俺の知ってる作品でバトルロワイアル
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28話:ピエロ・オブ・ナイツ
零崎軋識は住宅街を歩いていた。
殺し合いが始まってからもう六時間。そろそろ犠牲者もそれなりに出ているはずだ。現に軋識自身も戦闘をしたのだ。他の場所でも戦いが起き、そして死んだ者もいるだろう。
軋識の場合は殺し合いに乗っていた黒タイツの男を殺害しようとしたが、何故か攻撃がまったく通じず動揺している間に謎の力によって吹き飛ばされた。
実際には襲った相手、玄野計は殺し合いに乗っておらず、襲われたからやり返しただけの正当防衛なのだが、軋識がそれに気付く機会はもう失われたであろう。
(しっかし、生きてるのは運が良かっただけっちゃね)
制限。
軋識が生きている理由はおそらくそれだ。
謎の力。非戦闘集団呪い名のそれとは違う、戦闘のための力だった。おそらく攻撃を仕掛けてきた者は自身に掛けられた制限の対象になっていると気付かずに行使したのだ。
軋識は特に自分の身体に何かされたような感触はない。つまり、未知の力を持つ相手にも一応勝つ方法は用意されているということだろう。
勿論、これも軋識の思い違いだ。軋識を吹っ飛ばした犯人、つまりは斉木楠雄はあのとき手加減をしていた。彼自身は殺し合いをする気がないのに加え、玄野が襲われているのを見て慌てていたため、咄嗟に最良の選択肢を選べなかったのだ。とは言ってもほとんど無敵の超能力者である斉木は最良の選択肢を選べなくても良い結果を引き寄せられるため、結果的にあの場にいた全員が無事なわけだが。
おまけに斉木は自分の制限にはとっくに気付いており、その上で他人を殺す超能力は持っている。
軋識は完全な勘違いを二つ、いや玄野に組伏せられていたムスカをただの被害者と思っており殺し合いには乗っていないと思っているため三つ、してしまっている。
そんな彼だが、流石に殺人鬼であるためか自分の進行方向に仕掛けられた罠には気付いた。
その罠に込められた殺気を感じ取り、軋識の立っていた地面が爆発する直前にその場から大きく跳躍した。
短い爆発音と共にアスファルトが消滅する。爆風が軋識を叩いたがダメージは少ない。
着地した場所は一軒家の屋根の上。
「そこにいるのはわかってる」
言いながら自身の得物、愚神礼賛を振りかぶり、
「出てこい!」
思いっきり、屋根に向かって降り下ろした。
純鉛製の釘バットが与えた衝撃はいとも容易く屋根を粉々にし、下にいた人物は回避こそ出来たもののあまりの破壊力故に戦慄し、逃げることを一瞬忘れてしまう。
その一瞬の隙は軋識の侵入を許してしまった。
「くっ‥‥‥!」
そこにいたのは黄色いピエロだった。
名前は、ドナルド・マクドナルド。
仕掛けたTNTの上にアスファルトのブロックを設置し、軋識がその上を通るタイミングでドナルドマジックで着火して軋識の殺害を試みたのは彼である。
軋識はドナルドを視界に入れるや否や愚神礼賛を握りしめ、踏み込んだ。
『零識一賊に仇なすものは、老若男女人間動物植物の区別なく容赦なく仇なした者の周囲を含めて皆殺しにする』
ルール通りに動いたわけだ。
ちなみに勘違いを重ねてきた軋識だが、今回ばかりはドナルドを呪い名と思い込んだりはしなかった。
そもそも相手が呪い名だとわかった場合は軋識は即逃げる。戦わずに殺すことに特化し、味方に一人いるだけで多大な損害を生み出し一つの利益も生み出さないのに敵に回したらどんな被害を被るのかわからない。関わらないのは殺し名の中では常識である。
軋識がドナルドを呪い名ではないと判断した理由は二つ。
一つはドナルドが自ら爆弾を仕掛けて攻撃してきたこと。
呪い名の特徴として、決して自ら手を下さないという点がある。
時宮病院は空繰人形を使うように、
罪口商会は武器を使うように、
奇野師団は病毒を使うように、
拭森動物園が有象無象を使うように、
死吹製作所が身体支配を使うように、
咎凪党が予言を使うように、
かならず自分以外の何かを通して対象を殺す(罪口商会の人間が武器を持って直接戦うこともあるが、それは殺人ではなく武器の試運転だ)。
だから自分が戦闘を近くで見る必要はあまりないし、殺す相手の近くにいるのは得策ではない。第一こんな逃げにくい場所にいるのはおかしい。
もう一つは、ただ単に軋識の経験に基づいた観察の結果と、勘だ。
「さて、」
「かるーく零崎をはじめるちゃ」
禍々しい釘バットを構えて、
獲物を狩ることのみに集中したその目で、
愚神礼賛は殺戮を宣言した。
「フッ!!」
先に仕掛けたのはドナルド。
MUGEN由来の巧みな足運びで軋識まで肉薄する。軋識の釘バットの長さを見て、接近戦が有利だと判断したのだ。
軋識に攻撃される前に鞭のようにしなる腕を上から振るい下ろす。
「くっ、」
軋識は得物を構えていない手でそれを弾く。
しかしドナルドの攻撃は終わらない。
「ハッ!」
驚くほど柔軟な身体から繰り出されたのは、自身の足を百八十度開いて下から上へ放つ蹴り。
顎を蹴り飛ばされて宙に浮いた軋識。
「フッ」
落ちる前にドナルドが跳躍からの右腕で左の二の腕を押さえ、身体を空中で回転させながら左腕をぶつけた。当たった瞬間、軋識の身体は壁まで飛び、強い衝撃を背中に感じた。
「あれあれ、どうしたんだ?」
ドナルドが挑発すると同時に軋識は跳ね起きて跳躍する。
先程の軋識の攻撃によって屋根には穴が開いていた。軋識が愚神礼賛を最大限活用するためのスペースが確保されていたのだ。
空中で一旦静止。
しかしそれもほんのつかの間。
軋識はそのつかの間の間に釘バットを振りかぶり、ドナルドめがけて急降下する!
