リリなのinボクらの太陽サーガ
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鴉
前書き
色々ソリッド・スネークな回
ミッドチルダ北部沖、アレクトロ社所有地の孤島。氷に包まれた海の底を俺は、ラジエル艦載機から発射され、目的地周辺で停止した魚雷から脱け出して泳いでいた。流石は極寒の海、水の冷気が伝わらなくても感触や空気で体温が奪われていく錯覚を抱く。
それはともかく、そろそろ施設最下層……物資搬入口に到着する。揺らぐ水面の向こうに、電灯の白い光が見えてきた。俺は波音を立てないようにこの空間の隅の方で上陸、周りに誰もいない事を確認してから周波数140.85へ無線を送る。
「こちらサバタ……エレン、聞こえるか?」
『良好ですよ、サバタ。予定通りに到着したみたいですね、状況はどうかしら?』
「やはり、地上へのルートは中央の昇降機しかないらしい」
『そう……予定通り、昇降機を使って地上へ出るしかないみたいですわね。ところでそこで働いている人達には、どんな方がいらっしゃいますか?』
「そうだな……デバイスで武装した社員が3~4人と少数なのに対し、さっきから重そうな物資を運んでいる非武装の労働者が多数いる。従属しているにしては、重労働をしている奴らの表情や様子が妙だ。まるで強制的に働かされているような……何か思い当たる事は無いか?」
『恐らくは……サバタ、管理外世界の人間が魔法を知らないのはご存知、というより当然ですよね? しかし時折管理外世界で時空間の歪みやワームホール……いわゆる神隠しみたいな現象が発生して、他の次元世界に流れ着く事が多々あります。例えば地球生まれのグレアム提督もかつてこのような現象に巻き込まれてミッドチルダに流れ着き、魔法の才能があった彼は管理局に従属するようになりました』
「なるほど……では魔法の才能が無い管理外世界の人間が、もしこちら側に流れ着いていたらどうなる?」
『元々住んでいた世界に帰すのが本来の手続きなのですが……ここ最近、流れ着いた管理外世界の人間を元の世界に帰した経歴が、ある時期を境にぷっつりと無くなっているのです』
「ある時期?」
『ええ。推測ですが、“SEED”を開発し始めた時期だと思われます』
「つまりアレクトロ社は流れ着いた管理外世界の魔力を持たない人間を、この劣悪な環境で内密に強制労働させている……そういう事か。とんだスキャンダルだな、これだけでも」
『そうですわね……ですが管理外世界の人間が極秘裏に全てここに搬送されているという事は、やはり管理局も噛んでいると見て間違いないでしょう。しかしこれを発表しても決め手には欠けます。裁判の手札には使えますので、これも記録しておいてくださいクロノ君』
『わ、わかった……。だ、だが……管理局がこんな悪事に手を貸していたなんて……』
『クロノ君。この光景を信じられないと思う気持ちはわかりますが、これが現実です。あなた達“表”の人間がこれを知らないのは、“裏”がそれだけ強大かつ根強く蔓延っているからなのですわ』
「エレンやサルタナは、そういう連中と長年事を構えていたのか。おまえも大変だったのだな」
『“裏”との戦いは終わらない腹の探り合いみたいなものですからね。おかげでサバタに昔の私と同じ口調で会話しようとしても、腹を探られないように気を張る仕事時の癖で、どうしても丁寧語を常としてしまいましたわ。プライベートの時は元に戻るのですが……やはり聞き辛かったでしょう?』
「いや……おまえの処世術なのだから、それぐらい気にしなくても良いぞ」
『……ありがとうございます。それでは……潜入を再開して下さい』
『彼らの事は僕も気になるが……アレクトロ社の実状を暴けば、彼らも解放する事が出来る。サバタ、絶対に任務を成功させてくれ……!』
クロノの力のこもった声を最後に無線を切り、俺は安全地帯から移動を開始……重労働している連中は俺の姿が見えたら助けを懇願してくるだろうから、バレないためには彼らにも見つかってはいけない。証拠写真はカメラで撮っておくが、悪いが今は助けられないのだ。
中央まで来て巡回警備に当たる武装社員の隙をついてスイッチを押し、昇降機を呼ぶ。そしてサイレンと共に昇降機が降りてくると、迅速に乗り込んで上昇させる。
周波数140.85からCALLが入った。
『こうしてモニター越しにあなたの動きを久々に見ると、やっぱり任せて良かったと思いましたわ。並の人間や魔導師なら、昇降機に乗る前に見つかっていますもの』
「そうか。お眼鏡に適って光栄だな」
『サバタ……僕の気が済まないから、やっぱり伝えておこうと思う。そのスニーキング・スーツの事なんだが……』
「なんだ、クロノ?」
『実はな……』
「ああ」
『それ……………………………女性用なんだ』
「…………………何だと!?」
道理で胸の辺りがスカスカすると思った……というかそう言う問題ではない!!
