未来から来た魔王
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神との戦い
翌日、朝起きると太陽がすでに登っていた。文字通り解釈するならば僕が起きたのが遅かったか夏至の頃だったから太陽が出ていたんだと思うかもしれない。
だけどそれは違う。時刻はまだ4時、それも12月だ。太陽が昇るはずがない。というより夏至でも流石に4時には太陽はまだ出てこない。
だったら……。
「まつろわぬ神か……」
昨日小父さんから聞いた話ではまつろわぬ神は世界に災厄をもたらし神話に背いて行動する神のことらしい。ならばあの太陽も神の仕業だろう。
小父さんはすでに戦闘の準備を整えていた。
「すぐに準備しろ、早くしないとここも焼き尽くされる」
そう言いながら荷物というか武器を慣れた手つきで扱うおじさん。
僕はすぐに着替えると外に出た。空には夜が明けていないのに太陽がさも私はここにいるぞというふうに堂々と存在していた。
「では被害を最小限に抑える。現地へ向かうぞ」
そう言って小父さんと僕は神が現れた場所に向かった。
「ようやっと来たか」
第一声はそれだった。目の前の神は小父さんと違ってやっぱり僕に対しての敵意が違った。
美しくそれでいて優雅な目の前の女性ははまさに女神を彷彿とさせる。
いかに今まで小父さんに手加減してもらっていたことが身に染みてわかった。
「人の子よ、なぜそこにおる。部外者は引っ込んでおれ」
「よく聞け、お前の前にいるこの子がお前を倒す戦士だ」
小父さん、睨んでるよ、睨みつけて来てるから刺激しないで。お願い。
「この子はお前なんかよりもずっと強い。この私が言うんだから強いんだ」
小父さん、今の状況じゃなかったら嬉しいけど今は露ほども嬉しくないよ。
「ハッハッハ、お前が冗談を言うとはな。この私がそこの小童より弱いと抜かしおるとは」
そう言って女神は片手の銃を陽炎のように揺らめく空間から取り出して、空に掲げるようにしてから振り落とした。
「ならばこの一撃を受けてみよ」
空を見上げると肉眼で見えるぐらいの大小の隕石が無数に現れ、この戦場へ向けて落ちて来ていた。
「嘘だろ……、くそっ」
そう呟きながら僕と神の生死がかかった鬼ごっこが始まった。
接近戦は無理だと悟った僕は魔術を使って逃げながら神を殺す隙を伺っていた。
最初神と戦わなければならないと知った時は絶望にも近い気持ちを感じていたけど今では楽しくとさえも思えてくる。
僕は頭や心臓を守るようにしてなるべく隕石に当たらないように魔術を併用して避ける。二の腕からは当たった隕石の欠片によって血が流れている。
「こんなものか、人の子よ、でかい口をたたいた割にさっきから逃げ腰ではないか。逃げてばかりいないでもっと我を楽しませろ、人の子よ」
そう笑いながら神はなお空の隕石を増やし続けていた。
でかい口をたたいたのはおじさんなんだけどな、なんてことを思いながらも逃げる僕。
そう、僕は神の言う通り逃げてばかりで神に対して傷一つ負わせていないのが現状だ。
一応攻撃しようとは思っているんだけど、反撃する機会もない。
僕は神から隠れるようにビルの影に逃げ込んだ。
しかし、なおのこと隕石は止まない。さっきまでいた小父さんもはぐれてしまった。
まぁ夢中になって逃げ続けていたから仕方がない。小父さんがいればなんとかなるかもしれないのに。
そんなことを一人かんがえているとビルが熱くなってきた。
「な、なんだ」
見るとビルが高熱によって溶け始めている。
「どうしたらいいんだよ!!」
そんなことをぼやいている間にも後ろからは溶けた鉄筋コンクリートの中から女神が近づいてきている。
女神の周りには熱で溶けた鉄が浮かんでおり、それが僕に向かってミサイルのように飛んできた。
もうダメだ、そう思った時に急に鉄の塊の動きが止まった。
「なぜ邪魔をする!!!神がただの人ごときに加護を与えるとは。しかも今戦っているのはこの少年と我ぞ。邪魔だてするでない!!」
