FOOLのアルカニスト
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英雄との鍛錬
前書き
ちなみに特殊能力の追加は、初期のもの&悪魔召喚と仙術以外は5LV毎に追加というのを一応守っていたりします。ちょっと強すぎる気もしますので、後のLVでの取得をなしにして、調整するかもしれません。
それと仙術は、RPG系を現実に持って来る時の最大の問題点の一つ、荷物や装備品をどうするかという命題の解決策として付与したものです。完全武装の人間がいたら、普通に捕まりますから。大体にして、銃刀法違反ですし。後は隠蔽工作や一般人を巻き込まないために必要だろうと考えた結果です。ですので、基本的に戦闘に用いるものではなく、他の特殊能力とは一線を画するものであることを断っておきます。
人間とは何事にも『慣れる』生き物であると徹は思う。
―――初仕事の異界の主(LV20)討伐の報酬1000万円を皮切りに、この業界における報酬の桁違いなこと
―――それ以前に、雷鋼から課された死が日常茶飯事の鍛錬も
―――人とは思えない美しさを誇る女性型悪魔達(竜吉公主・チェフェイ等)の美貌にも
―――人を遥かに超えた力を持つ悪魔と戦い、それを殺すことにも
―――ペルソナという超常の異能の行使にも
―――そして、常人とはかけ離れた身体能力と強度を誇るようになった己の肉体さえも
そのいずれにおいても、繰り返す内に、或いはその時間が増える内に全て慣れてきたからだ。
しかし、そんな徹も、慣れたくて慣れたわけではない。生きる為に必要であったから慣れざるをえなかったというのが偽らざる彼の本音であった。
だから、今こうして新に課された鍛錬も慣れつつあるとはいえ、頼むから手加減して欲しいと徹が思ってしまうのは、仕方がないことであろう。たとえそれが、相手に全く伝わらないどころか、むしろ、攻め手が苛烈さを増すばかりという、真逆の結果が待っていたとしても……。
初仕事を終え、戻った徹を待ち構えていたのは、雷鋼の仲魔である『<英雄>李書文(LV68)』であった。李書文、『神槍』の異名を持ち、『二の打ち要らず、一つあれば事足りる』と謳われた中華が誇る武極の英雄。雷鋼が彼を仲魔にしているのは全くの偶然だ。ヴィクトルの実験に付き合って、手に入れた曰く付の槍を合体に用いたところ、予想外にできてしまった仲魔だそうだ。雷鋼の仲魔で唯一、LVが70以上でないことから見ても、意図したものではないことは明らかであった。
とはいえ、その実力はけして侮れるものではない。流石は中華が誇る大英雄の一人、その能力は雷鋼の他の仲魔と比べて、なんら遜色なかったのである。それどころか、武技と言う面で言えば、彼は間違いなく最強であり、また、雷鋼とも馬が合い、その信頼の厚い仲魔であった。徹自身、脱走を彼によって阻止されたことは、一度や二度ではないし、その槍、あるいは拳打で殺されたことすらある。反面、平時では何かと面倒見のいい男であり、彼からのアドバイスはいずれも非常に役立つものであったから、徹は複雑な想いを抱いていた。
そんな相手が徹が自活するようになって、新に課された鍛錬の担当者であった。その苛烈さは、ある意味雷鋼以上であった。年を経るごとに減少していた死の回数が、ここ半年増加の一途を辿っていることからも、それは理解できるだろう。
白打は『二の打ち要らず、一つあれば事足りる』を体現し、どういう原理かは不明だがとにかく当たれば即死。かと言って、神槍と謳われた槍技もけして劣るものではなく、気づけば串刺しにされていたことなどざらであった。
慣れることなどできようはずもないと、考えもしなかった徹であったが、今やそれなりに渡り合えることを思えば、実力の向上だけではなく、やはり慣れというものがあることは、否定できない事実であった。たとえ、それが多大な手加減のおかげであったとしても。
そう、李書文は手加減している。これは当然である。今やLV36になる徹といえど、そのLV差は30以上あるのであり、まともにやりあえば勝負になどならないのであるから。そもそも悪魔に武術を始めとした技術は必要ない。なぜなら、その能力は人間など比べくもないものであるからだ。どんなに技を磨いても抗えない絶対の力を悪魔達は最初から持っているのであるから、当然といえば当然である。
