| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第28話 男のふりをしている女性キャラは貧乳が多い

 
前書き
どうも、蛹です。
男のふりを女性がするための課題は二つ、体型と顔です。

体型は言わずもがな、胸についてです。
胸がある程度大きい人はどうしてもボロが出やすくなりますが
小さめの人なら、気付かれる確率はかなり減ります。

顔は相当の美形でなければすぐにバレてしまいます。
アギトはこの内の課題の一つを″鎧骨格″を換装して
顔を隠すことによって解決しています。

そして、胸が控えめなので、″鎧骨格″の厚みに隠されて
鍛え上げられ引き締まった肉体だけが残るというわけです。
この要素だけでは、ほぼ確実に女性だということはバレません。

しかし、ついに正体が明らかになってしまったアギト。
一体どうなってしまうのか。それはすぐに分かります。

それでは第28話、始まります!! 

 
『‥‥‥‥‥‥何だ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』

霞んでいる視界の中、俺に駆け寄って来る姿が見えた。
‥‥‥‥‥‥何でお前らがこんな山奥にいるんだ。

「‥‥‥ト‥‥‥アギト!‥‥‥しっか‥‥‥ろ!!」

確かアスラとか言っていただろうか。
そいつが俺に向かって何かを叫んでいた。
だが、俺にはほとんど聞こえなかった。

『‥‥‥‥‥来るな‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』

かすれた声をひり出してこう言った。
しかし、聞こえてないのだろうか。
誰もここから動こうとはしなかった。

「まて!アギトが何か言ってるぞ!」

顔の右側に火傷の痕がある男、迅だったか。
そいつが全員に大声で言った。
それを聞いた全員が黙り込んだ。

『‥‥‥‥‥‥ハァ‥‥‥‥‥ハァ‥‥‥‥‥‥‥』

苦しい。呼吸ってこんなに全身を使うものだったのか。
息を吸う度に胸に激痛が走って息が詰まる。
このままでは息は整いそうにない。意識も遠のきそうだ

『‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥‥‥‥』

荒くなっていく呼吸。体は酸素を欲しているが
とてもその要求は答えられそうにない。

「アギト!!」

目の前で、何だったか、あの銃持ってつっ立ってた奴。
ホークアイとか言っていたか。そいつが俺に向かって叫んでいた。

『‥‥ハァ‥‥‥ハァ‥‥‥‥こっち‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』

まだ、俺が女であるとばれるわけにはいかない。
女であるという甘えを捨てるために、今まで一人で戦って来たんだ。
これからも一人で戦ってやる!仲間なんていらない!

『‥‥‥こっち‥‥‥‥‥‥見ん‥‥‥‥‥な‥‥‥‥‥‥‥』

俺は、アイツを、スペックを、オレの手で殺してやるんだ!
アイツは、俺の大切な奴を‥‥‥‥‥‥‥‥殺したんだ!
まだ、ばれるわけにはいかないんだよ!
俺は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥俺‥‥‥‥は‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥


 ガシャシャシャンッ!!!


"鎧骨格"の換装の解けた音が聞こえた気がした。
視界はさらに霞んでいき、俺は完全に意識を失った。



    **********



「ハッ!」

 ガバッ!

意識を取り戻した俺は身体を勢いよく起こした。
その瞬間、腹部に激痛が走り身体を丸めた。

「‥‥‥‥ぐッ‥‥‥‥‥!!」

その瞬間、腹部に巻かれている包帯に気付いた。
よく見たら、全身のいろんな所に包帯が巻かれていた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ん?」

俺の隣に女の子が眠っていた。
夜なので火の明かりでしか顔が見えないが
見たことがあった。確かマリーとか言っていた。
彼女が巻いてくれたのだろうか。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

