黒衣
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2部分:第二章
第二章
「何か不思議ですね」
「不思議とは?」
「はい、若い頃は死ぬことが怖かったです」
その頃はというのだ。
「絶対に死にたくなかったです」
「絶対にですか」
「はい、できれば不老不死でいたかったです」
そのことを話すのだった。若い頃のその考えをだ。
「ですが」
「ですがですか」
「はい、今は違います」
そうだというのである。
「死ぬことを受け入れられるようになっています」
「変わられたのですね」
「不思議ですね」
また微笑んで話す彼だった。
「そうした考えになるなんて」
「多くの人がそうみたいですね」
「多くの人がですか」
「はい、そうです」
医師もだ。昌良に穏やかな声で話すのだった。
「死を前にすると達観するようになるみたいですね」
「今のわしみたいに」
「羽生田さんは九十歳ですね」
彼のその年齢についても話される。
「そうですね」
「ええ。そこまで生きられました」
「そこまで生きられた方は殆んど」
「こうした考えになりますか」
「その様ですね」
また話す医師だった。
「その御歳に至ると」
「そうなのですか」
「若い頃とは考えが変わるのは当然です」
医師は彼に対してだ。穏やかに話すのであった。
「それだけのことを経てくるからです」
「人生のですね」
「ですから。その中で」
「その人柄が変わっていきますか」
「いい意味の場合も悪い意味の場合もありますが」
「ではわしは」
良昌は自分のことを話した。
「どっちでしょうか」
「いい意味の場合だと思います」
そちらだとだ。医師は話すのだった。
「羽生田さんの場合は」
「そうですか。いい意味ですか」
「そうだと思いますよ。現に今もです」
「死ぬと言われてもですね」
「それを受け入れられていますよね」
このことをだ。昌良自身に話すのである。
「そうですよね」
「確かに。それは」
「だからです。ではです」
「はい、それでは?」
「このまま穏やかに日々を過ごして下さい」
優しい声で昌良に告げたのである。
「そうして下さい」
「それではです」
こんな話をしてだった。そうしてであった。
昌良は最後の日々を過ごしていく。その中でだ。
不意にだ。今日も来た医師の白衣をぼんやりと見ているとだ。急にだった。
その白衣がだ。黒く見えたのである。その白衣を見て言うのだった。
「おや」
「おや?」
「不思議ですね」
こうだ。微笑んで言うのである。
「先生の服が黒く見えましたよ」
「私の服がですか」
「黒く見えました」
そうだというのである。
「何故かわからないですけれど」
「黒ですね」
「はい、黒です」
医師の問いにも答える。
「黒く見えました。不思議ですね」
「黒といいますと」
医師は昌良の話を聞いてだ。そしてだった。
考える顔でだ。彼にこう話すのだった。
「死の色ですね」
「喪服やそういったものですよね」
「はい、俗に言う死の色です」
黒はだ。そうした色だとだ。二人で話すのである。
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