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美術部所属の天才は一人部屋の奥

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目が覚めると

俺は、絵を描く事が生きがいだった。絵を描く事は、俺にとっての幸せだった。ペンや筆を持って自分の好きなように描く…それは、俺の夢であり希望であり人生。暇さえあれば筆を持って長々と描いていた。自分の理想がつまった絵が完成したときのあの感動は、今でも覚えている。…またあじわいたい。

小学生の頃、絵のコンクールで金賞をもらった。初めてもらった賞だ。俺は、自分の絵が認められた事が嬉しくてそれがきっかけで本格的に描き始めるようになった。とはいえ、まだ幼い俺にはこれといった素晴らしい絵は描けなかったけど。

卒業後、俺は木葉学園という大きな学校の中等に入学。試験は、難しかったけど木葉学園の美術部にどうしても入りたくて試験を受けた。見事合格し、入学してすぐ美術部に入った。あこがれの美術部。ここの美術部は、大きな大会で何回も賞をもらっているらしい。だから自分もそこに入って沢山描いて絵を上手くしよう、そう思ったのだ。…それが俺の理想図。




…朝か。またかったるい朝がやってきた。憎たらしいぐらい今日は、天気がいいみたいだ。まぶしいっつーの。そんで授業めんどくせぇ…そう思いつつ支度をする。木葉学園は、全寮制。学校から少し離れたところに建っている。学校のなかにい入れろよ、と誰もが思うだろう。

「あー…今日美術あんのか、あと体育。…さぼろ。」

「色彩~起きてる?」

ノック音とともに聞きなれた声が聞こえた。たくま先輩だ。たくま先輩は、美術部の部長をやっている俺の先輩。いつも明るく後輩たちに振る舞っている。そんなたくま先輩が俺みたいな不良がとからんでいていいのかと時々思う。不良っつってもなりたくてなったわけじゃない。誰かが言ったんだ。色彩は、不良だ。生徒や先生からんでいる。そしてなにかあればすぐ物を壊す…とな。いつしか俺のまわりには誰もいなくなっていた。

「…はようございます。」

「おはよう、色彩。一緒に行こう。」

「…はい。」

ああ、もうどうあがいても無駄なんだな。何言っても誰も聞く耳を持ってくれない。なら俺は、俺が望んだままを描いて俺が望んだとうりに終わらせよう。そう心に決めた。だから今俺は、本当に不良になった。それなのに…たくま先輩は、俺から離れようとしてくれない。どうしてそこまでしてくれるのか?どうして俺の見方をし続けてくれているのか、全くわからない。それに俺のせいで最近たくま先輩の悪い噂が流れ出しているのに。

「どうした?色彩。しけた顔して?なんかあったの?」

「いえ。」

「そう、でもなんかあったら一人で抱え込むなよ?悩みがあればいつでも俺がきいてやるからさ。」

「…」

俺にむかって笑顔で喋っているたくま先輩が怖い。この人は、優しいってわかってるけど…いつかその笑顔がなくなるんじゃないかと考えると本当に怖い。ウソつかれるのが一番、他の何より苦手だ。いや、『嫌い』だ。

「じゃあね、色彩!ちゃんと授業をうけるんだぞ?」

『はい。』なんて答えられない。答えればウソになる。ウソは、なるべくつきたくない。ウソツキがどんなに人生を狂わせるかは、おれ自身が、身をもって体験した。…先輩には、俺は、どう見えてますか?



