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閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー

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第19話~蒼穹の大地~

 
前書き
タイトルでお気づきの方も多いでしょうが、ノルド高原(原作では第3章)のお話までたどり着きました。最近、シリアスが増えてきた感が・・・主にうちのオリ主が原因です。ギャグをもう少し入れたいなと思う今日この頃。 

 
七曜暦1204年 6月26日(土)

「・・・だ、だまされた・・・・・」

特別実習の地へと赴くため、まずは旅客列車で朝食を挟みつつ、帝都ヘイムダル中央駅へ。そこでB班と分かれ、ルーレ方面の路線を経て貨物列車に乗り換えた。そんな早朝からの長旅の中、座席へ腰掛けるⅦ組A班の姿があった。メンバーはケイン、アレス、リィン、ガイウス、エマ・・・そして先ほどため息混じりにそう口にしたRFグループ会長が娘、アリサである。彼女が落胆しているのは、ルーレ駅での出来事が原因だとケインたちは理解していた。駅では、定期飛行船にて先回りしていたシャロンからランチボックスを受け取った。そこまでなら「シャロンさん、あざーっす!!」のみで済んだはずだ。
しかし、運の悪いことにアリサの母親、イリーナに出会ってしまい、そこで彼女が3人いるトールズ士官学院常任理事の1人であることを知る。アークスと魔導杖の運用にも関わっているらしい。
とにかく、実家と上手くいかずに家出をしたつもりが、全て母親の手のひらの上だったということだろう。今も「何でもっとちゃんと調べなかったのよ!」と自分を責め立てている。エマの言うように、ご愁傷様としか言えそうにないが。

「ふむ・・・そこまで嫌がることか?」

「その・・・色々あるのよ。昔から、仕事人間のくせに私には変に干渉してきて・・・口では好きにしろと言いつつ、今回みたいに手を回してきて・・・」

実家とは昔から折り合いが悪いらしいアリサは、母親を露骨に避けている気がする。自身の家族から遠ざかろうとする彼女に、素朴な疑問を抱き、ガイウスは質問した。彼女はどうやら、母親には放っておいてほしいようだ。今日何度目かのため息をつきながら、アリサは「変だと思ったのよ」と続ける。

「お祖父様から頂いた学費口座が入学以来、減ってないんだもん・・・」

つまりはイリーナが払っていた、ということだろう。理事をしているのであれば、そのぐらいの融通は利きそうだった。

「あんな素っ気無い感じだけど、本当はアリサのことを気にかけてるんじゃないかな?」

「そ、そんなわけ・・・」

何気なく発したケインの言葉を、アリサは弱弱しく否定する。

「軽率なことを言ったかな・・・すまない。俺に親の気持ちなんて、分かるはずなかったよ」

「あ・・・」

彼女の赤い瞳に動揺の色が見て取れたため、軽はずみなことを言ったと謝るケイン。これからはなるべく注意しようと心に決めていたところで気付けば全員から気遣うような視線を感じた。そのわけを考えて思い当たるのは、自分には両親がもうこの世にいないという事実。

「これは余計だった・・・でも、そうだな。親って時々勝手だよな」

そう言って力なく笑い、窓側の席に座るケインはどこか遠い目をしながら、窓の外を見やる。そんな彼にかける言葉もなく、聞こえてくる貨物列車の走行音が大きくなるだけだった。

「・・・へえ、士官学院で士官学院の実習なんかで高原に行くのか。軍人のタマゴってのも色々大変なんだなぁ」

「はは・・・まあ、それなりには」

トンネルの多い山間部を出たり入ったりし、その間に昼食を済ませて一同でしばし談笑していると、乗組員らしき若い男性がガイウスに挨拶しながら、この列車に乗った目的を尋ねてきた。実習地が実習地だけに学生が乗っているのは珍しいのだろう。ガイウスが士官学院で行っている特別実習について簡単に説明すると、関心半分同情半分といった感じでコメントする男性。リィンは苦笑しながら返している。こんな風変わりな取り組みをしているのは、士官学院といえどもトールズぐらいで無理もないが。

