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フェイト・イミテーション ~異世界に集う英雄たち~

作者:零水
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ゼロの使い魔編
第一章 土くれのフーケ
  想起

 
前書き
己の文章力のなさに嘆くぜ・・・!! 

 
 馬車では進めなくなったところで、一向は徒歩で森の奥へと向かっていった。やがてロングビルが言っていた廃屋が見えてきた。
 中の様子を確認するため架がまず一人で小屋に近づいていった。窓からそっと中を伺ってみるが、古びた机や椅子、本棚や箪笥が置かれているだけで誰もいない。
 合図を送ってから小屋に入り込む。すると後からキュルケとタバサだけが入ってきた。ルイズは見張りのためその場で待機、ロングビルは周囲の偵察らしい。
 辺りを調べようと思ったが、すぐに架が「妙だな・・・」と零した。

「どうしたのよカケル?妙って?」
「よく見ろ。中全体が埃っぽ過ぎる。フーケがここを拠点にしてるにしては不自然だろ。」
「確かにちょっと汚なすぎるわねぇ。何日も使われてない感じがするし・・・。」

 ロングビルの情報がデタラメだったってことか・・・。と架が考えていると、

「破壊の杖。」
「ん?」「タバサ?」

 箪笥を調べていたらしいタバサが振り向いた。すると、彼女は丁度彼女の身長と同じくらいの箱を持っていた。この古びた小屋には見合わない立派な装飾が施されている。っていうかそれは、昨日フーケが盗んでいったのと・・・
 
「確かにフーケが持っていたものと似ているけど・・・」
「でも何で、杖だけが此処に・・・?」

 その瞬間、架は理解した。フーケがわざとここに残していったというなら・・・。

「小屋を出ろ!今すぐに!」
「・・・罠。」
「え、どういうこと!?」

 言うが否や、架は外に飛び出した。タバサは俺の考えを瞬時に理解し、後に続いた。キュルケも分かってはいないようだが行動には移してくれたようだ。
 外に出ると、見張りのためにいたルイズが驚いた顔でこちらを見ていた。

「カ、カケル!?みんなもどうしたの!?」
「ルイズ!説明は後だ、ここを離れるぞ!」
「え!?で、でもまだミス・ロングビルが・・・」

 そういえばロングビルは偵察とか言っていたな。ならやっぱり・・・。
 と、架が考えたその時突如森から巨大なゴーレムが現れた。

「ゴ、ゴーレム!?」
「フーケ。」

 こちらに向かってくるゴーレムにタバサたちが応戦を始めた。しかし、ゴーレムはタバサの起こした竜巻に諸共せず、キュルケのファイヤーボールには炎に包まれ多少怯んだ様子を見せたがすぐに掻き消してしまった。

「やっぱ無理よ、こんなの!」
「・・・撤退。」

 キュルケが叫ぶと、タバサも同意の声を漏らしゴーレムから距離をとるように駆け出した。
 キュルケと架もそれに続こうとするが、架は「ルイズッ!?」と声を上げる。ルイズは一人で反対方向―――つまり、ゴーレムに向かって走り出していたのだ。

「・・・・・・えいっ!!」

 呪文を唱え杖を振るうが、放った爆発はゴーレムの胴体をわずかに崩す程度に終わる。それでもルイズは諦める様子はなく、その場に立ち尽くす。そこへ架が物凄い速度で飛んできた。

「ルイズ何をやっている!死ぬ気か!?」

 架の声を聞いたルイズはキッっと真剣な目をゴーレムに向け、そして言い放った。

「私は貴族よっ!貴族っていうのは、魔法が使えるものを呼ぶんじゃない!!敵に背中を見せないものを貴族というのよっ!!」
「ッ!!」

 ルイズの決然たる態度に、架は一瞬息をのんだ。しかし、ばっとゴーレムを見やるとゴーレムはその巨大な拳をルイズに振り下ろそうとしているところだった。
 咄嗟にルイズを抱え跳躍する。僅かに遅れてルイズたちがいた場所にズズンッとゴーレムの拳が振り下ろされた。一発で地面に小さなクレーターのようなものができる。もし当たれば一撃でお陀仏だったが、架がサーヴァントだったからこそ何とか躱すことが出来たのだ。
 ゴーレムからある程度距離をとった所に着地し、そっとルイズを降ろす。ルイズは「あ、ありが・・・」と言おうとするが、「この馬鹿がっ!!」という架の珍しく怒った声に口を噤んだ。

