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科学と魔術の輪廻転生

作者:ともとも
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俺、転生してしまったらしい。

 俺は最初、何が起きているのか分からなかった。
 理由は簡単、目の前に見知らぬ天井があるからだ。
 天井が俺の目の前にあるということは、上を向いている。
 そう、俺は今、仰向けに寝転がった体制のまま固まっているのだ。
 背中にはふわふわとした柔らかい感触。
 家のベッドとは少し違うことが分かった。
 つまり、今まで暮らしていた家とは別の場所だということも自然に導き出された。
 その場所で、俺はさっきまで眠りこけていたらしい。

 どこだ……ここ……?

 慣れない空気の中、俺は考える。
 ここが、どこなのかを。

 真っ先に浮かんできた単語は、浮気。
 俺は既婚者であり、子供もいる。
 もし別の女の家で一夜を過ごしたというのは、それだけで妻からの信用を下落させること。
 だが、この部屋は……。

 そこまで考えた所で、俺はある違和感を覚えた。
 何か、忘れているような、そんな感じの、違和感。
 そしてそれは、俺にとって思い出したくは無い出来事であると同時に、大切なことでもあるような気がした。
 いや、正確には、思い出さなければならないという、使命感だろうか。
 うーむ。

 取り敢えず俺は昨日の出来事を思い返してみることにした。


 ────

 俺は生前、東京のとある電機会社支社の社員として生きて来た。
 まあ、生前と言えるのかは分からないが、生前と言うことにして置く。
 なかなか上の方の地位だったと思う。
 来月とかに本社への移転も決まっていた。
 俺の歳は二十五歳。
 結婚していて二歳の子供も居た。
 自分で言うのもなんだけど夫婦円満な家庭を築けていたと思う。

 ある日、俺はいつも通り会社で働いて、昼の休憩時間に外で軽食を食べに行った。
 すると、行く途中、目の前の横断歩道で女性一人が歩いていた。

 そのこと自体は別に珍しくもなんともない。

 だが、ふと横を見るとトラックが猛スピードで突っ込んで来ていた。
 そのトラックはスピードを緩める気配もない。
 俺は咄嗟に思考を巡らせた。

 ──居眠り運転か──

 その考えに至った時には、既に身体は動いていた。
 俺の身体はまっすぐにその女性へと向かって行く。
 一瞬、視界の右上の方に赤いものが見えた気がしたが、気にしない。
 いや、俺はその時、走ることに集中していたのだ。
 そのおかげか、あっという間に女性に追い付くことができた。
 そして、今まで走っていた勢いを利用して、彼女を思いっきり前に押し出した。

 女性は赤いハイヒールを片方脱ぎ落としながらも、なんとかトラックの当たらない所まで行けたらしい。

 俺には一連の出来事が途轍もなくスローに見えた。
 横を見ると、自分を軽く圧し潰せる程の超重量の鉄塊がゆっくりと迫ってくる。

 そう、ゆっくりとだ。

 ──この速度なら、今からでもギリギリ避けれる──

 そう思える程の遅さだった。
 だがいくらそう思っても、身体中が麻痺したかの様にピクリとも動きはしない。
 そうこうしている内にトラックは眼前まで迫っている。
 身体を動かそうと四苦八苦していたが、やがて諦めた。

 頭の中では今までの妻との思い出がグルグルと渦巻いている。
 ああ、これが走馬灯か。人生って、儚いな……。

 ……。
 俺、死ぬんだろうな。

 うん、確かに死ぬのは怖い。
 だけど一人の命を救えたんだ。
 それで良いじゃないか。
 最期に良いことができて。
 寧ろ本望だろう?
 更にまだ俺は助かるかもしれないじゃないか。

 でも……

 ──もっと妻と一緒に居たかった……なぁ……──


 俺の視界は紅く染まり、近くからクラクションの音が鳴る。
 それはまるで、俺の断末魔を代弁しているかのように思えた。

 俺の意識はそこで途絶える。
 そしてそれは、俺の人生が終わりを告げた瞬間だった。

 ────

 俺はコトの一部始終を思い出した。
 ……確かにこれは、思い出さなければいけないことだったな。
 だけど、これは。
 思わず溜息を漏らした。
 しかしそれは、溜息と呼ぶには弱過ぎた。
 文字通り、微かに空気が吐き出されただけだ。
 それにも違和感を感じた俺は、声を出そうとしてみた。
 しかしその声は形にならず、不特定なまま中空に消える。
 訳が分からなかった。

 まず、整理してみよう。
 俺は昼飯を食べようとファストフード店に向かっている最中に見知らぬ女性を庇ってトラックに轢かれた。
 生きているのか死んでいるのか分からないが、少なくともあれは生きてても植物人間になってしまうくらいの大事故だったはずだ。
 いや、こうして見聞きして考えている分には生きているのだろう。
 俺はもう死んでいて、ここが噂に聞く天国だとは考えにくい。
 そして、生きているとしても、何かおかしい。
 普通植物人間や、それに準ずるくらいの大怪我だとしたら、病院へ行くだろう。
 だがここは、そんな雰囲気では無い。
 精々木製の民家って感じの建物だ。
 こんな所で意識が回復するくらいの処置を施せるのだろうか。
 いいや、無理だろう。
 うーむ。
 考えれば考えるほど何が何だか分からないな。

 取り敢えず、状況確認が先か。

 俺は周りを見渡そうとする。
 しかし首が鉛のように全く動かない。
 仕方が無いので、目を動かすようにして周りを見渡した。
 すると、いきなり男性の顔と女性の顔が視界に入ってきた。
 俺はその女性の顔を見た途端、思わず二度見してしまった。
 いや、首は動かないから二度見は出来ないんだけどね。

 まず、彼女の容姿を。

 顔はぶっちゃけ、めちゃくちゃ可愛い。
 まるで宝石のように澄んだ、茶色い瞳。
 スッとした鼻。
 淡い桃色の唇は緩い曲線を描いていた。
 艶のある茶髪をゴムで後ろに纏めている。
 全体的に痩せているのだが、服は胸の辺りがつっかえているように見える。

 それらが彼女の活発そうな雰囲気を強めていた。
 これが俺が見惚れた理由である。

 そして男性の方は、筋肉質だ。
 だが、気持ち悪いほどではない。
 彼のスラッとした体躯がそれを証明していた。
 彼の黒髪はキラキラと太陽を反射している。
 目は細めだが、その黒い瞳はたしかに優しい光を灯していた。
 彼の口角は片方だけ上がっていて、その顔は微妙に強張っていた。
 俺には何かに喜んでいるように見える。


 美男美女って本当に見ると華があるね。
 画になるな。
 どうでも良いが。
 だけど、重要な問題がまた新たに出来たぞ。
 俺は前の二人を見る。

 彼らは、誰なんだ。

 そこまで考えた時、突然目の前の二人が何か話し始めた。

「ーーーーー」

「ーーーーー」


 ……全然分からん。
 聞こえないと言うより理解出来ない。
 顔からして何かを心配していることは分かるけどね。
 最初は、まだ寝ぼけてるせいで頭が覚醒していないのかな、と思ったが、どうやらそうではないらしい。
 事故の後遺症か?
 身体中が動かないしさ。

 保険に入ってたっけ?
 入ってなかったな、たしか。

 確かにあの時死んだよりかはマシなんだが。
 でもなぁ……ああ。


 また妻に迷惑をかけるなぁ……。

 転生初日。
 俺はそんな感じだった。 
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