しかし、李書文はあえて武技を用いて戦っている。さらに能力を徹とほぼ同等にまで制限して、必要のない真っ向勝負で。そこまでしないと勝負にならないのは勿論、その武技を伝授する為にも必要不可欠のことであったからだ。
だが、雷鋼の真意は英雄の武技の継承ではない。それ以上に、自身以外との対人戦を経験させることこそがその真意であった。李書文は仲魔といっても、元々人間から英雄へと昇華された存在であり、その武技は人間を源流にしながらも遥かに超越しているとはいえ、その外見や肉体、思考や精神は悪魔として具現化してなお、非常に人間のものと近しい。
そして、李書文は拳法で近距離を、槍で中距離を支配する。白兵戦においては右に出る者はいないといえよう。ゆえに、李書文との鍛錬は、対人戦の経験という意味では、千金以上の価値がある……というところだが、雷鋼の真の狙いはもっと根本にある。
ところで、戦争であっても敵を前にすると、銃を撃てないし、弾は当たらないという話をご存知だろうか。ベトナム戦争以前の米軍では、銃を使う兵士たちのうち発砲したのは15%~20%であり、8割の兵士は発砲しないで戦闘を終えていたそうだ。これは人を殺すと言う行為がいかに人にとってきついものであるかを示している。しかも、しっかり訓練を受けた銃社会の住人である米兵がこの有様なのだ。治安の良さにあぐらをかいて平和ボケしている日本人など、どうなるかいうまでもない。
徹のように一般人からサマナーに転じた者はそれが特に強い。要するに、悪魔は殺せても人間は殺せないということだ。殺し殺されが普通の世界で、これははっきり言って致命的な弱点である。サマナーさえ、無事なら再召喚や増援の悪魔を召喚することもできるし、そもそも人間より強大な悪魔を狙うより、脆弱な人間であるサマナーを狙ったほうが合理的だし、効率もいいのだから当然だ。そして、何よりも人間の敵は最終的には人間なのだから。それを雷鋼はよく理解していた。
ゆえにこそ、その解決策が李書文との鍛錬なのだ。白兵戦は様々なものを露にする。銃では得られない骨肉を潰し切り裂く感触が、相手の熱き血潮が、敵の断末魔等が視覚をはじめとした五感でもって、感じ取るのだ。それは否が応にも、人を傷つけること、ひいては殺すことを感じることであり、それに慣れさせるものだ。傷害・殺人への忌避感をなくしそれらを一手段として選択できるようになるまで、慣れさせることこそが、雷鋼の真の狙いである。
責任転嫁できる誰かの命令で人を殺すのではない。自身の意思でもって、自身の手で人を殺すのだ。それに慣れてしまったら、それは最早人といえるのであろうか。
つまるところ、散々悪魔を殺しておきながら、仲魔とはいえ同じ悪魔に名前を授け、自身の友とすると誓約し、それでいて、その後も悪魔を殺し時に悪魔合体を行える徹の精神はすでに化物といっても過言ではない。なぜなら、その行為は友としての価値を認め、一つの独立した存在として認識したものを殺すことであり、それは赤の他人を殺すことより重いものであることに他ならないのだから。
もっとも、今こうして知己の悪魔と平然と向かい合い、人間と同じ姿形をしたものと表情ひとつ変えずに殺し合いをできるのだから、今更なのかもしれないが。
「ちょっとは手加減とかしてくんない?」
徹はダメ元で言ってみるが、李書文の返答はにべもない。
「ほう、坊は未だ喋るだけの余裕があるか?ははははは!これは更なる功夫を積みたという意思表明よな」
突き出される槍のスピードが上がる。最早、どうあがいても常人にはかわせぬ領域にあるそれは、まさに神速。神槍の異名に何ら恥じるものではない一撃だ。
正確に喉を狙い穿つ神速の突き。されど、それを受ける少年もすでに人など超越した域にいる存在である。手にした刀ですんでのところで軌道を逸らし、避けてみせる。それどころか、避ける動きをそのままに反撃の斬撃へと繋げてみせる。
しかし、相手は英雄。しかも、得物は槍だ。少年の振るう刀とは間合いが違う。突きを受け流した隙を用いても、即座に間合いに入ることを許す程、英雄の槍の戻しの速度は遅くない。が、あえてそれを許したのだ。ゆえに、それは意図的に作られた隙、すなわち誘いに他ならない。
