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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  066 1つの難題(難易度:ルナティック)

 
前書き

まぁ、いつも通りの超展開ですね。 

 

SIDE 升田 真人

〝時間〟と云うものは得てして早く過ぎ去るもので、喫茶店を経営するようになってから既に3ヶ月が経過していた。店は軌道に乗ったのか、右肩上がりに業績は良くなった──否、現在進行形で〝良くなっている〟。それで思わず帳簿を見ながら破顔してしまい、そんな俺の様子──所謂〝ニヤリ顔〟を輝夜に見られて気味悪がれたのは良い思い出で、その輝夜は3ヶ月と云う短い期間で──まずあり得ない事だが10代後半に、大変美しく成長した。

……そこでまた〝認識操作〟や〝思考誘導〟の術を掛けなおす事になったのは言うまでもない。

「輝夜、壱番卓に頼む」

「判ったわ」

そんなある日の喫茶店──その名も【満足亭】の、客がごった返している店内で輝夜に〝焼き魚定食〟が乗せられたトレイを渡す。

……輝夜は一週間前から店の──現代(平成)風に言うならウェイトレスになっていた。これは強制したわけではなく、あくまで輝夜の希望である。……どうにも輝夜は月に居た頃から地上の暮らしに興味があったらしく、給仕ついでに客からいろんな話を聞きたかったらしい。……輝夜の仕事ぶりは、元々頭が良かったのか仕事も覚えるのも早く、今ではすっかりこの喫茶店の看板娘となっていて、輝夜目当ての客も多い。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そんな充実していた日々を送っていた、とある日のカエルらしき生き物が鳴いている夜。〝母屋〟にて、輝夜に物申したい事が有ったので今は輝夜と向かい合っている。……掃いて捨て置ける様ならどうでも良いが、俺にとってはわりと切実なる事だった。

「なぁ、輝夜。結婚の申し込みを断るのは良い。輝夜の人生だからな。……だが〝それ〟に対して、俺をダシにするのは止めてくれないか」

「あら、なぜかしら? 真人なら別に結婚しても構わないわ」

「そうじゃなくてだな? ……なんだか、その内貴族諸侯からの勧誘が来そうなんだよな、俺に」

そう輝夜は、冗談とも本気とも取れる様な声音で、冗談みたいな事を言う。……そう。輝夜はモテる。とてつも無くモテる。……それだけなら良いが、断る時の定型文(テンプレート)が〝真人(俺)を一対一(サシ)で倒す事〟なのだ。……何回貴族達を追い返したかは、10人を超えた頃から数えていない。

……ちなみに、勧誘の話は〝来そう〟と言うのは正しく無く──正しくは、既に来ている。……今更政(まつりごと)に携わる事に興味が微塵も出ないので、今のところ突っぱねているが、そろそろ強引な手段に出そうで面倒臭い。

「……私の話と関係無いんじゃない?」

(……あっ)

どうやら話が逸れていたらしく、輝夜に訂正された。

「……ともかく、輝夜は結婚をする気は?」

「日和ったわね。……結婚は…悪いけど、あまり深くは考えて無いわ。……で、そう云う真人はどうなのよ? 真人はさっきの私の言葉を冗談に思ってる様だけど、私はわりと本気で言ったわ。……いくら真人が〝女たらし〟でもね」

「ナンノコトヤラ」

(バレテーラ)

と、まぁ冗談は置いといて、輝夜みたいな絶世の美少女にそんな事を言われたなら、この場でルパンダイブ確定なのだが──輝夜にはちっとも欲情出来ない。……例外として、性欲を操るスキル…“下劣な大道芸(エロティックピエロ)”なら〝何にでも〟欲情出来るだろうが、それは除外。……とどのつまり、輝夜に抱くのは〝庇護欲〟であって〝情欲〟では無い。……それがいくら〝植え付けられた〟感情だとしても、だ。

「……ごめんなさい、ちょっと意地の悪い言葉だったわね。多分──というより確実に、永琳という知り合いの仕業よ、真人に掛かってる〝それ〟は。……全く永琳も過保護なんだから、もう…」

〝イヤになってしまうわ〟と更に頬をぷっくりと膨らませながら憤然としている輝夜だが、輝夜もそんなに大して──本気で怒っていないのか、恐くは無い──寧ろ輝夜の〝絶世の美少女〟の称号を(ほしいまま)にしているその見た目では愛らしさが際立つ。

「……でも確かに真人と一対一じゃ厳しいわね。少しだけ難題の難易度を下げようかしら」

「是非ともそうしてくれ。主に俺の胃の為に」

「へぇ、それならもっと真人を困らせてみようかしら。……今度は〝一対一〟という制約を無くしてみたりとかして」

そう輝夜はサディスティックな笑みとエロティックな笑みを足して2で割った様な恍惚とした表情で(のたま)った。……どうやら輝夜は天性のサディスティックな様で、まるでどこかの──それこそ童話に出てくる様なお姫様の様な所作もまた、〝輝夜ドS疑惑〟に拍車を掛けている。

「……そんなに俺を困らせてお前は一体、俺をどうしたいんだよ…」

「ふふっ、冗談よ。……半分はね。真人と話すのは楽しいもの。月に居た頃は皆私の顔色を窺ってばかりで、ちっとも面白く無かったのよ。……地上に興味を持ったのもそれが有るからよ。……いや、多分それだけじゃないわね」

蠱惑的な笑みから、今度は思案顔になり輝夜はうんうん、と頭を捻っている。どうやら当てはまる言葉を自分の語彙群の中から探している様で、その様子もまた〝サマ〟になっている。……やがて思い付いたのか、ぽんっ、と右の拳で左手の手のひらを打つ。

「これはあれよ。……〝好きな子ほどイジメたくなる〟…そんな感じよ」

「お前は──はぁっ…」

(お前は男子小学生かっ!)

