戦国異伝
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第百九十九話 川中島での対峙その六
「尾張の蛟龍、出て来ましたね」
「うむ、御主もな」
「わたくしは貴方に言うことがあります」
「それは何じゃ」
「わたくしは貴方のその心を正します」
そうするというのだ。
「この戦を通じて、そして」
「そのうえでか」
「甲斐の虎と共にわたくしの両腕となってもらいます」
「わしを片腕としてか」
「甲斐の虎はもう一本の腕となります」
謙信は信長自身に告げた。
「そして天下の為に働いてもらいます」
「御主が将軍となるのではないな」
「公方様には戻って頂きます」
都にというのだ。
「そして幕府が復活し」
「そのうえでか」
「私の下で貴方達二人は天下の両柱となって頂きます」
「御主が公方になるのならわかるがな」
「私にその資格はありません」
将軍になる、それはというのだ。
「私は足利家とその血筋にはありませんので」
「律儀じゃのう」
「守らなくてはいけないことがあります」
そしてそれこそがなのだ。
「公方様こそがです」
「わしはその義昭様を追った」
「それが貴方の罪、貴方は天下の罪人です」
このことは咎める謙信だった、強い声で。
「しかし貴方は常に民のことを考え政を行っています」
「それは功か」
「功罪を比べて功が大きいです」
それが信長だというのだ。
「ですからわたくしは貴方の心を正し」
「そのうえでか」
「天下の柱となって頂きます」
「面白い、ではそのことをな」
「この川中島の戦で決めましょう」
「勝てばな」
「その時は」
「敗れた者はその者の腕となる」
「そうなります、では」
「戦の時は何時じゃ」
「明日にしましょう」
謙信は信長に毅然として言った。
「明日、朝より」
「この川中島でじゃな」
「我等の雌雄を決しましょう」
「わかった、では明日じゃ」
「はい、明日に」
「我等は運命を決する」
織田と上杉、そして天下のそれをというのだ。
「そうしようぞ」
「今日はこれにて」
戦わずに、とだ。謙信はまた信長に言った。
「終わりとしましょう」
「それではな」
こう二人で話してだ、信長と謙信はそれぞれの軍勢の中に戻った。信長は自軍の中に入るとすぐに家臣達に言った。
「ではな」
「はい、それでは」
「今よりですな」
「明日は朝早くより戦じゃ」
まさにだ、日の出と共にというのだ。
「その用意をせよ、そしてその後でじゃ」
「飯ですな」
「それですな」
「皆美味いものをたらふく食え」
信長は家臣達にこうも告げた。
「兵達全てじゃ」
「そしてそのうえで」
「明日の戦にですな」
「向かってもらう」
こう言うのだった。
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