戦国異伝
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第百九十九話 川中島での対峙その三
それでだ、こう言うのだった。
「とても敵いませぬ」
「お二人には我等がそれこそ千人いてもです」
「敵うものではありませぬ」
「お二人はまさに鬼神です」
「そうじゃ、あの御仁はそこまでの強さじゃ」
その武、謙信個人の強さもというのだ。
「それは御主達も見た筈じゃ」
「手取川ですか」
「あの戦ですな」
「そうじゃ、あの御仁には勝てぬ」
片桐もというのだ。
「だからな、よいな」
「はい、上杉謙信はですな」
「下手に手出しをせずにですな」
「無駄に命を粗末にせず」
「戦うべきですな」
「武勲は挙げても死ぬな」
織田家でよく言われることだ、こうしたことは。
「よいな」
「はい、さすれば」
「総大将以外を狙います」
兵達もこう言いそしてだった、そのうえで。
片桐は先陣の家康と元親に上杉の軍勢が来たことを伝えてだ、そしてだった。
本陣に戻り信長にもこのことを伝えた、信長はそれを聞くと確かな声で言った。
「わかった、ではな」
「はい、これよりですな」
「竹千代と鬼若も呼べ」
先陣を務めるその彼等もというのだ。
「よいな」
「お二人もですか」
「二人の家臣達もじゃ」
織田家に入っている長宗我部の者達だけでなく盟友である彼等もというのだ。
「皆な」
「そうしてですか」
「軍議を開く」
信長は強い声で言った。
「これよりな」
「さすれば」
こうしてだった、徳川家の家臣達も集められてそのうえでだった。信長は軍議を開いた。そうしてその場でだった。
信長は一同にだ、強い声でこう言った。
「この戦も先陣等はない」
「では柵を使うのですか」
「いや、また違う」
長篠の時とは違うとだ、信長は滝川に答えた。
「あの時は鉄砲を使ったがな」
「それとはですか」
「鉄砲は使わぬ」
この戦では、というのだ。
「また別の戦い方をする」
「と、いいますと」
「上杉謙信は先にどういった戦をした」
このことからだ、信長は言うのだった。
「この川中島でもな」
「上杉謙信の戦ですか」
「あの者は車懸かりの陣を使うな」
「あの陣ですな」
「あの陣の様に新手を次から次に繰り出されてはな」
こう一同に言うのだった。
「長篠の時の様に柵を設けてそれを頼りにしていてはな」
「その柵が攻めを受けて、ですな」
徳川家のところから酒井が言って来た。
「その柵がやがて削られ」
「そして壊されるな」
「はい、そうなります」
その通りだと言う信長だった。
「長篠では武田は正面突破を図ってきましたが」
「それはあちらも知っておる」
謙信、彼もというのだ。
「それでじゃ」
「今回はあの戦をしませぬか」
「そうじゃ、あの様に鉄砲は使わぬ」
そうするというのだ。
「この度はな」
「しかし殿」
ここで言って来たのは竹中だった、軍師である彼の言葉だ。
「鉄砲はです」
「我等の切り札じゃな」
「これを使わぬとあっては」
「わかっておる、て鉄砲もな」
「お使いになられますな」
「長篠の時の様には使わぬだけじゃ」
それだけだというのだ。
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