ハイスクール・DM
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16話
「おい、屑共……運が悪かったな……オレは最高に機嫌が悪い……」
四季の全身から溢れ出す高温の熱量が空気を焦がす。この場に居るのは詩乃……と一緒に攫われたらしいアーシア以外は敵だけだ。どうなろうが知った事では無い。
「つー訳だ」
「へっ、ドイツもコイツも気に入らねぇ匂いをさせてやがるから、丁度良いな」
素っ気無い口調で同意しながらも目には好戦的な色を宿しているクロスファイヤに、周囲に居るはぐれエクソシスト達から感じる殺意さえも湧き上がる嫌な匂いに不快感も露にするカツキング。
「後悔できるたら、幸運だと思うんだな」
ばくれエクソシスト達の狂信はアウトレイジの宿敵であるオラクルの“それ”に近い。故に彼等の狂信者特有の殺気はアウトレイジの性質にとって水と油……と言うよりも、拒絶反応を起す様な物だ。
(な、なんでこんな所にあんなドラゴンが……)
レイナーレでもカツキングとクロスファイヤとの実力差は理解できる……と言うよりも、理解させられてしまった。どうやっても勝ち目など見えないドラゴンや人の形をしているが、天使でも、悪魔でも、自分達と同じ堕天使でもない……異質な存在。いや、ドラゴンや人の存在に近いが……この世に存在するどれとも違う、そんな存在感を纏っている。
「ふ、ふん、言ってくれるわね、この数が見えないの? たった三人で何が出来るのかしら?」
唯一の優位にある数の差を持って精一杯の虚勢をはるレイナーレ。実力差が理解できていないはぐれエクソシスト達も人数で勝るが故の慢心ゆえに引く様子も無い。
「はっ!? オレ達をやりたかったら……あと三万人は連れて来いよ、ドブス」
「なっ!? いいわ、や「オラぁ!」……なにが……?」
四季の言葉に怒りを感じたレイナーレが配下のはぐれエクソシスト達に指示を出そうとした瞬間、隕石でも直撃したような衝撃音が響き渡る。
その中心に居たであろうはぐれエクソシスト達は強風に煽られた木の葉の様に吹飛ばされるか、そのまま跡形も無く吹飛ばされていた。
「悪いが長い話に付き合う気は無いんでな、さっさと嬢ちゃんを助けろよ、四季」
それを引き起こしたクロスファイヤが四季へとそう声をかける。
「悪魔の仲間風情が!!!」
「んな連中の仲間だぁ、ふざけんじゃねぇ!!!」
全身に打ち込まれる銃弾は強靭な皮膚の前に弾かれ傷一つ着く事はなく、振り下ろされた光の剣は受け止められ、それを受け止められたはぐれエクソシストはクロスファイヤの力の直撃を受けることとなり、列車との正面衝突よりも酷い状況になる。
「こいつ等の相手はオレ達に任せて、さっさと助けて来い」
「クロス、キング、ここは任せた!」
待てと言いたい気分だが、カツキングを前にして何も言えないレイナーレを放置して、四季は十字架に捕われている詩乃の元へと向かう。
アーシアの神器だけでなく、“あれ”に教えられた未知の神器を宿した少女も捕えたまでは良いが、何故こんな化け物みたいな相手に対峙する破目になったのかと思うも、既にアーシアの神器を抜き取っていた事を思い出した。
(そ。そうよ……この神器があれ……っ!?)
危険を感じてレイナーレが直感的にその場を飛び退くと、カツキングの振り下ろした刃が遠くはなれた壁まで切断していた。……時間稼ぎでは無く……寧ろ助け出す前にレイナーレを始末する気のカツキングだった。
「ひっ……(な、なんでこんな事に……わ、私は、私は至高の堕天使に……)」
回復するよりも早く……一瞬で殺される。己とカツキングの間にある実力差は回復能力を持った神器一つで埋まる物ではない事を、その瞬間……レイナーレは嫌でも理解させられてしまった。
必死にカツキングから生き延びる手段を模索するが、盾にできるであろう部下の一人は先ほど一瞬の内に葬られ、もう一人の『ミッテルト』は此処に良い無い(アザゼルから詩乃に“絶対に”手を出すなと言う連絡を受けた際に、既に手遅れだった事を慌てて報告に行ったため)、数だけは居るはぐれエクソシスト達はクロスファイヤによって次々と葬られている現状……部下を盾にして生き延びる手段は使えない。
神のシステムで悪魔を滅する事ができるとは言え、クロスファイヤは悪魔では無くアウトレイジ。神を屠る事などシステム等に頼らず己の力のみで可能にしている上級のアウトレイジだ。……はぐれエクソシスト等敵にすらならない。
「あの子から抜き取った『聖母の微笑み』は闇に属する悪魔や、神の加護を失った堕天使をも回復させてくれる。これが有れば私は至高の堕天使になれる! アザゼル様やシェムハザ様に愛していただけるわ!」
現在、ブルースとジャッキー相手に引き起こされた被害とこれから起こるであろう惨状に、泣きながらアザゼルは心の中でレイナーレの事を罵っている。
要するに逃げ帰ってもアザゼルからは即座に処刑されるか、四季達に引き渡されるのがオチだったりする。彼女の妄想が適う事など決して有りはしない。
「私を見下していた連中を見返してやれる筈だったのに……っ!?」
そもそも、レイナーレの行動がグレゴリ本部に起こっている被害の大本に有るのなら、そのレイナーレが今回の一件を引き起こした原因になった見下していた者達も存分に後悔する事だろう。
(何でこんな無茶苦茶な力を持った化け物みたいなドラゴンが……力!? ドラゴン!?)
―あの中に有るのはドラグハート・ウェポンちゅう武器なんや―
詩乃を狙うに至った“誰か”の言葉がレイナーレの脳裏に浮かぶ。
(そうよ、力なら有るじゃない……それが有れば……。私は生き延びる事が出来る、アザゼル様にも献上する事ができる)
希望とでも言える色を浮かべ笑みを浮かべると、詩乃へと視線を向ける。
「切り裂け、ハート、ビート。ヒート!」
四季の腕の刃が炎の蛇腹剣へと変形し、それによって彼女を捕縛していた十字架を切り裂いた。
支えを失って崩れ落ちる前に四季は彼女の体を受け止める。序でとばかりにアーシアを捕獲していた十字架も切り裂き、彼女も戒めから解放するが床に倒れ付した彼女は動く様子がない。
「っ!?」
アリスの神器モードの力で、魔力の流れにハッキングした時にこの教会の地下に有った魔法陣の意味は確認した。神器を抜かれた者の末路も理解している。……そして、アーシアもそれと同じ末路になってしまった。……もはや、彼女は生きては居ない。
慌てて意識を失っている詩乃の呼吸と脈を確かめるが、幸いにも呼吸も脈も正常だ。
「良かった……間に合った」
四季にとって大事なのは詩乃だ。今は彼女を無事を確かめる事が最優先だった。
「渡せ……その女の神器を!!!」
カツキングから必死の思いで逃げながら、レイナーレは四季に抱きかかえられている詩乃へと向かって光の槍を投げつけようとするが、
「死ねよ」
何の感情も無く、熱を感じさせない一言で言い捨てられると同時に、片翼と共に四季の振るう刃によってレイナーレの槍を持っていた腕は切り裂かれるのだった。
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