教室のドアを開けると必ず俺のところに注目が集まる。『うわ色彩が来た』とでも言いたそうな目がをして俺を見る。まじ、見るんじゃねーよ。わざと目付きを悪くして今にも怒鳴るんじゃないか?と思わせるような顔をした。案の定伝わったようで皆急いで目をそらし何事もなかったように戻った。俺は、自分の席に行きガタンッと勢いよく座って寝るふりをした。

「あ!兎兎(うと)君だ!!」

「うそ?!行かなきゃ!!」

そんな声がしたかと思えば今度は、女子達のうるさい声が聞こえた。きゃあーきゃあー騒いで。俺よりうるさいだろ。俺を怒る前に朝っぱらからうるせぇ女子どもを怒れっての。あーうるせぇ。





それからしばらくたったある日、俺は、俺にとって厄介な人物に出会った。

「なんでまたお前は、学校の物を壊そうとするんだ!!」

「はあ?いや、邪魔だったからよかしただけだろ。悪いかよ?」

「そんな事をしていいと思ってるのか?!」

「うるせぇな。」

またうるさい生活指導のセンコーに怒られている時だった。俺の怒られている姿を一目見ようと、沢山の見物人が来ている。まあ、毎度のことだから別にいいんだけど。つかお前(センコー)の声うるさすぎだろ。あと、話長い。

「聞いているのか?!色彩!!」

「あのなぁ…」

「先生!!」

誰かが教室に入ってきた。今までの変な空気をかき乱すように。そして説教中のセンコーの前に立った。誰だか興味はないが、センコーの話を聞かなくてすむならありがたい話だ。

「なんだ兎兎?悪いが今は、この通りだ。急用じゃないなら後にしてくれ。」

「すみません。でも俺にとっては、かなり急用なので。あの、ここの問題がわからなくて教えてほしいのですが…」

「それなら後にしてくれ。」

…こいつ馬鹿だろ?説教中に入ってきて急用だと思えば問題がわからないので教えてほしい?全然急用じゃないだろ。馬鹿にもほどがある。て言うか馬鹿だからこの場の空気が読めないのか。…そういやあ、兎兎って名前どっかできいたことあるような…?

「先生。俺の将来が先生の行動で変わるんですよ?それに俺は、先生が教えてくれる勉強が大好きなんです。…駄目ですか?」

「でもなあ…」

「あ、あともう授業始まりますよ?次の先生廊下で待ってますし。今日は、これぐらいにしましょうよ?早く先生の授業受けたいですし。あー!!皆!!教室に戻ったほうがいいよ?!もう先生来てるかも?!」

この変なやつの声かけで見物人は、あっという間にいなくなった。俺のいる教室には、生徒が全員座っており、とてもじゃないけど説教しずらい雰囲気に。センコーは、諦めたらしく「次何かやらかしたらただじゃおかないぞ!!」と教室を出ていった。『あいつ』とともに。…なんなんだ?『あいつ』は。

「…いいかんじかも。シナリオどおり。」

なんとなく気が狂う。…なんかよく考えてみると嫌な予感っていうか何て言うか、のせられている気がしてならない。だっていくら馬鹿でもあそこまで馬鹿だとは、考えづらい。(あいつの場合)わざと出てセンコーを連れていって何をするつもりだったんだ?あいつは、何を始めるつもりなんだ?全然わからねぇ。これは、あくまでも俺の今までの経験からの考えだけど。予感が的中しないといいが…。あいつは、要注意だ。




「…部活。」

最近放課後は、ほとんど学園長とセンコーの説教でしめている。絵描いてない。今日行こうか迷う。でも今なら描けるか?あの『不完全な理想図』を。俺の求めた理想図は、探しても探しても見つからない。だから俺は、描き続けた。俺の求めた絵が描けたとき、俺の中でなにかが変わるとそう思ったから。でも描けるはずがない。今の俺じゃ。足りないものが多すぎて。まず何が足りないのかすらわからない。他のやつらには、青く、綺麗に見える空も、俺には、黒や灰色にしか見えない。違う、違う。そんなの違う。空は、青に決まっている。だから青じゃないといけない!!