「しかし、あの時のお前さんがそんな制服を着ているなんてなぁ。馬子にも衣装っていうか、なかなかカッコいいじゃないか」

「そうか・・・ありがとう」

その後も、男性と他愛の無い話をして、「ゼンダー門まで後二時間ぐらいだからのんびりしててくれ」と言い残し、去って行った。

「春に士官学院に来るときに知り合ったのか?」

「ああ、その時も同じ貨物列車でな・・・帝国の習慣について色々と教えてもらった」

「それは助かったでしょうね」

「ああ、オレを士官学院に推薦してくれた恩人も含めて色々な人に世話になっている。これも風と女神の導きだろう」

「風と女神か・・・フフッ、貴公らしい」

貨物列車がアイゼンガルド連峰を通り過ぎていく中で、実習地への到着を心待ちにしながら、一同はうたた寝したり、談笑したりとそれぞれの時間を過ごした。

-ゼンダー門-

「おお、やっと到着したか」

「叔父上・・・!お久しぶりです。ご壮健そうで安心しました」

「中将・・・ご無沙汰しています」

「うむ。久しぶりだな、わが甥よ。ガイウスは数ヶ月ぶりになるか」

片道にして約8時間。列車での長旅を経て、終点に到着したケイン達を迎えたのは、右眼に眼帯をした帝国正規軍所属と見られる初老の男性だった。短く刈り上げられた茶髪に、猛禽類のように鋭いもう片方の目。アレスとガイウスが挨拶を交わすその将官へケイン達も会釈をし、自己紹介をする。

「フフ、噂には聞いていたが面白い顔ぶれが集まっているようだな・・・帝国軍、第三機甲師団長、ゼクス・ヴァンダールだ。以後よろしく頼む」

「<<隻眼>>のゼクス・・・その、お噂は聞き及んでいますよ。こちらこそ宜しくお願いします」

口元に柔和な笑みを浮かべて、名前を名乗るゼクス。ケインはそんな彼と握手を交わしていた。

「ケインは中将と知り合いなのか?」

「いや、まったくの初対面だよ。けど、正規軍の中でも五指に入るほどの名将だからな。<<ヴァンダール流>>を代表する剣の達人でもあるし」

彼と自然に握手をするケインに、ガイウスが疑問を口にする。知り合いというよりは、ゼクスが有名なので、一方的に知っているだけである。

「ハハ、そう持ち上げられるほど大層な人間ではないのだが」

ケインの簡単な紹介を謙遜したゼクスは、「おぬしらの話も聞きたかったが」と心底残念そうな様子ではあったものの、今日中に帰りたいのならそろそろ出発した方がいいとガイウスに言う。時間が時間だけに仕方がない。現在は夕刻だが、日没してからでは視界が悪くなってしまう。

「すみません。お願いしていた件は・・・?」

「うむ、用意してあるぞ」

どうやらガイウスは移動手段の用意を頼んでいたらしく、「付いて来るがいい」と言うゼクスに導かれるまま、一同は門の外へ出た。

「こ、これは・・・」

「絶景、としか言えないよな」

夕日に映える緑の大地は、無限に広がっているようで、まるで燃えているかのように見える。帝国北東、アイゼンガルド連峰を越えた先にある、峻厳な高原地帯。蒼穹の大地、ノルド高原。ガイウスの生まれ育った故郷にして、今回の実習地だ。

「フッ、気に入ってくれたようで何よりだ」

その雄大な光景にA班メンバーは言葉を失い、しばし呆気に取られていたが、ガイウスの一声で我に返る。それと同時に彼の方を見やると、5頭の馬がそこにはいた。ノルドの遊牧民であるガイウスはもちろんのこと、ケインやアレス、リィン、アリサには乗馬の経験があるため、この広大な地で馬ほど速く手軽な移動手段はないはずだ。乗馬経験が無いらしいエマは馬の負担を考えて、アリサの後ろに乗ることに。最後に、軍の測量によって作成された地図をゼクスに手渡された。ゼンダー門や遊牧民が住む集落などの位置関係が人目で分かる。実習で使うということだろう。何から何までお世話になりっぱなしな中将へお礼を言い、ケインたちは馬を走らせた。

