魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epico13欠片を集めて全容を描く
前書き
欠片を集めて全容を描く/意:物事の欠片を集め組み立て、その物事の全容を思い描くというたとえ。
†††Sideルシリオン†††
ザンクト・ヒルデ魔法学院を見学することになった俺とはやてとアインスとリイン、そしてシャル。そして今は、俺たち共通の友人であるトリシュタンとセレネとエオスの居る4年3組の授業を見学・・・というか、参加している。
魔法を使っての実習科目の1つで体育のような授業だ。クラスを2チームに分け、ターゲットスフィアと呼ばれる魔力球を帯同させて競技場内を駆け回り、相手チームのメンバーのターゲットスフィアに魔力攻撃を当てて失格にする、というゲームだ。
『順調にAチームのメンバーを失格に出来てますです」
「ルシル君の言った通りやなぁ~。わたしらBチームが圧倒してるよ。さすがやな、ルシル君」
はやてとユニゾンしているリインからそう報告が入ると、はやてが俺を称えてくれたから「ありがとう、はやて」と笑みを返す。トリシュのワンマンチームなど、トリシュさえどうにかすれば容易く崩すことが出来る。トリシュ以外のメンバーは、トリシュが居れば勝てる、という楽観を抱いている。ほぼ烏合の衆と言える。なら・・・
「こちらは統制の取れたガチンコ戦法。近距離タイプと中遠距離タイプの子を2人1組で行動させて、トリシュちゃんの広域狙撃に期待してバラバラに動いてる子らを各個撃破」
『上手いこと作戦が進みました、さすがですぅー!』
確かに上手いこと行ったな。競技開始直後、俺は動物形態に変身させたセレネとエオスをAチームの陣地へ向かって投げ飛ばした。飛行魔法が使えない以上、エリア内での機動力――移動速度が問題になってくる。シャルとトリシュの出撃を止めるためには、高速で投げ飛ばすしかなかった。
「セレネちゃんとエオスちゃん、それにヨルク君もよう頑張ってくれてる」
ヨルク君。俺たちBチームの一員で、全長1m少しのコンドルへと変身している。彼はスクライア姉妹を背に乗せて、空からシャルとトリシュを足止めする2人の移動手段として頑張ってくれている。飛行魔法は禁止だが、変身しての飛翔は禁止されていない。ルールを確認したうえで採った作戦だ。
「さて。行こうか、はやて、リイン。セレネ達もそろそろ限界だろう」
スクライア姉妹にシャルとトリシュを足止めしてもらい、その間にAチームを全滅させる。そして俺たちはスクライア姉妹と合流して、シャルとトリシュを失格にする。先に他のメンバーを全滅させたのは、シャルとトリシュとの戦闘時に邪魔されないため。下手に残して、最大のチャンス時に横やりを入れられるなんて最悪過ぎる。
「うんっ!」『はいですっ!』
俺とはやてもツーマンセルでエリア内を駆け、Aチームの何人かを失格にさせた。これでもうBチームの他のメンバーだけに任せられる。この状態で逆転できるのは、トリシュとシャルくらいだな。だから俺たちは、あの2人を失格させないといけない。はやてを横抱きに抱え上げて、失格寸前だったスクライア姉妹と、シャルとトリシュの戦いに参入する。そして・・・
「問題ありません! 勝って、ここで合流しましょう!」
「トリシュとの一騎打ちか。・・・いいだろう、やろう」
はやてとスクライア姉妹はシャルと戦うことになり、俺はトリシュと一対一の決闘形式だ。トリシュは大弓型のアームドデバイス、“イゾルデ”を構えて魔力矢を魔力弦に番えた。弓騎士相手に距離が近いから、という条件は役に立たないだろうな。
