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遊戯王デュエルモンスターズ ~風神竜の輝き~

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第3章 新たなる好敵手
  第16話 決意する2人

 
前書き
長らくお待たせしてしまって申し訳ありません。
第3章、完結編となります。お楽しみください。 

 
遊雅がバラムを退けて火凛を救出した、その翌日。
遊雅のルームメイトである秋弥ともう1人の男子生徒は、とある理由で困り果てていた。

「どうしよう……遊雅、全く起きる気配がないよ……」
「集合時間まであと10分しかねーぞ……叩き起こすしかねーな、こりゃ」

そう、遊雅が熟睡しており、いくら声をかけても起きようとしなかったからだ。
夜更かしをした上に、常軌を逸したデュエルで疲弊した体で睡眠をとったとなれば、それも必然だろう。

「おい南雲!さっさと起きろよ!」

男子生徒は遊雅の上半身を起こし、それを前後左右に激しく揺さぶる。
そうしている内に、とうとう遊雅は目を覚まし、その重い瞼をゆっくりと持ち上げた。

「んぁ……んだよ、もう少し寝かせろよな……」
「駄目だよ遊雅!集合までもう時間がないよ!このままじゃ怒られちゃうよ!」
「早く起きろって!俺らまで巻き添えはごめんだぜ!」

2人は必死に呼びかけるが、遊雅は半覚醒状態を維持したままで、再び眠りにつこうとする。
と、そこで、集合時間間際になっても現れない3人の様子を見に、亜璃沙が部屋を訪れた。

「みんなどうしたの?そろそろ集合よ」
「あっ、亜璃沙!遊雅が起きないんだ……どうすればいいかな?」

秋弥の問いかけに、亜璃沙は一瞬、心底呆れたような表情を見せた。
ため息をつきながら、亜璃沙は遊雅の元に歩み寄り、このように声をかける。

「遊雅ー、起きないならあなたのデッキもらって行っちゃうわよー?」

一瞬、秋弥ともう1人の男子生徒は亜璃沙の意図が読めなかった。
しかし、2人はその言葉を投げかけられた相手がどんな人間であるかもまた、失念していた。

「うわぁぁっ!!」

効果覿面(こうかてきめん)。遊雅は一瞬の内に飛び起きて、自分のデッキケースに手をやり、デッキが残っている事を確認してほっと一息ついた。
そんな様子を見て、2人はなるほど、と納得する事になる。

「流石は幼馴染……」
「ほら遊雅、集合までもう時間がないの!早く!」
「なんだって!?くっそぉ、お前ら何でもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」
「しばくぞお前!?」

部屋の隅に放り投げられていた上着を拾い上げてから、遊雅は他の3人と共に部屋を出て、集合場所である、宿の食堂へ急いだ。
集合時間は7時。遊雅達が食堂に着いた時の時刻は、6時59分。7時まで30秒を切っていた。

「ふぅ……ギリギリセーフ……」
「アウトだ。5分前行動を心がけろと言ったはずだな」
「げぇっ、先生!?」

担任教師にそのように咎められ、遊雅達は平謝りする他なかった。

◇◆◇◆◇◆◇

朝食をとり終えた翔竜高校の生徒達は、森林公園の登山口で点呼を行っていた。
周囲を山で囲われたこの場所は、キャンプだけでなく、登山も楽しむ事ができるのだ。
間もなく、一同は施設の職員、並びに教員の引率に従って、登山を開始する。
別に、規則的に1列に並んで山道を行くわけではない。生徒達は集団から著しく離れない範囲内で、比較的自由な隊形でいて構わない。
故に、縦列でも横列でもない不規則な隊形で後ろを歩く生徒達を、引率者達は咎めようとしなかった。
そして遊雅達第2班の面々もその例に漏れず、各々が自由気ままに、昨日散策した森とはまた違った姿を見せる森の様子を観察しながら歩いていた。

「山登りって結構足に来るんだねぇ……ちょっと辛いかも」
「下りはこれより楽になるかなぁ?」
「いや、下りって上りより辛いらしいぜ?俺も経験した事ないけどな」
「えぇ~、南雲君、それほんと?やだなぁ……」

男性陣は年相応の好奇心を満たすような事を、注意を受けない範囲で行っていた。
一方で女性陣は、自身の体にかかる負担を鑑みて、登山と言う行為にいかばかりか不満を抱いている様子だ。
今回の登山は、山の中腹にあるコテージで2時間の自由時間を過ごした後に、再び山頂に向けて出発すると言うスケジュールで行われている。

