普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
064 竹取物語(翁は出ない)
SIDE OTHER
とある──所謂〝やんごとなき〟家柄の少女が、稀代の天才が作ったとある薬を飲んだ。……飲んでしまった。しかし、その〝薬〟はその場所では最大級の禁忌とされていた。……故に、その〝薬〟を飲んでしまった少女にはとてつもなく、重い重い罰が課せられた。
本来ならその時点で処刑が決定するのだが、少女はその〝能力〟故に死ぬ事が無かった。その場所の上層部はやがて、その──殺す事が出来ない少女の処遇に困った。……そんな、困りに困った上層部はその少女をその場所から流刑に処し、その場所の民が最も嫌う〝穢れ〟が蔓延る地球──地上へと放逐した。
……その少女の名前は蓬莱山 輝夜といった。……がしかし、1人の傍迷惑な──〝この世界〟としての〝正史〟を知らず、好奇心が旺盛な赤茶色の髪の男の所為で〝正史〟──所謂〝原作〟と違う道程を往く事になるとは、神ならぬその少女にも、神になれるその男にも判らない事だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その昔。竹取の翁──本名、讃岐造と云う、竹を伐採しては様々な道具を作る事で生計を立てている男が居た。そんなある日、翁が竹林に入ると、世にも珍しき〝光る竹〟があったので、翁がその竹を切ってみると中には三寸──9センチメートルほどのとても可愛らしい女の子が見付けた。
翁はその女の子を家に連れ帰り妻との相談の結果、夫婦で共にその女の子を育てることにした。……それ以来翁は金の入った竹をよく見つけるようになったりして、ちょっと金持ちとなった。娘は三ヶ月ほどで美しく育ったため、成人の義として≪なよ竹のかぐや姫≫という名前を付ける。
かぐや姫の美しさは世間でも噂となり、男たちは貴賤を問わずかぐや姫をモノにしようと必死になった。その中でも特に思いの強い五人の貴公子がいた。翁はかぐや姫に結婚するよう求めるが、かぐや姫はこの五人に結婚の条件として無理難題を与えた。……ある者は偽物を用意して見破られ、ある者は要求の物を探して難に遭い、誰一人としてかぐや姫が出した難題を叶える事はついぞ出来なかった。
かぐや姫の噂は帝にまで届いていたらしく、帝はかぐや姫の美しさの程を知ろうと女官を遣わしてかぐや姫に対面させようとしたが、かぐや姫はそれすらをも拒んだ。そこで帝は〝狩り〟と嘯きながら出かけては、かぐや姫の家に忍び込む。……しかし、かぐや姫は帝に見られるとふと姿を消してしまう。帝が連れて行くことは諦める旨を伝えると、かぐや姫は再び姿を現す。それ以来二人は文通をする仲となった。
帝と仲良くなってから三年ほど経過した春より、かぐや姫に変化が訪れていた。……かぐや姫は月を見ては涙を流す様になって、八月のある日に月を見てはひどく泣く。それをみて翁と妻が聞くに、かぐや姫は自分が月の人であり…〝次の満月に迎えが来て帰らなければならない〟と告げる。帝もこの事を知り、かぐや姫を帰すまいと兵士を遣わす。
いざ月からの迎えが訪れると、兵士は戦意を喪失し、月の使いが一言唱えると固く閉ざした扉はすべて開いた。かぐや姫は別れ際に帝に天の羽衣と不死の薬を送る。月の使いが用意した〝穢れ〟を祓う薬を飲み、地上の衣を脱ぎ月の衣を着ると、地上への未練も忘れてしまい月に帰って行った。
かぐや姫が月へと帰ってしまった後、翁と妻は生きる気力を床に伏せてしまう。帝はかぐや姫がいないのに不死となっても仕方なしとし、駿河にある天に近い山に兵を遣わし、手紙とともに不死の薬を燃やした。それよりその山は富士(不死)と言うようになった。そのときの煙は今でも雲の中に立ち上っていると言う。
SIDE END
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SIDE 升田 真人
子供の泣き声が聞こえない──そもそも聞こえるはずの無い夜半の竹林。肝試しという訳でも──キモい怪物に襲われてる訳では無いが、探し物をしながら──葉が風でそよぐ音ばかりで寂しくなったので、適当な歌を口ずさむ。
「探し物はナンですか? 煮付け難いものですか? 鍋の中も灰汁取り中も、探したけれど見つからないのに、まだまだ入れる気ですか? それよりターメリックも入れませんか? 口の中へ、口の中へ、入れて辛いと思いませんか? ハフッフ~♪ ……っと、ん?」
口ずさんでいた曲を違う歌詞でループさせていると、〝お目当てのモノ〟を見付けた。……有り体に云わば、それは〝竹〟である。竹林で〝竹〟を探しているのは、些か可笑しいだろう。……が、俺が見付けたのは〝普通の竹〟──イネ目イネ科タケ亜科のうち、木本(木)のように茎が木質化する種の総称としての〝竹〟ではなく、世にも珍しいであろう〝光る竹〟である。
