IS 〈インフィニット・ストラトス〉 ~運命の先へ~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第21話 「3人目のイレギュラー」
前書き
お待たせしました。IS屈指の人気キャラ登場です。
ちなみにアニメ版で書くことにしたので、あの子の登場はもうちょっと先で・・・。ファンの方々、ごめんなさい。なにぶん、こっちの方が書きやすいもんで。
今日は何やら教室が騒がしい。具体的に言えば、教室に入ってからやたらと視線を感じるのだ。クラスのあちこちで大勢の女子が俺と一夏をチラ見しては噂話に花を咲かせている。俺は陰口が嫌いだ。だから理由を知ってそうな人物を問い質してみるとしよう。
「で、お前はこの状況について何か知ってるか?いや、知ってるよな。なあ、本音?」
「うぇ!?い、嫌だなぁ、かっきー。私は何も~知らない、よ?」
・・・嘘吐け。何も知らない人間が顔色変えて視線逸らして落ち着かない口調で喋るわけねえだろ。ってか「かっきー」って俺のことか?その束さんが喜びそうな呼び方どうにかならんのか。
「よーし、尋問開始だ。根掘り葉掘り聞き出してやる。さあ吐け。」
「あぅ・・・。えっと、えっとぉ~・・・。」
俺の容赦ない尋問に涙目になる本音。隣にいた女子生徒2人はそそくさと退散していった。薄情な奴らだ。
「さっさと席に着け。HRを始める。」
しかし、ここでタイミング良く鬼教師のご登場だ。直ちに着席しなければ無数の脳細胞の冥福を祈りながらHRを迎えねばならない。尋問は中断、実に遺憾だ。
「今日は皆さんに転校生を紹介しますよ~。どうぞ~。」
山田先生が力の抜けそうなユルーい声で言う。相変わらずいつ見てもほんわかしてる人だなぁ。ってか転校生って言ったか?この学園、転校生多すぎだろうよ。また名前を覚える必要が増えてしまった。面倒な・・・。
「失礼します。」
廊下から転校生が教室に入ってくる。さて、例によって例のごとく観察を始めようか。中性的な顔立ちに後ろに束ねた金髪、穏和な雰囲気に気品を漂わせる佇まい、そして俺や一夏と同じ制服。・・・ちょっと待て。そんな馬鹿な。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。皆さん、よろしくお願いします。」
シャルル・・・、フランスでは男性の名前に使うものだ。いや、まさか・・・、でもそんな情報は聞いてないし、束さんやクロエからも報告されていないぞ。俺や束さんの情報網を掻い潜れるはずが・・・。
「お、男・・・?」
俺の気持ちを代弁するかのような呟きがクラスの何処からか聞こえた。それに対して、目の前の転校生はニコリと微笑む。人懐っこい人柄を示すかのような笑顔。その振る舞いも相まって、貴公子という言葉が実に似つかわしい。
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて、本国より転入を・・・」
「きゃ・・・」
しまった。頭の整理に集中しすぎて反応が遅れた。急いで耳を・・・。
「きゃああああああ!」
「男子!3人目の男子!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれてよかったー!」
うるっさいなぁ、お前ら。HR中だぞ?他のクラスにシャルルの存在知られたらまともに移動も出来なくなるだろうが。自重をしろ、自重を。ああもう、当のシャルルも面食らってるじゃんか。初対面でこんな反応されたらそりゃ困惑するわ。
「あー・・・、これでHRは終了だ。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。解散!」
ああ、そっか。今日は二組と合同でISの模擬戦闘実習だったっけ。箒とセシリアだけでも喧しいのに鈴まで加わって騒ぎ立てるのか・・・。朝っぱらから憂鬱だ。とりあえず更衣室に移動しないと。
「おい織斑、神裂。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろう。」