「まだ10分かぁ……ちょっと長いなぁ……」

1人の女子生徒が、再び不満を口にする。
生徒達は事前に『コテージまでは30分近くかかる』と聞かされている。
女子生徒の言葉通り、登山開始から経過した時間は10分。まだ3分の1を消化したに過ぎなかった。

「疲れた疲れたって考えてると、余計に疲れるぞ?誰かと会話したり、周りの様子を観察したりしてたら、残りの道のりなんてきっとすぐだぜ」
「遊雅にしては珍しく共感できる意見ね」
「珍しく、は余計だけどな」
「はいはい。あっ、ほら見て、リスがいるわ!」
「わぁ、ほんとだ!可愛い~!」

亜璃沙の協力によって女子生徒が復活した事を確認して、遊雅は再び秋弥や他の男子生徒との会話に戻り、残りの道筋を消化して行くのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

山の中腹に建てられたコテージは、昨晩宿泊した施設ほどではないものの、中々の大きさだった。
流石に2クラスの生徒全員が室内で休憩するには手狭だったが、外にもベンチや東屋が設置されていたので、60人程度ならば窮屈に感じる事無く休憩出来た。
先程、同じ班の女子にはああ言ったものの、初めて経験する登山は遊雅にもそれなりの負担をかけていた。
とはいえ、消化した道のりはまだ半分程度。後半に備えて、遊雅は東屋の中にも備え付けられたベンチで体を休めている。
テーブルの上に手を置いて大きく息を吐いてから、遊雅は何となく、左手首に装着したデュエル・ディスクに注視した。
そして思い出す、昨日の出来事。

『これで終わったと思わない事だな……!』

それは、襲撃者バラムが去り際に残して行った言葉。
一体、彼は《フレスヴェルク・ドラゴン》を何のために欲しているのか。
分からない事はそれだけではなかった。
アルカディアシティで初めてバラムと接触した際、周囲に遊雅以外の人の姿がなかったにも関わらず、彼は誰かと会話しているような独り言を漏らしていた。
あれが本当に独り言だったのだろうと考えるほど、遊雅も楽観的ではなかった。
となると、敵は複数存在すると言う事になる。
昨晩は何とか彼に勝利した物の、それも《フレスヴェルク・ドラゴン》の導きがなければ勝ち取れたかも定かでない結果だった。
そんな相手に更に協力者がいるとなれば、それはもはや遊雅の手に負える相手ではなくなってしまう。
どうすればいいんだ……遊雅がそう考えた所で、彼の思考に何者かが介入して来た。

「何が?」
「えっ?」

遊雅の思考を中断させたのは、いつの間にか彼の隣に腰掛けていた亜璃沙だった。
突然声を掛けられた事にも驚いたが、何より疑問だったのは、亜璃沙に掛けられた言葉の意味だ。
遊雅はその言葉を、ほとんど変わらない形でそっくりそのまま亜璃沙に返した。

「何がだ?」
「いや、今『どうすればいいんだ』って呟いてたから……」
「……俺、口に出してたか?」
「ええ、何か悩んでるみたいだから隣に来てみたら、いきなりそんな事言うから、つい気になって聞いちゃったわ」
「そ、そうか……いや、何でもない。気にしないでくれ」
「……ねぇ、何かあったの?」

亜璃沙の問いかけに、遊雅は正直に答えるべきか否か、しばし迷った。
時間にしておよそ30秒、お互いに無言の状態でたっぷり考え込んだ結果、遊雅は亜璃沙に自分の悩みの種を打ち明ける事にした。
彼女に何かを聞かれたら正直に答える、と言う約束を遵守した結果だ。

「実は……昨日の夜、またあいつに襲われたんだ」
「あいつって……《フレスヴェルク・ドラゴン》を狙ってるって言う?」
「ああ」

その言葉を聞いて、亜璃沙の顔に明らかな動揺の色が浮かんだ。
非常に近しい存在である幼馴染が2度も襲撃されたとあっては、無理もないだろう。

「みんなが寝た後、燈輝から連絡があったんだ。ACSの生徒が1人、何者かにさらわれた。だから、取り戻すのに協力して欲しいって」
「……それで?」
「その生徒をさらったのが、あいつだったんだ。デュエルで勝てばさらった生徒を返してもらうって約束で、俺はまたあいつとデュエルしたんだ」
「勝ったの?」
「何とか、な……それで逃げる時に、あいつは言ったんだ。『これで終わったと思うな』って」