はやてとの戦いで、近接戦もこなせることは承知しているし、射る矢の効果も全ては掌握していないから、迎撃も回避も下手に取ると痛い目に遭いそうだ。だからと言って、二の足を踏むなど出来ないよな。はやてだって立ち向かったんだし。
「参ります!」
――速翔けし一輪の討ち華――
指を矢羽根から離すのを見逃さず、すぐに一歩分横に移動。その瞬間に先程まで俺が立っていたところを通過した。トリシュが弦を引いて魔力矢を創るより先に「アクセルシューター!」なのはから複製した誘導射撃魔法を5発と一斉発射。
(魔力制限がキツイな。得意の槍群が放てそうにない・・・)
トリシュは回避を選択しようとしたが、アクセルシューターの誘導操作性能は嫌というほど良く知っている、そう逃げられるものじゃない。トリシュも自身の周囲を高速旋回して包囲してくるシューターに「くっ・・・!」苦悶の声を漏らした。もう諦めるのか?と思えば、彼女は“イゾルデ”の魔力弦を消して、握り部分を両手で握った。
「やぁぁぁーーーッ!」
そして“イゾルデ”を身体ごと旋回させてシューターを真っ二つに斬り裂いていった。やるじゃないか。しかしここで手を緩めるような真似はしないぞ。次は「プラズマランサー、セット」フェイトの雷槍を4本と展開。トリシュは“イゾルデ”を半ばから分離させて双剣へと変形させた。
「エヴェストルム」
ニュートラルのランツェフォルムで“エヴェストルム”を起動して、近接戦に備えることにした。トリシュは両腕を大きく広げ、前傾姿勢を取った状態で突撃して来た。それに対して「ファイア」俺は雷槍をトリシュの行く手に向けて射出。トリシュの軌道がそのままなら直撃するコースだ。
「っ!!」
トリシュは息を止め、速度を緩めることなくジグザグに右往左往することで、迫る雷槍を紙一重で躱した。弓騎士としての目の良さと、数多くのパラディンに鍛えてもらったという運動神経と身体能力があってこそ出来る芸当だな。
最後の1本を避けて元のコースに戻ったトリシュが“エヴェストルム”の間合いに入ったことで、刺突を繰り出す。ターゲットスフィアを狙うのも良かったんだが、もうしばらくトリシュの技を引き出したかった。
「さぁ、どう反撃する?」
「こう、します・・・!」
「お?」
トンと屋上を軽く蹴って跳んだトリシュが“エヴェストルム”の穂の表面に降りた。俺のターゲットスフィアを狙うためにそこからまた跳ぶと察し、「ツヴィリンゲン・シュベーアトフォルム」“エヴェストルム”の柄を分離させた。
「っ!?」
跳ぶために脚に力を込めた最中に、足場となっていた“エヴェストルム”が真っ二つに折れたことでトリシュもまたガクッと落下。俺は時計回りにクルッと旋回して遠心力を乗せた横薙ぎの一閃を繰り出し、双剣状態の“イゾルデ”を盾にすることで防御したトリシュをそのまま弾き飛ばす。
「これはどうだ・・・!」
手にしていた“エヴェストルム”を高速回転させるようにして水平に投げ飛ばす。トリシュは未だに空中。それでも「まだ、です・・・!」トリシュは辛うじて双剣で防御したが、“エヴェストルム”の長さと重さ、さらに速度が加わっていることもあって「きゃぁぁぁ!」さらに大きく弾き飛ばされた。
「さぁ、第二波だ」
足元に転がっているもう片方の“エヴェストルム”の柄の下に爪先を差し込んで勢いよく蹴り上げる。跳ね上がった“エヴェストルム”の柄をキャッチ。そして先程と同じように投擲。と同時に俺も駆けだす。着地したばかりのトリシュに“エヴェストルム”が到達。トリシュは両足を180度近く開脚することで腰を落とし、“エヴェストルム”をやり過ごした。
「パイチェフォルム!」