事態を把握できないようで、先程からキョロキョロと周囲を見回しているデュノア。おいおい、遠慮ってもんが足りなすぎないか?異性の着替えを躊躇なく視界に入れるとか、変な勘違いされるぞ。しかも表情一つ変えないとか見慣れてるのか?・・・あ、こっち来た。
「織斑君と神裂君だったかな?初めまして。僕は・・・」
「ストップ。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから。」
デュノアの挨拶を遮って一夏が立ち上がる。そしてデュノアの手を取ってそそくさと教室を出る。確かに時間に余裕もないし何より場所が悪い。ここの女子は俺や一夏に下着を見せることを恥とも思わない肉食系だらけだ。囲まれて授業に遅れて脳細胞ご臨終、この流れだけは避けたい。
「とりあえず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替え。実習の度にこの移動だから、早めに慣れてくれ。」
「う、うん・・・。」
歯切れの悪い返事に違和感を覚える。シャルルの様子を窺うと、繋いだ手をぼんやりと見つめながら顔を赤らめている。同性と手を繋いでいるだけなのに、何を照れているのだろう。よく分からん奴だ。
「どうした?トイレか?」
「ち、違うよ!」
あの表情を見てトイレと申すか、この唐変木は。きっと俺と違うものが見えているんだろうな。羨ましいなんて欠片も思わないけど。
「いたっ!転校生発見!」
「しかも織斑君も神裂君もいる!」
HRという枷が外れたため、他のクラスの連中が噂の転校生に引き寄せられてきた。ここで余計な足止めを食らっては授業に遅れる。デュノアは転校初日だから大丈夫だろうが、その分俺たちにとばっちりが来ることは間違いない。全力で突破せねば。
「者ども、出会え出会え!」
「黒髪も良いけど、金髪っていうのも良いわよね!」
「しかも瞳はアメジスト!」
「見て見て!手!手繋いでる!」
瞬く間に数が増えていく。こりゃ捕まったらアウトだな。何としても逃げ切らないと。ってか、これだけ派手に生徒たちが追いかけっこしてるんだから、教師が注意くらいしたらどうなんだ?まあ、この騒ぎを完璧に鎮圧できる教師なんてそれこそ千冬さんくらいだろうけど。職務を全うする努力くらい見せろよ。
「な、何?何で皆騒いでるの?」
「そりゃ俺たちが男子だからだろ。」
一夏の返答にキョトンとするデュノア。いや、そんな意味分からないって顔されてもなぁ。俺からすれば、質問自体がナンセンスだぞ?考えずとも理解できる事態だろうに。
「珍しい男性操縦者である上に学園には俺たち以外男子がいないんだ。見世物にされて追いかけ回されるには十分すぎる理由だろう。」
「あっ!・・・ああ、うん、そうだね!」
如何にも今気づきましたっていう反応だな。なんというか、コイツ・・・。いや、今心掛けるべきはとにかく背後に群がる女子たちから上手く逃避することだ。考えるな、感じろ。そして全力で走れー!
「しかし、まあ助かったよ。」
「何が?」
朝っぱらから大勢の女子から逃げる羽目になった俺たち男子は、疲労した身体を更衣室で休めていた。授業前、それも千冬さんの実習前にこんなに疲れることになるとはな。とんだ災難だぜ、まったく・・・。
「零以外に男子がいなかったからさ。何かと気を遣うし、同性のクラスメートが増えるってのは心強いもんだ。」
「そうなの?」
・・・何でこの転校生はこちらの言い分に対して毎回首を傾げるのだろうか。肩身の狭さくらい共有できそうなものだが。フランスはそこら辺の対策が日本より進んでいるとか?うーん・・・。
「ま、何にせよこれからよろしくな。俺は織斑 一夏、一夏って呼んでくれ。」
「うん。よろしく、一夏。僕のことはシャルルで良いよ。君は神裂くんだっけ?」
「神裂 零だ。零で良い。俺もシャルルと呼ばせてもらうが構わないか?」
「もちろん。よろしくね、零。」
さて、和やかな自己紹介を終えた俺たちはさっさと着替えを開始する。先程時計を確認したが時間がヤバい。遅れたら以下略。・・・もう言わなくても分かるだろ?
