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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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神秘

 
前書き
当時は生き残っていたディスカバリーポイント回 

 
~~Side of サバタ(幼少期)~~

俺達が初めて会話したあの丘で夜を過ごし、そして朝日が昇る。太陽の光は暗黒少年たる俺の性質上、あまり浴びたくないものなので出来れば早く日陰や屋内に入りたい。しかし……朝起きたら起きたで、少々面倒な事態が発生した。

「おい起きろ、出発するぞ」

「むにゃ、もうちょい寝かせて……」

「……はぁ、いい加減にしてくれ……」

どうも低血圧なのか、“星読み”は寝ぼけて起きようとしなかった。別にそれだけなら一人で朝食を用意出来たり、食材を買い足しに行ったりするのだが、問題は彼女が俺の両腕ごとがっちりしがみついてホールドされているため、全然身動きが取れない事だ。
昨日の内に彼女の事情をそれとなく聞いたから彼女が人の温もりを求めた結果、無意識にくっ付いてきたのは何となく想像できる。しかしここまで力強くしなくても良いだろうに……まったくこのバカが来てから色々と面倒になったものだ。

「にゃっ!?」

「やっと起きたか……さっさと腕を放せ」

「んにゃぁーーーー!!!?」

自称年頃の乙女は朝っぱらから騒々しく、早まったかと俺は早々に後悔し始めていた。

「にゃにゃにゃ、にゃんでサバタにうち、抱きつ……!?」

「面倒だから簡単に言うと、寝たおまえが無意識にくっ付いていただけだ。おかげで朝食の用意も食材の買い足しも出来ていない」

「あ……う……!?」

熱湯でも沸かしたかのように一瞬真っ赤になっていた“星読み”だが、ゆっくり辺りを見回し、昨日の出来事を思い出して冷静になった彼女は「やっぱり夢じゃなかったんだ……」と呟いていた。

「明日になれば全てが元通りになっているという淡い希望でも抱いていたか?」

「まあ……信じられない出来事ばかり続くと、ついどうしてもね」

「残念だが……現実はいつも残酷なものだ。ヒトはいつか一人で立ち上がらなければならない、おまえの場合はそれが他の奴らより早まっただけだ」

「魔女だから仕方ないっか」

“星読み”は苦労のこもったため息を出し、これから自分の人生がどうなるか懸念していた。魔女だろうがそうでなかろうが結局自分の生き方を決めるのは自分だけだから、この先彼女がどう生きるかは彼女が見つけるしかない。
俺が持参していた保存が効き持ち運びのしやすい缶詰を火であぶったものを朝食として済まし、ひとまず彼女をここに待たせて俺はアースガルズに食料の買い足しに向かった。昨日の今日で魔女と知れ回っている彼女をこの街に帰すのは危険だから、よそ者の俺が一人で向かった方が都合良いのだ。

実際買いに行くと、魔女以外にはこの街の人間は普通に接してきたため、どれだけ魔女がこの街で忌み嫌われているのかがよくわかった。イモータルのような反生命種ヴァンパイアでもない、同じ人間なのに魔女というだけで蔑まれる……異端を嫌う人間の歪な性質を実感できるな。

「太陽樹の恩恵を受ける街だからか、太陽の果実が多いな、やはり……」

だが“星読み”の事も考えると干し肉や回復薬ばかり用意する訳にもいかないし、果物もいくつか買っておくべきだろう。腹痛になるから俺は喰わんが。

「ん? あれは……」

食料も旅に問題ない量を買って丘に戻る途中、ふと俺は視界に映った古めかしい作りの店に置かれている、人の身長ほど大きく先端が緑色で、赤い宝珠が埋め込まれた杖が気になった。普通の人間にはわからないだろうが、あの杖から強力な魔法の力を感じたのだ。何の魔法がかかっているのか不明だが、エナジーの力を増幅、制御するための装備として優れた代物のようだ。

「……アイツの今後のために手に入れておくか」

自分でも気にかけ過ぎていると思うが……まあいい。アンティーク専門店らしいその店に入り、普通の人間には全く用途が無い事で売れ残っていたその杖を購入した。大きさ的に場所をとるからむしろ買ってくれてありがたい、とまで言われて予想より安く手に入れられた。

