マザー=シンプトン
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第三章
「わしはまだまだ生きたいですからのう」
「ついて来る気はないのか」
「さらさらありませんですじゃ」
その余裕の言葉でだ、シンプトンは長に答えた。
「全く」
「そうか、ではだ」
長はここまで聞いてだ、そしてだった。
部下と兵達にだ、こう言ったのだった。
「捕まえよ」
「はい、では」
「この老婆をですな」
「捕まえそして」
「連れて行きましょう」
「手加減はするな」
一切、というのだ。
「いいな」
「はい、あの猫もですな」
「捕まえそして」
「火炙りにしましょう」
「尋問にかけて」
部下達も兵達も応えてだ、そして。
シンプトンとの距離を詰めてだ、縄をかけて捕らえようとした。だがここで。
黒猫がだ、主を見上げてこう言った。
「ご主人、こうなったらね」
「うむ、少しのう」
「魔術を使ってだね」
「逃れるとするか」
「それがいいね」
「猫が喋ったぞ」
長はその猫を指差してまた言った。
「これこそだ」
「はい、この女が魔女である証」
「何よりの証です」
「間違いありません」
「確実に」
「そうだ、これではだ」
それこそというのだ。
「最早審問の必要もない」
「即刻火炙りにしましょう」
「最早容赦してはなりませぬ」
「若しくはこの場で」
「この場で始末しましょう」
「それもよいかも知れぬな」
長は部下達の言葉に眉を顰めさせて言った、そしてだった。
シンプトンに槍や斧を向けて今にも襲わんとしていた、猫はその状況を見て再びシンプトンに対して言った。
「これはね」
「うむ、少しのう」
「まずいね」
「危険な状況じゃな」
周りの殺意が明らかだからである。
「逃げるにしてもな」
「ちょっと強い魔術使う?」
「そうせねばな」
「じゃああれ使うんだね」
「それがいいのう」
こう猫に答えてだ、すぐにだった。
シンプトンは衣の中にその皺だらけの手を入れてだ、そして。
そのうえでだ、そこから出した書を開きそうして何かを呟いた、すると。
シンプトンの姿が消えた、それを見て。
審問官達は目を剥いてだ、慌てふためいて言った。
「何っ、消えたぞ」
「猫の姿も消えたぞ」
「これはどういうことだ!?」
「何故消えたのだ!?」
「これは一体」
「何がどうなったのだ」
「これが魔術か」
自然とこうした結論になった。
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