「貴様、俺になんてものを着せるんだ! ふざけるな!!」
『しょ、しょうがなかったんだ! マリエル・アテンザは女性だから、作った物も女性用だったのは自然の流れだし、そもそも時間が無かったから最初にあった作り置きを要望通りに仕立てるだけで精一杯だったんだ!』
「だからっておまえ……! くそっ、あまりに屈辱的な気分だ……!」
『まあまあ、サバタ。大人が着ていれば確かにアレでしょうけど、まだあなたは少年でしょう? サイズの余裕は全身にありましたし、ピッチリしている訳じゃないのですから男性用でも女性用でも結局同じですわ』
「え、エレン……」
確かに全身的に余裕があってダボッとしているから、どっちでも構わないのはわかるが……女性のエレンに冷静に分析されてそう言われると、男の意地というか、プライドのようなものが酷く傷ついた。無線越しだが、クロノが同情しているのがひしひしと伝わってくる。
『だいたい昔から思っていましたけど、あなたは炊事、洗濯、料理、裁縫、ついでに掃除も完璧と、女子力があまりに高すぎるのですわ。当時の私としては結構衝撃的で、あの子と同様に落ち込みもしました。内心、あなたは生まれてきた性別を間違えたのではないかと思ったりもしましたわ』
「そこまで言うのか……というか、旅に必要な知識や技術は大体そこに集約されているものなんだよ。身に着けてから旅をするのは間違っていないはずだ」
『ええ、それはわかっています。私がこうおっしゃっているのは単純に、女のプライドが関係しているだけです。ま、サバタは貴重な主夫になれる逸材であったと思っておきますわ』
「そうか……だがやはり女性用を着ているのは、男として色々気まずいんだよ。今はダボッとしているが、もしこれがピッチリしていたら……想像もしたくない」
『そもそもフェイトさんのバリアジャケット程、ピッチリした格好も無いと思われますけどね』
「確かに」
『即答する程なの!? お兄ちゃん!』
『プレシアの年齢を考えてない際どい格好も大概だけどね』
『ぐさぁっ! あ、アルフ……あなたも似たようなものでしょうに……』
『ママもフェイトも指摘されてダメージ受けるなら、あんな露出度高い格好しなければいいのに……』
『自分でこの話題を持ち出しといて言うのも何だが……もうお終いにしておかないか? これ以上続けても被害や心の傷が増えるだけだと思う』
『そうですね。真っ黒で肩にトゲ付という痛バリアジャケットのクロノ君がこう言い出したのですから、その意見には同意ですわ』
『え……僕のバリアジャケットって、痛いのか……?』
「………」
あまりに不毛過ぎるため、無言で無線を切った。きっと向こうは今も変なダメージを増やし続けているのだろう。幸か不幸か、次元世界には変な格好で戦う奴が多いと理解したため、ひとまずこの格好に対する嫌悪感は薄れた……と言うより、これぐらいマシな方だと思えるようになった。
そういえばエレンのバリアジャケットってどんなデザインなんだ? 機会があればいつか見れるだろうか?
