木ノ葉の里の大食い少女
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
木ノ葉崩し
「大蛇丸さま」
「――わかってるわ。仕方ないわね。カブト、計画の進行を早めると蓮助に伝えておきなさい。そして蓮助たちにはあの二人の足止めを、弦月には暁の二人の足止めを任せるわ」
カブトの持ち帰った自来也と綱手が木ノ葉に舞い戻ってきていることと、暁が木ノ葉に現れているという情報に苛々と唇を噛んだのも束の間。大蛇丸はてきぱきと指示を出し、カブトもまた命令通りに素早く行動した。自分も自分のやるべきことの下準備に回ろうとした大蛇丸は、部屋を出る寸前ふと踵を翻し、机の上にあるパステルカラーの風車をとった。
「さあ、風車の回る時間よ」
+
「やあ苺大福、見ないうちに随分と太ったじゃねーか」
「前とそんな変わってねーって。つかそいつ、紅丸」
紅丸と戯れるマナの姿に溜息をつきながら、キバはシノが持参した、砂糖を振り掛けたクッキーを噛んだ。甘い。シノは甘いものが好きだったろうか、もう一年近くスリーマンセルをやっていてもそれすらよくわからない。ただシノは蟲をダシに脅されるのが嫌でクッキーを持ってきていたということは一目瞭然であった。
焼肉の食べすぎで入院していたチョウジとその見舞いのシカマルにいのも病院におり、チョウジは医者の勧告もよく聞かずにマナと共にクッキーを食べている。いのの持ってきたピンクの花がブルーの花瓶に飾られていた。
「綺麗な花だな」
「そうでしょ。マナはピンク色好きだっていうからこの色選んだの」
クッキーを食べつつ行ったシカマルに、いのが笑顔で頷いた。へえ、とチョウジがまじまじとマナを見つめる。
「マナってピンク好きだったんだ」
「……可愛いなって思ったんだけど……子供っぽいかなあ」
「いいじゃない。子供っぽいとかそういうの気にしたって意味ないでしょ? それにマナは子供なんだし、ねっ」
マナがピンク色を好きだったことにチョウジは若干意外なようだ。実際キバやシカマルも、何色が好きかを聞いた時、マナなら迷わず「食べ物の色ならなんでも好き」か「青」と答えるだろうと思っていたのだ(科目ごとに色をつけられたカラフルなアカデミーの時間割の昼休みは青で塗られていたからである)。
「くぅん」
紅丸が鼻面をマナの顔に押し付け、マナも自分の鼻を押し付けて笑う。病室には平和な空気が流れていた。
しかしそれを打ち破ったのは悲鳴と怒号だった。揃って窓の外に顔を突き出した少年少女達の視線は自然と塀を打ち壊す大蛇へと吸い寄せられた。
+
ネジの考えを理解しろ、自分からネジに聞いてみろなどと言われても、本選で戦うことになっている相手、そして予選でヒナタに対し散々見下した態度を取った彼からどうやって言葉を引き出せばいいものだろうか。思いつつ森の中を疾駆するネジを尾行していると、唐突にネジが声をかけてきた。
「お前、いつまで付いて来る気だ」
「……気づいてたってばよ?」
「当たり前だ」
振り返ったネジの鋭い視線から逃げるように目を逸らしてしまう。これは褒められたことじゃないという自覚があっただけに心がちくちくするし、ネジを真正面から見つめることが出来ないような気がした。
「何か用件があるのならさっさと言え。俺はお前なんかと時間を潰している暇はないぞ」
何を言っていいのかよくわからなくなる。ヒルマの言葉が脳裏をぐるぐると旋回し、結局ナルトは言った。
「……影武者って、どういうことだってばよ」
「――誰から聞いた?」
一瞬にして険しくなるネジの顔に、ナルトは小声でヒルマの名を告げた。途端ネジが頭を抱えてしゃがみこむ。一気に脱力したようだった。
「あのおしゃべり男……!」
確かにあまり秘密を教えたいような人ではない。何かを伝えて欲しい時には恰好のスピーカーになってくれそうだが、秘密も迷わず躊躇わず周りに言いふらしてしまう。敵との戦闘中にぼろぼろ里の弱点を教えてしまわないかが心配だ。医療忍者な為基本後衛なのは救いかもしれない。
ナルトの視線を受けて、暫く黙り込んでいたネジはやがてむっつりと不機嫌そうな顔で語りだした。あ、こいつ今度あったらヒルマのこと殺すかも、というのが手に取るようにわかるくらいにはヒルマに対する殺気の宿った瞳だった。
