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僕の周りには変わり種が多い

作者:黒昼白夜
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来訪者編
  第28話 留学生来たりて

西暦2096年になって3学期初めの日のランチタイム。
学食で待っているのはいつも通りに1-Eの達也、レオ、幹比古、エリカ、美月に僕で、そこに1-Aから来たのは深雪とほのかに雫がUSNA(俗称はステイツ)へ留学する代わりにきた交換留学生。それは正月に達也たちと日枝(ひえ)神社の初詣へでかけた時に不自然な視線を投げかけてきた、深雪の横に並んでも見劣りしない美少女だった。その時、明らかに視線を交えていったので、プシオンを覚えているし、ものすごく奇抜なファッションだったのも印象的だ。レオ、幹比古、美月は見覚えがあるということだが、下手にさわると、スパイがどうのこうのと言いだしかねないので、言うのはやめることにした。

ランチのトレイを当然のような顔で達也の正面に置いたほのかが、隣に座った金髪の美少女の方に向きながら、

「達也さん、ご紹介しますね。アンジェリーナ=クドウ=シールズさん。もうお聞きのこととは思いますけど、今日からA組のクラスメイトになった留学生の方です。」

ほのかが、達也だけに紹介をしたので、他のメンバーにも再度紹介するというお笑いはあったが、アンジェリーナはリーナで、略称は無しというのもあり、こちらがわは各自の自己紹介からタツヤ、エリカ、ミヅキ、レオ、ミキ、ショウとして覚えられた。

ミキなのは「幹比古」の発音が「ミキ・ヒコ」に聞こえたのをエリカがいつもの調子で

「ミキで良いんじゃない」

「あら、そう? じゃあお言葉に甘えて、ミキ、で良いかしら?」

幹比古はその愛称を受け容れることになった。
もうひとつは、リーナは九島閣下の弟の孫ということがわかったぐらいか。



その週の土曜日の早朝。
11月から恒例になりだした、僕の『纏衣の人形』の分身と、達也の人殺しまがいの訓練。ただし、それも深雪が到着する寸前までの5分ほどだ。
いつものように、九重先生の横に本体である僕は座りながら、分身に達也と戦ってもらっている。勝てば、そのまま、自分のサイオン情報体と重ね合わせて、定着させることにより、自身の肉体的経験とできるし、負けても精神的なイメージトレーニングと同じだ。肉体の行動は、分身自身がおこなっているが、それが味わう痛みなどは、同じプシオン情報体をつかっているので、幻痛として本体である僕にも届く。

そんな中、僕は九重先生に質問をするのに、『火圏』の結界と内部から外部へは音が漏れない遮音結界を張る。これで達也がエレメンタル・サイトを使っても、中を覗くことはできない。

「九重先生。深雪さんが来るまで時間が少ないので、手短にお話させていただきます」

「なんだね?」

「達也は円明流合気術の裏を知っているのですか?」

「裏というと?」

「妖魔の再封印です」

「それね。教えていないよ」

「そうですか。それなら達也は巻き込めないか」

「巻き込むって何をさせたかったのかな?」

「ステイツで11月に新しい種類の人間寄生型の妖魔……今で言うパラサイトが召喚されたようなのですが、それが日本にも渡って来たそうなんです。けれど、裏賀茂とか、西の退魔師たちがステイツまで調査・応援をしにでかけているので、日本の方は逆に手がたりないし、ICPOの魔法犯罪3課もステイツの対応が手一杯だそうで、僕も調査に借り出されそうなんです。だから達也にバックアップを頼めないかなと思いまして」

「それだけなら、達也くんの能力は不要では?」

「ステイツでは、現代魔法師が狩りを行なっているので、そのパラサイトが別の人間にとりついてしまうんですよ。なので、その魔法師が日本にも来たので、そちらの方をおさえていてほしかったのですが……まあ、僕も調査の方になるとは、まだ決まったわけじゃないので、適当にこんな話があるよってぐらいで」

「それって、君の師匠から言われたのかい?」

「ええ、達也のことなら、九重先生に聞いたほうが良いだろうって言われましたので」

「ふむ。ところで、今回は君が勝ったみたいだね。あの袖をつかんで巻き込んで投げたのは、気を達也くんの服に通したのかい?」

「ここは僕の気で充満しているのに、見ただけでよくわかりますね」

「そこは経験だよ」

そう言われては経験って何って聞きたいが、普通ならあの投げ方でつかんだ場合、袖は破れるからな。深雪がくるまでの時間も無いので、結界を解いて、分身のサイオン情報体を本体に重ね合わせて、達也のところに行った。