亜璃沙は俯いて、視線の先にあった自分の両手を合わせて強く握り締めた。
そうして何とか不安を押し殺しながら、彼女は遊雅の話の続きを促した。

「最初に会った時、あいつは去り際に、誰かと会話してるような口ぶりで喋ってたんだ。その場には、俺とあいつ以外に誰もいなかったのに」
「……どう言う事?」
「分からない。俺は敵が複数いるんじゃないかと思ってる。昨日も普通じゃない能力を使ってたみたいだし、離れた仲間と交信する能力があるなら、その独り言にも説明がつくだろ?」
「そんな……1人だけでも強敵なのに……仲間までいるなんて……」
「でも、負けられない。フレスヴェルクをあいつらに渡すわけにはいかないんだ」

そんな遊雅の決意表明にも似た言葉に対する亜璃沙の返答は、彼に対する激励ではなく、むしろその逆の言葉だった。

「ねぇ、遊雅……そんなに《フレスヴェルク・ドラゴン》に拘る意味があるの?」
「……どう言う意味だ?」

口ではそう問いかけた物の、遊雅は亜璃沙が言わんとする事を既に理解していた。
何しろ、似たような事を母親から既に言われている。家族のように親しい亜璃沙ならば、母親と同じように自分の身を案じて、同じような提案をして来るだろうと分かっていたのだ。
それでもあえて分かっていない振りをしたのは、遊雅にとって一種の意地のような物だった。

「自分が危険な目に遭ってまで、あのカードを使わなきゃいけない理由があるの?確かに強いカードだけど、遊雅が買ったあのシンクロモンスターだって、十分に強いじゃない。それだけじゃ、駄目なの?」

その問いに、遊雅はすぐには答えられなかった。
何しろ遊雅自身にも、明確な理由があるわけではないのだ。
しかしそれでも、彼に引き下がる気は微塵もなかった。

「俺にも分からない……でも、フレスヴェルクは絶対に誰にも渡しちゃいけないって……そんな気がしてならないんだ」

それは明確な根拠に基づいた物言いではない。
あえて何かの言葉に当てはめるとすれば、それは『第六感』とか、『直感』とか、そう言う類の物だった。

「確かに俺も、どうすればいいかなんてわからないけど……でも、出来る限りは戦い続けたいんだ」

遊雅は《フレスヴェルク・ドラゴン》が自分にとって、ひいては自分以外の誰かにとっても大切な存在である事を確信していた。
父親から明かされた真実、そして、デュエルで()の竜を使役した際の遊雅に対する態度、昨夜のバラムとのデュエルでの出来事。
それらを自分の耳で聞き、自分の目で見て来た遊雅は、もはや《フレスヴェルク・ドラゴン》は自分と無関係だとは言えなかった。

「……何を言っても無駄、って言うような顔してるわね」
「悪い。いくら亜璃沙でも……いや、例え母さんや父さんだったとしても、これだけは譲れない。許してくれ」
「分かったわ。でも、もし私にも役に立てそうな事があったら教えて。あなただけにそんな危ない事はさせられないわ」
「本当はお前を巻き込んだりはしたくないんだけどな……ああ、約束するよ。駄目って言っても聞かなそうだしな」
「お互い様じゃない」

話に一段落がついた丁度その時、第2班の面々が同じ東屋を訪れた事で、遊雅と亜璃沙の密談はそこで途絶えた。

「みんな、どうしたんだ?」
「おう南雲、何か2クラス合同でデュエル大会やるみたいだぜ。参加しないか?」
「おっ、まじか!もちろん参加するぜ!」

これからまだ山を登るというのに、尚遊ぶ元気があるのかと、女子生徒達は半ば呆れていた。
そして亜璃沙は、先程まで見せていた陰鬱な雰囲気を払拭していつも通りの様子を見せ始める遊雅の後姿を眺めながら、自分はまだ不安の檻の中に囚われていた。
そんな彼女の様子に気付いた秋弥と女子生徒2人、つまり同じ班に属する3人が、亜璃沙を心配して話しかけて来る。

「亜璃沙ちゃん、どうしたの?何だか元気がないみたいだけど」
「……ううん、何でもない。登山なんて初めてだったし、ちょっと疲れちゃったかも」
「大丈夫?私達も一緒にいようか?」
「ありがとう、でも大丈夫よ」
「そっか……無理しないでね、私達、向こうに行ってるから」
「うん、ありがとう」

亜璃沙と一通り言葉を交わしてから、2人の女子生徒は再び去って行った。
続いて、残った秋弥が彼女に話し掛ける。

「亜璃沙、何か悩み事?」
「……ううん、そうじゃないわ。心配掛けてごめんね」
「気にしないで。それじゃ、僕も遊雅達と一緒にいるから……何かあったら、相談くらいなら乗るよ。だから、あんまり思い詰めないようにね」
「うん、分かってるわ。ありがとう」

