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ものがあっても

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第一章

                       ものがあっても
 エレノアール公爵家は英国で最も豊かな貴族の家である、その富は王家に告ぐとされ広大な領地と家が経営している様々な銀行や商売で途方もないだけのものとなっている。
 それでだ、長女のアンジュリーゼもだ。
 幼い頃から何不自由なく暮らしていた、欲しいものは常に手に入りだ。
 高価なおもちゃや服、ペットに囲まれていて食べるものにも困っていなかった。まさに欲しいものは何でも手に入る状況だった。
 だが十六になった時にだ、その何もかもが揃っている豪奢を極めた自分の部屋の中で自分に仕えるメイド頭のモモカ=ダンデライオンにこう言ったのだった。
「何か最近」
「どうしたのですか?」
 モモカはブロンドの髪を長く伸ばし緑の目がエメラルドの様に輝いている自分の主の言葉に問うた。その整って気品に満ちて優雅な顔を見ながら。
「一体」
「ええ、何か足りない気がしますの」
 アンジェリーゼもモモカの黒く短くした髪とはっきりした黒い瞳、それに右の方の泣き黒子も見た。自分より一つ下でその分幼く見えるが可愛らしい彼女の顔を見て。
「何故か」
「ですがアンジェリーゼ様は」
「そうですね」
 アンジェリーゼは見事なガラスの窓の外を見た、そこから差し込む日光が上等の絹の白いドレスを輝かす。
「このエレノアール家は」
「我が国でも王家に告ぐ資産を持っていて」
「欲しいものはですね」
「何でも手に入ります」
「そして私自身」
 見ればだ、その部屋の中は。
 名画に可愛らしい様々なぬいぐるみにだ、別室になっている服の置き場には見事なドレスが数えきれないだけある。
 机もテーブルも最高のものだ、何もかもがだ。
 エレノアール家の資産だからこそ手に入るものだ、アンジェリーゼの手にも高価な宝石で飾られた指輪があり。
 首にも見事なダイヤのネックレスがある、その全てを見つつ言うのだった。
「この様に」
「欲しいものは」
「全てこうして手に入っています」
「それでもですか」
「はい、何か最近」
「物足りないのですか」
「どうしてでしょうか」
 またモモカの顔を見て問うた。
「最近の私は」
「そう言われますと」
 モモカもだ、首を傾げさせて答えた。
「私にもです」
「わかりませんか」
「はい、アンジェリーゼ様程満たされた方はです」
「いないですね」
「私もそう思います」
「それでもですね」
「何故かです」
 アンジェリーゼはまた言った。
「そう感じる様になっています」
「ではです」
「では?」
「そのことですが」
 ここでモモカはアンジェリーゼに対してこう言った。
「少し相談されてはどうでしょうか」
「どなたにでしょうか」
「はい、ジュリオ様か」
 アンジェリーゼの兄でありこの家の後継である彼か。
「お忙しいのですが旦那様か奥様か」
「お父様かお母様、そしてお兄様に」
「聞かれてはどうでしょうか」
「それでわかるでしょうか」
「そう思いますが」
 こう答えたモモカだった、話す度に手が動くがその都度黒地にところどころ白があるメイド服がひらひらと動く。
「どうでしょうか」
「ではお聞きしてみます」
 アンジェリーゼはモモカの提案に考える顔で応えた。 
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