「おいおい、勝手なことを言いなすんな。どこにみすみす殺されそうになっている我が子を見捨てる親がいるんだよ。俺はこいつに神と戦えとは言ったけれどお前におれの可愛い息子をみすみす殺させるつもりはさらさらないぞ」
そうとだけ女神に言うと、小父さんは僕に向かって
「少しだけ時間稼ぎをしてやる。覚悟が決まったらこい。ある程度はお前のことも守ってやる」
と、言った。
「貴様ーー‼︎!。ならばお前から葬ってやろう、最古の王よ」
そう女神は言って小父さんと女神の戦いが始まった。
僕は一時戦闘からボロボロになりつつも離脱した。
時刻はすでに昼を回っただろうか。あれから6時間以上も戦ったのだ。疲労はすでにピークに達している。
僕は今さっきまで神と逃走劇を繰り広げていた。小父さんが必死になって僕に作ってくれたしばしの休憩は僕に少しの安堵を与えていた。
そのおかげか僕の意識はさっきまでの朦朧としたものからはっきりとしてきたものに変わっていくのを実感していた。
朝から神と戦い逃げ惑い、神と人との違いをまざまざと見せつけられた。
圧倒的な力の強さを肌で感じ撤退を余儀無くされた。
正攻法では勝てない。
ならばどうやって勝つ。
僕は考えた。最良の策を見つけどれが一番成功の確率が高いか。どれこそが神に対して一番有効な策であるか。そして……
僕はビルの屋上に立っていた。遠足で一度このビルには来たことがある。なんでもこの町一番の高さを誇るビルだとか。今は無残にも焼き尽くされピサの斜塔のように傾いている。
その天辺に僕は立っていた。下を見ればすくみ上がるような高さ。僕はさっき立てた計画を実行するためにそこに立っていた。
僕はそのビルから飛び降りた。
耳には風の音が聞こえる。
そして特有の落ちている感じ。
夢だったら落ちても目が覚めるだけだが実際に僕は落ちている。
だけど僕にはこの方法しかなかった。どうせやるなら
「必ず勝ってみせる!!!」
眼下には戦っている小父さんと敵である女神。
「おおおぉぉぉおお!!」
叫びながら落ちていくと女神が僕に気づいたのか上を見上げた。
「つっっっ!!」
驚きで身を見開いた女神は僕に向かって銃を放とうとした。
だが、
「なにっ!」
そう太陽が逆光になって狙いを定められなかった。
「小癪なーーーー」
そうとだけ言うと鉄の剣を大量につくり、落ちてきた僕を串刺しにしようとするも小父さんが剣で持って全て破壊する。
「くそっ、くそっ、くそーー」
「ぁぁぁああぁぁぁ」
僕は女神を巻き込んで重力によって地面に叩きつけられた。
「貴様、ふざけておるのか!。いやまだ決定打にはならぬ、我が人になぞ……、私の銃は、銃はどこじゃ!!」
怒りで冷静さを欠いている女神に向かって僕は微笑みながら言った。
「ここだよ」
「そんな馬鹿な、いつの間に。まさかっ、落ちた瞬間に奪い取ったというのか」
「そうだよ、神から武器を奪うなんて芸当には冷や汗が出たけどね」
「この私が負けるだと。ははは、はははははははははは。そうか我は汝との勝負に負けたか。汝、名をなんと言うか?」
「満月北斗だ」
「そうか、汝、満月北斗よ、強くあれ。再現流の鋼たる私の力を奪ったのだ。誰にも負けぬ戦士となれ。そしてまた私と試合
え、若き魔王、満月北斗」
僕は左手に持った銃を女神に対して撃つと女神はついに沈黙した。
僕は女神に勝った。
戦いが終わった後すぐに小父さんが駆け寄って来た。
「お前は馬鹿か!!!なぜビルから飛び降りた。あの時だって私が加護を与えていなかったら死んでいたぞ。体をよく見てみろ!!!」
そう言われて体を見てみると下半身はすでに無くなっており右手は遠くに吹き飛んでいた。
「小父さん、ありがとう。心配してくれて。こんなに怒ってる小父さん始めて見たよ。僕ちょっと疲れちゃったから寝るね」
そうとだけ言って僕は意識を失った。
小父さんが僕を呼ぶ声が気を失いながらも朧げに聞こえた気がした。
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