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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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【東方Project】編
  061 おいでませ日生(ひなせ)村 その2


SIDE 升田 真人

――「クカカカカ、こんな月無き夜に哀れな女子(おなご)また1人。可哀想にのぅ…親とはぐれてしもうたのかのぅ? ……だった儂がぬしの友人(はらから)の元へと送ってやらんとのぅ?」

振り返るとそこにはまるで絵に書いた様な〝鬼〟が居た。

〝鬼〟。……日本人が〝鬼〟を一般的に連想する姿は、頭に二本角や一本角のものに大別される角と巻き毛の頭髪を具え、口に牙を有し、指に鋭い爪が生え、虎の毛皮の褌を腰に纏い、表面に突起のある金棒を持った大男である。また、肌の色によって〝赤鬼〟〝青鬼〟〝緑鬼〟などと呼称される。このように、鬼が牛の角と体、虎の牙と爪を持ち、虎の毛皮を身に付けているには、丑の方と寅の方の間の方角──(うしとら)を鬼門と呼ぶことによるもので、平安時代に確立したものである

また、現在──平成の鬼の姿は仏教の羅刹が混入したものである。……歌舞伎の【大江山酒呑童子】や映画の【大江山酒天童子】で有名な、酒呑童子は赤毛で角があり、髭も髪も眉毛もつながっており、手足は熊の手のようである。……また、鬼は元々はこのような定まった姿は持っておらず、語源は諸説有るが〝(おぬ)〟が訛ったもので、その(あざな)の通り姿の見えないこともあった。……〝神出鬼没〟と云う四字熟語にも〝鬼〟の字が入っている事からそれは察せるだろう。

〝悪い物〟〝恐ろしい物〟の代名詞として利用されることの多い鬼ではあるが、とある村では、鬼が村を守ったとして〝強い物〟とし崇めている場所も有る。

……以上のように、日本の鬼は〝悪〟から〝神〟までの非常に多様な現れ方をしており、特定のイメージでかたることは困難である。……余談だが稀に、見目麗しい異性の姿で現れて若い男や女を誘うこともあったそうだ。

閑話休題。

そんなウィ□ぼったいムダな知識なんてどうでも良くて、気になっていた──否、現在進行形で気になっていることがある。それは…

「……どうでも良いけどさ、口臭いよオッサン」

「っ!? なっ──」

思わず伝えてしまう。……それくらいには目の前の鬼Aの口臭は酷い。しかもどんな臭いかと訊かれても名状がし難い。……で、この鬼Aが驚いている理由は恐らくだが、俺が目の前で変身系のスキルの悉くを解除して、女から男になったからだろう。数秒経ったが未だにフリーズしたままだ。

……然もありなん。目の前の鬼Aからしたら、A5級のサーロインステーキ(美少女)が革靴(男)にいきなり変化したのだから、その反応(リアクション)も判らなくはない。

「な、な、な──」

「あ、拙い。“サイレント”」

鬼Aの何やらリアクション…口を金魚の様にぱくぱくさせる反応に既視感を覚えていて、この後鬼Aするであろう言動もなんとなく推察出来るので、直ぐ様“サイレント”を掛ける。そして俺自身も耳を塞ぐ。

「なんじゃとぉぉぉぉぉぉ!?」

「煩い、時間を考えろ」

「いや、ぬしどっからどう見ても女子(おなご)だったはずじゃ。それがいきなり男子(おのこ)に変ずれば驚くのも仕方なかろう? 故に儂は悪くない」

「いや、女の子を襲う方がより悪くないか?」

「……それは人間での話じゃろう? それにな、ぬしが先ほど化けておった年頃の女子(おなご)の血肉は大層美味でな? あの女子(おなご)特有の甲高い悲鳴を聞きながら、脚から──ねぶる様に喰らうのがまた乙でのぅ」

(……あ?)

鬼Aは恍惚とした様な語り口で、俺の──割りと寛容なはずの堪忍袋の緒を次々と上手にほどいていく。……鬼Aの言い分は、〝より美味しいものを食べたい〟確かにこいつの言い分は判らなくはない。……だがしかし、〝赦せるか?〟と訊かれれば──

「……思い出したらまた昂ってきたわい、この餓えを満たすには…もうこの際男子(おのこ)でも構わん! この羅鬼(らき)、ぬしを喰わせて貰──」

〝それ〟に可否で答えるならば──否。断じて否である。

気が付けば、魔法の光を消していた。そしてそのまま鬼A…羅鬼とやらの、がら空きの水月──彼我の背格好の関係から〝ちょうど良い所〟にあった鳩尾(みぞおち)に、〝武装色〟で強化した崩拳を叩き込んでいた。

「黙れ、喋るな、口を開くな」

「ぐぅぅぅぅぅ!? がはっ…!」

羅鬼は俺が打ち込んだ崩拳の衝撃に、数歩後退り肺に溜まっていたであろう空気を吐き出す。……羅鬼は、俺がいきなり灯りを消して驚いたのか──見失ったのかは判断は付かないが、ちょうど筋肉が弛緩していた瞬間に俺の──数十年間も研鑽を積んでいた崩拳は綺麗に、まるで羅鬼の鳩尾(みぞおち)に吸い込まれる様に決まった。……いくら〝鬼〟を名乗ろうと、急所に攻撃を食らえばある程度のダメージになる様だ。

(……人間と急所の位置は一緒らしいな…)

「貴様ぁぁっ! 殺すっ!」

どこか冷めた思考で〝鬼の急所と人間の急所の類似性〟について考察をしていると、羅鬼は烈々しい程までにその怒りを昂らせながら常套句(テンプレ)なセリフを吐き、手に持っていた金棒を両手で振り上げ俺に向かって降り下ろす。先ほど羅鬼は俺の崩拳で数歩下がっただけ──1メートル程しか距離が開いてないので、このままではトマトの様に簡単に潰れてしまうだろう。……勿論、〝このままでは〟…だが。

――ガギィ!