一刀目の“エヴェストルム”を落下する前にキャッチし、柄頭より魔力ロープを伸ばす。魔力ロープはトリシュの頭上を通過した二刀目の“エヴェストルム”の柄頭と連結。鞭形態へと変形させる。手にする“エヴェストルム”をグッと引っ張り、立ち上がり途中のトリシュのターゲットスフィアを背後から襲う。
「(これ以上長引かせて、万が一にもはやて達が負けて俺対シャルとトリシュなんて構図は御免だ)アクセルシューター、スタンバイ」
シューター5発を俺の周囲に展開。うち1発は俺の背後に配置。トリシュは後方宙返りで“エヴェストルム”を避け、“イゾルデ”を連結して大弓へ戻した。そこに「シュート」シューターを発射。
「奔れ・・・!」
――群れ成す煌きの啄み――
射られる矢が途中で炸裂。鳥のくちばしのような矢尻14基となって、シューターを迎撃。残りが俺に殺到する。誘導操作ではなく直射系の射撃魔法のようで、大きく横に移動すれば容易く回避できたと思えば・・・
「貰いました!!」
――速翔けし八輪の討ち華――
高速射撃に分類されるであろう魔力矢が8本、移動先に着いたばかりの俺の目前に迫っていた。しかしまだ甘い。それらを“エヴェストルム”で薙ぎ払いつつ、トリシュに向かって突撃を仕掛ける。トリシュはそんな俺に向かって、今のと同じ高速射撃を連射して来た。直射系ほど回避しやすいものはない。いくら速くても、だ。
「プラズマランサー・・・!」
「雷喰らう怒涛の宝珠!」
俺は雷槍6本を一斉発射し、トリシュは矢を1本射る。その矢は魔力球として翔け、雷槍を強引に吸引して呑み込み、消滅させた。その一手が、トリシュ、君の敗北を確実にする。十二分に接近したことで、トリシュは“イゾルデ”を近接戦仕様である双剣形態に変形させた。
「はぁぁぁ!」「せやぁぁぁ!」
“エヴェストルム”を両手に携えた俺と、“イゾルデ”を両手に携えたトリシュで、お互いのターゲットスフィアを寸断すべく剣撃の応酬を繰り広げる。トリシュの剣筋は未熟だが筋は良く、確かに初等部の学生でこのレベルは反則だろうな。
「なにが! おかしい! のですか!」
「いや、本当に強いな、って思ったんだ。笑ったんじゃなくて感心したんだ。だから怒らないでくれ」
「なんか! 悔しい! です!」
俺のフェイントに若干引っかかりながらも流麗だった剣筋がひどく乱れ始めた。トリシュの意識がターゲットスフィアから俺の打倒に切り変わったのが判る。あとは適当なところで、「シュート」ずっと背中の後ろに待機させておいたシューターを発射。それはもう簡単に「あっ!!」トリシュを失格に出来た。それとほぼ同時にシャルが失格になったのが判った。俺たちBチームの勝ちだ。
「ず、ずるいです! 今のはずるいですぅぅーーー!!」
「いや、そういう競技だろ? 目的を失念した君が悪い」
“イゾルデ”を懐中時計に戻したトリシュがポカポカと俺の胸を叩く。彼女の両手首を捕まえると、「納得できません! 再戦を申し込みます!」トリシュがビシッと俺に向けて懐中時計を突きつけた。この競技は3回行われるそうだ。休憩を挟んだ後、もう1度行うとのこと。
「今度はチームメイトを上手く動かそうな。でないと――・・・」
はやてとセレネとエオスとヨルク君、そしてシャルが俺たちの元へ来た。俺はチームメイトのはやて達へ歩み寄った上で「また俺たちが圧勝するぞ?」と挑発の意味を込めた微笑みを向けた。
「次は絶対負けないから!」
「この悔しさをバネにして、次は勝ちます!」
その後、俺たちは残り二戦も何も問題なく行った。シャルとトリシュ、Aチーム全体も一戦目と違ってすごく動きは良くなったんだが、結局は俺たちBチームが三連勝。そう容易く逆転されるわけにはいかないさ。とまぁ、こうして最初の見学は終わった。
†††Sideルシリオン⇒はやて†††
