未亡人のミサ
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2部分:第二章
第二章
「まだ夜なのに。どうして」
「ワン、ワン」
またここでトトが鳴く。それで窓を見てみると明かりは窓の方からだった。
「窓から?」
マシューはそれを見て奇妙に思った。まだ夜だ。それでどうして窓が明るいのか。その窓は隣の教会の方にある大きな窓である。
「何でまた教会の方から」
気になって起き上がって窓の方に歩く。そこから見てみると教会の中がやけに明るいのだった。まるで昼の中にあるかのようにだ。
「何かしているのかしら」
マシューはそれを見てさらに奇妙に思うのだった。
「だとしたら一体」
考えてみる。結論は一つだった。
「ミサ?」
しかし普通真夜中にミサはしないものだ。時計で時間を確かめてみると今は丁度夜の二時だ。夜明けというにはかなり無理がある。
「違うわね。じゃあ何かしら」
「ワン、ワン」
「ちょっとトト」
まだ吠えているトトをここで軽く叱る。
「騒がないの。いいわね」
「クゥ〜〜〜〜ン」
マシューに怒られると頭を引っ込めて小さくなるトトであった。元々非常に賢い犬で滅多なことでは吠えない。だからこれも不思議ではあった。
「トトも吠えるし」
ましてや隣の教会に対してである。
「おかしいわね。ミサかしら」
だがどう考えてもおかしい。こんな時間には有り得ない。それであれこれと暫く考えていたがとりあえずは教会に行くことにした。おかしいことはおかしいがそれでも念の為に事前に用意しておいた喪服を着てヴェールを被った。ここが慎重な彼女らしい行動であった。
「さて、と」
着替えたうえでトトに声をかける。
「行くわよ」
「ウウ・・・・・・」
しかし何故かトトは動こうとはしない。そんな彼を見てマシューは仕方なく彼女だけでミサに行くことにしたのだった。時間を考えるとどうしてもおかしいのだが。
教会に入るとミサが行われていた。教会の中は真夜中だというのに昼の様に明るい。牧師も人々もいる。彼女はそれを見てやはりミサが行われていると思ったのだ。
「やっぱり」
「ああ、マシューさん」
教会にいる人の中で一人が彼女に声をかけてきた。
「ここですよ」
「席ですか」
「どうぞ」
こう言われて席を勧められる。静かにそこに座るが何故か勧めたその人の顔は知らないのだった。この小さな村で不思議と言えば不思議であった。
見ればミサを執り行っているのは牧師ではなかった。司祭であった。法衣でわかる。それを見てマシューはさらに首を傾げたがどうにもこうにも事情がわからない。しかしそれでもミサだからと思い参加を続けたのだった。ミサは順調に進みお布施の段階になった。
ここで彼女は気付いた。お金を持っていないことに。それで自分の結婚指輪を出すことにしたのであった。それを今まで見たことのない司祭に出すのであった。
「これを」
「宜しいのですね」
「はい」
こくりと頷いてその司祭に答えるのであった。
「まずはこれを」
「そしてそれからは」
「明日お金を持って来ます」
こう答えたのだった。
「まずはこれを。そして代わりにお金を」
「それで宜しいのですね」
「ええ。それで御願いします」
また答えるのだった。
「まずはその証としてこの指輪を」
「わかりました。それでは」
「ええ」
こうして指輪がお布施の盆に置かれた。最後にミサの終わりが告げられた。マシューが去ろうとしたその時にその知らない司祭が彼女の側に来て言うのであった。
「お家まで送りましょう」
「家までですか」
「はい、宜しいでしょうか」
静かに笑って彼女に述べる。その顔には別に何も暗いものもやましいものもないように見えた。それが彼女を安心させるのであった。
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