普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【東方Project】編
060 おいでませ日生(ひなせ)村 その1
SIDE 升田 真人
「日生村へようこそ旅の人。私がこの日生村が村長の任を請け負っている、大治と申す者だ。何も無い村ではあるが、どうかごゆるりとされたし」
「……いえ、こちらこそ突然の訪問でご迷惑をお掛けします。そんな不躾な訪問に、真っ当な対応していただいて誠に嬉しく思います。私の名前は升田 真人と申します。……大治殿のご厚意に甘えて長旅で些か疲労しています故、この村を羽休めならぬ足休めとさせていただきましょう。……ああ、これは少ないですが〝もしも〟の時の足ししていただければ幸いです」
――ゴトリ
シホの村──日生村に入って、シホの案内でシホの〝お爺様〟に顔を見せ、〝滞在費〟と云う名目で──長さが30センチくらいの大きさの金の延べ棒を10本ほど渡す。……それだけあれば、この日生村ほどの規模の村なら、1年から1年半くらいは賄えるはずだろう。……勿論それは、〝無駄遣いをしなかったら〟…とな注釈はつくが。
「っ!?」
「すごぉい! ねぇ真人、一体こんな沢山の金延べ棒どこから出したの!?」
驚く村長とシホ。ただし、驚き驚きでもベクトルが違う様に感じる。シホの方が純粋な驚きだとすれば、村長の方が〝猜疑〟や〝不審〟の念が籠められた驚きだった。……シホは11か12。シホのリアクションも変では無い。また、村長の身構える様な驚き方も可笑しくはない。
「……これは…?」
「〝滞在費〟と云う形で、どうかお納め下さい。……他所者の不躾な発言ですが…村へ入って大治殿へのお宅への道中、あまりこの村は栄えていない様に思えまして〝色々と大変なのだろう〟と愚考しました。要らぬ節介──余計な世話だとは理解しています。……それでも勝手ながら、少々〝滞在費〟に色を着けさせていただきました」
村長の疑問も村長の当たり前の疑問に答える。……他所者がいきなり、〝YOU、この金の延べ棒上げるYO! 困った時に使っちゃいなYO!(意訳)〟とか言われてその真偽を問うのは、村を引っ張って行かなければならない指導者としては、至極当たり前の事だろう。
……まぁ、勿論それだけでは無くて〝多少の打算〟も無きにしも非ずなのだが…。
「……真人殿がそこまで言うのなら…。……あい判った。〝有事の際〟には有り難く使わせてもらおう。……この村は確かに芳しくない状況だ」
「……その理由を伺っても?」
「おおよそ2つある。1つは〝妖怪〟。朔の日の夜、彼奴は村の若い──年頃の女子を拐っていく。……いつシホが拐われるかと想うと…」
「……お爺様…」
(〝朔の日〟。……新月の夜ね…)
シホは胸を抑え、込み上げてくる感情を堪えながら心配そうに語る村長を見て、涙目で呟く。村長はそんなシホを宥めながら更に続ける。
「……それが1つで、もう1つの理由は〝徴兵〟だ。……その徴兵の理由も、さっきの1つ目と無関係に非ず、ここ最近どうやら都の方で多数の妖怪が暴れているらしくてな、それで村の若い衆は徴兵されている。……村に残ったのは自分の様な年寄りと、〝妖怪〟に拐われる様な年頃ではないシホの様な子供達だけ…。……以上がこの村に活気が無い理由だ」
「……そうですか…。……ああ、話は変わりますが…この村には宿は有りますか?」
「ああ、有る。後でシホに案内させよう」
知りたかった事──〝この世界〟の情勢も知れたので、そこらで話を切り上げ──金の延べ棒の〝出所〟についてはうやむやにし、シホに宿へと案内してもらった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まさか平安時代(?)にタイムトラベルしていたとはなぁ…」
シホに案内してもらった日生村の唯一の宿、【うたたね亭】の一室で現状を噛み締める様に独りごちる。……ちなみに代金は、〝倉庫〟の中にいつの間にやら矢増ししていた金を──〝貨幣偽造〟を承知で村長宅で見せてもらった小判の形に加工し、その金判(金で出来た小判)で大体半月分の宿代を先払いにした。
「……さて、情報を整理しようか」
まず1つ。ハルケギニアのヒラガ公国の、俺が〝退避用〟の名目で隠し持っていた別荘の自室──勿論の事ながら(?)室内で寝ていたら、いつの間にやら日生村の東側にある林で寝ていた。とりあえずは一種の〝転移〟と暫定。……ドライグも何が起こったか判明出来てない模様。
次に、先ほど軽く触れたがここはハルケギニアでは無く、地球の日本。それは確定。先ほどシホと別れてから、ドライグに〝翼〟を展開してもらい、上空から確認したところ、現代──平成的な地理に当て嵌めて大体の現在地が、秋田県(?)の周辺だと判明した。