一時間目を、セレネちゃん、エオスちゃん、トリシュちゃんの居るクラスでの実習参加とゆう形で終えて、そこから別の学年・クラスの教室で座学の見学をしたわたしらは、お昼時ってこともあってザンクト・ヒルデ魔法学院の食堂へとやって来た。
「お弁当持参の生徒も居ますが、ここダイニングで昼食を摂る生徒も居ますし、ここでお弁当を持ち寄って食事をする生徒も居ます」
シスターシャッハからそう説明を受ける。ちなみに食事代は基本的に無料らしくて、聖王教会系列の学校は大体そうらしい。シャルちゃんが言うには「聖王教会は大金持ちなの。それと海や山に挟まれたザンクト・オルフェンが食材の宝庫っていうのも一因かな」とのこと。
「「おーい!」」
「遅れてごめんなさい、皆さん!」
ダイニングの入り口で待つこと数分。わたしらに大手を振りながら駆けて来るセレネちゃんとエオスちゃん、それにトリシュちゃん3人と無事に合流。ここで「それでは私は少し失礼しますね」わたしらに気を遣ってかシスターシャッハが席を外した。
「ところでトリシュ。その大きな包みはなんだ? 登校時には持っていなかったよな・・・?」
「あ、はい。ディナスが、皆さんと一緒に頂いて下さい、とお弁当を届けてくれたんです。これを受け取りに行っていて遅れてしまいました」
トリシュちゃんが抱えてるんは重箱みたいなお弁当箱や。ディナスさんの厚意に甘えて、みんなでお弁当を頂くことにした。わたしらは食堂の空いてる席を見つけて座る。1つの長テーブルを挟んで椅子は6脚。わたしは車椅子でええし、リインはテーブルの上に直座り。そやから椅子の数は十分や。
テーブルの上にセレネちゃんとエオスちゃんのお弁当2つと、トリシュちゃんが持って来てくれたディナスさんのお弁当箱4つを広げる。みんなで「いただきます!」して早速いただく。ディナスさんの料理はホンマに「美味しい!」から、セレネちゃんとエオスちゃんも自分のじゃなくて、ディナスさんのお弁当をつつく。
「うわっ、何コレほんとうに美味しい!」
「トリシュのお弁当っていつも美味しそうだなぁって思ってたけど、これほどとは思わなかったよ!」
「自分のを食べなさいよ、セレネ、エオス! あなた達のも十分美味しそうじゃない」
「「だって~。これほどの物を食べちゃったらもう・・・」」
自分のお弁当を見向きもせんとトリシュちゃんのお弁当ばかりを食べる。そんな2人のお弁当箱からおかずを1品ずつフォークで突き刺して口に運ぶシャルちゃん。するとルシル君もトリシュちゃんも「いただきます」って2人のお弁当箱からおかずを貰ってくから、「わたしも、いただきます~」おかずを貰う。それにアインスとリインも「いただきます」貰う。
「美味しいですよ、お2人のお弁当」
「うん。普通に美味しいじゃないか」
「ホンマや。セレネちゃん、エオスちゃん、十分すぎるほどに美味しいよ」
「ああ。不満を抱くほどでもないと思うけど・・・」
「・・・少なくとも、わたしのより美味しい」
評価は上々。お世辞やなくてホンマに美味しい。最後にリインが「コレを作ったのはお2人なんです?」って訊いたら、「そうだよ」セレネちゃんが答えて、「一応は女の子だしね」エオスちゃんが苦笑。
「ぅぐ。なんだろ、2人より女子力が低いって言われてるようで悔しいんだけど」
そう言うてガックリ肩を落とすシャルちゃんを見て、「少なくてもシャルに勝ったのは嬉しいね♪」セレネちゃんとエオスちゃんはタッチを交わした。それから3人のお弁当箱をみんなで食べながら雑談。セレネちゃんとエオスちゃんは、わたしらより1こ年上やのにどうして4年生なんか?とか。
「初等部の魔法学科ってさ、3年までは基本的なレベルで、4年と最終学年の5年は応用的な事を学ぶんだけど」