「翔。本当にここのところ容赦ないな。投げて地面とつくと同時に人の顔へひざを落としてくるとは」

「今の達也のミスだろう。素直に投げられていれば背中から落ちるだけで済んだのに、投げに合わせて飛んで立とうとするから、こっちも頭から落とすようにしないといけなくて、ついついひざまで使うことになるんだよ」

「普通に背中から落ちたら、即効で蹴りを放ってくるだろう」

言われてみればその通りなので、ごまかすように黙って九重先生へと振り返り

「このあとは、いつもの通り九重先生と達也の訓練を時間まで見学させて下さい」

昨年の年末は達也に負けて終わったし、秋の操弾射撃大会はルール改正でペイント弾を銃に弾ゴメした段階で停止させるというので、優勝はのがしてしまった。春は弾ゴメ停止のルールはなかったので、後方解放型の銃で手元の弾だしから弾ゴメに発射まで、全て現代魔法でおこなっていたから、停止と再発射の工程の追加の練習が足りなかったというしかなかろう。
それに対して、今年はさい先の良いスタートだ。あとは深雪がきて、一緒に見学しているが、途中で学校に向かうことにしている。この兄妹と一緒にいると、異常な兄妹愛をみせつけられるからなぁ。



新学期が始まってからの1週間後の放課後。
とある理由から実習室でリーナと向き合う格好で、教育用CADの前に立っている。

「ショウ。行くわよ」

「カウントは任せるよ」

「スリー、ツー、ワン」

それに続いて僕はリーナと同じタイミングで

「ゴー!」

と言って、据え置き型CADのパネルインターフェイスの上にかざした指をパネルに触れさせた。僕のやり方は、汎用方CAD操作を指で行なうからだが、リーナは汎用型CADの使い方ではないな。

リーナと僕の間にある金属球でサイオン光はほどほどの光量を放ったが、結果として金属球はリーナの方へと転がっていた。
リーナは信じられないというように、横に首をふりながら

「私の方がスピードはわずかに負けていました。しかし、サイオン量も干渉力も多いはずなのに、なぜ勝てないのですか?」

たしかに1回目なら勘違いというのもあるだろうが、これで続けての2回目だ。

「術式解体『グラム・デモリッション』もどきで、魔法式をふっとばしているからだよ」

「それなら、ショウの移動魔法も発動しないというより、この起動式でなぜ術式解体『グラム・デモリッション』を発動できるのですか?」

この実習室にいるのは、新旧の生徒会役員と風紀委員長たちだ。そして中2階の座席には1-Eのいつものメンバーや、クラスメイトばかりでなく、上級生たちもきている。サイオンを検出させないで、能力を発揮できることを知っている者からみれば、マルチキャストを行なったのではないかとの疑いもでてくるわけだ。リーナの速度に合わせてマルチキャストが出来るという風に考えるのは、トップクラスのメンバーにはもちろんいないのだが。

こうなったのはランチタイムに深雪とリーナの今日の実習での話しとなり、深雪が2勝差でかろうじて勝ち越しているという話に、その深雪に勝ち越している僕の話を、ほのかがしてしまったからだ。リーナに対してスパイ疑惑をもっているなんてことを、匂わせていなかったのが、逆にあだとなってしまった。

この場にいる深雪は、最初に術式解体『グラム・デモリッション』のもどきを使った時にいたのと、少し話しているから知っているが、われ関せずと淑女の微笑みをたたえているし、そこで「面白いものを見せてもらったわ」と言っていた七草先輩は、小悪魔的な笑いを浮かべているし、ほのかはこの魔法をまともに知らないし、助けてくれそうなメンバーはいないので、話すことにした。

