡単だっていうのか?」
「そうよ、いつも歩いてる路じゃない」
 朝と昼にとは言外で言った言葉だった。
「そんなの」
「じゃあ出来るんだな」
「当たり前じゃない」
 優子は必死に強がって道夫に言い返した。
「そんなことは」
「言ったな、それじゃあな」
「それじゃあ?」
「御前も肝試しに出るんだな」 
 道夫はその馬鹿にした笑顔のまま妹にこうも言った。
「そうするんだな」
「肝試しって」
「今度するんだよ」
 小学校の前で、というのだ。
「金曜の夜にな」
「そんなことするの」
「御前も参加するな」
 今度は挑発する顔であった。
「そうするな」
「ええ、そうするわ」
 売り言葉に買い言葉でだ、優子は道夫に返した。
「それでスタートからゴールまで歩いたらいいのね」
「そうすればな」
「私の勝ちね」
「若し御前が勝ったらな」
 その時はとだ、道夫は笑いながら言った。
「アイス奢ってやるよ」
「アイスね」
「ああ、それで俺が勝ったらな」
「その時はなのね」
「御前が俺に愛す奢れよ」
「そうするわね」
「じゃあ金曜の夜な」
 あらためて言った優子だった、そしてだった。
 優子は道夫と共にその肝試しに参加した、スタート地点まで行くとそこにはもう二十人位の子供が集まっていた。
 二十歳位の青年もいた、その青年が優子達に言った。 
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