| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ラグナロク 蒼き瞳のESP(超能力)

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
次ページ > 目次
 

第二話 『学園生活』

 
前書き
みなさんこんにちわ。別作品の作製で時間がかかってしまいましたが、第二話を書かせていただきました。どうぞお楽しみください。 

 

四月十二日 午後八時三十分

バスルームには、ザーっというシャワーの音が流れていた。初めて高校というものに通った。だいたい想像はしていたが、あまり居心地のいい場所ではなかった。勉強は簡単すぎて退屈だし、シャワールームは付いてないし、そして何より、男子と女子が同じ教室で勉強しているというのが一番信じられなかった。

「私、この任務完遂できないかもしれないなー……」

と、いつになくネガティブな本音を漏らしながら、私はシャワーを止めて、バスタオルを手に外へ出た。送ってもらった段ボールのなかから下着を取り出して、それを着ると、そのままベッドに飛び乗った。

「はぁ……なんで私があんな目に……」

十一時間前

古めかしいチャイムの音がなり、私は、担任の藤沢先生とともに教室へ入った。教室のなかは、かなりざわついた感じに包まれていた。まあ、無理もないだろう。いきなり銀髪の外国人が教室に入ってきて、動揺するなという方が無理な話だ。
私は黒板に、Elena Grace (偽名)を書くと、藤沢が口を開いた。

「え~、いきなりのことで驚いているとは思うが、今日からこの学校に転校することになった、エレナ・グレイスさんだ」

本当は、護衛のために潜入してるPMC社員だなんて、誰にも言えない。いや、言えるわけがない。確かこの事実を知っているのは、理事長と校長、それから教頭だけだったはずだ。

「それじゃ、自己紹介して」

などといきなり話をふられた。今あんたがしたじゃない、という言葉をグッとこらえ藤沢の言った言葉に補足を加えつつ偽のプロフィールを語った。

「えっと、カリフォルニア州のブライトンフォード国立高校から転校してきました、エレナ・グレイスです。私の呼び方は皆さんにお任せします。しばらくの間、よろしくお願いします」

私がそう紹介すると、教室の中がいっそうざわつき、驚きの声を上げている生徒もいる。なにをそんなに驚いているのだろうと、数秒考えて答えにたどり着いた。恐らく私の日本語が流暢だからだろう。仕事の立場上、16か国を話すことができる。そのなかに日本語も含まれていたから話せるだけのことなのだが、そんなことを知るよしもない生徒たちは……本当にいい顔をしている。きつく結んでいた頬も、自然と和らいでくる。しみじみ平和を感じるのだ。そして想う。自分もこんな、何気ない平凡な日々を過ごしてみたい。死と隣り合わせの世界から抜け出し、普通の日常を送りたいと。
だが、それは無理な話だ。何故なら私は、あまりにも多くの人を殺めすぎたのだから。
そんな思考を切り替えるべく、私は口を開いた。

「えっと、なにか質問はありますか?」

の言葉の直後に繰り広げられた質問の嵐に対応するのは、当然ながら容易なことではなかった。

「はあ~。任務初日から疲労困憊だよもう」

あのあと、合計28もの質問を投げ掛けられてしまい、一時間ほどの時間を費やした。「特技はなに?」「その髪って染めてるの?」「どこで日本語教わったの?」「彼氏はいる?」などの質問をぶつけてきなのでもう面倒くさくなってしまい、「運動は基本的に得意ですよ」「いえ、地毛ですよ」「うちの会社…じゃなくて学校で日本語を専攻してたんです」「いないし、要りません!」という風に適当に答えておいた。あえて最後は強調しつつ。
それだけで終わればよかったのだが、クラスの半数を占める男子どもの異常なアプローチ、下駄箱には大量の手紙、しまいにゃ体育館裏に呼び出され、初めて会った人からいきなりの告白。今日だけで何回ファイブセブンを抜こうとしたことか……。