「なぜできるかというと話が長くなるので、実演しながら話していくね」

「いいわよ」

リーナがまず返事をして、それに反対する声もないので僕はまず人差し指の先から少し離れたところに、一番太いところで30cmほどの炎を作り上げる。

「これが僕の先天性スキルである発火念力なんだけど、こうすると……」

発火念力の意味をさとった時なのか、リーナは少し動揺していたようだが、気にしてもしかたがないと、そのまま炎を指先から離して自分の指先の周囲をクルクルとめぐらせる。

「発火念力のうちの発火念動力というのが、僕の先天性スキルの本質なんだ。現代魔法でいう振動系魔法と、移動系魔法が混合しているものだね。そして、この炎は大きさを変更できる。これを小さくしていくと……」

炎は小さくなっているが、炎のまわりにサイオンが残ったままというか、球状になっていく。

「サイオン光がきちんとみえるなら、炎だけじゃなくて、サイオンもあることがわかるよね?」

「はっきりとはわからないけれど、確かに炎の周囲にもサイオンがあるようね。けれど、魔法の常識としては、そんなの信じられないわ」

「これは現代魔法でなくて、超能力の分野になるんだけど、発火念動力の発生には、サイオン次元を改変してそれを現実世界への改変へと導くのが大多数なんだけど、この発火念動力は、現実世界で直接火を発生させてからサイオン次元への改変へと導くタイプなんだ」

リーナが信じられないという顔をしているが、実物をみせているので信じてもらうしかない。ちなみに僕たちが霊能力者と呼んでいる者が先天的に放つ炎はこのタイプだ。

「そしてこの炎が完全に消え去ると……」

炎を消してみせると球状のサイオンの塊が、僕の指先周辺をクルクルとめぐっている状態なので、また指先の上で静止させてみせる。

「このように、純粋なサイオンの塊を移動や停止させることができる。そしてこのサイオンの塊を……」

金属球に向けて放ったところで、金属球を元の中央へと移動させてみせた。そしてそのままサイオンは金属球を包み込むようにサイオン光を放っている。

「その金属球に、術式解体『グラム・デモリッション』がかかっているのと同じ状態だから、もう一度移動魔法をかけてみたらいいよ」

リーナがもう一度CADのパネルに掌を叩きつけるようにしたが、サイオン光は発生していても、魔法式そのものが投影されなかった。正確には投影しようとしている魔法式はサイオン次元に発生しても、現実世界では順番に構築されていっているのを、次々とはねとばしているのだが、高速撮影でもしないとその状況はわからないだろう。

「これだけの能力があるのに、ショウは前回の実技試験で5位なの?」

「移動・振動・加速・加重系は得意だけど、収束・発散・吸収・放出系はそれほどでもないからね」

手の内をさらすことになったが、周りがある程度知っている以上、嘘もつけないだろう。『火圏』の結界もこの魔法の延長戦上にある技法だ。
それと、実技試験があがったのは、起動式の入れ替えが夏休みにおこなわれた。今度の魔法大学入試の実技試験では、起動式が最新の国際標準記述方式にかわったからだ。毎年、改定はあるが、だいたい3年に1回のペースで大きく見直されているらしい。おかげで『プシオン誘導型サイオン起動理論』に近い起動式となってきたので、ノイズを感じるのは大幅に減った。こう思いつつリーナの声を取るための録音は停止させた。

この日は、他として昼食時に達也が問いかけた

「アンジェリーナの愛称は普通、『アンジー』だと思うんだが、俺の記憶違いかな?」

というのに動揺したリーナとかもあったが、答えた内容で、

「いえ、記憶違いじゃないわよ。でも、『リーナ』って略すのも珍しいって程じゃないの。エレメンタリー、っと、小学校の同じクラスに『アンジェラ』って子がいて、その子が『アンジー』って呼ばれていたものだから」

この程度のことでなぜ動揺するのかは不明だ。なんとなく、正体を隠す気があるんだかないんだかの行動だったからなぁ。アンジー・シリウスが高校に入ってくるとは考えずらいから、上司がそうなのかなという程度だった。



リーナはリーナで、達也には正体がばれそうな気がするは、世界的にも珍しい術式解体『グラム・デモリッション』を使える魔法師が2人もいるはで、どういう高校だと思っているところである。他に、もう1人特赦な術式解体『グラム・デモリッション』を使える生徒がいると知ったら、一高の評価はどう変わることやら。



翔が日曜日の朝になって、そのニュースは目にとびこんできた。
いつ情報が公開されのるか不明だったパラサイトの件が、連続猟奇殺人事件としてニュースになってきたのだった。
 
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