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戦国異伝

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第二百一話 酒と茶その九

「なり申す」
「そういうことじゃな」
「はい、ですから」
「怨霊もまた天下におるか」
「そして動いているのやも」
「怨霊か、若しおれば」
 その時はとだ、信長はその目の光を強くさせて言った。
「放ってはおけぬな」
「それでは」
「いれば滅する」
 そうするというのだ。
「必ずな」
「そうされるべきかと」
「そうじゃな、しかし」
 ここでこうも言う信長だった。
「天下には実に様々なものがおるのう」
「人もまた様々でありますし」
 柴田が言って来た。
「そしてですな」
「怨霊がおるとなるとな」
「やはりいますか」
「少なくとも怪しい者はおる」
 津々木のことをここでも言うのだった。
「ああした者がな」
「そういうことですか」
「今は北条を攻めに向かうがな」
 話を戻した、そしてだった。
 信長はあらためてだ、家臣達に言った。
「では今は休むぞ」
「はい、そしてですな」
「そのうえで」
「兵を進める」 
 こう言ってだった、上杉との戦を終えた織田は次は北条との戦に向かうのだった。それはもうはじまっていた。
 その織田の陣の端でだ、松永は己の家臣達に言われていた。
「殿、どうも」
「織田信長は気付いた様ですぞ」
 松永に怪訝な顔で言うのだった。
「我等のことに」
「遂にと言うべきでしょうか」
「気付きそして」
「そのうえで」
「我等を」
 消そうとしているというのだ、だが。
 松永は落ち着いた顔でだ、こう彼等に答えた。
「いや、それはどうか」
「どうか?」
「どうかとは」
「織田殿はまだではないのか」
 こう己の家臣達に言うのだった。
「我等に気付いておらぬではないのか」
「何故そう言えますか」
「そう仰る根拠は」
「我等のことに気付けばな」
 松永は怪訝な顔になった彼等にさらに言った。
「それはな」
「そうでしょうか」
「うむ、我等の存在自体をな」
「気付いておらぬと」
「そうだというのですか」
「疑念は抱いておられる」
 その存在に、というのだ。
「しかしじゃ」
「気付くまではですか」
「至っていませぬか」
「まだな、ならよい」
 疑念のうちはというのだ。
「確かに殿は勘の鋭い方じゃがな」
「それも異様に」
「鋭いですが」
「それでもですか」
「その織田信長でも」
「そうじゃ」
 まだ、というのだ。 
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