斬撃が切りさかんとしたところで、少年の刀は止まる。いや、止められたのだ。少年のみぞおちに突き刺さる英雄の蹴りによって。吹き飛ぶことを許さない、その場に崩れ落ちることのみを許す蹴撃。その威力たるや、少年のアバラを根こそぎ持っていき、その痛みたるや、体がバラバラになったと感じるほどのものだ。
それでも少年は倒れない。倒れるわけにはいかない。折角、英雄のさらなる実力を引き出せたのだ。どうあっても手加減されないのならば、少しでも己の血肉するべきだと考えているからだ。それに何より、彼の体はまだ動く。まだ死んでいないのだから、全力を絞り尽くさねばならない。
先程の隙が誘いであることには気づいていた。それでもあえてそれにのったのは、当然こちらにも狙いがあるからに他ならない。徹が今降魔しているのは、「<剣>LV35サカタノキントキ」だ。物理攻撃なら斬・打・投いずれの属性でも半減させるという戦闘相性を持ち、また耐久力にも優れたペルソナだ。つまり、先の一撃による被害は半減したものでしかなったわけである。
されど、その尋常ならざる被害すら徹には想定済みである。即死さえ免れれば、事足りたからだ。突き刺さった蹴り足を肉体と右手で拘束し、左手で再び斬撃を見舞う。
しかし、それをあっさりと防いでみせるのが英雄たる所以であろう。渾身の斬撃、しかも片足を掴まれているにもかかわらず、危うげなくあっさりと槍でで打ち払われる。いや、それどころかそのままの勢いで徹をも薙ぎ払わんとしている。
防御が即攻撃へと転じる、あるいは繋がるのが達人の業である。そこに素人が付け入る隙などない。が、徹もまた尋常な少年ではない。薙ぎ払わんとする槍に反応し、瞬時に足を保持していた腕を放し、真っ向からその拳をぶつける。ぶつかる槍と拳、一瞬の均衡のうちに競り勝ったのは、意外にも拳の方であった。そして、それはそのまま、英雄を襲う凶手となる。
これにさしもの李書文も驚いた。体勢が崩れていたとはいえ、神槍の異名をとる彼の薙ぎ払いは些かの衰えもなく、目の前の少年、現状の徹の技量・力ではどうあっても打ち勝つのは不可能であると理解していたからだ。だというのに、現実には徹の拳が己の槍に打ち勝ち、そのまま攻撃に転じているのだ。すなわち、ありえないことが起きたといっても過言ではないのだ。その驚きも当然のものと言えよう。
だが、その驚きすら一瞬である。英雄である彼は、「こと戦闘において、ありえないことなどありえないのだ」ということを理解しているからだ。現実には、悪魔よりも強い人間だって存在するし、土壇場になって新たなる力に覚醒する漫画の主人公のような人間だっているのだ。大体、命が懸かった死合において、相手が想定以上の力量を発揮したり、限界を超えてくるなどよくあることである。ゆえにその驚きは致命的な隙とはなりえない。精々、数瞬挙動を遅らせただけに過ぎない。もっとも、徹にとっては十分すぎたのだが……。
「破ーーー!」
その数瞬の内に拳が開かれ、電撃を帯びた掌底へと変化する。渾身の踏み込みと気声と共になされたそれは、触れれば肉体を内部から破壊し内臓を爆砕して余りある威力を誇る。
「かーーー喝!」
それが自身の肉体に触れる瞬間、深い呼吸と共に特大の気勢を放つ李書文だが、掌底そのものは避けようとしない。狙い過たず炸裂する掌底。その体が轟音と共に吹き飛ばされる……が、それを成した徹は渾身の一撃にも関わらず、あまりの手応えのなさに愕然とした。
「直撃したはずなのに、この手応えのなさは……?いなされたのか、いや、なんというか力が拡散した?」
「うむ、正解よ」
短い返答共に突きこまれる槍。死角から、神速でなされたそれを僅かとはいえ脱力していた徹に避ける術はない。横腹を綺麗に串刺しにされて、血反吐を吐く徹。
「ゴフッ。畜生、やっぱりかよ……」
「先の拳打は見事であったが、まだまだ功夫が足りんな。敵を完全に討ち滅ぼすまで、気を抜くでない。ましてや、必殺の確信もないのに脱力するなどもってのほかよ」
「流石にあれが無効化されるとか思うわけねえだろ……。腕一本犠牲にした乾坤一擲の一撃だったんだぜ」
そういう徹の右腕は外見こそ傷ひとつないが、力なく垂れ下がっていることから見れば、その内部がどうなっているかは容易に想像できる。
