戦国異伝
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第百九十九話 川中島での対峙その十二
「しかし真田殿もまだです」
「消すには及ばぬというのじゃな」
「左様です」
「そう言い続けて何年じゃ」
影の言葉はまた咎めるものになった。
「一体」
「六年、いや七年でしょうか」
「そのままた続けるつもりか」
声の色に含まれている咎が強くなっていく、徐々に。
「そのつもりか」
「いえいえ、そうではありませぬ」
「まことに動くつもりじゃな」
「それがしも一族ですので」
飄々としてだ、松永は言っていく。
「ですから」
「動くな」
「それはそのつもりです」
「時を待っておるだけじゃな」
「左様です」
「そろそろ天下が定まるがな」
「まあ関東、北陸、甲信、東海、近畿、山陰、山陽、四国は」
こうした地域はというのだ。
「決まりますな」
「織田が一番有力じゃな」
「勝たれるでしょうな」
信長は笑みさえ浮かべて言った。
「あの方が」
「織田信長がか」
「ははは、それはわかりませぬが」
そこは言わない松永だった、やはりはぐらかす。
「しかしです」
「それでもか」
「まあおおよそ決まっているかと」
「ではお主が動くのも」
「まああの方が油断された時か」
笑って言う松永だった。
「最も面白い時に」
「動くのか」
「そのつもりです」
「動いて天下を乱すのならよい」
それなら、とだ。影も納得してみせた。
「それならな」
「有り難きお言葉」
「そして天下を乱し」
「それに乗じて我等はさらに動き」
「この天下をさらに血で染めてな」
そうしてというのだ。
「それからじゃ」
「我等の世が、ですな」
「まつろわぬ者の世が来る」
影の言葉に剣呑なものが宿った。
「遂にな」
「長きに渡って待っていたそれが」
「そうじゃ、来る」
「これまで邪魔され続けてきましたな」
「その都度な」
声には忌々しさも宿った。
「そうなってきたがな」
「しかしじゃ」
「それが遂に適い」
「血に彩られた世となる」913
「戦国の世が続くのですな」
「そして我等が再び世に出る」
影の声に笑みが入っていた。
「まつろわぬ者がな」
「まつろわぬ、ですな」
「左様、我等がな」
まさにというのだ、松永に。
「ではよいな」
「それがしも」
「では時が来れば動け」
影はまた松永にこう言った。
「必ずな」
「わかっておりますので」
「若し最後の最後まで動かぬのなら」
その時はとだ、声が釘を刺した。
「わかるな」
「ははは、それはありませぬので」
「御主も十二家の当主であるからにはな」
「己の血はわかっております」
「わしに御主、津々木、天海、崇伝、無明、杉谷、百地、石川、楯岡、音羽、高田とな」
「合わせて十二家ですな」
「その我等はずっと戦ってきた」
怨念、それそのものの言葉だった。まさに闇の中に響く。
「そしてそれが遂にじゃ」
「成就する時が来ておるからこそ」
「それがしも動きまする」
「そうせよ、よいな」
「はい、時が来れば」
あくまでその時はというのだ、そしてだった。
そうした話をしてだった、影は闇、夜のそれではなく闇の中に消え去った。その気配が消えるのと見届けてからだった。
松永も何処かへと消え去った、幸村達も既におらず彼の話を聞いた者は誰一人としていなかった。そのうえで信長と謙信の戦の幕が開くのだった。
第百九十九話 完
2014・9・24
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