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戦国異伝

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第百九十九話 川中島での対峙その二

「だからな」
「臆することなくですか」
「戦うのじゃ」
 これが宇佐美の兼続への言葉だった。
「よいな」
「ではそのうえで」
「勝とうぞ」
 上杉、つまり彼等がというのだ。
「そのうえで殿の天下を見ようぞ」
「さすれば」
「戦の世は終わる」
 このことは間違いないというのだ、宇佐美は。
「天下人が決まってな」
「そしてその天下人はですな」
「我等の殿以外におられぬ」
 宇佐美は強い言葉で言い切った。
「織田信長でも武田信玄でもない」
「さすれば」
「川中島でそれを決めようぞ」
 こう話してだ、そしてだった。
 上杉の軍勢五万は春日山から南に降り信濃に入っていった、信濃は既に織田領となっており彼等のい動きは容易にわかった。
 物見に出ていた片桐がだ、前に来た黒い軍勢を見て言った。
「来たのう」
「はい、遂に」
「来ましたな」
 共にいる兵達も彼の言葉に応える。
「上杉謙信もですな」
「いますな」
「間違いない」
 毘沙門天の旗、黒字に白の字で毘と書いたその旗を見て言うのだった。
「おらぬ筈がない」
「言われてみれば確かに」
「気が違います」
「まるで全てを圧する様な」
「そうしたものが」
「そうじゃ、来るとは思っていたが」
 それでもと言う片桐だった。
「あらためてこの目で見るとな」
「信玄殿に匹敵しますな」
「凄い気です」
「まさに天下を圧するまでの」
「恐ろしいまでに大きな気ですな」
「すぐに殿の御前に戻るぞ」
 片桐はその気に何とか押されない様に己を保ちつつ兵達に言った。
「徳川殿、長宗我部殿にもお話してな」
「そして、ですな」
「そのうえで」
「戦の用意ですな」
「いよいよ」
「そうじゃ、また大きな戦になる」
 長篠、設楽ヶ原の時と同じくというのだ。
「御主達、覚悟を決めて武勲を挙げよ」
「ですな、相手が相手だけに」
「勝たねばなりませぬが」
「それでも用心してですな」
「戦わねばなりませんな」
「そうじゃ、上杉の兵も強く将帥もよい」
 上杉家の二十五将、それに直江兼続である。
「何よりも総大将があの御仁じゃ」
「上杉謙信ですな」
「越後の龍だからこそ」
「そうじゃ、采配も刀も強い」
 どちらの戦も、というのだ。
「目の前に出れば逃げよ」
「我等はですか」
「討ち取ろうと思ってはなりませぬか」
「そう思い向かってもやられるだけじゃ」
 謙信が相手ならというのだ。
「御主達は慶次殿は才蔵殿と戦えるか」
「あのお二人とですか」
 慶次も可児も織田家きっての武辺者だ、彼等の名を聞いて驚かない者は織田家にもいない、それは当然彼等もだ。 
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