「なるほど、それゆえの脱力か。だが、甘い。それで仕留められねんば何も意味はない。たとえ乾坤一擲の賭けであったとしても、それで結果を出さねば何の意味もないのだからな。
しかし、先の拳打、どういう術理で撃った。今のお前では、腕一本を代償にしたとしても、どうあがいても出せるはずのないものであった」
「別に大したものじゃない。当然、種はあるさ。種は、俺の切り札『ペルソナ』さ」
「ペルソナ?あれは顕現して扱うものだろう。見る限り顕現したようには見えなかったが」
「ああ、顕現はしてないさ。なにせ召喚したのは自身の内にだからな」
「自身の内にだと?」
「ああ、前々から考えていたことだ。ペルソナは強力な異能だが、ある一点どうしようもない致命的な弱点がある。それはいかに召喚速度をあげても、顕現したペルソナがスキルを放つまで必ず多少なりともタイムラグが生じることだ。無論、顕現しっぱなしにすることで克服することができる弱点だから、長時間顕現させたまま保持する訓練はしている。だが、正直デメリットが大きい方法だ。ペルソナを人目に晒すことになるし、その操作にかまけて自身の動きが緩慢になる危険もあるからな」
この世界において、自身の『ペルソナ』能力は秘匿するべきだと徹は考えていた。なぜなら、彼のペルソナはこの世界本来のペルソナとは異なるからだ。そして、あまりにも異質で強力な能力であったからだ。そういう意味で、この能力を得て、普通に生活を遅れた『PERSONA』『PERSONA2』の主人公達を徹は心から尊敬する。もし、自分が雷鋼の鍛錬を受けていなかったら、何より透夜を代償にしたものでなければ、能力を鼻にかけ驕り高ぶっていたろう未来が予想できたからだ。
ゆえに、徹のペルソナ能力を知る者は殆どいない。その全容を知るのは、雷鋼と本人である徹だけで、詳細は雷鋼・徹、いずれの仲魔達にも教えていない。彼らと卜部が知っているのは、徹が『ペルソナ』という異能の切り札をもっているということだけだ。
「その解決策と考えた結果が、今の拳打、そして掌底の正体だ。ペルソナを自身の肉体に憑依させる形で召喚し、自身の肉体を持ってペルソナの持つスキルを発現させる。そうだな『憑依召喚』とでも呼ぼうか」
「憑依召喚とな。なるほど、坊も考えたものだな。して、その腕はなぜだ?」
「憑依召喚は、いわば意図的にペルソナを自身の体内で暴走させるようなものだ。それに顕現したペルソナだからできるスキルであって、俺の肉体では本来できないものだからな。それを無理やり体現するのだから、この程度の代償は当然だろうさ」
「そうか……。坊、今後それを鍛錬で使用することを禁ずる。いくら魔法で治るといっても、坊は未だに体ができていない。まだまだ成長するのだ。それを阻害するようなものは、仮にも師として許すことはできん。それに……」
「それに?」
「たとえ一部であっても、自身を犠牲にするような捨て身の技を切り札とは認めぬ。切り札とするなら、敵を必殺することは勿論、自身すら守ってみせよ!」
「承知!……と言いたいどころだけどさ、いい加減に治療させてもらえないか?いくらなんでも死ぬ……ゴホッ」
実は串刺しにされたまま話していた悪魔と少年。辛うじて即死は避けたといえ、その傷は致命傷以外の何ものでもない。放っておけば、遠からず徹は死ぬだろう。
「おう、忘れておったわ。すまんな、許せよ」
悪びれない李書文は、速やかに槍を引き抜いた。当然、風穴があいた徹の体がえらいことになりかけるが、そこに慌てた様子で西王母が現れる。
「ディアラハン!忘れておったですむか、この戯け者が!」
一瞬の内に風穴がふさがり、全身の傷が癒えると共にある程度の血液も補填されるが、さしもの徹も瞬間的な大量の出血に意識が薄れるのを感じた。薄れゆく意識とともに狭まる視界に映ったのは、怒り心頭の死の女神と正座させられる中華の大英雄の姿であった。
後書き
[スキル解説]
雷神掌:紫電を纏った穿ち貫く掌打(敵単体に打撃属性大ダメージ+電撃属性中ダメージ)
ディアラハン:単体の傷を完全に癒す(味方のHPを完全に回復する)
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