普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
065 蓬莱山 輝夜
SIDE 升田 真人
「さて、どうするか」
かぐや姫(仮)を保護し、逆転していた昼夜を“ラナルータ”で戻した。現在地はかぐや姫──らしき少女を拾った竹林のすぐ近くの集落。……有り体に云わば、竹取りの翁が居る集落である。いまだ俺の中ですぅすぅと眠っているかぐや姫(仮)を育てるとするなら──〝原典〟通り、かぐや姫(仮)を表舞台に出すにしろ出さないにしろ、山奥でひっそりと2人寂しく…というわけにはいかないだろう。……となると、今後は生活の拠点──他人とのコミュニケーションが取れる様な場所が必要になってくる。
……余談だが、かぐや姫(仮)はおんぶ紐で背中に括ってあり、〝認識操作〟──言い換えるなら〝思考誘導〟の魔術を〝9センチの子供を背負っていても怪しくない〟という風に掛けてある。……その時──背中に括る時、仕方無しにいろいろ刺激を与えてしまったはずなのだが、かぐや姫(仮)は一度も起きていない。……意外と大物なのかもしれない。
閑話休題。
「……これ、作ってるのは…稲か?」
だだっ広い田んぼを見てみれば、どうにも、稲の様な作物を植えているらしい。……あまり知らないが、平安あたりの時代なら貨幣を通貨とするよりは、米や他の農作物で他の食べ物と交換していたはず。……少なくとも日生村はそうだった。
――「おや見ない顔だね。あんた、余所者かい?」
「はい?」
ぼけーっ、としながら田んぼを眺めていると横合いから気っ風の良い声が掛けられる。女声だった。声の方を見てみればやはり女性で、声のイメージ通りに気っ風の良さそうな──紐で襷にして袖が垂れない様にしている。……もう1つ、畑仕事か何かをしていたのであろう…頬に付いている泥ハネの様な汚れも〝肝っ玉母さん〟的な雰囲気を醸し出す一因となっていた。
「ええ、ちょっと日生村という場所から来ました」
「日生村? 聞いた事無いねぇ。私も年だからねぇ」
「仕方ないですよ。ここからは、結構遠い場所ですからね。……あ、〝オネーサン〟は俺の目から見ても、まだまだ十分にお若く見えますよ?」
「はははははっ! ……いやいや、40手前のおばさんを捕まえて〝オネーサン〟は無いさね。……それにしても、お兄さん? それともお父さんかは知らないけれど口が上手いねぇ。おばさん、お兄さんの事を気に入ったよ」
そんな風に社交辞令を織り交ぜながら肝っ玉母さん(仮)と幾つか取り留めも無い談笑を重ねていく。その歓談の中で背負っているかぐや姫(仮)は〝旅がてらぶらりと各地を転々としている途中、野盗に襲われて死にかけていた母親から託された〟と──さすがに〝竹から出て来た〟そう、そんな荒唐無稽な事は言えるわけ無いので、そんな風に嘘を吐いた。それを聞いた肝っ玉母さん(仮)はと云うと…。
「そんな若い身空で良い子だねぇ…。……なんなら、うちの娘の婿にならないかい? おばさん、お兄さんなら歓迎だよ」
「ははは…」
俺の簡単に考えた嘘を、肝っ玉母さん(仮)は簡単に信じてしまっていた。……胸の奥でズキズキとした刺激を──〝無かった事に〟出来ない…目には見えない痛みを堪えながら、なんとか愛想笑いでやり過ごした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「けほっ、けほっ」
誰も居なくなって久しいであろ、伽藍とした平屋。戸を開けて舞い上がった土煙が気管な入って咳き込む。……あれから有った事を簡略して言えば、あの後肝っ玉母さん(仮)にこの集落の長を紹介してもらい、その長の同情心を煽っ──説得して誰も住んでいない平屋を借りた。
(さてさて、どうするか…)
悠々自適な、俺だけの一人暮らしならまだしも、今はそうではない。かぐや姫(仮)を〝ちゃんと〟育てるとするなら、何でも良いから手に職が欲しいところ。……それこそ、【竹取物語】──〝原典〟における〝竹取の翁〟をやっても良い。……この世界に〝竹取の翁〟は居るかは判らないが。
(さてさて、どうしたものか…)
――「んん…」
「ぬっ…」
軽くこれからの展望について頭を悩ませていると、もぞもぞ、と背中に違和感。どうやら起、漸く起きたらしい。
……ぶっちゃけ、このかぐや姫(仮)を赤ん坊とは思っていない。……言い難いが、ある程度の年齢の女の子がそのまま──クスリの様なモノで小さくなった…そんな風に感じる。故に、見たまんまの〝赤ん坊〟ではなく、どこぞの高校生探偵──〝〝頭脳は大人、身体は子供〟。そんな感じの女の子〟と解釈している。
閑話休題。
「……あなたが私を拾ったの?」
「そうなるな。えっと…」
「私は輝夜。蓬莱山 輝夜。呼び方は任せるわ。……私を拾ってくれた貴方は?」