……気を取り直して、任務を再開しよう。昇降機が地上のヘリポートへ到着したため、即座に物陰に隠れる。そこから研究施設の方を伺うと、重厚な金属に覆われた建物が見上げる様に建っており、一企業が担うにはあまりに大き過ぎる気がした。
やれやれ……この巨大な施設の中にある正体不明の機械『SEED』を一人で見つけなければならないとは、つくづく気が遠くなる。ま、黄昏ていても仕方ない。潜入口は1階と2階にそれぞれ一ヵ所、内部に入るならどちらでも構わないだろう。だが隠密性を要求するなら、2階から入った方が良い。となると2階に上がる階段を警備している見張りが邪魔だな……。
俺はベルトからベレッタM92F、麻酔銃を取り出して照準を見張りの首筋に合わせる。少し距離があるから正確、かつ慎重に狙う。この銃はスライドロックがされているから、面倒だが一発ごとに補填が必要だ。レーザーポインターも付いているから照準は合わせやすいし、麻酔もある意味あの病院の殺人鬼幽霊のお墨付きで、アフリカゾウもぶっ倒れる代物だ。打たれたら任務中はまず起きる事無く、眠りについてもらえるだろう。
ピシュンッ!
「うっ……」
上手く命中したようで、見張りは瞬く間に倒れ、力なく眠りについた。周りが気付く前に俺はそそくさと移動、壁に張り付いて監視カメラの死角をつき、階段を上って眠っている見張りを越え、2階の通気ダクトへ潜り込んだ。
外は厳重でも中はザルだな……やはり次元世界にスパイや諜報員の概念は薄いのだろう。地球の特殊部隊が本気で攻めてきたら、管理局すらも情報戦で負けるんじゃないか? まあ、エレン達ラジエルクルーがいるから大丈夫だとは思うが、他の連中は足の引っ張り合いで自滅したりしないよな?
それは置いといて、ホフクで進んでいくと途中にある金網で施設内部が見渡せた。ここじゃ降りる事は出来ないが、様子を見る事は可能だろう。
「―――どうした? 随分下が騒がしいが」
「ああ、侵入者らしい。8人もやられた」
「8人!? 一体誰がやらかしたんだ?」
「わからない……だけど俺の知り合いの情報によると、仮面をつけた2人組だそうだ。相当の手練れらしい。非殺傷設定は情けでかけられていたけど、しばらくは動けないそうだ」
「なるほど、とにかく警戒を強めるぞ。アレがある地下2階に侵入される訳にはいかないからな」
「ああ、確か“試作品”があるんだったな。いくら何でもあんな風にされるのは、俺も絶対嫌だな」
「全くだ、あんな光景を見ちまうと流石に同情したくなる。ところでここだけの話だが、26年前のヒュードラの事故、あれって実は社長が仕組んでたって話だぜ?」
「え、マジかよ!? うちの社長には敵わないぜ。一大プロジェクトをわざわざ踏み台にするとは、ただの平の俺じゃあ社長の考えなんて、想像もつかないんだろうなぁ」
「そうだな。さて、そろそろ警備に戻ろう。社長にばれたらクビになるどころじゃ済まないぞ」
武装社員は会話を終えて警備を再開したが………なんか、凄い情報を聞いてしまった気がする。
周波数147.79からCALLが入った。
『26年前のヒュードラ事故、私からアリシアを……全てを奪ったあの事故。あれが仕組まれてたというの……!? あの事故のせいで、私は……私は……!!』
『か、母さん、落ち着いて……』
『これが落ち着いていられる!? あの事故は外部に犠牲者は出なかった、私の愛する娘のアリシアを除いて! あの男、イエガーは私に全ての罪を押し付けて、さも被害者のふりをしていたのよ!? 私達家族の方が被害者だというのに、こんな事が許せるわけないでしょう!』
「おまえの怒りはよくわかったから、とにかく落ち着いてくれ。状況の整理をしたい」
『ハァー、ハァーッ! そ、そうね……あの男に一泡吹かせるのは裁判でやることだものね。今重要なのは、切り札の証拠を手に入れる事よね……!』
「ああ。だがその前に気になる事がある。二人組の仮面の男についてだ」
『これは私達も見当が付かないわ。……というよりあなた、実は想像がついているんじゃない?』
「……まあ、な。決めつけないように答えは避けておくが、あいつらが何の目的でここに来ているのか、それも知る必要があるだろう。次に“試作品”と呼ばれていたものについてだ。これはもしや、実験初期段階の『SEED』なんじゃないか?」