「……昔、木ノ葉と長年争っていた雲と木ノ葉が和解し、長い間続いていた戦いも漸く収まりを見せた」
雲の忍頭が木ノ葉に訪れたその日、盛大なパレードに唯一参加しなかった一族。それが宗家の長女たる日向ヒナタの三歳の誕生日を迎えた日向一族である。分家の者たちは宗家へ祝いにいき、口々に彼女を祝福した。
「だがその夜、忍頭はヒナタさまを攫った。白眼を手に入れるためだ」
呪印のことを前置きしようとして、呪印のことについてはヒルマに聞いていると言ったナルトに再びヒルマへ対する脱力感を覚えながら、ネジは続けた。分家の者の白眼は呪印に封じられてしまうし、分家の子供なら連れ去った時点で宗家が呪印を発動、殺害していただろう。だからこそ忍頭は同盟を結び彼らの気が緩んだ頃を狙い、ヒナタを誘拐した。
「しかしそれは未遂に終わった」
駆けつけた日向ヒアシが忍頭を殺害、しかし雲はヒナタ誘拐の件を否定し、忍頭を殺した代償として日向ヒアシの死体を要求した。彼らが白眼を欲していることは明らかであり、故に一族はかわりに日向ヒザシを殺して雲へと差し出した、ということである。
日向ヒザシは当然ながらにその死後白眼の能力を失い、白眼の秘密は守られた。
「俺の父上は、ヒアシ様よりたった数秒遅く生まれた。それ以外は実力も、外見も変わらなかったというのに、その数秒だけで二人の運命はわかれた。ヒアシさまは宗主となり、父上は分家に落ちた。そしてたった数秒遅く生まれたが故に、父上はヒアシさまの身代わりとして殺された」
だから日向ネジは宗家を恨んでいるのだ。誘拐された従妹のために自分の父が死ななければいけない理由は、伯父が宗家で父が分家という理由だけだった。日向宗家が警備をもっと厳重にしていればヒナタが誘拐されることもなかったはずなのに。
「籠の中の鳥」の意味を持つ悪趣味な呪印に対しても、事件のあったあの日その呪印でヒザシを苦しめたことも、そしてヒザシが死ぬ要因の一つとなったヒナタの予選での愚かしい行為も、ネジの宗家に対する怒りを膨らませるには充分だった。
「人の道はすべて運命によって定められている……公平な運命など、それは死のみだ!」
次第に高ぶっていく感情を抑えきれない。まだ理性を保つ心のどこかがそんな自分を叱咤するも、止まらない。一度断ち切ってしまった堰をもう一度築くのは難しかった。
「でもっ! お前だって……っ! 予選でヒナタのことあんなぼっこぼこにして、お前だって、必死に運命に逆らってたじゃんかよっ!」
ネジが殴られたかのような顔をして一歩後ろに下がった。
運命。その言葉で片付けてしまうのは、とても簡単だ。もしかしたらネジは運命というその言葉に逃げていたのかもしれない。運命、その言葉で片付けてしまえなければネジはとてもこの理不尽には耐え切れなかっただろうから。
宗家と分家。たった数秒でわかたれた運命、たった数秒遅かっただけで死ぬことになった父。その死に対する理不尽を、運命という言葉で片付けてしまわなければ、ネジは形振りかまわず宗家に突っ込んで大暴れしていたかもしれない。だから彼は運命という言葉で自分を納得させようとした――本当に納得できたかは別として。
しかし納得できていなかったのは確かだ。分家だから宗家には逆らえないと言いながら、呪印があるだのなんだのと言いながら、宗家のヒナタと当たった時には瀕死の重傷まで負わせた。そこまでしなければ諦めてくれはしなかったのだろうけれど、怒りに我を忘れかけたのもまた事実。運命がなんだのといいながら結局はそれに逆らおうと必死だったのを、ナルトはあの試合でちゃんと見抜いていたようだった。
「もしお前が本当に何にも出来ないって言うんなら! 俺が――」
ナルトの声を断ち切る大きな音に、ネジもナルトも一旦会話を中断して木の上に飛び移った。見ると巨大な蛇が塀を打ち壊して木ノ葉に入ってきているところである。
「大蛇丸……!」
「大蛇丸?」
訝しげながらに白眼を発動し、ネジはチャクラを探知する。途端、こちらに急接近中の一つのチャクラに気づいた。どこかで見たことのあるチャクラだ。少しの間見ていて気づいた。ケイ、病田カイナにミソラである。ナルトに警戒を促しつつ、ネジは顔を顰めた。