「蓬莱山 輝夜、ね。まるで〝輝夜〟の為に誂えた様な、良い名前だ。俺の名前は升田 真人。俺の方も好きに呼んでくれ」
「ふふっ、ありがとう」
かぐや姫(仮)──輝夜を背中に背負ったまま、自己紹介をし合う。
……そしてその自己紹介の途中で判った事がある。きっと、輝夜は〝男たらし〟──それも天性の男たらしだと云う事が判った。……俺もハルケギニアでルイズやバレッタさんと良縁を結べていなければ、輝夜に骨抜きにされていた可能性がある。
(さすがは〝かぐや姫〟と云う事か…。……それに…)
なにが〝さすが〟かと云うと、〝原典〟における〝かぐや姫〟少なくとも6人を魅了している。……そして〝かぐや姫〟に名前が付いていると云う事が気になった。〝蓬莱山 輝夜〟は〝なよ竹のかぐや姫〟と名付けられていない──そもそも自ら〝蓬莱山 輝夜〟と名乗った。……これで〝この世界〟が【竹取物語】な世界ではない事が確定した。
「どうしたの?」
これからの生計にしろ、この〝世界〟についてにしろ、考えるべき事が増えて頭を悩ませていると、そんな俺の苦悩を感じ取ったのか輝夜は頭をこてん、と傾かせながら純真そうな顔で俺を慮るのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
輝夜と自己紹介をし合った翌朝、俺は鍋を振っていた。いうまでもなく朝食作りである。今朝のレシピは〝焼き魚〟〝白米〟〝味噌汁〟〝漬物〟〝ほうれん草のおひたし〟〝玉子焼き〟と──然も〝和食〟といったレシピで、そこそこの出来映えだと自負している。
「美味しいけど…普通ね。不味くはないの。普通に美味しいのだけど、やっぱり普通だわ」
「……うるさいよ」
とまぁ、ミジンコ程度に在ったプライドを輝夜にぱっきりと折られながらも朝食を三角食べで摘まんでいく。
……これは言い訳だが、俺は料理やら音楽やら、多少なりとも芸術性が関連してくるものは得意ではない。……料理はその中でもマシな方だが、カレーライス等の簡単な料理しか作れない。音楽はカラオケをたしなむ程度で〝ギター? なにそれ美味しいの?〟…といった塩梅だ。……美術? 練りけしが楽しかったなぁ…。
閑話休題。
「さてと、お勤めといきますか」
「いってらっしゃい。……やっぱり何度見ても凄いわね。真人って一体何物なの?」
輝夜は“別魅”の分身をまじまじと見ながら感嘆している。……昨日〝家の留守〟について輝夜と話している時に“別魅”を見せたら大層驚いていた。どうにも輝夜が居たところ──輝夜は皆まで言ってないが、月には俺の様に練度の高い…〝実体のある分身〟をするのは居なかったらしい
「さてな、俺も知りたい質問だね。じゃ、今度こそいってくるよ。昼食は〝分身〟が作るからな」
「判ったわ。いってらっしゃい」
輝夜に見送られながら〝母屋〟を出て、〝店〟へと向かう。……結局は、簡単な軽食屋──所謂喫茶店を経営する事にした。材料費は、バックアップを取るスキル…“私のかわりはいくらでも(マイオルタナティヴ)”で無限にコピーが出来るので、事実上の材料費はゼロになっている。
SIDE END
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
SIDE 蓬莱山 輝夜
永琳に頼んで作ってもらった“蓬莱の薬”を飲んで、地上に封じ込められてしまった。……地上には興味が有ったから封じ込められるのは──寧ろそれが狙いだったから良い。それはそれとて、地上で面白い人間を見付けた。……升田 真人。それが私を拾った人間(?)。疑問符が付いているのは人間かどうかが怪しい──そう思わせるほど真人の〝穢れ〟が少ないから。
「どうかしたか?」
「いえ、別に」
些か観察し過ぎてしまっていた様で、視線に感づかれる。……そもそも〝分身〟なのに、なぜこう受け答えが出来るのだろうか。
「そう云えば真人はどうして私の居場所が判ったの?」
「……ああ、それね? そんなの簡単だ。成層圏で意味も無くぶらぶらしてたら月から〝光る粒〟が降ってきたから、それを追い掛けてみれば竹林に…そしてその竹林に有った〝光る竹〟を伐ってみれば、その中から輝夜が出て来たってわけだ」
「えっ」
一瞬、真人が何を言ったのか判らなかった。〝言葉〟が〝音〟という刺激でしか認識出来ない。……なので真人が言った事を、覚えている限りで反芻してみる。
(もしかして…)
「じゃあ、私がどこから来たのか知ってるの?」
「月からだろ?」
「……はぁ…」
〝何を言ってるんだ〟みたいな風にあっけらかんと言い放つ真人に、呆れる事しか出来無かった。……どうやら、私の出自は真人の中ではわりとどうでも良いことらしい。
……それでも、地上での生活は楽しくなりそうだった。
SIDE END
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