最後に、この〝世界〟には〝妖怪〟などの〝異常〟が存在している。……この〝世界〟で一番最初に会ったシホと云う少女も〝混じり子〟──某犬の夜叉や、某奴良組のクオーターな若頭の父親みたいな〝半妖〟らしい。……妖怪は人間を拐い、拐った人間は専ら〝喰う〟らしく、〝妖怪〟は〝人間〟の天敵らしい。……そう考えると、〝混じり子〟──シホの様な存在は珍しいのだろう。
「……情報、少ないな…」
……と、これ以上思考を巡らすのは文字通りの〝余計な詮索〟なので打ち切る。……“答えを出す者”も、自分が知りたい事もハッキリとしていないのでボツとする。
「……さてドライグ、少々〝余計なお節介〟といこうか」
<……やれやれ、相棒も物好きだな…。だが判った。相手次第では、久々に俺も暴れられそうだしな>
【うたたね亭】の一室で、ドライグと作戦会議を開く。ハルケギニアでのほとんどの敵──盗賊やオーク等の魔獣類は、〝雷の力〟だけでも余裕綽々で殲滅出来たので、〝神器(セイクリッド・ギア)〟…“赤龍皇帝の双籠手(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア)”を使うと多大なオーバーキルになる。故にドライグは──否、俺自身もフラストレーションが溜まり。終いには欲求不満に陥っていた。
……ただ、今現在でこそ落ち着けているが、〝影〟での修行が在ったのが不幸中の幸いか。それが無かったら──〝色々なフラストレーションをぶつけられる相手〟が居なかったら、とっくの昔に〝壊れて〟いただろう。……自刃していた可能性が塵──10のマイナス9乗、1ナノほど有った。
閑話休題。
そこに〝妖怪〟と云う──ちょうど良さそうな…鬱積していたフラストレーションの捌け口を聞いた。……そう、ぶっちゃけると先ほど言った〝余計なお節介〟というのも建前で、肥大していた戦闘欲を満たしたいだけなのだ。
<〝戦い〟に魅せられたか。クククククク、相棒もとっくに立派なドラゴンだな>
「……まぁ、そうかもしれないな。……だが〝道〟は違えて無いはずだぞ?」
ドライグと四方山話に花を咲かせながら、仲居さんが敷いてくれていた豪華──この時代から見れば十分〝豪華〟な範疇に入る布団に潜る。……そして、朔の日までの5日を、数十年ぶりの双月では無い、普通の月に謎の感動を覚えながら【うたたね亭】で安穏な日々を無意味に過ごした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
5日後の夜。時間換算で120時間。分換算で7200分。秒換算にするならば432000秒。……数字に直すと、何だか虚しい気もしないでもないが、とにかく5日は特に〝これ〟と云った大事も無しに──多少の〝小事〟は在れど、概ね恙無く経過した。
朔の日──現代(平成)風にいえば新月で、当然街灯も存在しないこの時代(平安)では比喩無しに真っ暗である。……これなら先人が〝闇〟を恐れたのも判るし、余程の急用でも外を出歩かなかっただろう。
「“ライト”…。……やっぱり魔法って便利だよな」
そんな〝妖怪〟が跳梁跋扈していそうな──文字通りの〝闇夜〟に、指先に光を揺らしながら──さながら〝俺はここだ〟と云わんばかりに蠢く〝影(愚者)〟1つ。……云うまでもなく俺だ。
……とは云っても、〝釣り〟がしやすい様に〝ちょっとした変装〟をしていたりする。
「……清々しい気分だ。なんか開けてはいけない扉を開きそうだ…」
<相棒ぉぉぉーっ!! 相棒が壊れた! ……いや、まだだっ! まだ傷は浅い!! だからそっちに逝くんじゃない、相棒ーーっ!>
何やら喚いているドライグをスルーする。今の俺の格好を有り体に言えば、女装である。……ともあれ一口に〝女装〟と言っても、〝性転換〟等の変身系スキルをぶちこみまくった。なので今の俺の身体は生物学的に見れば、最早〝女〟と言い切っても全然差し支えが無い。
「……さて〝ドライグ弄り(ジョーダン)〟はそこまでにして──」
<……相棒が今の〝ジョーダン〟をどんな意味で言ったか幾つか問答したいところではあるが、まぁいい…。……どうやら相棒の目論見通りに〝釣れた〟様だぞ>
――「クカカカカ、こんな月無き夜に哀れな女子また1人。可哀想にのぅ…親とはぐれてしもうたのかのぅ? ……だった儂がぬしの友人の元へと送ってやらんとのぅ?」
まるで下卑を極めた様な声が聞こえた。指先に灯っている光で相手の顏を確認しようと身体ごと後ろを向く。灯りに照らされたそこには、2.5メートルほどの茶黒い巨大な体躯。ギョロりと動きながら眼下の俺を見下ろしている血走った双眸。〝俺〟を見て皮算用をしているのか、たださえ醜悪なそれを更に歪ませた口。1.5メートルほどの大きさを誇っている巨大な金棒。これ見よがしに側頭部から天に向かっている角。
……絵に描いた様な鬼が──〝妖怪〟がそこには居た。
SIDE END
後書き
明日もう1話投稿します。
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