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鎧虫戦記-バグレイダース-

作者:
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第四章 地球編 アジア サウジアラビア
  第26話 東南アジアの区切りの意味が理解しがたい

 
前書き
どうも蛹です。
アジアは東、西、北、南、中央に分けられるのは分かりますが
題名のように東南アジアの存在が少し理解しがたいです。
何でしょうか、分けにくかったのでしょうか?
もしかしたら民族的な関係とか、深い理由があるかもしれません。
でも、これを叫びたかったので書かせて頂きました。

それでは第26話、始まります!! 

 
「ヴォウ!」

遠くから駆けて来る影が見えた。

「あ、“ハナミズ”だ!お久しぶり~!」

中国で最初に会ったオオカミ、“ハナミズ”(マリー呼称)の
方向にマリーも駆けて行った。

「ヴォウ、ヴォウ!」
「きゃー、くすぐったいよぉ♪」

マリーは“ハナミズ”に跳び付かれて、頬を舐められた。
彼女は笑いながらそう言った。

「‥‥‥‥ズズーっ」
「まだ鼻が詰まってるねぇ」

鼻をすすっているように見えたので
マリーは“ハナミズ”の鼻先をさすりながら言った。

「平和だなぁ‥‥‥」

アスラは草原に腰を下ろしてつぶやいた。

「そうだな‥‥‥こういう時の昼寝は最高だろうな」

迅がとなりで寝転がりながらそう言った。

「んじゃ、オレも寝るかな」

アスラも迅と同じく寝転がった。



実は、オレ達はサウジアラビアの国内にもういる。
既に国内を突っ切りつつあるのだ。
あと1週間もあれば確実にアフリカ編でも始められるだろう。
だが、何もなかったからこうやって平和に過ごしているわけじゃない。
むしろ、何かあったから今は平和に過ごしているのである。
これから、先に起こった戦いを昼寝がてら語ろう。

じゃ、後は蛹さん。語りよろしく。


‥‥‥‥っていや、語れよッ!!昼寝がてら語れよッ!!



アスラ達は中国を抜け、南アジア経由で進んで行き
ついにサウジアラビアに着いたのである。

「おー!ここがサウジアラビアの町かぁ!!」

山奥を抜けて、ようやく開けた所に出たので
アスラのテンションの上昇が声に表れていた。

「あぁ、早速下りて泊り場所を探そう」

そう言いながら、斜面をゆっくりと下りて行った。



    **********



「すいません」
「あん?」

迅に話しかけられ、男は語尾を上げ気味に返事をした。
そして、全員の身なりを見回すと、笑顔でこう言った。

「あんたら旅人か?泊り場所探してんなら
 良いぜ、うちに泊まっていくかい?」

黒い肌の中から現れた歯は驚くほど白く見えた。
眩しく輝いていた。こちらに向かって煌めいていた。
そこまで歓迎してくれるのなら、と全員はお言葉に甘えることにした。

ー家ー
 
「狭い家だけど上がってくれや!ハッハッハッ!」

男は笑いながら全員に入るように促した。
家の形は分かりやすく言うと、普通の家。
特に何も特徴のないごく普通の家。
あ、一つはある。
それは、5人が泊まるにはマジで狭いことだ。

「何やってんのよアンタ!
 狭い家なんだから壊れちゃうでしょ!」

奥から妻と思われる女性が男に大声で叫んだ。
左手にはフライパン。右手には菜箸を持っていた。
器の中から美味しそうな匂いが広がっていた。

「うわー、良い匂い♪」

マリーは空気を読まずにそう言った。

「あら?ところで誰なの?この人達」

彼女は菜箸で料理をかき混ぜながら訊いた。
迅が前に出て言った。

「オレ達は″侵略虫″を倒すために世界を渡っている旅人です。
 噂とか流れていませんか?″侵略虫″の天敵が現れたとか」
「んーーっ、訊いてないわねぇ。少なくとも私は」
「俺も訊いてねぇなぁ」

迅の問いに二人は互いに向き合ったまま答えた。
昔ならテレビでニュースが流れていたので簡単に情報が入手できたが
今は情報を遠くに発信する方法がないので、ここまで情報は来ていないようだ。