「どうせ5年から入って中途半端に習うより、1学年落として最初っから習う方が良いって話でね」
そんなことをお喋りしながらお昼ご飯を終えて、お昼休みをどうして過ごそうか、って話になった時、「きゃぁぁぁぁぁ!」悲鳴が上がった。尋常やない悲鳴やったから「ルシル君、アインス、リイン!」局員として現場に向かうことにした。
そんでトリシュちゃん達に案内してもろたんは食堂区画に隣接する、食材を保管しておく倉庫やった。すでに初等部・中等部の生徒やシスター、スーツ姿の先生たちが集まってて、「生徒は下がって!」って生徒たちを近付けへんように必死やった。
「プラダマンテとシャッハが居る! 事情を聴いてみるよ!」
人だかりを縫って駆け出すシャルちゃんにわたしらも続く。そんでシャルちゃんがシスターから聴き出したのは「食材泥棒・・・?」やった。詳しく話を聴くと、この半年、月1の回数で食料庫が荒らされてるらしい。そんで今日、また荒らされてしもうて、最近勤め始めた食堂の職員さんがその光景を見て悲鳴を上げたってことや。
「最初は注意しないと気付かない程度でしたけど、日が経つにつれて多くの食材を、そして派手に荒らされるようになってしまっているのが現状です」
「これまでに何度かトラップや監視カメラを設置したのですが、どれも効果はなくて。荒らされようからして動物の仕業だとは思うんです。それにしてはトラップも監視カメラも引っかからないし映らない、という次第です」
シスター・プラダマンテとシスターシャッハから事情は伺った。とここで「ねえ、ここはわたし達に任せてくれない?」シャルちゃんが事件解決を買って出た。わたしも「何かお役に立てることがあれば、お手伝いします!」願い出る。
「試しに任せてみない? 捜査官としてそれなりに経験も積んだし、学院関係者じゃ目の行かないところにも着眼するかもよ?」
そう言うてウィンクするシャルちゃんに、「学院長に伺ってみます。少し待ってください」シスター・プラダマンテがわたしらに背を向けるとどこかに通信を繋げた。そんで「みなさん。よろしくお願いします」捜査の許可が下りたようや。そうゆうわけで早速調査を開始や。
「――それにしても酷いですね。手当たり次第に食い散らかしたという感じです」
「そうやね~。足の踏み場もない」
「メチャクチャです~」
食料庫は教室6部屋分の広さはあるけど、車椅子やと動けへんから騎士服に変身。そんでルシル君とアインスとリイン、シャルちゃんらと一緒に捜査。セレちゃんとエオスちゃん、トリシュちゃんは一般生徒の括りになってしもうて外で待機や。
「やっぱりおかしいことばかりだな」
「おーい。関係者への事情聴取を終えて来たよ~」
ルシル君とシャルちゃんには外で関係者に話しの聴き込みを担当してもろてたんやけど・・・。ルシル君の唸るようなその言葉に「なんかあったん?」そう訊いてみる。
「ああ。聴取の結果、野生動物が犯人だろう、という話ばかりだったんだが。どう考えてもおかしいだろ?」
「決まって月一回の荒らし。野生動物が律儀に守るわけがないよ。それに・・・」
「野生の勘であればトラップくらいはクリア出来るだろうが、監視カメラに映らないのは妙だ」
「というわけで、学院関係者に被疑者が居る、とわたしとルシルは結論付けた」
ルシル君とシャルちゃんからそう報告を受けた。聴取内容を箇条書きで記されたデータをモニターで観る。わたしも「そうやね。魔法を使ってのトラップとカメラを解除できる野生動物なんておかしいわ」そう判断した。
「となるとペットでしょうか。荒らされた食材は何かしらの動物の歯型が付けられています」
「そうですね~。ヨダレでベトベトしてますし、飼い主さんがトラップやカメラを解除しているということですかね~」