『可能性はあるわね、何度も試作や実験を繰り返す事でプロジェクトは進めるものだもの。初期段階の装置があってもおかしくはないわ。それに調べておけばSEEDの詳細を知る事も出来るかもしれない』
「わかった……エレン、これから調査のために地下2階に向かう。いいな?」
『了解しました。敵に注意して進んで下さい』
無線を終えて、再びダクトの中を進んでいく。下に降りる穴を見つけて飛び降り、しゃがんで周囲の索敵を行う。ここからエレベーターの所に行くまではぐるりと外周通路を通って回り込む必要がある……が、それは普通の人間の話だ。こちらに視線が向いていない隙を狙って、俺は手すりを掴み、1階へ直接飛び降りる。着地するとすぐに地面を転がり、身を潜める。
「ん、何の音だ……? …………気のせいか」
調べに来た武装社員は何も変化が無いと判断し、すぐに戻って行った。エレベーターまで誰も見ていない……今だ。
スイッチを押してエレベーターを呼び、到着と同時にすぐ乗る。行き先を指定して地下2階を選択、エレベーターが動き出す。そして地下2階に到達し、通路を身を潜めながら移動し、通気口に再び潜って進んでいく。下から光が差す金網があり、そこから部屋を覗き込んだ瞬間、俺は一瞬言葉を失った。
「なんだ……これは……!?」
部屋の中には無数のシリンダーがあり、その中には異形の姿をしていた人間の赤子らしき物体が浮かんでいた。機能は停止されているのか、中央の巨大な装置やシリンダーの生命維持装置は動いておらず、彼らに生命反応は一切感じられなかった。
周波数140.85からCALL。
『これは……そういう事ですか。SEEDの使い方、薄らと見えてきましたわ』
「エレン、説明してくれ」
『プレシアさんによると、そこはプロジェクトFATEの実験施設のようです。ただし、アレクトロ社が進めていた方の、と付きますが』
「?」
『ここからは私の推測なのですが……アレクトロ社はプロジェクトFATEを最初は自分達で開発しようとして上手くいかず、生半可な方法ではいつまで経っても実績が立たない事からプレシアさんに開発させるように仕向けたのかもしれません。わざとあの事故を引き起こし、優秀な研究者であるプレシアさんに独自で開発させることで、経費や人員などを自分達が提供することなく、より優秀で完璧なクローンを生み出そうとした訳です』
「つまりアレクトロ社は、プロジェクトFATEの開発をプレシアに全て押し付けた訳か。愛娘を事故に巻き込ませ、狂気に憑りつかれた彼女ならいつの日にか完成させると判断し、自分達は漁夫の利を得るがのごとく待ち構えていたと……」
『恐らくは。そして現在、その成果を手に入れようとしてこの裁判を利用しているのでしょう。また、一方のプロジェクトに費用を回さなくても良くなった結果、自分達はその後に使うSEEDの開発に全力を注げたのですわ』
「となると、SEEDはプロジェクトFATEがあって初めて活用できる装置なのか?」
『いえ、それだとプロジェクトFATEが完成するまで実験データを手にする事ができません。確かに主な使用法はそうなのかもしれませんが、きっとデータを手に入れられるように他の活用法も用意しているでしょう』
「そうか……。ところで彼女達の様子はどうだ?」
『察しの通り、プレシアさんは全て利用されていた怒りでひどく荒れ狂っていますわ。フェイトさん達が必死になだめていますが、落ち着くまで時間が必要でしょう』
「だろうな。ひとまず俺は部屋に降りてみる、SEEDに関する資料が残っているかもしれない」
『わかりました。くれぐれも気を付けてください、何か嫌な予感がします』
「フッ……悪運にはもう慣れたさ」
通信切断。俺は緩くなっていた金網を外し、ダクトからぶら下がって降り立つ。吐き気を催す光景を横目に、俺はこの部屋の内部を探索していく。と、その時、近くでかなりの重量物体が持ち上げられたような、妙な空気の張りを感じた。麻酔銃ではなく、暗黒剣を構えて突発的事態に対応できるように身構える。
ドゥルルルルルルルルルッッ!!