この禍々しいチャクラのオーラ。
間違いない、彼らはサスケと同じ呪印を有している。
+
朽葉色の髪を風に揺らして、男は一歩近づいた。
目の前にいるのは騒ぎを聞きつけてやってきた自来也と綱手だ。自分が相手するには余りに強すぎるが、余り長い間足止めする必要はないと大蛇丸は言っていた。音の四人衆が結界を張って、大蛇丸と三代目火影ヒルゼンを二人きりにするだけの時間があれば充分だと。
その時がきたら見張りを担当するカイが雷鳴を合図に報せてくるはずで、それさえ知れば蓮助はすぐさま撤退し、次の仕事にかかることになっている。その後の自来也と綱手の足止めはカブトと弦月が担当することになっているのだ。
ヒルゼンをおびき出すのには一先ず成功したらしい。いや、大蛇が里の壁を打ち壊して暴れだしたら飛び出てくるのは正常な反応というべきか。寧ろしない方が相手が本当に火影の器かどうかを疑うことになるだろう。
「お前は……!?」
「いずれ蘇る鬼の国妖隠れの里の蓮助、そう覚えていてくだされば光栄だ、伝説の三忍の二人よ」
+
「驚きましたね……まさか霧の忍刀七人衆に受け継がれてきた忍刀の製作者である鬼灯弦月さん、貴女と対峙することになるとは。あの二人はお元気ですか?」
「ふん……アタイだって想像してなかったさ、あんたら同胞殺しコンビと戦うことになんてねえ。水月と満月はどうだろうなあ。少なくともアタイは八十六歳の今も元気さ」
長い白髪の女が大刀に凭れ掛かるようにして立っていた。イタチと鬼鮫の周囲には全く同じ形状をした刀がくるくると回転している。鬼灯弦月――霧隠れに於ける忍刀七人衆に受け継がれてきた忍刀の製作者だ。つまり、鬼鮫が所持している大刀「鮫肌」の造り主でもある。
霧隠れは他所と比べて、比較的妖の血が濃い一族が多い。ギザギザした歯やら、鬼鮫の人間離れした外観もその血によるし、鬼灯一族もかつてはそうであった。というのも、妖の血で常人以上の寿命や能力を持っていたのは弦月限りで、それ以降は比較的人間に近しくなっている。
鬼鮫が何回かあったことのある弦月の曾孫の水月や満月なんかはもうほぼ人間と変わらなくなっていた――水の中でも呼吸が出来るということや、水に溶け込む能力も「水化の術」として残留していたようではあるが。
「鬼鮫。あの回転する刀の群れ……全く同じ質、同じ量のチャクラを持ち合わせている。影分身にも似ているが、チャクラ量の増減は見られない。どうやら上に貼られた札が影響を齎しているようだな」
「……厄介ですねえ。あの人、霧隠れの七つの忍刀の製作者であるだけに鬱陶しい忍具攻撃が得意なんですよ」
鮫肌を構えなおしながら鬼鮫は呟き、そして言った。
「私が相手をします。イタチさんは隙を見て大蛇丸の粛清に向かってください」
イタチが短く頷き、鮫肌を振るいながら鬼鮫が弦月に切りかかる。ばちゃあ、とその輪郭が崩れ、水の塊になった。
「アタイの水化の特性を忘れたかい? 刀なんて意味ないんだよ。おまけに鬼鮫、お前さんの得意な術は水遁、アタイにとってはこの上なく有利な状況しか作り出せない属性。刀と水遁、どっちに転んだってアタイはあんたらに勝つ……!」
「それはどうでしょう? 弦月さん、貴女自分の作った刀の性能さえ忘れたんですか? やっぱり年のようですねえ、早く引退した方がいいですよッ!!」
一歩後ろに飛び、再び激しく斬りかかる。しかし目的は弦月に当てることではない。鮫肌の持つその特殊な能力を活かして、弦月のチャクラを吸い取ることだ。
「……ああ、そうか、鮫肌……! 全く、お前さんの言うとおりだね。アタイはやっぱりもう年のようだ。でも年だからって弱いわけじゃないよ、鬼鮫!」
弦月が自身の大刀を振り上げ、鬼鮫が応戦した。刀と刀のぶつかり合う、白熱した戦い。弦月は完全にイタチの存在を忘れているように思えた。が、イタチがそこを離れようとした瞬間、回転していた刀の群れが一斉にイタチに襲い掛かってきた。
写輪眼で得られる動体視力を駆使してそれを避け、逆にクナイを投擲する。その途端、刀の群れが回転しながらかけつけ、弦月に襲い掛かるクナイを弾き飛ばした。