「そやったらその線で捜査やな」
食料庫荒らしの真実は、学院関係者の誰かがペットを連れ込んで、食料庫の食材を餌として与えてる、と。すると結構大きな動物やなぁ。食い散らかされてた食材を見たけど、牙で突き立てられてるものもあった。たぶん大人のライオンとかよりもうちょい大きい感じや。
「それでなんだが、少々気になる生徒が3人居たんだが・・・」
実地検証をこれくらいにして関係者にもう1度事情聴取を行う段階に移ろうとした時、「え、そうなの? だったら確保くらいしなよ」
「そうは言っても近寄る前に逃げられたというか。それに体格からして初等部1年で、女子だったから、乱暴な真似は出来なかった」
そう言うてルシル君は肩を竦めた。それはともかくとして「なんで、その子らが怪しいって思うたん?」訊いてみる。逃げられた、だけならこの一件に確実に関わってくるってことはあらへんはず。
「関係者への聴取中に何度か接近した。その時は逃げなかった。が、その子たちに目を向けたうえで近付くと逃げられた。話を聞かれるのが嫌だという表れだ。それに、人は不安な時、体の一部を触るという。他に、リーダー格っぽい子が背中を丸めて腕を組んでいた。これも不安に陥っている仕草なんだ」
「へえ~。査察官研修で教わったの?」
「いや、そういう経験も歴代セインテストとしての能力の1つさ。心理学でね、研修では重宝しているよ」
そうゆうわけで、その女の子3人についてシスターに訊いてみることにした。そんで初等部1年から念のための3年までの生徒名簿と画像を見せてもらうことになって、「この3人だ」ルシル君の記憶力の良さもあってすぐに見つけ出すことが出来た。
「アルマちゃんとベリトちゃんとドロテアちゃんやね」
登校時から放課後までいつも3人で行動してる初等部2年の仲良し3人組とのこと。シスター・プラダマンテが「この生徒たちが、食料庫荒らしの関係者と?」信じられへんって風にルシル君を見た。ルシル君は「それを確かめるために、この3人と話をさせてほしいのですが」って答えた。
「ですけど・・・」
「出来るだけ早いうちに解決しないと、大変な事態になるかもしれません」
渋るシスター・シャッハと、解決を急ぎたいって言うルシル君。リインが「どうしてです?」って真っ先に訊いた。
「月一回の荒らし。初期は注意しなければならない程に少ない被害。日が経つにつれて目に見えて派手な荒らしになってきた。そして今回。これまでとは比べられない程の荒らしとなった」
「そういうことか・・・!」
「アインス?」
「この子らはペットのことを制御できなくなっているんです、主はやて。管理下から離れた獣は・・・危険です」
「にゃるほど。最初は言うことを聴いていたから小さな被害だったけど、だんだん手が付けられなくなって大きな被害へ。そして今日の暴走っぽい荒らしってわけかぁ~」
重い沈黙が降りる。そんで「この3人をここ応接室へ呼びます」シスター・プラダマンテが、アルマちゃんとベリトちゃんとドロテアちゃんに直接連絡を入れて応接室に呼び出した。その時の3人の返答の声は震えてた。待つこと数分、「失礼します」3人がやって来た。わたしらはそれぞれ自己紹介して、わたしらの対面のソファに座らせる。
「それじゃあ、ちょっとお話を聴かせてもらってもええかな? 大丈夫。シスターも学院長も被害届は出さへんってことやから、正直に全部話してもらえると助かります」
出来るだけ優しく語りかける。食料庫荒らしの一件については、3人への厳重注意で済ます、ってことを待ってる時間に学院長とシスターがきめたことや。そやからわたしらはペットの捕獲に切り替えた。これ以上、野放しにしておくわけにはいかへんから。
「なんのことか、わたしには判りません」