重厚な発射音が聞こえた刹那、ゼロシフトで咄嗟に物陰に飛び込んで身を伏せる。すると直後、さっきまで俺がいた場所に凄まじい量の銃弾痕が抉れるように刻み付けられていった。というかふざけるなよ……あの銃弾、F-16の機銃に使われている20ミリバルカン砲じゃないか! 人に向けるものじゃないぞ、あんなもの!
「ようこそ、侵入者! のこのこ俺の前に現れてくれて嬉しいなァ!!」
物陰から僅かに身を乗り出して対象をうかがうと、巨漢という言葉に収まらない巨漢がバルカン砲を身に巻き付けて構えていた。よく戦闘機の機銃を持てるな。
「貴様は……!?」
「俺の名はゲイザー! バルカン・レイブンの力をコピーした者だ!!」
「バルカン・レイブン? コピーだと!?」
「なんだァ? 貴様『SEED』の性能を知らないようだな。いいだろう、教えてやろう! 『SEED』は遺伝子の元となった人間の能力、技術、体力、その全てを対象にコピーする機能がある! そしてかつて最強とも謳われた特殊部隊“FOXHOUND”のバルカン・レイブンの力、それを俺は手に入れたのだ!」
「そんな事をして何になる? それは他人の力、決して自分で手に入れたものではない!」
「黙れっ! この力を手に入れるまで俺は魔力を持たず、役立たずの大男として蔑まれてきた! だがこの怪力があれば、俺は魔法に現を抜かす連中を見返すことができる! 魔法に染まったこの世界で、俺の存在に価値を生み出せるのだ!!」
「ズルをして得た力に酔いしれたか……なぜ自分の力で挑まなかった? 世界が気に入らなければ、自分の力で変えればよかった。努力もせずに得られた他人の力に頼ったりするんじゃない!」
「なら貴様にはわかるか!? 体格が恵まれていても、魔法がなければこの世界では役に立たない! どれだけ努力しても、決して越えられない壁が常にそびえ立つ絶望を! 俺は壊す、魔導師という存在を全てぶっ壊してやる!!! そのためにもまず最初に、貴様を血祭りにあげてやる!!!」
戦闘開始。奴は俺の姿を見つけるとバルカンを撃ってくるが、やはりあのバルカンは相当重いため、取り回しに難があった。正面から戦うと厄介だが、後ろを取れば非常に弱い。物陰に隠れてこちらを捜索している奴の後ろに回り込み、気づかれる前に急速接近、暗黒剣で連続攻撃を叩き込む。
「ぐぁあああ!! この野郎、ちょこまか動きやがって!!」
「なるほど、貴様のパワーは確かに驚嘆に値する。だがな、それを当てられるだけのスピードが貴様には無い! それに、貴様はその力を完全には操れていない。ただ振り回されているだけだ!」
「ふざけるな! この力さえあれば、魔導師だろうと押しつぶせる! 身体強化魔法なぞ、くそくらえだ!!」
「余程魔導師にコンプレックスを感じていたのだな。しかし他者の力に頼った時点で、貴様は敗北している。貴様は与えられたおもちゃで喜んでいるだけの、ただのガキなんだよ!」
「ほざけぇぇえええええ!!」
