戦国異伝
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第百九十九話 川中島での対峙その八
「そうでしたな」
「そうです、ですからあの者の為にです」
「茶をですね」
「用意しています」
酒ではなく、というのだ。
「それを用意していますので」
「あの御仁にはそれを用意し」
「そのうえで宴を開きます」
「そしてその時に」
「わたくしは最高の美酒を飲みます」
満面の笑での言葉だった。
「そうします」
「ではその為にも」
「今宵は」
「酒はこれで止めます」
そして、だった。
「そのうえで休みます」
「そうされますか」
「今宵は、これで、ですね」
「そうです、ではそなた達もです」
「はい、これで」
「休ませて頂きます」
家臣達も応えてだった、そのうえで。
上杉の者達も早朝からの戦に備えて早いうちに休むのだった。織田と上杉の戦はいよいよ明日に迫っていた。
幸村も休もうとしていた、だがその中で。
ふとだ、彼は松永を見てだった。
十勇士達にだ、顔を顰めさせてこう言った。
「あの御仁がじゃな」
「はい、松永久秀殿ですな」
「噂に聞く」
十勇士達は無意識のうちに幸村の周りを固めていた、そのうえで主を護りつつ応えたのである。
「悪弾正」
「主君を脅かし公方様も弑逆した」
「あまつさえ大仏殿も焼いた」
「天下の大悪人です」
「そうじゃな、何かが違うのう」
実際にその目で見ての言葉だ。
「気配が違う」
「殿、お気をつけ下さい」
猿飛も警戒を緩めずに言う。
「あの御仁は何時何をするかわかりませぬ」
「まさに蠍でありますぞ」
十勇士の知恵袋と言っていい筧も言う。
「蠍はその毒で不意を衝く」
「この国におりませぬがこれ以上はないまでに剣呑な無視です」
霧隠もこう言うのだった。
「我等がこの身にかえてもお護りします」
「何ならここで討つか」
三好清海は金棒を握っていた。
「あの頭をかち割り」
「兄上の仰る通りですな」
三好伊佐は兄に完全に同意していた。
「ここは」
「そうじゃな、あ奴は天下に害を為す者」
望月も二人に続く。
「ここで討っても誰も何も言わぬ」
「殿、ご命じを」
十勇士の筆頭格である海野は幸村に決断を願った。
「あの者を討てと」
「その時はです」
穴山も鉄砲を出している、その百発百中の腕を見せようというのだ。
「あの者の額を貫いてみせます」
「あの首、一刻も早く落とさねば」
根津も刃を出している、十勇士きっての腕を誇る刀をだ。
「織田家、天下に災いとなります」
「我等十人が一度にかかれば」
「如何にあの者とて」
松永が腕が立ったとしてもというのだ。
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