感謝の言葉が出なかった。久しぶりすぎて出なかった。
そんな小恥ずかしい事、むずがゆくて言えなかった。

「んッ!‥‥‥‥‥ぐッ‥‥‥‥」

俺は痛みに耐えながら立ち上がろうとした。
しかし、脚に上手く力が入らなかった。
全身がだるくて立ち上がることが出来なかった。

「無理しちゃダメだよ!」

マリーが起き上がって来て俺を抑えた。
元々、力が入らないのでもう立ち上がることは出来なくなった。

「今はゆっくり休んでて」

そう言って俺の身体に毛布を掛けた。
俺の顔が赤くなるのが分かった。

「えーっと‥‥‥‥名前なんて言うの?」

マリーは俺にそう訊いてきた。
前に名のったはずだが、一応言ってやった。

「俺は‥‥‥‥‥‥"顎人"だ」
「あれ、さっきと声が違うね?」

しまった。"能力"を使い忘れていた。
そのせいで、いつもの声に戻ってしまっていた。
マリーはクスクス笑っていた。

「‥‥‥‥‥何だよ」
「ふふ、だってカワイイ声だったから」
「なッ!?」

顔がさらに赤くなるのが分かった。
俺の声が‥‥‥‥‥‥‥‥カワイイ?
そんな事を言われたのは初めてだった。
恥ずかしすぎて顔から火が出そうだった。

「‥‥‥‥‥‥‥‥ッッ」

恥ずかしさのあまり、俺は毛布にくるまって寝転んだ。
マリーは俺の反応を楽しんでいるようだった。

「よいしょっと」

彼女も俺の隣に寝転んだ。
そろそろ彼女も再び寝入るようだ。

「‥‥‥‥‥‥ジェーンだ」
「えっ?」

突然すぎて、彼女には聞こえなかったようだ。
この名前を言うのは久しぶりだ。
しばらく女としての自分と共に捨てていた名前。

「ジェーン。俺の本当の名前だ」

言ってしまった。だが、不思議と胸の中が
スッと軽くなったような気がした。
女としての自分を受け入れて貰えた事が
胸の中の何かを取り去ってくれたように感じた。

「そっか。よろしくね、ジェーンちゃん♪」
「なっ‥‥‥!!」

突然、そう呼ばれるとやっぱり慣れない。
しかも、ちゃん付けなんてされたら身体がこそばゆかった。
これ以上話していると傷に響きそうなので
俺はそのまま寝入ることにした。



    **********



「う‥‥‥‥‥うぅーーん‥‥‥‥‥」

何だか胸付近に違和感があった。
傷か何かの痛みとはまた違い
誰かから触られてるような感触だった。

「‥‥‥‥‥ん?」

目を開けると、そこには俺の胸をいじっている
ホークアイの姿があった。

「って何してんだテメェェェッ!!」

 バキッ!!

「ぐほあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

ホークアイは俺の右ストレートを顔面に喰らって
空中を何回も回転すると少し遠くに落下した。

「このクソ野郎!!」

やっぱり仲間なんて信用できるか!!
腹部に激痛が走り、身を捩りながら心の中でそう叫んだ。
すると、向こうからマリーがホークアイの元に駆け寄って来た。

「あーあ、だからやめといた方がいいって言ったのに」

完全にのびている彼を見ながら彼女は言った。
そして、俺の近くにまで寄って来た。手にはスープがあった。

「はい。これとっても美味しいよ♪」

彼女がそう勧めてきたので、俺は器を受け取った
確かに、器の中からは美味しそうな香りが広がっていた。

 ぐぅぅ‥‥‥

腹がなった。少し恥ずかしかったが
昨日の夕方から何も食べてないので
正常に内臓が働いている証拠だろう。

「早く食べて食べて♪」

彼女が笑顔で促してくるので
俺はスプーンですくって、それを口に運んだ。

 ゴク‥‥‥

「‥‥‥‥‥‥うまい」

純粋な感想だった。お世辞でも何でもなくただ正直に美味かった。
ボロボロの身体での食事だからだろうか。

「良かった。ちなみにね、これ作ったのホークアイなんだよ♪
 ジェーンちゃんがさっき殴り飛ばしてあそこで倒れてる人」

また名前を呼ばれた事よりも、これを作ったのがアイツと言うことの方が
あまりにも意外すぎて絶句した。あの変態野郎がこれを‥‥‥‥‥‥

「さっきアイツを殴っちまってごめん」
「いいよぉ。だって、いつも私にイタズラしてくるから
 お顔にビンタ打ち込むのが日常茶飯事だもん」

そんなんでいいのかアイツは。変態野郎でしかも終わってるぞ。
俺の中でのお前の異名は“女の天敵”だぞ。

「ハッ!!」

 ガバッ!