「起きてくれ、デルフリンガー。久々の仕事だ」
<待ってました! ……っておいおい、久々の俺っちの出番かと思ったらただの伐採かよ、そりゃないぜ相棒~。……かーっ!! 割と使ってもらえるドライグの旦那が羨ましいねぇ。これで俺っちを突っ込んでる〝倉庫〟が汚かったら、今頃相棒に会った時の錆剣に逆戻りしている事だろうぜ>
〝倉庫〟から“デルフリンガー”を引き抜くと、開口一番デルフリンガーから小言を喰らう。……ハルケギニアでは最終的に、政務に追われていたし息子に後を継がせて隠居生活になっても、“デルフリンガー”を振るう機会は全くと言って良いほど無かった。……大体はこの前の羅鬼の様に〝雷〟の力で終わってしまうのもあった。
「すまないなデルフリンガー。次に妖怪に出会したらデルフリンガーを使うから、そんなにヘソを曲げてくれるな」
<頼むぜ相棒、剣は使わなければ、〝剣〟じゃなくてただの鈍だからよ>
「判ってるさ。……ふっ!」
俺にとっては心苦しい言葉を吐き、なんだか拗ねているデルフリンガーに次の約束を取り付けながら謝り、そしてデルフリンガーと歓談していた間にも煌々としている竹を、〝見聞色〟で入っているであろう人物の〝聲〟を聞きながら──その人物を傷付け無い様ににぶった伐る。
「……おぉ…。……たしかに可愛らしいな」
無意識に漏らしていた。
用済みとなったデルフリンガーに一言礼を言ってから〝倉庫〟にしまい、伐った竹の切り口を──いまだに漏れでている光を堪えながら見れば、〝予想通り〟にとても可愛らしい──それも約9センチメートル程の女の子が出て来た。……それで先ほどの呟きである。
(……だがしかし、どうしたものか…)
そう。猫を殺してしまいそうな勢いで沸いていた好奇心に従った──所謂〝物見遊山〟感覚で見たかっただけで、これから先の事は考えてなかった。
「放って置くのも、何か違うんだよなぁ…。……んん? ドライグ、俺なんかされてないか?」
<……少し待て>
その女の子を見ていると、今度は好奇心ではなく〝どことなく不自然〟で、然も取って付けた様な──まるで“コントラクト・サーヴァント”を行われたかの様な庇護欲が沸いてくる。……それで、まずはおかしいと思い、ドライグに訊いてみると俺の変化を調べる為の確認作業(?)に入った。
<……判ったぞ相棒、そいつからちょっとした好意が刷り込まれているぞ。相棒がルイズとやらと以前結んでいた“コントラクト・サーヴァント”──契約魔法に近いものを感じる>
「そうか…」
ドライグが俺の状態の確認の為に俺へと、俺とのリンクを〝潜って〟確認してから数秒。戻って来たドライグの指摘に短く答える。
……〝好意の刷り込み〟…。それについては、思う事が無いといったら嘘になるが、〝今更〟感──ドライグも前述した“コントラクト・サーヴァント”の事があるので、イヤな〝慣れ〟だが慣れている。……俺自身もハルケギニアに居た時、洗脳したりした事──“アンドバリの指輪”を使ったりしていたので〝因果応報〟と割り切れる。……それに、そもそもが〝絶対服従〟とかじゃないだけマシなのだ。
「……仕方ない、拾おう」
<正気か、相棒?>
ドライグは俺の、まるで犬猫を拾う様な発言に正気を疑ってくる。……そもそも、〝好意〟を刷り込まれている以上は〝拾う〟以外に選択肢も無いと云うのに。……否、ドライグも諫言を投げ掛けてくるだけでその辺りも承知しているのかもしれない。
「〝正気か?〟…だって? ははははは、ドライグも冗談が随分と上手くなったよな。……そんなドライグに逆に聞こう。ここ最近、俺が正気だった時なんて有ったか」
<はぁ…。……お人好しもほどほどにしておけよ?>
俺の質問返しにドライグは短く息を吐くと押し黙って、〝神器(セイクリッド・ギア)〟の深くへと潜っていった。……別に正気を失っているわけでも無いし、ドライグも〝それ〟──俺の冗談を判っていて、俺がこの女の子を〝拾う〟と宣言した事よりも、俺の冗談に付き合い切れなくなって〝神器(セイクリッド・ギア)〟の中に戻ったのだろう。
……ちなみに伐った竹は使い道が無いし、一本だけ伐採されているのも違和感があったので“大嘘憑き(オールフィクションで)”で、〝伐採〟自体をちゃんと(?)〝無かった事に〟しておいた。
閑話休題。
「どうせこいつが月に帰るまでの数年の付き合いだ」
後になって思う。この言葉が俗に云う〝フラグ〟となる事を──この出会いが〝かぐや姫〟らしき少女との千年超の付き合いの始まりになる事を、今はまだ──いくら〝神〟になれる身だとしても、知らない事だった。
SIDE END
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