「着いたな・・・」

「ああ・・・ここが、ガイウスの故郷か」

先ほどより薄く感じられる夕刻の日差しに照らされるノルドの集落は新鮮に映ったが、どこか郷愁を誘う光景だ。

「まあ、この場に定住しているわけではないが・・・夏から秋にかけては北へと移動するのが常だ」

「なるほど、遊牧民だものね」

「だからああいう、変わった建物なんだよな?」

「ああ、厚手の布でできた移動式の住居でな」

「確か・・・ゲル、じゃないか?」

ケインが住居の名称を口にすると、驚きで目を丸くするガイウス。

「ああ、その通りだ。詳しいな」

「昔、ロヴァースさんから聞いたことがあったんだよ。帝国北東の果て、大自然と共に生きる遊牧民の集落がある、ってさ」

話を聞かされた時はおとぎ話だと考えていたが、こんな形でその大自然を訪れるとは夢にも思っていなかった。

「さて、まずは実家に案内しよう。長老などには改めて紹介するとして・・・」

初めて訪れる地に色々と思うことはあったが、ガイウスが言うように、まずは彼のご両親へ」挨拶をしに行ったほうがよさそうだ。そう思い、彼を筆頭にして一同が目的地へ向かおうとした時、「あんちゃあああん!」と言う少女の大きな声が聞こえてきた。

「わぁ・・・!」

「か、可愛いっ・・・!」

その声は段々と大きくなり、ガイウスの姿を見るや否や彼に抱きつく。三歳ぐらいの幼い少女のようだ。それを抱きとめるガイウスを見つめているのは、彼よりも小柄な少年と、少年と年があまり離れていなさそうな少女。

「あんちゃん!ガイウスあんちゃん!」

「ガイウスお兄ちゃん!お帰りなさいっ・・・!」

「ただいま。リリ、シーダ。トーマも元気そうだな」

「へへ、あんちゃんこそ・・・おかえり、ガイウスあんちゃん」

「ああ、ただいまだ」

あらかじめ家族には手紙で知らせていたのだろうが、彼らは兄の帰りを待ちきれなかったのだろう。随分と慕われているようで、眼前の光景は一人っ子には目の毒かもしれない。ガイウスの弟であるトーマと呼ばれていた少年が挨拶してくれる。その中性的な顔はエリオットに少し似ているように見えた。先ほど真っ先に駆けつけた幼いリリとその隣に立つシーダがガイウスの妹とのことだ。

「は、初めまして・・・」

「あんちゃんのお友だち~?」

「うん、初めまして。俺はケインだ」

土地の位置などの問題で帝国人の来訪者は珍しいのか、ケイン達に好奇の目を向けてくるトーマとリリ。一方で、シーダは緊張しているようだ。初対面だから無理も無い。
ケインはそんな彼女を安心させるように微笑を浮かべ、なるべく穏やかな声音で自己紹介する。ガイウス以外のメンバーも自分の名前を言い、全員の自己紹介が終わったところで、落ち着いた男性の声がした。学院長と同じく2アージュに迫ろうかというほど背が高い。その隣にいる綺麗な女性はガイウスの姉、だろうか。

「父さん、母さん。ただいま戻りました」

「ふふ、お帰りなさい・・・皆さんも初めましてガイウスの母、ファトマです」

「「お、お母さん!?」」

「全然見えませんね・・・」

「ふふっ、お上手ね」

彼女の端正な顔立ちは老いを全く感じさせない若々しさがあり、ケインはアリサと同時に驚きの声を上げてしまった。

「ガイウスの父、ラカンだ。よろしく頼む、士官学院の諸君」

「はい、こちらこそ」

「よろしくお願いします、ラカンさん」

軽くではあったが一応の挨拶を済ませ、ラカンの提案で客人用の住居へ荷物を置き、ガイウスの実家を訪れたケイン達は、そこでウォーゼル一家と共に夕餉(ゆうげ)を囲んだ。岩塩と香草で包み焼きされたキジ肉や、羊肉を炙って串焼きにしたカバブ、ノルドハーブを用いた消化に優しいお茶など、ノルドならではの料理をご馳走になった。疲労に効く滋養の高いものが多いらしい。五臓六腑に染み渡るとはまさにこのことだろう。

「このノルドの地は、ある意味、とても自由な地だ。帝国人である君たちには新鮮であり、不便でもあるだろう・・・だが、君たちに関係がないわけではない」

「・・・ドライケルス大帝が獅子戦役の際、ノルドの地で挙兵したという話ですか」

ノルドのお茶を味わいながら、ラカンの話に聞き入る一同。ガイウス同様、寡黙な人のようだが、彼が発する言葉は、どこか重みを感じさせる。ラカンの一言に、ケインは相槌を打った。帝国人ならば子供でも知っている歴史的な逸話だ。