ホークアイが急に起き上がった。意識を取り戻したらしい。
やはり弱っていたためパワーが低かったのだろうか。
(でも空中回転するぐらいの一撃を喰らって、すぐ起き上がるってのは
 一体今までに何回こんな感じの攻撃を受けて来たんだ?)

「ッッ、痛ぇなぁ。もう少し手加減しろよ‥‥‥‥」

赤く腫れた右頬をさすりながらつぶやいた。

「お前が俺の胸を触って来たからだろうが」
「いや、でもお前ペッタンコじゃん」
「んなッ!!!」

俺はホークアイの一言に顔が真っ赤になった。
密かに胸がない事を気にしていたのに。
コイツはデリカシーってものを知らないのか。

「テメ‥‥‥‥‥うぐッ!‥‥‥‥ッッ‥‥」

今すぐ顔の反対側を殴ってやりたいところだが
腹部に走った激痛がそれを阻害した。
やはり体力の低下につれて、再生力も落ちているようだった。

「こらーーーっ!ホークアイっ!!」

 ぎゅうううううッ!!

マリーがホークアイの殴られて腫れた方の頬をつねった。
あれはすごく痛いだろう。だが、自業自得である。

「女の子にそんな事言っちゃダメでしょ!」
「いででででででででででででッ!わ、悪かったよ!!」

ホークアイは両手を合わせて謝っていた。
そんな光景を見ているだけで心が癒された。
はっ!ダメだ。俺は一人で戦ってやるんだ!
仲間なんていらない!仲間なんて‥‥‥‥‥‥‥



    **********



「というわけで、ジェーン」

迅が俺に話しかけてきた。全員が俺の周りを囲んでいた。
隣にはマリーが座っていた。何故か俺になついている。

「しばらく君は旅に同行してもらうことになるけどいいかい?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ」

というか、否定のしようがない。この状態で森に置いて行かれたら
数時間後には確実に″鎧虫"の腹の中にいるだろう。もちろんバラバラで。

「やったー!よろしくね、ジェーンちゃん♪」
「なっ!‥‥‥‥‥‥あぁ」

マリーが笑顔で言ってきたので、俺は相槌を打った。
何度呼ばれてもちゃん付けだけはなかなか慣れそうになかった。

「だが、どうやって移動しよう?」

銀髪の男が訊いてきた。名前が思い出せない。
何だったか‥‥‥‥意外と複雑だったような。

「ん、何だ?コイツの名前なんだったけ?
 確か意外と複雑な名前だった気がするが
 とでも言いたげな顔してるな」

何で分かったんだ!?コイツ心を読めるのか!?
俺は驚きのあまり動揺を隠せなかった。

「図星みたいだな。なら教えてやるよ。
 俺の名はリディニーク、リディと呼んでくれ!」

リディニークは自分を親指でさして
自慢気に自己紹介した。

「みんなはアイツの事をリオと呼んでいる」
「リオさーん♪」
「ちょ、やめろ!これ以上リオさん派閥を増やすな!」

迅やマリーがリオさん派を増やすのを
リディニークが抑えようとしていた。

「じゃ、リディで」
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおッ!!ありがとう!!」

何だか彼がかわいそうに見えたので
少し言ってみたつもりだったが、ここまで喜ばれるとは。
リディは俺の両手を掴んで上下に振っていた。

「あんまり強く振らないでくれよ、リディさん。傷に響くから」

振られるたびに鈍い痛みが腹部に走るので
俺は正直に言って止めてもらうように言った。
しかし、リディは微妙な表情をしていた。
言い方が悪かっただろうか。

「‥‥‥うぅ、何か違和感が‥‥‥‥‥‥」

そっちか。そっちの事だったのか。自分で呼ぶように言ってきたくせに
違和感を感じるってどういうことだよ。

「やっぱり、リオさんが一番いいと思うよ?」

マリーがリディに向かってそう促した。
彼はしばらく悩み込んでいたが、意を決し俺に言った。

「リオって呼んでみてくれ」
「‥‥‥‥‥‥‥リオさん」

俺は言われるがままに彼に言ってあげた。

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああッ!!
 スゴイしっくり来るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううッ!!!」