「わあっ!?」
ん?今の素頓狂な声はシャルルか?様子を窺うと両手で真っ赤に染まった顔を隠している。何だ?変な反応だな。
「どうした、シャルル?何を顔を赤らめているんだ?早く着替えないと遅刻するぞ。」
「う、うん。着替える。着替えるよ。だからその、あっち向いてて?・・・ね?」
どうやら着替えを見られるのが恥ずかしいらしい。それ以前に、俺たちの着替えを見ること自体恥ずかしいようだ。同性の着替えをそこまで意識するとか不思議な奴だな。さっき教室で女子をキョロキョロ見回してた時とは大違いだ。
「いやまあ、別に着替えをジロジロ見る気はないけどさ。」
そう言うと、一夏は視線を目の前のロッカーに戻す。まあ、俺だって同性の着替えに興味津々な変態ではない。とはいえ、そこまで意識される理由がよく分からんのだ。・・・とりあえずシャルルの言う通りにしよう。するから、そんな泣きそうな顔で見るんじゃない。
「でも、急がないと本当に遅刻・・・、って着替えるの超早いな。なんかコツでもあるのか?」
「い、いや?別に・・・、あ、あはは。」
一夏の感心したような声を聞いてシャルルに視線を移すと、確かに既に着替え終えたシャルルがそこにいた。・・・いや、速すぎるだろ。どう考えても最初から着込んでいたとしか思えない。元々男子の着用を想定していないISスーツは急拵えの代物だ。俺のは束さん特製だから問題ないが、一夏には着づらいだろう。
「ほれほれ、余計なこと気にしてないでさっさと着替えろ。このままだと出席簿倍増しコースだぞ~。」
「そういうお前だって・・・、って着替え終わってる!?」
「最初から着てたからな。朝から実習って知ってたし。」
これは半分本当で半分嘘。俺には一夏と箒の護衛という重要な任務があるので、常日頃ISスーツを着用するようにしている。いつISを使うことになるか分からないし、ISスーツ自体結構強度が高い。制服を脱ぐだけなのだから速いのが当然だ。
「ところでシャルル。そのISスーツは見たことがないがオーダーメイドか?」
「うん、デュノア社製のオリジナルだよ。ベースはファランクスだけど、ほとんどフルオーダー品。」
やはりか。道理で見覚えがないはずだ。それにさっきの返答。もしやと思っていたが確証に変わった。やはりあのデュノア家の人間か。うーむ、妙だな・・・。
「あれ?デュノアってどっかで聞いたような・・・?」
「・・・一夏、お前今日の補習の量2倍な。」
「何でだよ!?」
当たり前だろ。俺、ちゃんとデュノア社について教えたぞ?それを覚えてないのを俺の目の前で堂々と白状したんだ、俺への挑戦としか思えんだろうが。
「とりあえず俺はもう行くぞ。着替え終わったし、千冬さんにアシスタント頼まれてるんだ。じゃあな。」
そう言うと、一夏の制止を無視して更衣室を出る。グラウンドへの道のりには人の気配もなく静かだ。考え事をするには都合の良い環境である。
(シャルル・デュノアか・・・。どう見るべきか・・・。)
疑う材料には事欠かない。男女両方に見える中性的な顔立ち、幾つかの男子らしくない言動や行動に対する違和感。しかし、どれも根拠として薄すぎる。それに性別を疑う以前にもっと根本的な疑問が頭に浮かんでいた。
(そもそも、デュノア家に子供がいること自体初耳なんだよな・・・。あれ本物か・・・?)
あれほどの大企業の跡取りとなればニュースで報道されてもおかしくない。そうでなくても、束さんは暇潰しにあらゆる情報を片っ端から奪い取ってくる。俺やクロエも任務のために世界中のあらゆる情報に目を通すようにしている。一夏以外の男性操縦者なんて興味深いネタ、見逃すはずがない。
(何にせよ、調べる必要があるか・・・。)
俺は心の中で溜め息を吐く。また我が愛しの義妹に苦労をかけてしまうなぁ。次に帰省する時は紅茶に合うケーキでも買っていくかな。セシリアに後で教えてもらおう・・・。
後書き
ちなみに、本来ならこの前に五反田兄妹との馴れ初め回を投稿する予定でしたが、友人に弄られてデータが消えるというトラブルが発生したため無しになりました。ごめんなさい・・・。
ページ上へ戻る