「貴族だ平民だなんて関係あるかっ!死んだらそこで終わりだろうがっ!!」
「ッ!!」

 架の厳しい言葉にルイズは目を伏せた。やがてプルプルと肩を震わしながら、「だって・・・だって・・・。」と声が聞こえてきた。

「わたし、悔しくて・・・いつも、みんなにバカにされて・・・それで、それに、カケルにも・・・」
「俺が?何だって?」

 ルイズの顔を覗き込むように若干声を落ち着かせて架は尋ねた。いつしかルイズは顔を赤くして目からは涙を流していた。

「カケルにも、認めてもらいたくて・・・わたしが、わたしがあなたのマスターだって・・・カケルが、わたしの使い魔だって、ちゃんと言えるようにって・・・」
「・・・・・。」

 もはや嗚咽まじりになりながら独白するルイズを架は黙って見つめていた。
 一度は元気を取り戻したものの、やはりルイズにとってサーヴァントのマスターになるということが重しになっていたのであろう。こんな自分がサーヴァントなどという特別な存在を扱えるのだろうか?普段から一生懸命努力をしているのに、一度も魔法を成功させていない自分が?周りからは才能がないと馬鹿にされている自分が?本当にできるの?怖い!
 今のルイズ決定的に足りないもの・・・それは『自信』だった。
 だが、もう架の答えは決まっている。そのことをルイズに伝えようとするが、

「カケルッ!危ない!!」
「!!」

 キュルケの声を聞いて後ろを振り返ると、いつの間にか距離を詰めたゴーレムが再び拳を振り上げていた。
 くそっ、油断していた!架は最大限の手加減をしながらルイズを突き飛ばした。「キャッ!」と声を上げながらルイズが地面を転がっていくのを確認しながら自分も回避のため跳躍するが、ここでゴーレムの拳が振り下ろされた。

「ぐうっっ!」

 直撃は避けられたものの、ほぼゼロ距離で衝撃を受け無造作に地面に投げ出される。

「ぐっ・・・!ああっ・・・!」
「カケルッ!!」

 遠くからルイズの声が聞こえたことで、彼女の無事を確認し安堵する。しかしこちらは最悪だ。頭を強く打ったようだ。
 ゴーレムは動けない架を標的に定めたようだ。今度こそ仕留めんとこちらにゆっくりと近づいてくる。

「相棒!立て!死んじまうぞ!」
「カケルから離れなさいっ!」
「させない!」

 デルフリンガーが架を叱咤し、上空からシルフィードに乗ったキュルケとタバサが魔法で迎撃するが、やはりゴーレムはビクともせず確実に架に近づく。
 ちっ・・・!と架が覚悟を決めようとしたその時、

 ザッ

 すく近くで地を踏みしめる音が聞こえた。薄く目を開けて見てみるとそこには

「・・・・・ルイズ?」
「嬢ちゃん!?さっさと逃げな!」
「ルイズ!あなたまで死んじゃうわ!」

「使い魔を見捨てるメイジはメイジじゃないわ!!」

 ルイズがいた。架が突き飛ばしたせいで髪は乱れ、服は砂埃で汚れてしまっているが、それでも懸命に架を守ろうとしている。
 ゴーレムはそれでもお構いなしにトドメとばかりに腕を振り上げた。


――――――ピ


「あ・・・」

 その光景が『あの時』と重なった瞬間、


――――――ピシッ


「あ、あああ・・・!」

 架の中に眠っていた、


――――――ピシピシッ!


「ッッッッッッッ!!!」


 心の封印が、解かれた


――――――ビキィィ!!





