世界蛇
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2部分:第二章
第二章
「本当に?」
「はじまりがあるものは何時か必ず終わります」
これも光の言葉だった。
「ですからこの世界もまた」
「そうなんだ」
ヨルムンガルドはそれを聞いても特に動じた様子はなかった。ただ聞いているだけだった。
「終わるんだ。この世界も何時かは」
「何とも思われないのですね」
「だって。僕はただここにいるだけだから」
こう答えるだけだった。
「だから。特にね」
「何も感じられないのですね」
「生まれて最初にさ。嫌な思いをしたのは覚えてるよ」
それは覚えているのだった。目は見えなくともそれでも聞こえてきたあの言葉を。彼を見る嫌悪の眼差しを。それは覚えているのだった。
「それはね」
「ですが何も感じられないのですね」
「それからずっとここにいたから」
今度は海水を身体中で感じながら述べた。
「だからさ。もう殆ど忘れたよ」
「忘れたのですね」
「世界が終わったら僕を嫌っていたあの声はどうなるの?」
「滅びます」
静かにヨルムンガルドに答えたのだった。
「彼等は完全に滅亡します。何もかもが焼け落ち」
「そうなんだ」
「そして貴方も」
光はここで彼もそうだと彼自身に告げた。
「貴方も消えます。その中に」
「僕も一緒なんだね」
やはりそれを聞いても特に何も感じたところは見せないヨルムンガルドだった。
「あの声と一緒に消えるんだね。だったらそれでいいよ」
「いいのですね、それも」
「だからさ。ずっとここにいたんだよ」
またこのことを言うのだった。
「ずっとここに。冷たくて食べるものが通るだけのここにね。僕だけがいたから」
「だから滅びてもいいのですか」
「それに君はさっき言ったじゃない」
彼の方から光に対して問うたのだった。
「はじまりがあるものは絶対に滅ぶってね」
「それはその通りです」
光もそれは認める。
「確かに」
「しかも僕も死んじゃう」
ヨルムンガルドはこのことも問う。
「それは避けられないよね」
「運命は避けられません」
確かな声でヨルムンガルドに語った。
「このラグナロクは」
「ラグナロク」
「世界が終わる時です」
こう彼に教えた。
「その時は。最早どうしても避けられません。そして貴方もまた」
「そうだよね。じゃあもうあれこれ迷っても考えても仕方ないよ」
何処までも割り切った言葉であった。
「それでね。だからいいよ」
「そうですか。貴方は」
「生きていても楽しいことはないし」
彼はこうも言う。
「だったら。悲しくもないしね」
「わかりました。貴方の心は」
光の声は悲しそうだった。その表情は光である為にないがそれはヨルムンガルドにもわかった。だが彼はその感情はわかるが悲しみという言葉は頭には浮かばないのだった。
「これで」
「それでさ、君は」
その感情が何かわからないまままた光に尋ねる。
「はい」
「どうしてここに来たの?」
次に問うたのはこのことだった。
「どうして君はここに来たの?こんな冷たくて何もない場所に」
「貴方の運命を伝えに」
今度の光の返事はこうであった。
「それで来たのです」
「そうだったんだ」
「そしてです」
光はさらに彼に告げる。
「もう一つお伝えすることがあります」
「もう一つって?」
「そうです。確かに世界は滅び貴方は滅びます」
それは避けられないというのだった。
「ですが」
「それでも何かあるの?」
「貴方はまた生きられます」
こう彼に告げるのであった。
「また生きられるのです」
「どういうことかな、それって」
「貴方は生まれ変わるのです」
「生まれ変わりって?」
「世界はまた蘇ります」
静かに彼に語る。
「一度滅んだ世界がまた。蘇るのです」
「滅んでもまたなんだね」
「それは貴方も同じなのです」
「僕もなんだ」
「今度は。どういった生を送られたいですか」
問う者と問われる者がここでまた入れ替わった。光が彼に問うてきたのだ。
「貴方は。どういった生を」
「もうここにはいたくないよ」
これが最初の彼の次の生への言葉であった。
「もう。こんな冷たくて誰もいない場所にはね。いたくないよ」
「今貴方は世界の滅亡まで生きていくことができます」
このことをヨルムンガルドに告げた。
「長い間に。それでも離れられるのですね」
「それって次もひょっとしたらここでいるかも知れないってこと?」
「貴方が望まれれば」
「そうなんだ」
「ですがそれは嫌なのですね」
「うん、もうね」
この返答は変わることがなかった。彼の中では。
「もう。ここはいいよ」
「そうですか。やはり」
「地上を見てみたいね」
そしてこうも言うのであった。
「本当に。平和にね」
「わかりました」
光は彼の言葉を全て受けたのであった。そのうえでまた彼に言ってきた。
「それではそのようにしましょう」
「僕考えることもあるんだ」
ヨルムンガルドはまた光に対して語るのだった。
「何で生まれたのかなって。この世界に」
「この世界の最期に戦う為です」
「戦う為?」
「そうです。その世界が滅びる時に」
「ラグナロクの時にね」
「そうです。その時に神の一人と戦いその結果です」
光はその最期の時も彼に告げた。それを聞いてもやはり今一つ自分のこととは思っていないような冷めた言葉であった。
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