まるで〝金属と金属が擦れる〟様な音が闇夜に響き渡る。むざむざトマトになってやる必要もないので、左手に〝赤〟の籠手を…右手に〝白〟の籠手を──とどのつまり、“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”を顕現させ、それて降り下ろされた金棒を両手に顕現していた物々しい籠手で防ぎ、金棒を弾く。

「くっ…! はっ…!」

(当分──数分、使えないな…っ!)

しかし、金棒を弾いた弾みで今度は俺がよろめき後退ってしまう。だが、それより深刻な事があった。思いの外、強力な攻撃だったので両手が痺れて使いものにならなくなる。

……普通なら両手は粉砕骨折──それどころか金棒の重さ+降り下ろされた運動エネルギーで、今頃地面に〝赤い華〟を咲かせているだろう。そう考えると、まだ〝儲けもん〟と、前向き(ポジティブ)に考られる。……それが不幸中の幸いだった。

「何だ〝それ〟は?」

「何だと思う?」

「しゃらくさいわっ!」

羅鬼は俺のなけなしの強がりを挑発と取ったのか、更に激昂する。今度は右薙ぎに金棒を振るってくる。……ただ、当たり前の如く──先ほどは金棒の〝重さ〟がプラスに働いていたが今度はその〝重さ〟が仇となった様で、先ほどの〝降り下ろし〟よりはスピードが出ていない。

金棒の軌跡を見切り、地に伏せて金棒を回避する。そして、金棒を無事回避出来たのを確認すると──

(「ドライグ 〝半減〟!」)

(<了解!>)

『Divide!』

右の籠手から響く機械染みた音声。……〝倍加(ドライグ)〟と、本来なら相反しているはずの〝半減(アルビオン)〟の能力。……ドライグはこの何十年で十分に──〝本家(アルビオン)〟には及ばないまでも、ある程度は使える様になっていた。

「力が…っ、急に…」

「放したな? ……“アルケミー”」

羅鬼の〝膂力〟を〝半減〟させたので、重さに堪えられなくなったのか、金棒を手放した。すかさず〝錬金〟の魔法で羅鬼の落とした金棒を、軽い金属──マグネシウム合金に変えてやる。……これで火に掛けてやるだけで処理も簡単だ。

……アルミニウム──否、いっその事ただの土塊(つちくれ)に変えても良かったのだが、マグネシウム合金に変えたのには深い意味は無い。

閑話休題。

「こっ…のぉぉぉっ!」

「……学習しろよ」

『Divide』

羅鬼は自慢であろう、丸太の様に太い両腕で俺を掴み上げる。……が、また〝半減〟され俺を拘束から解放する。ついでにドライグに〝倍加〟を始めてもらう。

『Boost!』

(「……ドライグ、この調子なら〝倍加〟は後もう一回で良さそうだ」)

(<了解した>)

『Boost!』

『Explosion!』

〝半減〟し、俺に上乗せしていた〝膂力〟を更に〝倍加〟し〝解放〟する。……羅鬼の〝膂力〟を2回〝半減〟──単純に考えて1/4にしている。そして、それを4倍しているので、羅鬼からしたら悪夢のそれだろう。

(……〝半減倍加〟や〝倍加半減〟が出来るならもう少し楽なんだけどな)

……俺の〝神器(セイクリッド・ギア)〟──“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”には、一気に2回分〝半減〟する〝半減倍加〟や、〝半減〟して上乗せしたエネルギーを〝倍加〟出来る〝倍加半減〟と云う能力──新技が有るが、それらの能力はどんなにドライグに調整を頼んでも〝鎧〟や〝外套〟を纏っている時にしか使えない事が判明している。

閑話休題。

「……結構楽しめた…。で、何か言い残す事は?」

「……殺せ。だがしかし、俺を殺しても、また第2、第3の鬼がこの村を襲うだろう」

「ご忠告痛み入る。肝に命じておこう。……“ゲイボルグ”」

ゲイボルグ。ケルト神話に登場する魔槍で、意味は〝雷の投擲〟。……俺の“ゲイボルグ”は、その(あざな)に倣っていて、〝雷〟で〝投擲槍(ジャベリン)〟を造り上げ、それを相手に投げ付ける技である。……俺の──〝倍加〟された膂力で投げた雷槍は、負けを認めた羅鬼の身を貫いた。

羅鬼の生命の終焉を見たその後は、アリバイ作りのために──“腑罪証明(アリバイブロック)”で宿に戻った。

SIDE END 
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