 一人の男がいた。男がいるのはどこかの建物の地下。
 
 目の前には黒装束の男たち。その内の一人は拳銃をこちらに向けていた。

 そして、男の足もとには・・・


 男より少し年下の女性が倒れていた。

 男は呆然とその女性を眺めていた。そして崩れ落ちるように屈むと女性を抱き起こす。

 女性の肩からは血がとめどなく流れていた。目の前の男の銃によるものだろう。

 女性は苦しそうに目を開けた。しかしそれでも笑った顔を作り男に話かける。

――――――ほら・・・わたしも、まもれたでしょ・・・。

――――――ずっと、おもってた。ずっと、まもられてきたように・・・

――――――わたしも、おにいちゃんをまもりたいって・・・

――――――・・・・・よかった。

 そして女性は再び目を閉じ、ぐったりと動かなくなった。

 その女性――――生涯守ろうとした妹の姿を見て






 男は、         壊れた。





「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


「カ、カケル!?どうしたの!?」

 辺り一帯に架の叫び声が響き渡った。ルイズが振り向くと架は頭を抱えるように蹲っていた。全身がガタガタと震え、目は何かに怯えきっている。
 ルイズが架に寄り添い、必死に声をかけるがそれも聞こえていないようだった。

「こいつは・・・相棒!まさか、記憶が!?」
「思い出したの!?」
「グッ・・・・アアアアアアア!!」
「どうやらそうみてーだな。よほど性質(タチ)の悪いモンらしいが・・・」
「ルイズッ!前!!」
「!!?」

 ばっと振り返るとゴーレムが今まさにその拳を振り下ろす瞬間だった。迫りくる死の予感にルイズは何も出来ず、キュッと目をつぶってしまう。そして・・・

「魔神剣・双牙!!」

 ズバァァァッ!!

 咄嗟にデルフリンガーを抜き放った架がそのままの勢いで二つの気の刃を飛ばした。
 二つの気はゴーレムの両足を砕き、ゴーレムは大きくバランスを崩す。結果、拳は大きく逸れてルイズたちとは離れた場所に下ろされた。
続いて架はルイズを片腕で抱え再び跳躍。ゴーレムとさらに距離を開けた。

「カケル!大丈夫なの!?」
「ああ・・・。ぜんぶ、おもい、だした。」
「!?・・・アンタ、泣いてるの?」

 架の顔を見ると、彼は止めどなく涙を流していた。歯を食いしばりながら泣くその姿は、直面した事実に懸命に耐えているようにも見えた。
 架はそのぐしゃぐしゃな顔を拭いルイズに向き直ると、そっ、と彼女の頬に手を添えながら言った。

「俺は・・・あの時、大事なものを、守れなかった・・・。」
「え、それって・・・。」
「だから・・・」



――――今度こそ・・・お前を・・・守らせて・・・。




 悲しげな、そして何かに許しを請うような声だった。その言葉に、どんな想いが込められているのかルイズには想像できるはずもなかった。ただ、その声に、その姿に魅せられたのか何も言えなくなってしまう。二人はそのまま動かなかった。
 静寂を破ったのは地面に降り立つ竜の羽ばたきの音だった。

「あなたたち、何やってるの!」
「乗って。」

 キュルケたちの声を聞いた架は再びルイズを今度は両腕で抱え上げ、シルフィードに乗せてやる。「あなたも。」というタバサに、「いや・・・」と言いながら後ろを見やる。先ほどは足を破壊されていたゴーレムだが、土でみるみる再生していく。完全に元に戻るのは時間の問題だった。

「・・・行ってくれ。」

 ルイズたちを見上げ薄く笑う架の表情には、もう先ほどまでの弱弱しさはなかった。
 あるのは・・・

「カケル待ちなさい!いくら貴方でも・・・」
「ルイズ、さっきの言葉に答えてやる。」
「え・・・?」

 目の前の敵を打ち倒さんとする、

「俺は・・・お前を主にして後悔してはいない。お前は『ゼロ』なんかじゃない、俺にとって立派な、最高の(マスター)だ!」
「あ・・・!」

 純粋な闘気のみ!!

