剣聖龍使いの神皇帝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2巻
実技授業後の会話
入学して二ヶ月が経ち、一年生達が悪い意味で学校に慣れる時期だった。
『私、正義のために戦います!』
『立派な《救世主》になります!』
という志もそろそろだらけて、弛緩したムードが蔓延していた。毎日午後から行われる実技授業でも、あれだけ真剣な表情で源祖の業を学び、鍛える事に取り組んでいたクラスメイト達から、油断の笑顔が零れていた。実技の時間が終わった後、一年女子用更衣室にぼやき声が渦巻いていた。
「あー、タルー。毎日毎日地味な基礎練習ばかりで飽きるわー」
「田中ってほーんと地味な特訓させるの好きだよねー。自分が地味顔だからかなー?」
「あー、ヤダヤダ。汗かいてお化粧崩れちゃった」
「まだ六月なのに、暑すぎよねー」
「今年空梅雨らしいよ?もう初夏並みの気温になるって天気予報で言ってたよ」
「どーりで!あーヤダヤダ最悪ー」
ダラダラ着替えていたら余計暑くなるだけだろうに、皆はダラけていた。戦闘服を脱ぎ散らかし、制服をだらしなく着る。それでもホントに前世では一廉の英雄だったの?という体たらくだが、まだまだ実力が乏しい=記憶を余り思い出せていない者達はこんなもん。サツキや静乃だけは違っていた。
「どいつもこいつもたるんでるわ・・・・。つい昨日もこの日本に《異端者》とドウターが出現して、兄様が楽しみながら戦闘をしていたというのに。自分達とは遠い世界のお話だとでも思ってるのかしら?《救世主》の自覚が足りないわ」
着替え途中だったのか、パンツとブラだけの格好での仁王立ちをしていたサツキに隣で聞いていた静乃。
「ここに男の目線がないからって恥じらいを晒しているのは、たるんでいる証拠じゃないかしら?」
「うっ」
隣で着替えていた静乃にツッコまれて、サツキは口籠った。まあ静乃もそう言うのであれば、せめて制服に着てからそう言えばいいものを。それにサツキみたいな大胆な事を余裕でしてるので、サツキはたまに静乃の余裕さを羨ましがっていた。それと昨日の事でサツキが静乃の事を心配していたと言うと、あとで言っておくと言ってた。
「やっぱり理事長に呼び出されてから、何かあった訳?諸葉も理事長の事で何か考えていたそうだし」
「心配させるのは悪かったと思うし、諸葉は知っていると思うから言うけど、理事長は私の兄なのよ」
「あーやっぱり。兄様も同じような事を言ってたから、余り驚くと諸葉や桜花さんが何かやろうとしている事を壊しそう」
サツキは前々から聞いていた事だったので、余りびっくり仰天はしなかった。友達が余りいなさそうなのに、やけに事情通なところは親族が学校経営者だと言う事なら納得は出来る。身内が権力者というだけで、陰口叩く輩はどこにもいるという事を事前に諸葉や桜花に聞いていたのと、前世がお姫様だったサツキなので身に染みている。
「やはりというか諸葉から聞かされてたのね?」
「まあね~。諸葉の周辺には沙紀さんもいるし、桜花さんからの情報の事だから。理事長については、諸葉も知っていたそうだよ」
静乃曰く、諸葉よりも嫌な男で、昔から仲が悪い。昨日もくだらない事で喧嘩をしてたから、少し憂鬱になっていたそうだ。諸葉みたいな一見して兄に見えるが、時々大人のような言い草をするので、クラスメイトやサツキと静乃も頼りになる恋仲だと思っているかも。
「そういえば、ソフィ先輩から聞いたんだけど、もうすぐ白騎士機関のイギリス本部長がこの学校に視察に来るって噂らしいんだけどホントなの?」
サツキは実戦部隊所属する、仲良くしてもらっている先輩の名を出した後に耳打ちをしたサツキで噂だけだから、広まっていないようで。
「ええ、サー・エドワードはその予定だと聞くわね」
流石は事情通であり、静乃は平然と頷く。噂話がホントの話となったので、これが事実となった。《白騎士機関》は、六つの組織から成り立っている。イギリス本部と、日本、アメリカ、フランス、ロシア、中国の各国支部である。白騎士機関の創設者である六人の《救世主》が、各々の国で麾下とする組織を発足した結果となったのか、連合体のような形に行きついた。また、彼らの始まりの六人は「六頭領」と呼ばれ、全員が強力無比の《救世主》達である。例えばイギリス本部長であるサー・エドワード・ランパードは、不敗の白鉄として知られていた。一応国連下部組織の体裁を取り、正式名称を「対《異端者》機関」と言うが、漢字とカナがごっちゃ混ぜなのでアンチメタフィジカルシステムと言うけど。で、この組織が白騎士機関と通称で呼ばれる由来は、彼の華やかな源祖の業がモデルイメージとして業界内で定着したためであった。
「サーの来日視察がどうかしたの?」
「諸葉から聞いたけど、イギリス本部長は白騎士機関で一番偉い人って事は、諸葉の実力が丸見えとなってしまうからよ。あの時の九頭大蛇を倒したのは、私と静乃と諸葉となっているけど、ホントは諸葉一人で倒した事が知らされてしまうわ。神皇帝の実力が知れ渡れば、きっと諸葉を確保してしまうのではないのか心配なのよ」
「なるほどね、嵐城さんらしくない情報だけど。それは桜花さんにでも聞いたのかしら?」
「私の実力はまだまだ兄様にも届かないし、隣に立つのは今の所沙紀さんだからさ。いつか兄様の隣で戦いたいと努力しているんだけど、諸葉の実力は手に届かないくらいって事よ」
「嵐城さんは努力家で、普通の人の数倍の速さで成長しているというのが自覚があるのは成長している証拠ね」
一年生の白鉄はまず基礎として、全身にある七つの門から《通力》を汲み出せるようになるべく特訓する。全ての門は丹田・心臓・眉間・両腕・両足でサツキは既に両手両足眉間の五つの門を開く事に成功しており、大半の一年生がまだ一つか二つしか開く事が出来ない状況と比べれば、目を瞠るような成果とも言える。
「私の実力ではまだ実戦部隊の先輩達と特訓しているから、実力差が分かるようにはなってきたけどまだまだだわ」
「そうね。他の一年生と比べたら凄いだけで、諸葉は他の一年生や実戦部隊の先輩以上に戦闘力を持っているからかしらね。嵐城さんはまだ基礎が出来てないけど、このまま地味な訓練を行えればランクCには行けると思う。あとは諸葉との模擬戦をすると先輩方も強くなっている様子」
そういう風に言っていた二人だったので、無人偵察機で学園内を大量にばら撒いていたのか。女子更衣室の会話も聞いてしまったが、正直これは野暮だと思ったCBのメンツ達だった。これを隊長である諸葉=織斑総司令官に聞かせたら、ますます訓練を厳しくなると思ってか聞かなかった事にした。一方で、実技授業ではほとんど見学として見ている俺としては正直暇だった。光技も闇術も使えない者にとっては、暇でしょうがないので終わったら校長室に行こうと思った。
ページ上へ戻る