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dark of exorcist ~穢れた聖職者~

作者:マチェテ
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第26話「喪失と憎悪の悪魔狩り」

 
前書き
スマホからパソコンに移りました。
投稿遅れて本当にすみません。 

 
「………ふん。雑魚共が……」

「あぁ~もう……ヘタレのボクにはきつかったなぁ…」

涼しい顔でゴブリンの死体を片足で踏みつけながら、日本刀「厄雲(やくも)」を納刀するキリシマ。
座り込み沈んだ表情でナイフを腰のケースに納めるハル。

数十体はいたであろうゴブリンに囲まれてから、それを全滅させるまでに3分とかからなかった。
キリシマの神速の剣技。ハルの鮮やかなナイフ捌き。
それらの前では、ゴブリン達など塵に等しい。
ゴブリン達は一度も反撃できないまま全滅した。

「…………おい、出来損ない」

「えっ!? ……ひ、ひどい…なんですか先生」

今のハルを見るキリシマの目は、嫌悪感を剥き出しにしている。


「………悪魔狩りがどんな得物を使おうが俺は何も言わない。俺が知っている悪魔狩り達は、自分の
得物を使いこなしていた。……お前は全くダメだ」

「そ、そうですか……」

「……刃の当て方が悪すぎる。速さは認めるが、腕力が足りないせいで刃が入る角度がずれている。
それと、相手の懐に入ったら斬るのではなく刺せ。その方が速い。ナイフの利点を正しく使え」

キリシマのアドバイスに、ハルは表情を沈めた。


「……はぁ、そうですよね……ボク、ヘタレなんで…リーチの長い得物を使えないんですよね……」

「………何も近接武器にこだわることはないだろう」

「先生に憧れて武器を刃物にしたんです。先生みたいに刀とか使えたらなぁ……」

落ち込むハルを見て、キリシマは険しい表情を緩めた。



「……素質はあるがそれを活かせていない。お前の才能を開花させるためにお前を鍛えてきた。
……自分の才能を殺すな。強くならなければ……失うだけだ」



キリシマが経験した「喪失」の記憶。
家族を失い、笑顔を失い、さらには目の前で仲間を失った。
だからこそ、自分を先生と慕ってくれているハルには、同じ思いをさせたくない。
そんな思いから、ハルに厳しい修練を積ませた。

「………どうしてもナイフを使いたいというなら、俺もこれ以上は何も言わない。その代わり
これからの修練はさらに厳しくするぞ。そうでなければお前か周りの奴が早死にする」

「そう…ですよね……よろしくお願いします、先生……えっと、死なない程度に……」

「……死ぬ覚悟もなくて修練になるか。帰還したら俺が模擬戦の相手になってやる。実力だけでなく
精神も鍛えてやる。根性無しめ」

緩めた表情が再び厳しいものに戻り、鞘に納めた日本刀でハルの頭をぶっ叩いた。

「いだぁ! 痛いです……」

ハルは両手で頭を押さえ、涙を滲ませしゃがみ込む。


「………肝心な再調査が進んでいなかったな。さっさと立て。下位悪魔の討伐だけで終わりではない」

「…は~い……」




























―――再調査から3時間



「う~ん、特に何も手がかりになりそうなものはありませんね……」

「…………交戦音を近隣住民が聞いていたとは言え……目撃情報がないんだ。もとから手がかりがない
といってもいい。……あちこちに戦った痕跡はあるが…悪魔の種別を特定できそうなものが無いな」

ハルが瓦礫や何かの残骸を漁るなか、キリシマは無表情で廃工場の中を見渡す。
何もしていないように見えて、実はハルよりも手っ取り早い手段で手がかりを探していた。


キリシマの持つ最大の長所は、神速とも呼べる素早さと、「究極の第六感」である。
「究極の第六感」とは、キリシマのみが持つ特殊技能で、キリシマが独自に身につけた才能だ。
普通の人間が”何となく”感じる気配や嫌な予感を、キリシマは”色濃くハッキリと”感じ取ることが
できる。それを活用することで、遠くの悪魔の存在にいち早く気づいたり、攻撃の予兆を感じ取って
完璧なタイミングで回避行動をとることができる。
この能力は、戦闘だけでなく、今回のような探索にも非常に役立っている。


「どうですか? 先生。この辺りに何かありますか?」

「……近くに悪魔の気配はない。……だが、なんだ?」

「えっ、どうしたんですか?」

「…………風の流れが、少しおかしい……」

そう言うと、キリシマは廃工場の中央まで歩きだした。
廃工場の中央にたどり着くと、日本刀を置き、無表情のまま意識を集中し始めた。








「………………そうか。……そういうことか。」

「先生?」

ハルがキリシマの顔をそっと覗き込む。



「先…生?」

恐怖が背筋を駆け巡った。無意識に手が震える。
覗き込んで見えたキリシマの表情は、鬼の形相などという一言で片づけられるものではなかった。

この世の憎悪と怨嗟を全て詰め込んだような怒りの表情。
日本刀の鞘を軋むほど握りしめ、辺りの気配を全身全霊をもって探り始めた。

「先生……どう、しちゃったんですか?」

「……………お前は先にヴァチカンに戻れ」

「え……」

先に戻れと言うや否や、強靭な脚力をフル活用して廃工場の外に駈け出した。
駈け出す直前に呟いた小さな言葉は、ハルの耳には届いていなかった。







「…………………これ以上……喪ってたまるか………」























―――【ロシア・ウラジオストク 廃工場から約10km地点】



「………まさか人間の中にこんな殺気を放てる者がいるとは……怒りの対象はフォカロルか……」

「えーっと…その……人間さん達は……大丈夫、でしょうか?」

「あの悪魔狩りの素早さと第六感の鋭さは目を見張るものがある。フォカロルの風の力を見切って
回避、攻撃を繰り返せば、勝てるかも分からないな。その連れの悪魔狩りは……心が脆い。刀を持った
あの悪魔狩りの判断は賢明だな」

「で、でも……」

「小生らは非力なんだ。あの悪魔狩りにはフォカロルを殺してもらわないと困る。それとも…
貴様がフォカロルに挑むか?」

「む、無理ですよ……」



「まったく……人間にも非力な悪魔にも暮らしにくい世界になったな……狂った世界のバランスを
戻すには悪魔狩りにもう少し頑張ってもらわなければな…」



建物の屋上から廃工場の方角を見る2人。

フード付きパーカーに半ズボンの少年と、Yシャツにスカート姿の少女。


少年の正体は”知識の悪魔 オロバス”。

少女の正体は”治癒の悪魔 ブエル”。


2体の悪魔は、廃工場の方角を真っ直ぐ見据えていた。
その視界の先にいたのは、憎悪を纏う悪魔狩りだった。 
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