「俺は・・・他の誰でもない、お前だけの使い(サーヴァント)だ!!」

 そう言って彼は駆け出していく。その勇姿を見送ったタバサはシルフィードに上昇を命じた。

「っ!タバサ、待って!」
「彼はあなたを信じてる。」
「え・・・」
「だから、あなたも彼を信じて。」

 タバサの真剣な言葉にルイズはハッとする。そう、今自分にできることは己の使い魔を信じるのみ。

「(カケル、お願い・・・勝って!!)」




「相棒、随分決まったじゃねえか。」
「ははっ、そうだな。」

 架は走る。目の前のゴーレムは既に足の再生が完了し立ち上がっている。だがこれ以上、奴の攻撃を許すつもりは毛頭なかった。
 彼は気付かなかった。この時自分の左手のルーンが白く光り輝いていることに。

「じゃあ、最後まで決めていかないとな!!」
「はっはあ!いいねえ、そうこなくっちゃな!!」

「魔神剣・双牙!!」

 立ち上がったゴーレムの両足目がけて、先ほどよりも強力な気の刃を飛ばす。元々パワー重視でスピードがほぼないゴーレムは避けることは勿論、防ぐこともままならず再び足を破壊され倒れこむ。

「瞬迅剣!  雷神剣!」

 技による加速で一気にゴーレムとの距離を詰め、その勢いのまま突きを繰り出す。衝撃波でゴーレムの頭の部分がさらに砕ける。
 続いて雷を見舞うが、それ程の効き目は見られなかった。ゴーレムは破壊した途端に際限なく再生を繰り返す。

「ちっ・・・!」
「奴は土属性の魔法で作られたモンだ!炎をぶつけな!」
「だが、あんなデカいのを焼き付けるだけの炎なんざ・・・」

 デルフリンガーの助言に架は苦い顔で答える。何せ相手は全長三十メイルの巨体なのだ。ちょっとやそっとの炎では焦げをつけるのがやっとだろう。
 だが、自分で補えないのであれば、他所からもらってくればいいのだ。

「適任がいるじゃねえか。火のサポートをするのによ。」
「っ!そうかっ!」

 架は空を振り仰いで、力の限り叫んだ。

「キュルケ!!俺に向かって火を放て!!」
「ええ!?いきなり何を・・・!?」
「いくぞ!!」

 言うが否や、架は大きく真上に跳躍する。サーヴァントの身体強化の渾身のジャンプはゴーレムの頭の高さまで届いた。

「・・・来い!!」
「ああもうっ!行くわよ!!」

 何のつもりかは分からないが、とにかく今は架を信じてキュルケはファイヤーボールを放った。

「おおおおおっっ!!!」

 たちまち架は炎に包まれるが、魔力を体外に放出することによりそれを逆に制御する。

「いくぞっ!デル!」
「おうよ!」

 そのまま一気にゴーレムに向かって突貫。纏った炎は架を中心に形を変え、翼を広げた鳥の姿を連想させた。

「おおおおおおおおおお!!!」


 “鳳凰天駆”!!!!


 炎の鳥は負けじと放ったゴーレムの拳を難なく砕き、そして胴体を貫いた。中心から燃やされたゴーレムはやがて、音を立てて崩れていき元の土くれに戻った。
 久しぶりに魔力を大量に消費したため、架はガックリと膝を折った。
「っ、はあはあ・・・!」
「カケルーー!」

 シルフィードが地に降り立つ前に飛び降りて、ルイズは架の元へ駆け寄った。
 しかし・・・

 ムギュッ!