その場を後にする秋弥を見送って、亜璃沙は再び物思いに耽るのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

デュエル大会は遊雅の優勝で幕を下ろした。
優勝賞品は大会主催者が用意した菓子と言う、生徒主催にしては妥当とも言える物で、遊雅はそれを第2班の面々と分け合って頬張りながら、引率者の後について山道を歩いている最中だ。
行儀がいいとは言えない行為だが、ごみさえ自分で処理すれば構わない、と言う施設職員のお墨付きを頂いている。
山頂までの道のりも、残す所あとわずかだ。

「亜璃沙、もういいのか?」
「ええ、これ以上食べたらちょっと、ね……」

遊雅のお裾分けを、亜璃沙は苦笑しながらそう断った。
そんな様子を見て遊雅は、休憩時間中に自分が与えてしまった不安を、彼女はある程度振り払ってくれていると見て、自分もいつも通りの自分に戻る事にする。
亜璃沙も全く同じ事を考えていた事を、遊雅は知らない。

(遊雅だって、あんなに明るく振舞ってる……私が落ち込んでちゃ駄目よね)

彼女は密かに、心の中でそう言う決着をつけていた。
休憩時間中に気を掛けてくれた女子生徒達はしきりに亜璃沙の様子を気にしていたが、そんな彼女達にも謝辞を述べて、亜璃沙はいつも通りの彼女に戻ったのだった。

「あっ、おい!それ俺が食おうとしてたんだぞ!」
「いいじゃねーか、俺だってこれ好きなんだよ!」
「優勝したのは俺だぞ!」
「菓子くらいで細かい事言うなよ!」
「2人とも、喧嘩するならこれは私がもらっておくわ」

1本のチョコバーを巡って火蓋が切られた小競り合いに介入したのは、亜璃沙だった。
男子生徒の手に握られるチョコバーを瞬く間に抜き取り、2人の目の前で封を切ってかじり付く。
そんな彼女の様子を、遊雅ともう1人の男子生徒は呆然と見つめていた。

「お前、さっきいらないって……」
「神原!お前横から……この泥棒猫!」
「誰が泥棒猫よ!」

第3勢力が加わって激しさを増した私闘を微笑ましく眺めながら、秋弥は自分の隣にいる女子生徒に話しかけた。

「亜璃沙、もう大丈夫そうだね」
「そうだね。さっきはすごく調子悪そうだったけど」

女子生徒の言葉は、的を射ているとは言いがたい発言だった。
亜璃沙は調子が悪かったわけではない。いや、違う側面から見ればある意味『調子が悪い』と表現できるのかもしれないが、彼女が崩していたのは『体調』ではなく、『心象』だったのだから。
それを秋弥は、何となくだが感じ取っていた。彼女は『何でもない』と言ったが、間違いなく何かに悩んでいたのだと。
でも今の彼女の様子は、先程の弱々しい姿とは打って変わって、いつもの気丈な彼女の姿その物だった。
自分の心配が杞憂で済んだ事に安堵しながら、秋弥は2人の女子生徒を伴ったまま再び山道を行く事に専念する。
余談だが、入学から1ヶ月しか経っていないにも関わらず、秋弥は一部の女子生徒から人気を博していた。
積極的に人に手を差し伸べる彼の優しさと、俗に言う『癒し系』とでも呼ばれるような可愛らしい顔立ちが、彼女達の乙女心を刺激したのだろう。
彼について歩くこの2人の女子生徒も、その例外ではなかった。

◇◆◇◆◇◆◇

「よーし、じゃあ今からまた自由時間だ。展望台なんかもあるから、自由に見学して来ていいぞー」

教師の号令を合図に、およそ60人の生徒達は思い思いの場所へ散り散りになって行く。
遊雅と亜璃沙は、男子生徒の粋な計らい(自称)によって、2人で望遠鏡の元に赴いていた。

「亜璃沙、先に覗いてみたらどうだ?」
「いいの?それじゃ、お言葉に甘えるわ」

そう言って、亜璃沙は先に望遠鏡を覗き込んだ。
それはもう絶景なのだろう。亜璃沙は感嘆の声を上げながら景色を楽しんでいる。
遊雅も肉眼で見る山々の景色を楽しんでいた。
だから、背後から聞こえた彼を呼ぶ高い声に、一瞬反応が遅れてしまった。