「かかったね……」
弦月の掌からマジックのように現れた札がぺたりと刀に貼り付けられるのとほぼ同時、刀が爆発的に増えた。一層激しく回転しだす刀に、イタチは顔を顰め、鬼鮫は目を見開く。
札の上の文字は「母」。
「成る程……ッ! それが噂の、生刀・舐犢でしたか……! イタチさん、気をつけてください。あの刀は生きています、私の鮫肌と同じように。そしてそれだけではなく、術者の意思に関係なく動き、子を生むのですよ、『母』の札を貼り付けることでね……! ただし、確か『子』の方の刀は僅かな損傷でも壊れやすいと聞いたことがあります!」
「わかった」
鬼鮫の鮫肌が踊るように動き、イタチは起爆札つきのクナイや、火遁・鳳仙火爪紅、水遁・水牙弾を使用することによって『子』の刀を撃破していく。『母』の方と比べて『子』の方は比較的脆く、そして生まれたばかりであればあるほど撃破しやすいらしい。
人間と似たようなものなのだろうか、思いつつイタチは早くサスケの居場所を探し出したいとはやる心を押さえつけ、一気に五つの『子』の刀を撃破した。
+
事前に伝えておいたおかげか、木ノ葉側の対応は早かったが、しかし蓮助と弦月が彼らの陣営にいることは、完全にユナトの予想外だった。ユナトが探知できる範囲はあくまで里以内であり、里の外部にあった大蛇丸のアジトに待機していた蓮助と弦月の情報を探ることは出来なかったのである。
「テンテンちゃん、一つお願い」
四人の音の衣服を纏った者たちが集結しているのは本来第三試験本選にしようするはずだった場所の観客席の屋根。大蛇丸に誘き寄せられた三代目があそこへ向かっている。数人の上忍が近づいていったが、それを稲妻が振り払った。雷遁だろうか。
「三代目がいない今、一番の権力を持っているのはご意見番とダンゾウさま、そして私だ。今から君の同期を探し出してくれる? シカマルくんとサクラちゃん、シノくんでスリーマンセル、いのちゃんとキバくん、チョウジくんでスリーマンセル。壁の情報によると、木ノ葉病院にいるよ。彼らにスリーマンセルを組むよう指示したら、森へ。壁の情報によるとネジくんとナルトくんが森にいるそうだから二人を探し出して。で、この三つの巻物は任務の内容ね。サスケくんとはじめくんは私の探知範囲外にいるし、マナちゃんとヒナタちゃんは病み上がりだから休ませとくことにする。さあ、任せたよ!」
「はい。……でも、ユナトさんは?」
「私は、大丈夫」
ユナトはにっこりと笑い、テンテンが部屋を飛び出していくのを見届けた。今一度、窓の外に視線を向ける。
「……まさか鬼灯弦月と、千手蓮助がここにいるとはね……!」
+
「うぉおおっ!」
三代目の下へ早く駆けつけねば。焦っていながらも、自来也と綱手が押していた。長い間戦線離脱していた綱手は動きがぎこちなかったが、自来也は流石腐っても鯛、太っても猫、エロくても三忍というべきか、その実力は圧倒的なものであった。蓮助がかなりの量のチャクラで維持している厄介な土遁の壁がなければ、とっくに突破していたはずだ。
「ぐあ……っ!」
クナイが蓮助の腹を貫く。両手で自来也の腕を掴んだまま苦痛に唇を噛み締める蓮助に、一瞬自来也はやったか、と思った。
「火遁・絵筆菊!」
その両手が燃え上がり、自来也の腕にも燃え移る。慌てて手を引き抜いて鎮火し、自来也はクナイを引き抜き、投げ捨てたばかりの蓮助に更なる一撃を与えた。先ほどからかなりの攻撃が急所に当たっている。そろそろ限界のはずだ、と綱手は目を細めた。
しかしその次に蓮助の取った行動は、あまりにも綱手と自来也の予想を超していた。
「陰封印・解! 創造再生……!」
彼が地面に落とした額宛ての下に浮かぶ紋様。己の額と全く同じ紋様を持つ青年の姿に綱手は絶句する。菱型の周りに刻まれた傷跡もまたおぞましい。
「昔、妖に恋をした千手分家の娘がいた――その娘の子供が俺だ。貴女のお相手が出来て光栄です、綱手さま!」
蓮助の笑顔が自らの弟の笑顔と重なり合うのに、綱手は寒気を覚えた。
後書き
オリジナルとか捏造展開に満ち溢れた木ノ葉崩し、始動です。
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