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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  063 宇宙からの物体X


SIDE 升田 真人

「その刀の銘は“鉄砕牙”。見てくれはただの錆び刀だが、妖力を込めると変化する。……そうだな、〝妖刀〟とも言えるな。シホが持った時に、〝それ〟の使い方がシホの頭に流れ込むようにしてあるから、後は自分で確認してくれ」

村を出発する日の朝、場所はシホと出会った場所。シホへ鞘に納められている“鉄砕牙”を渡す。……これは有り体に云わば在庫整理で、昔“見囮刀(ソードルックス)”──刀を精製するスキルで、遊び半分で精製したは良いものの〝妖力〟の無い俺が持ってても、文字通りの〝宝の持ち腐れ〟なのでシホに渡す。

……ちなみに、シホに渡した“鉄砕牙”は“風の傷”“爆流破”“金剛槍破”の3つしか使えない様にしてある。……しかし、それらでも羅鬼の力を見る限り充分にオーバーキルな様なので、シホの錬度次第で随時解放されていく様になっている。……そしてもう1つ蛇足があり、〝妖力〟を〝魔法力〟に置き換えたバージョンの“鉄砕牙”もちゃんと精製して〝倉庫〟の中に横たわっている。……どちらにしろ宝の持ち腐れにも思えなくも無いが、そこは気にしたら試合終了(?)である。

閑話休題。

「凄い…」

「“鉄砕牙”みたいな大刀なんて、シホはまだ取り回し難いだろうから、当分戦う時はこれを飲むといい」

“鉄砕牙”のスペックに驚いているだろうシホに、飴玉サイズの──“鉄砕牙”同様遊び半分で作成してみた齢詐称薬を渡す。……ついでながら、保険として3つ程渡しておく。

「……なにこの巾着」

「年齢詐称薬だ。変化できる──一時的に15歳程度まで身長を伸ばせる薬だと思えばいい。安全性は俺が保証する。効果時間は大体2時間──1刻程度で、袋1つにつき大体100は入っているから、少なくとも数年は持つだろう。……シホ?」

シホに年齢詐称薬についてシホに説明していると、シホは嗚咽を上げ、ぽろぽろと綺麗な──紫水晶(アメジスト)のごとき瞳から涙を流しながら泣きだしたので、少々面を食らってしまう。

「……あのね、わたし、まことに、もらってばかりでね、わたしにはね、まことに、かえせるもの、なにもないの。……それでね、いったい、まことに、どうやって、おかえしを、すればいいか、わからないの」

「……ああ、そういう事か」

ある程度嗚咽が収まったシホは途切れ途切れに泣いていた理由を語り出した。……確かに〝等価交換〟はこの世の理で、シホからしたら〝貰い〟過ぎていて恐いのだろう。……確かに判らなくもない。よく判る。〝無料(タダ)〟より恐いものは無いだろうし、無理が通れば道理も引っ込むもの。

(……だが…)

「あのな…シホは知らないかもしれないが、既に俺はシホから充分に〝貰って〟いる。シホに会えて──シホと過ごせて幸せだったし、シホと過ごした…体感時間での──“修練の門”の中での1年は、大変充足していた。ぽっかりと胸の中に空いていた深い深い穴が埋まった様な気がした。……前向きになれたよ。……全部シホのお陰だよ」

「……じゃあ、この村から出て行かないで! どうしても行くならわたしも連れてって! わたしね、わたしね…真人がね──」

「〝口を開くな〟。はい、そこまで」

どこぞの髭の様にロリコンの(そし)りを──時代的にOKかもしれないとは云えそんな不名誉は受けたくないので、シホの科白(せりふ)を“言葉の重み”で無理矢理カットする。……後は口を開く事が出来なくて〝むーむー〟唸っているシホを舌先三寸で丸め込むだけ。

「むーっ! ん゛ーっ!」

「シホ…。君は絶対──いや、断言はしたくないから、そうだな──〝きっと〟がいいな。……シホ。君はきっと良い女になるだろう。だから今から俺みたいな男を追っちゃだめだ。確かに俺はそれなりに甲斐性はあるつもりだが、俺みたいな〝女たらし〟に時間を割くもんじゃない。半妖の人生(?)は人間の人生より長くなるんだろう? だったら、色んな男に会ってみて見定めてからでも遅くはない」

「ん゛ーっ! ん゛ーっ!」

昔マチルダさんに言われた不名誉な称号を自虐ネタにする。……それでも悲壮感たっぷりで涙を流しながら首を振るシホに、ずきりとした胸の痛み──

多大な罪悪感や、頸をもたげ始めるこの村への未練など覚えながらも続ける。

「……だがそれでも、俺を好きだと言うなら、強く美しくあれ。それで俺を惚れさせてみせろ。惚れさせて魅せろ。……そして、もし…もし俺を倒せた暁には、どんなシホの願いにも誠心誠意出来る限りで応える事をここに誓おう」