挑発を受けて怒り狂った奴はバルカンを乱射してくる。その攻撃で周りのシリンダーが次々と割れ、中身の物体から流れ出る血で床が赤く濡れていった。それはあまりにグロテクスな光景で、普通の人間が見たら嗚咽を漏らすだろう。
奴が癇癪を起こして暴れているのを物陰から伺いながら、俺は対策を講じる。
「ふむ……結構斬ったはずだが、ダメージが効いてるようには見えないな。アドレナリンでも過剰投与して痛覚を遮断しているのか?」
周波数140.85からCALL。
『サバタ。ゲイザーの体内から微弱ですが、奇妙な魔力反応を確認しました。もしかしたらそれが彼に何らかの影響を与えているのかもしれません』
「体内だと? エレン、それはどの辺りだ?」
『心臓のすぐ近くです。ただ、そんな所にある物を取り出すも破壊するも、どちらを実行するにしても彼を大人しくさせられない現状では、どうしても彼を殺さざるを得ません。管理局員としてだけでなく、あなたの古い友人として、あなたが殺人を犯す事はどうしても許容できません。サバタ、彼との戦いは避けて、急ぎそこから撤退して下さい!』
「断る」
『え?』
「確かに物理的に体内にある物体をどうにかしようとすれば、それは致命傷となって奴を殺すだろう。だがな、奴の力の根源の位置がわかった以上、俺なら奴を殺さずに無力化出来る」
『どうやってですか!? あなたの暗黒の力は、明らかに殺傷能力に特化しています。その力では余計……!』
「フッ……特等席で見ていろ、エレン。こちら側に来て新たな戦い方を身に付けた俺に、この程度は何の障害にもならん!」
無線を切った俺は今なお乱射を続けているゲイザーに向かい、ゼロシフトで駆け抜ける。俺の姿を見つけたゲイザーはこちらに銃口を向け、バルカン砲をとにかく発射してくるが、ゼロシフトを使っている俺にそんなものは当たらない。ヤツの目が驚愕に彩られた直後、俺はゲイザーの胴体に打技黒掌を放ち、たたらを踏ませる。
「うぉぉぉぉおおお!!! 暗黒転移ッ!!!」
「な、何ィッ!!?」
そのままゲイザーの胸に暗黒転移を応用させて発生させたゲートに左手を突っ込み、心臓のすぐ隣にある“ターゲット”だけを抜き取り、握りつぶす!
「ば、馬鹿なッ!? 力が抜け……うがぁあああああ!!!?」
「力の源を失い、おまえは元の状態に戻る……。バルカン・レイブンの力はもう、おまえの物ではないッ!」
シャマルの“旅の扉”や、闇の書の“蒐集”の真似が出来る俺だからこそ、コイツを殺さずに“ターゲット”だけを破壊する事が可能だった。その論理で行けば、シャマルやはやて、ネロも同じ事が出来るはずだが……恐らく俺の中にあるナハトの一部から、密かに感じられる意思の一つも可能に違いない。要するにリンカーコアを直接攻撃できるならば、“ターゲット”も抜き取れる訳だ。
「くそ……くそぉっ!! また、あの屈辱の中に戻されてたまるか……! 返せ……『SEED』を返しやがれぇええ!!」
カァー、カァー。
カァーカァー! カァー!!