「そうですか。申し遅れました、オレは迅です。
 後は左から、マリー、アスラ、ホークアイ、リオです」
「いや、俺はリディ二―クだよ!リオはあだ名!」
「そうだったな」

リオさんのツッコみに迅は笑いながら言った。
夫婦も笑いながら、それを見ていた。

「俺はこいつ等を泊めてやりたいけどな」
「私もこの人達ならオッケーよ」

妻からの了承も得たらしく
全員は改めて、ここでお世話になることになった。

「じゃあ、早速手伝ってもらうぜ?
 今回は護衛もいてくれるから仕事がはかどりそうだ」

男は笑顔でついてくるように促しながら言った。
全員はとりあえず男について行った。



    **********



「お?おーい、ヨセフ!遅かったな!」

遠くから男が大きく手を振っていた。
アスラ達を泊めてくれた男はヨセフと言うようだ。

「おーすまねぇな、ハビブ!つーか、まだ時間じゃねぇだろ」
「お前いつも俺より早いじゃねぇかよ。
 ん、そっちの奴ら誰だ?見ない顔だが‥‥‥」

ハビブがそう訊いてきたので、ヨセフは簡潔に紹介した。

「へー、護衛係か。よろしく頼むぜ!」
「うん!」

マリーは頭に手を置かれて元気よく返事をした。

「ここの“油”は結構、貴重だからな」
「あぶら?」

マリーは首をかしげた。
他のみんなも知らないようだった。

「“油”っていうのは、特殊な製法で作られた精油の事さ。
 精油ってのは、香水や昆虫の忌避剤として使われるものだ。
 それを数十倍に濃縮して作り出された“エッセンシャルオイル”が
 ″鎧虫″にも効くってもんだから、いろいろ使われてんのさ。
 金属の表面に塗っていれば、文字通りの虫除けにもなる」

ハビブは誇らしげに答えた。

「その油が″侵略虫″に狙われているから守ってほしいと」
「そう言うことさ。理解が早くて助かるぜ」

ホークアイがそう確認するとハビブはうなずいた。
他の全員も気合いを入れた。

「よーし頑張るぞ!」
「おぉッ!!」



    **********



ガタガタガタガタガタガタガタガタガタ‥‥‥‥‥ッ


「まさか荷車で運ぶなんてなぁ」

アスラ達は大きな荷車に大量の精油を積んで山道を進んでいた。
精油は完全に密封されていて、匂いは全く漏れないらしい。
これを開けて寄らないようにしたまま進めばいいのでは、と提案したが
油の鮮度を保ちたいから、との事である。

ガタガタと整えられていない山道を進むのは
荷車を押すことに慣れていないアスラ達には大変な作業だった。

「頑張れー!みんなー!」

荷台の上からマリーは応援していた。

「ってお前は何やってんだ、マリーッ!!」

ホークアイは身をひるがえして
荷台に乗り、彼女にチョップを打ち込んだ。

 ズビシッ!

「痛っ!ホークアイが叩いてきたぁー!」
「お前も一緒に頑張れよ!応援だけじゃなくて!
 周りを頑張らせるんじゃなくて自分が頑張ろうと努力しろよ!」

ホークアイは熱くツッコんだ。
マリーは下を向いてつぶやいた。

「だって私、力ないもん‥‥‥」
「唯一の人間に向かってその一言はきついぜッ!?
 多分お前の方がパワーあるからな!?」

ホークアイの押しのあるツッコみに
マリーの目はウルウルと滲んでいた。

「‥‥‥‥だって‥‥わた‥‥‥私‥‥‥う、うぅ
 うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああんッ!!」
「ちょ、泣くなよマリーッ!」