「あれっ、火凛?」
「やっほー!昨日ぶりだね!」
「お、おう、そうだな。そっちもこの山に登ってたのか」
「ああ。こちらとしても、まさか同じ山にいるとは思わなかったがな」

小走りに駆け寄って来た火凛と、その後ろから遅れてやって来た燈輝。
遊雅はひとまず、2人との半日ぶりの会話に意識を向けた。

「望遠鏡目当てか?」
「それもあるが……遊雅の姿を見つけたものだから、先に挨拶でもしておこうと思ってな」
「なるほどな」
「ところで、この()は?」

火凛が望遠鏡を覗く亜璃沙の方を見て問いかける。
恐らく自分の事を言われたのだと理解して、景色を楽しんでいた亜璃沙は、その目を望遠鏡から離して火凛達の方へ向き直った。

「神原 亜璃沙です。えーっと……遊雅のお友達、ですか?」
「あっ、ごめんなさい。霧島 火凛です。遊雅君とは友達……と言っても、昨日出会ったばかりなんだけど……」
「2人とも、一応同い年だぞ。もっとフレンドリーに話したらどうだ?」
「あっ、そうだね。よろしくね、えーっと……何て呼べばいいかしら?」
「火凛でいいよ。私も、亜璃沙って呼んでいいかな?」
「ええ、よろしくね、火凛。ところで、昨日出会った、って言うのは?」

火凛の制服の胸元にACS生の刺繍を見つけて、彼女が燈輝の同級生であると悟る。
そして遊雅が火凛と知り合うには、ACSの生徒と関わり合う可能性がある時間帯でなければならない。
該当する時間帯は亜璃沙は常に遊雅と共にいたし、彼女が出会ったACS生は燈輝と、一緒にいた2人の男子生徒だけだった。
だから彼女にとって、遊雅と火凛がいつ出会ったのかが疑問だった。

「あっ、そう言えば教えてなかったか。昨日の夜の事は話したよな?」
「ええ、ACSの生徒がさらわれたって……あっ、ひょっとして、火凛が?」
「そうだ。さらわれたのはこの霧島で、それを発見した俺が遊雅に協力を頼んだんだ」
「そうだったんだ……大丈夫だった?」
「うん。怪我とかしたわけじゃないし、遊雅君が助けてくれたしね」
「そうなんだ。よかった……」
「ねっ、よかったら亜璃沙も私と連絡先交換しようよ!」
「ええ、構わないわ」

そうして、亜璃沙は自分の携帯通信端末を取り出し、火凛はリュックサックからデュエル・ディスクを取り出した。
デュエリスト全員がデュエル・ディスクで通信を行っているわけではない。むしろ年頃の少女であれば、デュエル・ディスクとは別の携帯通信端末も所持しているのがほとんどだ。
同じ少女であっても、こう言う面では火凛の方が特殊だと言えるだろう。

「えへへっ、ありがとう!休みの日とか一緒に買い物とか行こうよ!」
「そうね、部活が休みの日なら大丈夫よ」
「亜璃沙もデュエル部なんだ。だから来週は、亜璃沙もお前達と戦う事になるな」
「ほう、それは楽しみだ。来週はよろしく頼むぞ、神原」
「ええ、よろしくね。……咲峰君、だったかしら?ごめんなさい、私、昨日名乗ってなかったわね」
「気にするな。昨日のは俺とあいつらが、遊雅に一方的に絡んで行っただけだ。どちらかと言えば、礼を失していたのは俺達の方だからな」

お互いに一通り挨拶を交わして、4人は雑談に興じ始める。
その合間に、亜璃沙以外の3人は目当ての望遠鏡を覗きこんで、その景色を楽しんだりもしていた。
そして間もなく、お互いの教師陣から集合の合図がかかる。

「おっと、そろそろ時間のようだな。では、来週の練習試合、楽しみにしているぞ」
「おう。次は負けねーぜ!」

2人の少年は挑戦状を叩き付け合い――

「もう少し話したかったね」
「そうね……」
「仕方ないね、それじゃ、また今度遊ぼうよ!」
「ええ、楽しみにしているわ」

2人の少女は名残惜しそうに、それぞれの陣営へ戻って行った。
その後、翔竜高校1年生は、壮大な山々の景色を背景に集合写真を撮影した。
山を降りて宿で昼食をとった後、総勢およそ60人の生徒達は、来た時と同じバスに乗り込む。
明らかに疲れが顔に出ている生徒もいたが、ほぼ全員、総じて満足そうな表情を浮かべながら、生徒達はバスに揺られていた。
帰路についてまで楽しそうな生徒達を乗せたまま、バスは翔竜高校へ向けて走り続ける。 
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