「な、カラスだと!? 一体どこから……ぐわぁああああ!!!?」
『俺の魂はこいつらと同化し、自然に還った! だがな、科学に染まったおまえの肉体が自然に還る事は無いッ!!』
よくわからないが、俺には見えていないカラスの大群の幻覚に襲われて、ゲイザーが悲鳴を上げていた。そして……聴覚とは違う場所から、聞いた事の無い男の声が聞こえた気がした。一体誰なのかわからないが、少なくともその男から誇りが感じられた。ゲイザーと違い、戦士の誇りを持った男……俺はそれがバルカン・レイブンだったのではないかと思った。
しばらく幻覚のカラスを追い払おうと手を振るって暴れていたゲイザーだが、やがて白目をむいて倒れ、意識を失った。一応生きているようだが、目を覚ましても話せるような精神状態ではないだろうな。このまま放っておこう。
周波数140.85からCALL。
『まさか本当に殺さずに済ませるとは……あなたは相変わらず、私の想像を超えていきますわね』
「驚いてもらえて何よりだ。ところで俺が握りつぶした物体だが……もしやコレが『SEED』なんじゃないか?」
『なるほど……他者の遺伝子を組み込み、体内に埋め込む事でその人物の力を手に入れるドーピングの極みとも言える装置、それがSEEDだったのですね。しかし取り外されると幻覚を見せる辺り、副作用は酷いものなのでしょう。それにしても、アレクトロ社がこれを作った意図は一体何なのでしょうね?』
『……そう、そういう事だったのね。私にプロジェクトFATEの研究を完成させた理由、後付のSEEDというドーピング装置の開発、大体繋がってきたわ』
『プレシアさん、何か思い付いたのですか?』
『ええ。実用例がゲイザーの物だけだからまだ推測に留まるけど、SEEDにはリンカーコアまでコピーする性質は無い様に見えたわ。でもそれ以外はほとんど完璧にコピー出来ていた。これとプロジェクトFATEを組み合わせれば確かに、強力な魔導師を容易く量産出来てしまうわね』
「プレシア、もっと具体的に説明してくれないか?」
『要するにフェイトを見ればわかるけど、プロジェクトFATEで生み出したクローンは上手くやればオリジナルより強力なリンカーコアを生み出せる。でもクローンは普通の子供と同じく赤ちゃんの姿で生み出されるわけだから、まともに戦えるようにするには成長する期間や鍛える手間が必要だし、これだけでエース級魔導師を量産するには明らかに非効率的なのよ。でも組み込むだけで熟練の戦士と同じ力を得られるSEEDを使えば、クローンは生まれながらにして時間をかけて培うはずの技術や身体能力を扱えるようになる。簡単に言うと、二つのプロジェクトを組み合わせれば、生まれた直後からエース級魔導師として戦うための“兵器”や“道具”を育成の時間や費用をかけず無限に生み出せるという事よ』
『それではクローン達に人権が無いじゃないか!? クローン達にも普通の人と同じように生きる権利はあるはずなのに、こんな事は非人道的の極みだ!』
「となると、SEEDそのものは量産品に類する物となってしまうな。エレン、この場合はどうしたらいい? 一応残骸は写真に撮って送ったが、これを決定的な証拠とするにはいまいちインパクトが薄いぞ」
『そうですね……SEEDが量産品という事は、それを製造するマザーマシンが存在するはずです。裁判で提出する切り札は、そちらの方を使った方が良いでしょう。サバタ、あなたの存在はアレクトロ社に感づかれてしまいましたが、潜入任務を続行して施設の奥にあるはずの“SEED製造機”を撮影して下さい。警戒は更に厳重となってしまいましたが、大丈夫、あなたならきっとできます!』
「期待が重い気もするが……まぁ、やってみよう。任務を再開する」
通信切断。俺は地下2階の部屋から出て、この巨大な施設に隠された陰謀の源を探し求めるのだった。
後書き
スニーキング・スーツ:MGSにおける標準的な服装。この作品の物はちょっとふざけましたが、後にこれはある人物の手に渡ります。
ナハトから感じられる意思の一つ:わかる人にはわかる、エンシェントでマトリクスな彼女の事。
ふと思った事。
メタルギアライジングの某上院議員は、絶対管理局の事が気に入らないと思います。
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