その重量や軋識の力に加え、落下の衝撃までもが加算された愚神礼賛は、まさに一撃必殺と表すのにふさわしい。
「うわ、ああああ!!!」
釘バットの前に大きな恐怖がドナルドを襲い、後ろへと退避させるがもう遅い。
ドガシャアン、と。
轟音を立てて、今度は二階の床が抜けた。
いや、破壊された。
当たった箇所を起点に二階の床のほとんどが破壊され、下へと落ちる。
ドナルドも直撃こそ免れたものの、衝撃をもろに喰らったため落下は避けられず、一階へと打ち付けられた。
「‥‥‥終わりだな」
静かに一階へと着地した軋識はドナルドの倒れた所に向かってゆっくり歩く。
愚神礼賛を構えて、確実に仕留めるようにゆっくりと、力を溜めながら近づく。
一歩目を踏み出したとき、ドナルドは完全に軋識の不意をつく形で跳躍し、再び二階へと戻る。
(なんだ? もうほとんど足場も無いような所に‥‥‥)
見上げた軋識は思い出す。
この家から無くなったのは一部屋分の二階の床だけではなく。
一部屋分の屋根も失われていることを。
(逃げる気か!?)
軋識は得物を握りしめ、二回目の必殺技を放つために再び跳躍する。
逃がしはしない。
先程よりも高いジャンプ。
一回目は二階からだったが、今度は一階から跳ねなければならないため、炸裂する高さは同じでも軋識の使う体力は倍だ。
空中に飛び上がった軋識は先と同じように一時空中で静止する。
しかし、空中から見たドナルドの様子は一回目とはまったく違ったものだった。
黒い、箱のような鞄を取り出していたのだ。
―――零崎軋識は運よく自分が最も得意とする得物、愚神礼賛を支給された。故に他の二つの支給品は見もせずにデイパックの中に仕舞ったままだ。
確かに零崎軋識は自分専用の武器を使う。
自分に一番馴染んだものを使う。
今回のバトルロワイアルにおいてもそうだ。一番都合のいい武器があるのにそれ以外の得物を使う道理はない。
だが。
それでも、相手の支給品に関する警戒は強めておくべきだった。
軋識のような専用武器保持者は通常と比べて他の武器への関心が薄くなるのは仕方がない。
しかしそれでも罪口のような、呪い名の作る武器というのが存在している以上未知の原理を用いた武器がこの会場に存在していてもおかしくない。
その事に、気付いておくべきだった。
まあ、結論から言えば。
ドナルドの持つ匣から出た黒い怪物は、あっさりと零崎軋識を喰らい、殺した。
「!?な、ん」
咄嗟に、反射的に出た言葉すらも最後まで言えずに、最も荒々しく最も殺した殺人鬼はこの世を去った。
「ぐ‥‥‥。ふぅ」
怪物が軋識の身体を完全に喰らい尽くし、黒い怪物が匣の中に戻ってからドナルドは息を吐いた。
かなり無理をした。
思ったより軋識との戦いで負ったダメージが大きい。
最後の切り札だったこの黒い匣の入ったデイパックが運良く崩れなかった二階の部屋の角に置かれていたので使う暇ができた。
強力過ぎるが故に一度使うと四時間使用不可能となる制限もあるが、あの状況では出し惜しみはしていられない。むしろ使うべき時の見本みたいなものだった。
「いく、か」
重い、傷ついた身体を起こしてドナルドは玄関へと歩き出す。
しばらく休まなければならない。
しかしかなり派手な戦闘をやらかしたあとだ。
音を聴いた参加者がここに来る可能性は多い。その時に大きなダメージを負った今の状態では倒されて死ぬかもしれない。
身体に鞭を打ち、ピエロは玄関のドアを明けて日の昇ってきた外へと飛び出した。
【零崎軋識@人間シリーズ 死亡】
【ドナルド・マクドナルド@ニコニコ動画】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1つ、TNT@ニコニコ動画、匣@空の境界
[思考・状況]
基本思考:ゲームから抜け出す。
1:手段は選ばない
2:使える奴となら組んでもいい
3:自分の制限には気付いている
4:必要に応じて参加者を殺す
5:今は休息が第一
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