ホークアイが必死にあやしているが、全然泣き止みそうにない。
荷車を止めて迅がつぶやいた。

「あーあ、マリーを泣かせた」
「オレは泣かすつもりで言ってたわけじゃないんだけどな‥‥‥」

彼は自分も言いすぎたのではないかと反省していた。
とりあえず、迅はとなりの少年の肩に手を置き
泣いている彼女の説得を試みさせた。

 ポンッ

「頼むぞ、アスラ」
「‥‥‥‥えッ!?オレ!!?」

少し間を開けてアスラは驚いた。
そして迅に背中を押され、仕方なくマリーの前に立った。

「えーっと‥‥‥‥‥よしよし」
「グスッ‥‥グスッ‥‥‥‥‥」

アスラに頭を撫でられたので、マリーは大分泣き止んだ。
鼻をすすってはいるが、気持ちは落ち着いたようだ

「‥‥‥俺はマリちゃんを悪いとは思ってないよ?」
「でも、アスラも心の中では怒ってるよね‥‥‥‥‥?」

そう言われ絶句したので、少し間が空いてしまった。
しかし、アスラは正直に思っていたことを言うことにした。

「‥‥‥オレは別に怒ってなんかないよ」
「‥‥‥じゃあ、どう思ってるの?」

目を擦りながらマリーはアスラに訊いた。

「マリちゃんはこう思ったんだろ?
『自分が押したら、もしかしたら逆に邪魔なんじゃないか』って。
 そう思ったから、迷惑にならないように乗ってたんだろ?」
「‥‥‥‥‥うん」

マリーは鼻を一回すするとうなずいた。

「今回は両方が悪い。マリちゃんは荷台に乗る必要はなかったからな。
 となりにいるとかでも良かっただろうから」
「‥‥‥‥‥‥ごめんなさい」

マリーはしょんぼりとした声で謝った。

「ホークアイは最後付近の一言はおかしい。
 ここには少なくとも、3人も人間がいるんだからな」
「そういやそうだった。ごめんな、マリー‥‥」

ホークアイもマリーに向かって頭を下げた。
ヨセフとハビブが近づいて二人の肩を叩いた。

「よしッ!これで解決だな?だったら早く行くぞ!!」
「夕方までには帰りたいからな!」

それを聞いてマリーは荷台から下りた。
そして、荷車の後ろに回り込んで立った。

「今度は私も手伝う!」
「おう!しっかり頼むぜ!!」

そして、荒れた山道を再び歩き始めた。



    **********



「‥‥‥‥ふぅ、疲れたぁ」

ようやく山の頂上に着き、マリーは腰を下ろした。
すると、ヨセフが後ろから声をかけた。

「やるじゃねぇか、嬢ちゃん!
 そっちの奴よりも頑張ってたな!」
「うるさいな。オレは援護専門なんだよ!
 どうせ力がないですよ!!」

彼の言葉にホークアイは自虐気味に叫んだ。
それを抑えて、ハビブはマリーに訊いた。

「なんつーか、嬢ちゃんは直接的なパワーもあるが
 持久力が高いな。何かトレーニングでもやってんのか?」
「あ、それ俺も訊きたかった」

会話にリオさんが割り込んで言った。
マリーは首をかしげた。

「何もしてないよ?でもね、天気がいい日は
 なんだかいつもより頑張れる気がするの。何でだろ?」
「うーん‥‥‥‥」

マリーの返答に迅は唸った。

「確かに″鎧人(ガイト)″は身体能力は普通の人間よりも高い。
 だけど、“天気が良い日”限定ってのは分かんないな。
 多分、ある程度戦ってきたからマリーも十分鍛えられてるだろうけど‥‥」

そう言って、迅は再び唸り始めた。
マリーはそう言われて袖をまくった。
そして、腕に力を込めた。

「んッ!筋肉ッ!!」
「‥‥あんまり硬くはないな」
「ぷはーーっ!ダメだぁ‥‥‥」

マリーは息を吐いて、力を抜いた。

「やっぱり腕の筋肉も鍛えるべきだけどマリーは―――」

 むにゅっ!