リーダー格ってゆうアルマちゃんがそう言うた。すると『鼻に触れている。嘘を吐いていると考えて良い』ルシル君からそんな思念通話が入った。アルマちゃんの右隣に座るベリトちゃんも「ボクも判らないのです」って言うて、左隣に座るドロテアちゃんも何度も頷いて同意を示した。
『ベリトは目を擦り、ドロテアは口元を手で隠そうとする。どちらも誤魔化しや自分の言葉を隠そうとする表れだ。まぁ、そんなことに注意しなくても雰囲気からしてバレバレなんだが』
ルシル君の言う通りや。わたしでも、3人が必死に何かを隠そうと、誤魔化そうとしてるのがよう判る。そやから「君たちが匿っているであろう動物、もう君たちでは手に負えないんだよな」ルシル君がそう断言。嘘や誤魔化しはもう通用せえへんことを示すために。それからわたしらのこれまでの推測を伝える。
「――どうやろ? 間違ってへんかな?」
話し終えた後、わたしが確認を取る。強い握り拳に動揺してるんか目はキョロキョロ。そんでシャルちゃんが「もういいでしょ? あなた達のためにも、匿ってる子のためにも、正直になって」優しい声色で声を掛けた。
「っ!」
「「アルマちゃん・・・」」
「・・・わたし達も、もうどうすればいいのか・・・解らなくて・・・」
とうとうアルマちゃんが本当の事を話してくれた。事の始まりは半年前。アルマちゃん達が学院の敷地内で花壇を作るための活動中、地面に埋められてた卵を拾ったそうや。動物図鑑で卵の正体を調べたんやけど判らへんかった。そやから・・・
「どんな子が生まれるのか興味を持って、温めたんです」
「そして生まれたのは・・・」
「ドラゴンでした」
ドロテアちゃんの発したその4文字にわたしら全員が絶句。ドラゴン。魔法があって、異世界があって、いろんな不思議があった。そやからトンデモアニマルも居るんかなぁ、って思うてたけど、まさかドラゴンとは思わんかった。どないしよう。めっちゃ見たい、触りたい。
「最初は、みなさんの言う通り大人しく、言うことを聴いてくれました。本当に小さな命だったんです」
「だけど、時間が経つにつれて大きくなって、我が儘になって、言うことを聴かなくなって・・・」
「・・・今日、気付いたらもう勝手に食料庫に入り込んじゃったんです・・・」
「「「ごめんなさい・・・」」」
その後、アルマちゃんとベリトちゃんとドロテアちゃんから聴取を終えた後、3人から聴き出した卵の形状と柄を「セレネちゃん、エオスちゃん。どう、心当たりある?」2人に教えて、どんな種類のドラゴンかを訊いてみた。
「う~ん、そんな柄の卵のドラゴンなんて知らないなぁ~」
「新種なのかもよ。そもそもドラゴンなんて管理世界出身者でもそうそうお目に掛かれるものじゃないし。それに、スクライアでも知らない事はたくさんあるよ」
2人からは目ぼしい情報は得られへんかった。そんで「ダメだな。ユーノも知らないそうだ。一応、無限書庫を使って調べてくれるそうだ」ルシル君は数少ない男友達のユーノ君に連絡を入れてもろたんやけど、ユーノ君でもアカンかったようや。
「誰もが認める博識のルシルでも、やっぱ知らない事もあるんだね~」
「当たり前だ。全知全能な人間なんてかえって気味悪いだろ? 俺だって学んでいないものは知らない。ま、一度学んだらもう忘れないから、いつかは全知になるかもな」
そう言うたルシル君はどこか寂しげな顔やった。それからユーノ君からの調査報告が来るまで学院内を調べようってことになって、わたしらはそれぞれ騎士服に着替えて見回りを始める。まずは、アルマちゃん達から聞いた、いつもドラゴンを匿ってるってゆう学院近くの森の中。空と地上両方から捜索。