「っ!」

―出来る限り何でも、どんな願いにも応える―

……現金な事に──それか、驚かせしまっただけかもしれないが、それを聞いたシホは涙を止めた。唸るのを止めた。シホの目に光が宿っていくの見て取れる。……しかし話には〝起承転結〟──〝オチ〟と云うもの往々にして必要であり──


「まぁどこぞの宇宙人みたい──〝お約束(テンプレ)〟風に言うとするなら、〝俺はまだ4回の変身を残しているし、変身する度に俺は強くなる〟。……シホならこの意味が判るよな?」

〝さーっ〟と、シホの顔から血の気が引いていく。これまでのシホとの訓練──模擬戦は、〝覇龍(ジャガーノート・ドライブ)〟…〝禁手(バランス・ブレイカー)〟はおろか、“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”、“魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)”、“絶霧(ディメンション・ロスト)”などの〝神器(セイクリッド・ギア)〟は使っていなかった。シホのバトルスタイルを(かんが)みて、ほとんど素手の状態──たまに刀でシホと修行していた。……〝その意味〟を理解したのか、シホは正しく──幼げながらも端正なその顔を青褪めさせていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「……よくよく考えれば、“鉄砕牙”じゃなくて“祢々切丸(ねねきりまる)”を渡せば良かったか?」

シホに“鉄砕牙”を渡し、〝日本の──日生(ひなせ)村以外の村の近く10万フィート上空〟に“腑罪証明(アリバイブロック)”で、まるでシホから逃げる様に転移した後、独りごちる。

“祢々切丸”…。正式名称は山金造波文蛭巻大太刀(やまがねつくりはもんひるまきのおおだち)。【ぬらりひょんの孫】では“鵺切丸”が訛ったものとされ、本来の全長は340センチメートルと長大だが、【ぬらりひょんの孫】の作中では長ドスで描かれている。……何より、【ぬらりひょんの孫】での“祢々切丸”は〝人を斬れない〟ので護身用としては“鉄砕牙”よりは良かったはず。

「仕方ないか…」

〝後悔先に立たず〟とはよく云ったもので、今からシホに交換しに行くのもアレなのでこのままで善しとする。

……ちなみに、10万フィート=30480メートル──約30キロメートル…つまりは成層圏である。そんな高さ──凍てつく寒さの中、ドライグに〝翼〟を展開してもらって、〝耐寒〟〝防風〟の術を掛けてあるので寒さなんてなんのそのだったりする。

閑話休題。

「ん? あれは…? 何だと思う、ドライグ」

<〝光〟だな>

「やっぱり〝光〟だよなぁ」

ふと辺りを見渡す。現在地からは遠目でよくは判らないが、月がある方から小さな──今の俺の位置からでは砂粒くらいの大きさにしか見えない、キラキラ光る光の粒がふぁー、と地表に落ちて往くのが見える。……ドライグも見えている事から、俺の白昼夢や幻覚という訳でもないだろう。

(遠いな…)

とりあえずとばかりに仙術や〝見聞色〟で視力を上げて見る。……が、さすがにいくらなんでも距離が遠すぎたのか、大きさは変われども〝光の粒〟だという事しか──〝光の粒の中になにが在るか〟は判らない。……ともすれば、出来る事は幾つかに限られてくる。

「ちょっと猫でも殺しにいってみようか。……ドライグ、頼む」

<待て、それを言うなら〝好奇心は猫をも殺す〟ではなかったか? その言い回しはおかしいだろう。……はぁ、まぁいい>

意外にも博識──というより、ドライグも大分俗世に染まっているらしい。……そんな、ことわざを知っていたドライグに〝翼〟をコントロールしてもらい、(くだん)の光の粒をほいほいと…音の速度がごとしスピードで追い掛ける。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「やって来ました竹林へ」

倒置法で現在地を強調した様に、あの〝光の粒〟を追い掛けたらなんの変哲も〝無かった〟竹林に着いた。……しかし、あの光の粒を見失ってしまった。理由は主に2つある。1つは空気の明度の違いで、最初に発見したのが成層圏だったので少なくともこの地表──陽光降り注ぐ日中の地表よりは目視で追跡し易かったのが1つ。2つ目はロケーションの関係──現在地が〝竹林〟だからである。これはただ単に葉が邪魔で見つけ難い。

「……“ラナルータ”」

“ラナルータ”。【ドラゴンクエスト】シリーズのナンバリング3、4、5に登場した呪文で、あえて名付けるなら昼夜逆転呪文。日中──〝日光で見つけ難いのなら、夜にしてしまえば良い〟と云う単純な策を採った。

「……よし、ドライグ」

<応っ!>

『Divine Shift!』

夜になったのを確認し、顕現させていた〝双籠手〟を〝光翼〟──〝翼〟にシフトチェンジする。

……自分のコントロールでも飛べない事も無いが、飛行制御に並行思考(マルチタスク)が割かれるので、これまで通りドライグに〝翼〟のコントロールを任せる。

閑話休題。

「さて、どこだ?」

竹林の上空でキョロキョロと目を動かし〝ある物〟を探す。もしこの世界が〝あの物語〟な世界なら、〝あの少女〟が居るはずである。

SIDE END 
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