よく分からないが、何かに身悶えしていた。
結局、彼はリオと呼ぶことで決定したようだ。

「で、話は戻るがどうやって移動するんだ?」

迅が再び話題を戻したが、そもそも本題はそっちである。
このままだと俺は"鎧虫"への供物と化してしまう。
少なくとも傷が治るまでは何とかしてもらいたいものだ。

「じゃあ、誰かがジェーンちゃんをおんぶするのは?」

まただ。ちゃん付けよりも、その提案に驚かされた。
マリーの口から放たれる言葉は、しばしば俺に動揺を与えた。

「おんぶか‥‥‥うーーーん‥‥‥‥‥‥」

全員は唸り声を上げた。悩んでいるようだ。
一応、運び方としては良いとは思う。
シートとかに乗せて、引きずって運ばれるよりは数倍マシである。
だが、問題はその運び方である。
おんぶだ。そんな子供みたいな運ばれ方は、正直言って恥ずかしい。

「問題は誰が運ぶかだな」

俺の心情を無視して、すでに誰が運ぶかが論点に変わっていた。
誰か俺の恥ずかしさを分かってくれる奴はいないのか。

「私は体力ないからすぐ疲れちゃうよ」

マリーは喜んで背中におぶられそうだ。
彼女は見た感じパワー型には思えないので当然だろう。
背に腹は代えられない。こうなったら、流れに身を任せることにしよう。

「じゃあ、ホークアイなんてどう?」

前言撤回。突然の事で声が出なかったが、彼女は何と言っただろうか。
あの変態野郎に運んでもらうのはどうかと提案したのか。

「はぁ!?何で俺がアイツをおぶんなくちゃいけないんだよ!!」

当のホークアイでさえ、このような反応を見せている。
俺もこれほどの重傷を負ってなければ、同じような反応をしていただろう。
それほど驚愕な提案だったのである。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥いいぜ」

だが、このまま森の中で足止めを食うのも困る。
"鎧虫"が来て襲われたら、俺は戦えない。
出来る限りリスクを避けるために
やはり、背に腹は代えられないのだ。

「‥‥‥‥‥‥早く背負えよ」

前を見ると、全員は驚いた顔のまま静止していた。
俺が否定しなかったことが、そんなに衝撃的だっただろうか。
ようやく、ホークアイが俺の前に座り込んだ。

「よいしょ‥‥‥っと」

マリーに手伝ってもらって、俺はようやく
ホークアイの背中に背負われた。
彼の背中は、少し硬かった。これが男の背中か。
周りから見れば、かなり恥ずかしい状態だが
これはこれで悪い気分じゃない。
よく考えたら、スープ作ってくれた奴に対して
少し悪いことしたなと、後悔の念が俺の頭の中を廻っていた。

「‥‥‥‥‥お前さぁ」

ホークアイに尋ねられて、俺は我に返った。
俺の顔が横にあって振り向くことが出来ないので
顔は前に向けたままだった。

「‥‥‥‥やっぱりペッタンコだな」
「なっ!!!」

 ギュウッ!!

「いででででででででででででででででっ!」

背負われている状態では殴れないので
さっきマリーが使っていた技を使ってみた。
腹に響かない程度の力でやっているが
思った以上の効力があるらしい。

「痛い痛い痛い痛い千切れる千切れる千切れるぅッ!!」

俺は顔を真っ赤にして、しばらくホークアイの頬をつねり続けた。
仲間という存在が、俺の心を少しずつ癒してくれているような気がした。 
 

 
後書き
一人でするには何事にも限界があります。
しかし、二人なら。三人なら。沢山いたなら。
人は共に限界を超えることが出来るのです。

アスラ達との出会いと旅への同行によって
″顎人″、ジェーンの運命は大きく変わっていきます。

果たして、彼女はヒロインになれるのか?
じゃなくて、アスラ達と仲良くなれるのか!?

次回 第29話 気の強い女子ほど意外なものに弱い お楽しみに! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