「おわっ!?」
「うふふ~!あのゴーレムをあっさり倒しちゃうなんて、流石は私のダーリンね!」
「なっ・・・!?ちょ、ちょっとキュルケ!私の使い魔に手を出さないでって言ってるでしょ!!」

 ルイズを追い抜いたキュルケが架に飛びついた。それを見たルイズは二人を引きはがそうと必死に架の腕を反対方向から引っ張る。
 普段だったら「おいおいよせよ~」なんて間抜けな冗談も言えたかもしれないが、はっきりいって疲労困憊な状態で力いっぱい抱き着かれ、腕を引っ張られ、耳元で怒鳴り声を発せられては、迷惑なことこの上ない。

「あーーもうやめろってお前ら!それにまだ終わってねえだろ!」
「フーケ」
「「あ・・・」」

 ゴーレムの出現ですっかり忘れていたが、今回の任務は「破壊の杖の奪還」と「フーケの捕縛」である。一つ目は既に果たされているが、ゴーレムを操っていたのがフーケであるならば、まだこの近くにいるはずである。

「手分けして探そう。俺は向こうを探す。何かあったら、魔法を放つなりして他の奴らに伝えるんだ。いいな。」

 と言って、架は一人で森の中へ歩いて行った。






「くそっ、一体何だってんだいあの使い魔!?人間の使い魔なんて聞いたこともないし、平民かと思ったらとんでもなく強いし!」

 ゴーレムが敗れ、森の奥へ逃げ込んだフーケは荒い息の中で悪態をついた。再生に魔力を使い過ぎたため、もうほとんど魔力も残っていない。後は逃げるしか・・・

「やっぱりここにいたか、土くれのフーケ・・・いや、ミス・ロングビル。」
「っ!!?」

 突然背後からかけられた声にビクッと震えた。恐る恐る振り返ってみると、例の使い魔が立っていた。いつの間に!?どうしてここが?いや、そもそもなぜ私の正体を?さまざまな疑問が渦巻き、それは無意識に口から出た。

「あ、アンタは・・・一体・・・?」
「・・・出来損ないの魔術師だ。」
「・・・・・・。」

 しばらくポカーンとしていたフーケ―――ロングビルはやがてフッと諦めたように笑みをこぼした。魔術師という言葉に聞き覚えはないが、自分が相手の力を見誤ったのはどうやら間違いないらしい。誤魔化すことも難しそうだ。

「一つだけ聞かせて頂戴。何で私がフーケだと分かったの?」
「簡単だ。あんたが朝から捜索を始めたとしても、こんな馬車で数時間かかるような場所を探しあてて戻ってくるなんて不可能だからな。後は、体格や髪の色なんかで何となく予想したってわけだ。」
「・・・そう、誤魔化せると思ったんだけどね。いいわ、アタシはもう魔力切れだし好きになさい。」

 ごめんね、テファ・・・とロングビルは、こっそり悲しそうに呟いた。
いやいや、俺が気付いているくらいだからあの人も大体分かってるんじゃないか?と思いながら、架は言葉を発した。どの道架にはフーケをここで捕まえるつもりはない。

「未練は・・・ないのか?」
「そうだね・・・最後にテファ―――妹の顔が見たかったけど、しかた「そうか、じゃあ行け。」ない・・・って、ええ!!!??」
「だから妹に会いたいんだろ。会ってくればいいじゃないか。」
「い、いやいや、でも、アタシはもう・・・」
「生憎、俺ももう魔力切れでな。正直お前をふん縛る力も残っていない。」
「・・・馬鹿にしてんの?」

 明らかな惚けた口調に、ロングビルは声に怒りの色を混ぜた。妹に会いたいのは事実だが、情けをかけられたくない程度には彼女にもプライドがあった。
 すると、目の前の使い魔は不意に悲しそうな顔をして、絞り出すような声で言った。

「少なくとも、そいつもお前と一緒にいたいと思っているだろうさ。そこまで思われているんだったら、なおさらな。」

 ―――――私にも妹のような存在がいますの。あの子がいるから、私は今も頑張っていけるんです。
 ―――――そう、そのためなら何だってして見せる・・・!