「わひゃッ!!」
「胸筋も鍛えないとな!」

後ろからホークアイに胸をワシ掴みにされて
マリーは変な声を上げた。

 むにゅむにゅ

「おーっ、そこそこ育ってんじゃねぇのか?」
「ほ、ホークアイのえっちぃ!」

マリーはジタバタしているが、とても脱出できそうにはなさそうだった。
ホークアイはここぞとばかりに調子に乗って揉みまくっている。
彼女は顔を真っ赤にしてつぶやいた。

「そ、そこは‥‥きょーきんじゃなくて‥‥その‥‥‥‥」

そう言う間にもホークアイは揉むのを止めなかった。
そして、わざとらしい声で訊いた。

「何だ?よく聞こえねぇぞ??」

 むにゅむにゅむにゅ

「う、うぇぇぇぇん!アスラ助けてぇー!!」

マリーは叫んだが、アスラは何かを考えているのか
真剣な顔をしたまま動かなかった。
胸を揉むのをやめてホークアイはアスラを呼んだ。

「おーい、アスラ!このままじゃお姫様がやられちまうぜ?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

しかし、反応はなかった。ホークアイは仕方なくマリーを離した。

「アスラはさっきから何も反応しねーな。
 普段は顔を真っ赤にして止めに来るのにな
 っていでででででででででででででででででででででッ!!」
「ホークアイのばかぁ!!」

 ぎゅうううッ!!

マリーに後ろから両の頬を引っ張られて、ホークアイは叫んだ。
しかし依然、アスラは反応がなかった。

「どうかしたのか?アスラ」

迅はアスラのとなりに座りながら訊いた。

「‥‥‥‥‥ん?うわッ!?いつの間にそこに座ってたんだ!?」
「‥‥‥‥‥お前が気付く前から」

迅は事実を言った。アスラは真剣に何か考え事をしていたようだ。
(声を掛けられても気づかないというのは、さすがに集中しすぎだが)

「そんなんじゃ、後ろからグサッとやられるぞ?」

迅は笑いながら冗談を言った。
しかし、アスラは真剣な顔のまま黙っていた。
そしてようやく口を開いた。

「‥‥‥‥‥‥ずっと疑問だったんだ。
 山を突っ切ったのに、″鎧虫″に鉢合わなかった事が」
「そういえば‥‥‥‥確かに」

ここに来るまでに2時間かかっているが
今日は全く″鎧虫″に会っていない。

「迅、″鎧虫″に長時間合わない時、何って言ってたっけ?」
「何だ、お前忘れたのか?」
「違うよ。信じたくないだけさ」

二人は図ったかのように同時につぶやいた。

「長時間"鎧虫"に接触しなかった場合は
 偶然か、もしくは、″侵略虫″、変異型"鎧虫"の出現である」

そう言い終わると同時にマリーの悲鳴が聞こえた。

「きゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああッ!!」
「な、何だありゃ!?」

目の前の光景に迅とアスラは声を上げた。
普通に生えている樹木の枝がマリーの体を掴んで持ち上げているのだ。
いや、枝ではない。アレは細長い昆虫の脚だった。

「確かあれは‥‥‥‥‥何だっけ?」
「ナナフシだッ!!」

アスラが言えてないので代わりに迅が叫んだ。
枝に擬態して隠れている姿が印象的なあの虫である。
迅は長剣を、アスラは日本刀を鞘から引き抜いた。

「マリちゃんを離しやがれッ!!」
「彼女を話してもらうぞ!!」

そう言って、二人はナナフシ型に向かって駆けて行った。 
 

 
後書き
ヨセフとハビブの名前はアラブの人名から探しました。
余談ですが、ハビブは友達という意味らしいですww

マリーがこの話の間に泣いたり笑ったり恥ずかしがったりしていました。
ホークアイとの絡みも久しぶりにしましたが、書いてて楽しいです。

リオさんが非常に出しにくいです‥‥‥‥(キャラが多すぎて出番がない)
素人なので、やはりキャラが多いと会話の回数が偏ります。
まぁ、こうやって少しずつ、また彼らに慣れていきます。

ナナフシが出ました!見た目は結構、有名なあの虫です。
(ですが、あれとの戦いはかなり早く終わりそうな気が‥‥‥)
果たしてアスラと迅はマリーを助けられるのか!?

次回 第27話 節が七つあるからナナフシというわけではないらしい  お楽しみに! 
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