『しかしAMFを備えたドラゴンとは。対魔導師戦では危険な能力です。主はやて、お気を付けて。ルシル達も、十分に注意してくれ』
もう思念通話くらいしか使えんなったアインスは学院でお留守番。そんなアインスから気遣い。魔法のトラップやカメラが機能せえへんかった理由はそれやった。
AMF――アンチ・マギリンク・フィールド。魔力結合や魔力効果発生を無効にするAAAランクのフィールド系魔法防御。フィールド内では攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害されて、濃度が増すほどに魔力の結合が解除されるまでの時間が短縮されるって学んだ。
『うん。おおきにな、アイン――』
アインスに応えようとした時、学院からドンって爆発音と、遅れて噴煙が上がった。よう見ると、大きく翼を広げたドラゴン1頭が地面から生えるような形で姿を見せた。
「デカ!」
「想像以上に大きいです・・・!」
「アルマちゃん達・・・150cmくらいって言うてたよな・・・?」
「あ、ああ。だがあれはどう見ても・・・3mはあるぞ」
とにかくわたしは『アインス、大丈夫か?』アインスの無事を確認する。すると『はい、問題ありません。あの、ドラゴンが出現しました』アインスは答えてくれた。急いでルシル君たちと合流して、『うん、見えてる。すぐに向かうな!』校舎のすぐ側にある第1競技場へ飛ぶ。
『アインス、生徒の避難はどないや!?』
『え、あ、いえ・・・。おそらくもう終わるかと思います』
『終わる・・・? 避難がか・・・?』
『・・・いえ。ドラゴン退治が、です』
アインスから返って来たのは力の無い言葉。ドラゴン退治が終わる。ルシル君らと顔を見合わせる。シャルちゃんが「とりあえず急ご!」先行したから、わたしとルシルとリインも続いた。そんで現場に着く前、「ドラゴンが・・・!」ゆっくりと倒れてくんが見て判った。
「アインス!」
「主はやて!」
第1競技場に降り立って、ドラゴンの側に居ったアインスに駆け寄る。ドラゴンに群がる生徒に、「ほら、離れて!」近付かへんように注意する先生たち。そんで「シスター・プラダマンテ・・・」が剣1本を携えて佇んでた。側にはアムルちゃん達も居って、「ごめんね・・・!」泣き崩れてた。
「プラダマンテ。殺したの・・・?」
シャルちゃんがちょう責めるような声色でそう訊いたら、「いいえ。気を失わせただけです。無暗な殺生なんて好みませんから」シスター・プラダマンテは剣を鞘に収めながら答えた。
「このサイズは幼竜です。まだまだ学の足りない子供ですから、本能に忠実なんですよ。そんな子供を殺すわけにはいきません」
その後、ドラゴンの生態を研究してる施設に連絡が行って、ドラゴンは引き取られた。後日に知らせてもらったんやけど、ドラゴンの名前や、その種類が棲息してる世界が判明したことで、その世界に還されたとゆうことや。
「――なんやあっという間に1日が過ぎてもうたな~」
陽が傾き始めた放課後、わたしら見学組はシスター・プラダマンテと挨拶を終えた後、トリシュちゃんとセレネちゃんとエオスちゃんを待つために正門で待機中や。午前中はちゃんとした見学やった。そやけど午後はほとんどドラゴン騒ぎに費やしたけどな。でもま「楽しかったな♪」ってみんなを見る。
「ああ」
「ホント♪」
「そうですね」
「良い経験になりましたです」
こうして、わたしらのザンクト・ヒルデ魔法学院の見学ツアーは終わった。トリシュちゃんとセレネちゃんとエオスちゃんとは途中まで一緒に帰って、わたしら見学組は本局・第零技術部へ戻って、そこから海鳴市に帰った。
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