ロングビルはここに来る前に言った自分の言葉を思い出した。あれは、正体を隠した中からでた、数少ない本心からの言葉だった。

 ――――――いってらっしゃい、マチルダ姉さん。

 そして、自分が故郷を去るときの妹の言葉。その寂しそうな笑顔に罪悪感を覚えながらも、これも貴女のため、と思い頑張ってきた。でも・・・・・。
 トドメとなったのは架の本当につらそうに言った一言だった。

「俺は・・・もう、叶わないことだろうけど・・・」

 もう何も言えなくなる。目の前の少年にも妹がいたことは本人の話から聞いている。とても大切に思っているということも。しかし、今の言葉が出るということはもうその子は・・・。自分より若そうなこの子が一体、どれだけ辛い思いをしてきたのだろうか。
 この子は守るべき存在を失った。けど自分にはまだそれがある。そう思うと、無性に妹の顔が見たくなった。あの眩しいくらいの笑顔にもう一度触れたくなった。

「・・・はあ、何弱弱しい顔をしてんのよ。さっきまでの勇敢さが嘘みたいじゃない。」
「ほっとけ。それで?」
「ええ、分かったわ。もう一度あの子のところに帰ってみるわ。こんな盗賊なんて汚れたことをした私を受け入れてくれるかどうかわからないけど・・・。」
「やり方は間違っていたのかもしれない。けど、その気持ちは間違ってないんだろ。」
「ふふ。結局唯のお人好しなんじゃない。」

 そうして、どこかすっきりとした顔をしてロングビルは去ろうとした。しかし、「あっ!?」と、何か思い出したかのように架の方を振り返った。

「あ、あの、その、さ、最後にお願いがあるんだけど・・・。」
「? 何だ?」
「あ、あの方によ、よろしく言っておいてくれないかい?」

 顔を赤くしてモジモジしながら頼み込むロングビル。その姿はまるで・・・。
 あの方?オールド・オスマンか?でもそれにしては様子が・・・、と架が考えていると後方から人がやってくる気配がした。

「カケル~?どこにいるの~?」
 振り返ると、ルイズたちがやってきていた。どうやらみんなフーケを見つけられなかったため、合流しようとしてたらしい。

「あ、いた!カケル、フーケは見つかったの?」
「ん、いや見つからないな。」

 チラリと後ろに目をやるが、彼女の姿は跡形もなく消えていた。彼女は本当にちゃんと妹のところへ帰るのだろうか。だが、架にはもうどちらでも良い話であった。

「もうこの辺りにはいないのかもしれん。破壊の杖は戻ったことだし、学院に戻ろう。」
「ん~、そうね。またゴーレムに出てこられても嫌だし。」

 ルイズの言葉にキュルケもタバサも異論はないらしく、くるりともと来た道を戻り始めた。
 架も後に続こうと歩き始めたところで・・・

「(デル、さっきのことは言うなよ。)」
「(分かってるさ。)ところでよう相棒、そろそろ限界なんじゃねえか?」
「・・・・・ああ、そう、みたいだ。」


 フラッ、    ドサッ


 バタリとその場で倒れた。どうやら本格的に魔力切れらしい。

「えっ!?ちょ、ちょっとカケル!?」

 久しぶりだったからなあ、まともな戦いなんて。せめて学院までは持ち堪えたかったけど、こんなんでこの先大丈夫か、俺?
 そんな自嘲的なことを考えながら、架の視界はゆっくりと暗転していった。







「やれやれ、何とも平和的な終わり方だな。」

 架たちのいる少し離れた木の上から一人の男がこの一件の一部始終を見ていた。
 ルイズたちがゴーレム相手に苦戦しているときには出ていくべきかと迷ったが、結局セイバーが一人で片づけてしまったようだ。真っ当な英霊でないにしろ、最優のサーヴァントのクラスは伊達ではないらしい。うちのマスターは好戦的ではないが、戦うことにはなれば苦戦は免れまい。
 それにしても最後はつまらなかったな、と男は思った。自分なら間違いなくフーケ―――ロングビルを殺していた。人の生なぞ、男からしたら最も下らないものと考えるものだった。

「・・・・・っと、そろそろマスターの目を盗んでいられるのも限界か。あいつらも戻るみてぇだし、さっさと帰るか。」

 そう言って、急いで己の主人の元へ戻るべく、

 



 暗殺者は静かにその姿を消した。
 
 

 
後書き
主人公の過去については追々書ければいいかなと思っています。
ロングビルもヒロインの一人に入れようか迷いましたが、結果的に別の人とくっつけました。
誰って?まあそりゃあ・・・ 
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