「でもまあ、対象は確認できたし、多少なりとも接触も出来たからよしとしますか」

などと一人で反省会をしていると、

「本当に大変でしたね~アリスさん」

とフレンダが無線越しに話しかけてきた。そういえば、イヤリング型無線機を切らずに机へ置きっぱなしだった。

「フレンダ。私、この任務無理かも……」

と、病んでいるニートのようにイヤリングにむかって話しかける。

「まあまあ、そんなこと言わないで頑張りましょうよ。私も全力でバックアップしますから」

「むぅ~」

などとタコになっていると、フレンダがいきなり話題を変えてきた。

「あ、そんなことより、アリスさんが開発部に製造を依頼していた拳銃、完成したらしいですよ」

「えっ!本当に!?」

いきなりのことだったので、驚きと喜びで少し大きい声を上げてしまった。

「本当ですよー。明日か明後日には、そちらに届くと思いますよ」

「そっかー、完成したんだ」

少し説明しよう。製造を依頼していた拳銃というのは、私が半年ほど前に設計したオリジナルの拳銃で、口径は9㎜、ダブルカラムマガジンを採用、装弾数は17+1、バレルはフリーフローティング方式を採用、サプレッサー装備可能、ライフリングは6条右回り、とまあなかなかの注文をつけたので、時間はかなりかかると思っていたのだが、半年ほどで完成までこぎ着けるとはうちの開発部は優秀だ。

「それで、どんな名前になったの?それ」

「ちょっと待ってくださいね」

そう言うと、通信越しにガサガサ、ゴソゴソと紙をいじっている音が聞こえた。

「あ、あったあった。名前は、Fenlil M2 P(フェンリル エムツー プロト)だそうです。申請が完了したら、プロトの部分をアリスさんの名前にするそうです」

「なにそれ、すごく恥ずかしいんだけど」

人名を付けないでよバカ。って言うか、フェンリルって言うロゴははどうしても入れたいのね。上層部の人間ってば、手柄欲丸出しじゃない。

「それから、悪いニュースが入ってきました」

声色を変えて、フレンダがそういってきた。

「内容は?」

「はい。情報部からの報告なんですが、 アルメニア共和国の暗殺部隊が、東京へ向けて出発したとの情報が入ってきています」

それはまた物騒な話だ。この平和な日本に暗殺部隊とは。まあ、平和な日本にPMCの兵士が居るのもほとんど同じことなのだが。

「そいつらの目的は?乗っている飛行機や人数は?」

「今のところ目的はわかっていません。搭乗機や人数もまた不明です」

さすがは暗殺部隊、簡単には情報を明かさないか。

「……了解したわ。そっちもそっちで、出来るだけ水際で防げるように対処してね」

「はい!頑張ってくださいね!……あ、もうこんな時間!」

時計を見ると、既に10時を回っていた。

「すいません。そろそろ帰宅時間なので失礼しますね」

「分かったわ。それじゃ、明日も頑張りましょう」

机に置いていたイヤリングを手に取り、

「それじゃおやすみ」

はい!おやすみなさいアリスさん」

その言葉を聞き終えると、通信機の動力を切った。

フレンダの言う通りだ。ここで迷ってはいられない。今日は今日、明日は明日。アルメニアの話もあるし、気を抜くわけにはいかない。しかし、なぜアルメニアなのだろうか……。あそこは一応治安が安定していて、わざわざ暗殺部隊を派遣して諸外国からの批判を受ければ、株価は暴落、ロシアからの支援も断たれてしまう。そうなってしまえば、国家自体が崩壊する可能性もある。アルメニアのような小さな国ならあり得る話だ。だとすれば、恐らくバックに大きな力が働いているはずだ。でもいったい何処が……。まあ、考えていても仕方がない。私の任務は対象の護衛。暗殺部隊の裏をとることではない。私は、私の任務を遂行する。それが私の、たったひとつの生き甲斐なのだから。

「さて、私もそろそろ寝ようかな」

そう呟くと、部屋にともされていた淡い光をおとした。
 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。いよいよなにかが始まる予感!?次回もどうぞお楽しみに。 
次ページ > 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