「…色彩。」

もう、やめよう。無理だ。俺の筆がそう言った気がした。俺は、それにこたえるかのようにその場から離れた。

「もういいのかい?久しぶりに来たのに。」

「もう『無理』なんです。」

明るかった空に厚い雲がかかって暗くなった。まるで俺の中みたいに。




目が覚めた。また同じ朝がきた。これを繰り返す意味は、なんなのかと考える。考えても見つからなかったから気持ちを絵で表した。なんだこれ。ああ、まだちゃんと目が覚めてないのかもしれない。と急いで顔を洗った。

「覚めてるっつーの。」

今思ったけど今日休みじゃん。なんで起きたんだろう。そこを通り越してなぜ俺は、今日に限って早く起きた?と考えた。そしたらたくま先輩の声が頭の中でよぎった。「休みの日ってゆっくりしたいのに早く起きる。それは、ゆっくりするためかもしれない。だから俺は、外に出てゆっくりと絵を描くんだ。」って。…絵を描けってこと?窓をバッと開けて風をいれた。あったかいような涼しいような。俺の好きな風だな。ノック音がして声が聞こえた。…いつものあの声。

「色彩~起きてる?」

もう行くしかないみたいだ。

「おっと…窓窓…。」




「いや~悪いね色彩。休みの日なのに」

「いいんです。」

俺も起きたんで。というのは、心の中だけにしておこう。『意外だな~』って言われそうだから。

「どこに行く?」

「俺は先輩の行くところならどこでもついていきます。」

「そう?あ、じゃ、ちょっと遠出するか!!」

たくま先輩は、そう言って駅にむかっていった。本当に遠出だな。電車に乗るのは、いつぶりだろう。最近出掛けてないもんなぁ。いつもかったるいっていう理由で。どこへも行かなかったし。

「たくま先輩、どこに行くんですか?」

「ん?そうだなぁ~ついてからのお楽しみとしておこう。」

「決めてないとかは、ありませんよね?」

「心配しないで。ちゃんと決めてある。」

まあ 、そうだわな。たくま先輩は、計画性のある人だからそこは、心配なさそう。…油断は、できないけどな。結構ドジっぽい時とかあるし。

「色彩!見てごらん!綺麗な海だろう?!」

電車の窓からキラキラ輝く海が見えた。俺は、すかさずカメラを取りだし写真を撮った。いつかここ(電車の中)から見える…いや、ここでしか見られない素晴らしい景色を描きたい。今感じた感動を誰かに見てもらいたいそう思った。しばらくして電車は、終点まできて止まった。ここで俺達は、降りた。…ここは、一体どこだろう?ずいぶん遠くまで来たなあ。

「たくま先輩、そろそろ教えてください。」

「しょうがないなぁ…といってももう目的地だけどね。」

坂を少し登った先に見えたのは、白い家だった。

「ここ、俺の家みたいなところ。実家は、もうちょっと先だけどね。」

かっこよくいえば別荘みたいなところらしい。ちなみにこの家、元々たくま先輩のおじいさんの物でそれをたくま先輩が絵を描くために譲ってもらったのだとか。おじいさんは、昔画家で先輩と同じくここで絵を描いていた。

「『綺麗な景色は、人を育てる。綺麗な景色は、心を洗う』っておじいちゃんがよく言っていたよ。本当にだね。」

「そうですね。」

「さってっと、早速描くか。コンクールもあるし。色彩は、コンクールどうするの?」

「俺……俺は………考えておきます。」

美術部は、ほとんど強制だから出さないといけないんだけど……怖いんだよ。駄目だって言われるのが。馬鹿にされるのが。『落ちた才能』って言葉も、全て。中等で噂が流れた。トラウマになった。だからこそ『あげないと』って焦ってる。今不良とか関係なしに。

「…あのさ、色彩は、すっごく絵が上手い。うちの部員の中でもトップだと思う。
…でもね、大事なのは、肩書きなんかじゃない。気持ちと、どんな思いで見てほしいかじゃないかな?俺は、そう思うんだ。それに絵は、感情が出やすいからな?」