内心そうツッコンでいた。どうやら輝夜の語彙群は〝多少〟難が有るようだ。輝夜の自己分析は、俺が幾つか想定していた〝多少マシな〟説──〝ただのドS〟説などの予想の斜め上を突き抜けていった。……それに対して辛うじてだが、声に出さずにすんだ俺は凄いと思う。

「判ったわ。そろそろ私も、婚姻の申し込み話に辟易としてきた頃だし〝難題〟の難易度を下げるわ。……まぁ私が妥協するんだから、貴方には幾つか〝条件〟を付けさせてもらうけどね」

輝夜はそう見る者全てを籠絡させるような笑みを浮かべる。それを見てしまった俺は、ぞくり、とナニかが背中を走った様な気がしたのは文字通りの〝気のせい〟として、輝夜の〝含み〟の籠められた〝イイエガオ〟に、次に来るであろう貴族諸侯に同情の念を向けたら、なぜだか誰かに検討違いな同情をされたような気がした。

ともあれ、どことなく有耶無耶にされた気がしないでも無いが、輝夜は〝イイエガオ〟を浮かべて妥協してくれた。……その後は、時間も時間で、娯楽らしい──用意出来無くもないがゲーム等の娯楽も存在して無い時代なので、俺と輝夜はどちらかともなく床に就いた。……輝夜が浮かべていた〝イイエガオ〟の意味を深く考えもせずに…。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ナァ、カグヤ? コレハ、イッタイ、ドウイウ、コト、ナンダ? クワシク、セツメイ、シテクレルト、ウレシインダケドナァ…?」

「……とりあえず顔が恐いわ。落ち着きなさい。……ちなみに〝どういう事〟かと訊かれても、〝その書状に(したた)めて有る通り〟としか言い様が無いから」

とある書状を輝夜にずい、と差し出し、ふつふつと沸き上がって来ている感情を堪え──片言になりながらも、輝夜に真意を問い質す。……輝夜の浮かべていた〝意味が有りそうな笑み〟の理由を理解したのは、それから数日後の事だった。……輝夜は飄々(ひょうひょう)と、判りきって居るような様子で──まるで定型文(テンプレート)を読んでいる様な様子で(のたま)う。

俺が輝夜に差し出した書状──輝夜が出した難題にはこうあった。

「[石作皇子は“仏の御石の鉢”を、車持皇子は“蓬莱の玉の枝”を、右大臣阿倍御主人は“火鼠の(かわごろも)”を、大納言大伴御行は“龍の首の玉”を、中納言石上麻呂足は“燕の子安貝”を持って来たら結婚を考えなくはありません]…ここまでは良い」

「あらあら」

輝夜は驚いている様で、今までの溜飲がほんの少しだけ下がる。俺は更に輝夜へと詰め寄りながら責め立てる。

「それより、だ。その後の[【満足亭】が店主、升田 真人よりも早く持って来てください。然も無ければ、升田 真人と結婚します]…。……この1文を見る限り、俺も輝夜争奪戦に入ってるんだが?」

「だから、書いてある通りよ。真人にも参加してもらおうと思ってね。そうすれば全て丸く収まるしね」

「……俺に得はあるのか?」

「あら、あるじゃない。……それも極上のが。……〝私の全部〟をあげる…。貴方が勝てば私は貴方の夫となる──つまり〝私を好き〟に出来る。私は貴方と一緒に居られる。……〝貴方〟と〝私〟、どちらも得をする割の良い賭けだと思わない?」

(止めろ。……止めろやめろヤメロ止めろやめろヤメロ止めろやめろヤメロっ)

<(落ち着けっ!!)>

「(……ドライグ…? 助かった)」

ちらり、と着物の隙間から鎖骨を見せる輝夜の(なまめ)かしい声に、脳髄がとろけ──俺の警鐘が過去最高レベルで鳴り響く。〝輝夜を押し倒したい〟という、得も耐え難い欲求に堪えていると…ドライグの野太い──〝まるでダメな男〟の様な声音で、ぼんやりとしていた意識が回復する。……同時に、〝完成〟させていた退化論(ザッピングスタディ)…知能を操るスキルで性欲を無理矢理抑制する。

(危なかった…)

……あと少しで、輝夜の狙い通りになるところだった。あと少しで、強姦魔──輝夜の同意があるとは云え、最も忌むべき存在まで(おとし)められるところだった。……ドライグには感謝するのだった。

SIDE END 
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