「ああ、ノルドの民の間でも伝承として語り継がれている。そして獅子戦役が終わった後、ノルドの民は、彼の継いだ帝国と長きに渡る友情を誓い合った」

その善き関係が今日に至るまで続いている、と。確かにノルドは帝国の領土ではない。あくまで対等な関係なのだろう。リィンの言葉を借りれば、共に友情を誓い合った隣人同士。

「しかし、昨近、カルバードという東の大国が高原の南東に進出してきた。東に住む一族などは交流を深めているようだが・・・どうやら、それが少しばかり緊張をもたらしているようだな」

その名前を聞いた途端、ケイン達の表情は険しいものへと変わる。カルバード共和国。帝国の宿敵とも言える存在だ。ノルドの領有権を双方で争ったりするなど、政治的な対立も未だに根強い。

「1202年に結ばれた『不戦条約』も法的拘束力は皆無ですからね・・・まぁ、今すぐどうこうってことにはならないと思いますよ」

「ふむ・・・最近もクロスベルで大きな事件が起きたそうだが、帝国と共和国の対立が根本にあったようだ」

心なしか、ガイウスの表情が強張っているように見える。故郷を脅かす可能性のある問題であるためだろう。そんな息子の様子を知ってか知らずか、再びラカンが口を開いた。

「まあ、とはいえノルドは双方にとっても辺境の地だ。監視塔も建っているがさほど心配する必要はないだろう。あまり気にせずに特別実習に集中するといい」

実習の課題を用意しているらしいラカンは、明日の実習について簡単に説明する。ノルド高原は帝都へイムダルなど比較にならないほど広大だ。午前中は、実習の範囲を南西部に絞るべきだと言う彼の意見にも頷けた。そして午後から残りの課題を渡すので、昼餉のころには戻ってくるようにとのこと。南西部と言えば、集落までゼンダー門から馬を走らせてきた場所だが、あれだけでも馬鹿にならない面積を誇っていた。もう夜も遅かったため、料理を振舞ってくれたファトマにごちそうさまと一言告げ、ガイウスとその弟や妹たちに案内されながら客人用の住居へ向かった。妹たちにせがまれたらしく、ガイウスは彼女らと寝るそうだ。

「すまないな、男女別で用意できればよかったんだが」

「ううん、気にしないで」

「リィンさんやケインさん、それにアレスさんなら紳士なのは間違いありませんし」

「ふむ、あまり自覚は無いが・・・」

「リィンはともかく、俺とアレスに問題なんてないよ」

「ああ、確かにな・・・っておいっ!?」

(前科持ちは辛いよな・・・かわいそうに)

ケインの発言にリィンから心外だと声が上がるが、華麗にスルーしてガイウスの話を聞いておく。遊牧民の朝は早く、日の出と共に起床するそうだ。彼が起こしに来てくれるので心配ないだろう。最後に「良い夢を」と言ってからガイウスは実家へ戻って行った。

「・・・さて、アレス、リィン。ちょっと散歩に行こうぜ」

「ああ、私は構わないぞ」

「えっ、どうしてだ?」

ケインの提案にわざわざ理由を尋ねてくるリィンに対してため息をひとつ。

「へぇ・・・リィンはアリサとエマの着替えが見t」

「あはは、三人で一緒に行こうそうしよう・・・というか、そうさせてくれ」

妙なところで唐変木なリィンに懇切丁寧な説明をしようと思ったが、口を手で塞がれてしまった。ケインとリィンには、現在進行形でアリサの訝しげな視線が突き刺さっている。

(何だよ、リィン・・・俺まで巻き込まないでくれ)

(つ、つれないことを言うなよ)

(さて、どうしてくれようかな)

(何だか弱みを握られている気分なんだが・・・)

「何でもないよ・・・まぁ、適当に呼んでくれると助かるけどさ」

「・・・判ったわ」

狼狽するリィンが不憫に思えてきたので、ケインはそれ以上何も言わないでおく。それから先ほどのやり取りを誤魔化してアリサに話しかけたつもりだったが、彼女の視線は変わっていない。その場から逃げるようにケイン、リィン、そしてそれに続いたアレスは夜の散歩へと繰り出す。
異国の文化を学ぶまたとない機会に胸を躍らせながら、A班の夜は更けていった。
 
 

 
後書き
今回はわりと急いで書いてしまったので、(極力、手直しはしたいと思いますが)誤字・脱字等あればご指摘をお願いします。 
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