先輩の言葉で俺の中の何か分厚い殻みたいなものが少し破けた。

「さ、ゆっくりしよう?せっかくの休みなんだしね!」

「はい。」





夢中になって絵を描いていたら夕方になってしまった。

「そろそろ片付けようか。」

「はい。」

絵は、まだ途中だったけどまた今度にしよう。また次これたら。

「色彩、俺の家…あー実家のほうね。今日そこに泊まろう。」

「あ、ありがとうございます。」

今から電車で帰ると遅くなるので、たくま先輩の実家に泊めてもらう事に なった。実家は、結構近く、ここから歩いて十分程度のところに建っていた。…なんか先輩の家が羨ましくなった。建物がびっちり建っていなくて見えるのは、綺麗な自然あふれる景色。しかも家は、山のちょっと手前に建っているので海と、山両方が一緒に見れる。…贅沢すぎる…!!
ここで絵が描ければなぁ。

「ただいま~」

「たくま、お帰り。あら?そっちの子がたくまの後輩さん?」

「あ、えと、色彩です。お世話になります。」

「色彩君…もしかしてたくまがいつも話していた子じゃない?」

「そうだよ、母さん。」

「たくまの方がきっとお世話になってるかもね。」

「 なんだよそれ…あ!色彩、おじいちゃんのとこに行こう!母さん、おじいちゃんいる?」

「二階にいるわよ。」

「わかった。」

二階へと続く低い階段をのぼるとすぐ目の前にドアがあった。どうやらそこがおじいさんの部屋らしい。ドアが開くとおじいさんが窓の近くに座っていた。

「おじいちゃん、後輩連れてきたよ。前おじいちゃんに話した子。」

「ん?おお、たくま。そうかそうか。」

「はじめまして、色彩です。」

「?お前さんが色彩君かぁ!おお、会いたかったぞ!」

「おじいちゃんは、色彩のファンなんだよ。前に色彩の絵を見せた事があってね。…ちなみになんだけど、おじいちゃんは、日本の画家の中でかなり有名人なんだ。」

そんな凄すぎる人にファンになってもらえたのか…!!なんだか不思議で仕方ない。というかありがたすぎる。俺には、もったいない。

「お前さんの絵は、どれもこれも素晴らしい。このまま頑張るんだぞ?」

「ありがとうございます。」

「だが何か悩んでいるようじゃのぅ。」

「…!」

「おじいちゃん!!」

「いいからたくま。色彩君、よく聞くんじゃ、たくまもな、誰だって失敗は、するし挫折もする。特に画家は、あーだこーだ言われる。けど、そこでくじけたらおしまいじゃ。だからもし、そういうことがあったら休め。休んで切り替えるんだ。好きな事をしろ。外に行くもよし、テレビや漫画でもいい。新しいひらめきが生み出せれば何でもいいんだ。」

「うん。そうだね。」

「で、困ったことがあったらじいちゃんに相談しろ! 何でも聞いてやるからな!!」

「ありがとうございます。」

おじいさんは、凄かった。俺が 思っているより強くてたくましくて。…俺もこんな風になりたかったんだろうな。やっぱりすごい。そうか、ひたすら描き続ければいいって事じゃないんだな。俺は…間違っていた。さっき先輩が大事なのは、肩書きじゃないって言ってたよな。絵に肩書きも何もいらない。大事なのは、『気持ち』。きっとこれが俺に足りなかったものなのかもしれない。



「本当にありがとうございました!!」

「またいつでもきてね。」

「色彩君、頑張るんだぞ?」

「じゃあ母さん、父さんと弟と妹によろしく。」

先輩との休日は、今までの中でかなり特別なものになった。絵を描いて景色を見ておじいさんとたくさん話して、学んで。今までやったことのないことをできて本当に良かった。…休日の時だけは、早起きは三文の得だな。休日だけな。

「たくま先輩、俺ここにこれて良かったです。また連れていってください。」

「お?色彩?待ってたよその言葉!!嬉しいね。」

俺にとって大切なものは絵だ。絵がかければそれでいい。…だったかな。小学校の頃に聞かれた自分の大切なもの。俺は、絵が大好きだ。  
 

 
後書き
どうもお久しぶりの小僧です。新作は、ゆっくり出すつもりでしたが…他の作品の書き直しも遅くなりますががんばります!!閲覧ありがとうございました!!

by小僧 
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