ようやく夜を明かした場所に帰って来ると……“星読み”は座るのに丁度良い岩に石灰石で何かを書いている所だった。

「何を書いているんだ?」

「ナイショ、乙女の秘密だよ」

「そうか。こんな所におまえは乙女の秘密を晒すのか」

「な、なんかそう言われると急に恥ずかしくなるよ!」

「冗談だ。疎まれていたとはいえ、ここはおまえが生まれ育った街だ。離れる前に何か残しておきたい言葉があるのだろう?」

「うん」

「ならそんな上じゃなくて、もっと下の日陰の所に書いておけ。風化が進まないから残りやすいぞ」

「う~ん……じゃあ下にはちょっとした文だけ書いとくわ」

そうして少し時間をかけて書き残したい言葉を刻み、彼女は立ち上がると土埃を払う。

「じゃ、行こっか。方角は南、目的地は神秘の森!」

笑顔を見せてそう言った彼女は意気揚々と歩きだし、同行者が増えた事で俺もすぐに目的地に向かうのだった。





『神秘の森』。このご時世に未だに緑が多く残っている森で、木はそこまで多くは無いものの、退廃した世界でも自然が力強く生き残っている印象を感じさせた。迂闊に足を踏み入れた所で迷う程大きく深い森では無いが、吸血変異によって狂暴化したモンスターが稀に入り込んでいる時があるらしい。モンスターなら暗黒銃でも素手でも問題なく倒せる。アンデッドがいた場合は少々厄介だが……状況によって決めよう。

「そういや聞いてなかったけど、サバタは何を集めてるの?」

「『火竜の牙』、『水竜の尾』、『風竜の翼』、『地竜の爪』という四つの触媒だ。この辺りはアース属性のエナジーが強いから、恐らく『地竜の爪』がここにあるのだと思う」

「触媒? 名前を聞くからに属性を付与しそうなアイテムだけど、そんなものがどうして必要なの?」

「ある目的のためだ」

「その目的って話してくれないの?」

「まあな」

「ふ~ん。ま、いいけど」

「俺自身からは話さないが、どうしても知りたければ魔女の力を使えば良いだろう」

「……そんな事はしないよ。力を使うのは本当に必要な時だけ、それ以外で多用したらもう誰にも信用されなくなっちゃう……」

「……すまない、俺の言い方が悪かった」

「いいよ、これが魔女の宿命なんだし」

何事も無かったように彼女は答えるが、これは俺の配慮が足りなかったミスだ。クイーンに教えられた事はほとんどが気に入らないものばかりだが、それでもごく一部は納得できるものがあった。例えば『女の涙を止めるのが男の務め』みたいな感じで……なんかクイーンの願望も入ってる気がするが、俺もこの言葉には共感したのだから偶には良いだろう。

光源氏計画? 知らないな、そんなこと。

「……そういえば“星読み”、おまえ―――」

「“星読み”じゃなくてザジって立派な名前があるからそっちで呼んで欲しいんだけど……」

「名前は呼ぶ気になるまでこのままだ」

「ちぇ~」

「……それで、おまえは現状だと戦う手段が無い。モンスターと遭遇していない今の内に、せめて自衛できる程度に武器を持つか、何か魔法を覚えた方が良い」

「あ~確かに外の世界を旅するんなら、サバタの言う通りにうちも少しは戦えた方が良いかもね」

「かも、じゃなくてそうなんだよ。とりあえず……これをやる」

アースガルズのアンティーク専門店で手に入れた例の杖を彼女に渡す。サイズ的に大き過ぎるが、案外軽い杖を手にした彼女は………なんか滅茶苦茶嬉しそうな顔をしていた。

「(は、初めて男の子からのプレゼントだぁ~! うわぁ、すっごく嬉しいなぁ~!)」

「これから戦い方を教えるというのに、ニヤけてる場合か……」

別に悪い気はしないんだが……時と場合を考えて欲しい。安全な場所からあまり出た事が無い人間には難しいかもしれんが。

「さて……魔女の力を持っているという事は、つまり自分のエナジーを最初から使える事を意味するから、まずは最も簡単な『スタン』という相手をマヒさせる魔法を身に付けておけば、最低限の自衛は出来るだろう」

「わかった」

「『スタン』ともう一つ、攻撃魔法『インパクト』を覚えれば並みのモンスターなら倒せるようになる。今からこの二つを覚えてもらう」

なので“星読み”に初心者がまず覚える魔法『スタン』と『インパクト』の手解きをする。本人の意思はともかく彼女には相当な魔法の才能があるようで、初心者向けとはいえコツを掴むまで半日はかかるものをたった数分で覚えてしまった。だが物覚えが良くても、問題はいざという時に使えるかどうかだ。

「よし、座学は一旦終了。次は実践だ」

「実践?」

首を傾げる彼女に俺がある方向を指差して促す。そこには最弱モンスターの代表とも言える存在、スライム――――では無くスパイダーがいた。スライムは別の世界の話だ、世紀末世界では通用しない。

「うわっ、クモぉ~!? き、気持ち悪い!」

「あれはスパイダー、ビースト(動物)タイプのモンスターだ」

「あれが……モンスター……」

「スパイダーはクモの巣をしかけ、相手を捕まえようとする。もし捕まった場合は出来るだけ素早くもがいてさっさと脱出するんだ。そしてクモの巣は太陽の光に照らされていれば視覚的に見えるし、捕まる前に攻撃すれば破壊できる」

「やっぱり攻撃したら、ぐおーって襲って来たりするのかな……」

「それは当たり前だが、スパイダー単体ではそこまでの脅威じゃない。積極的に攻撃してこないから練習相手には最適だな」

「そうなの?」

「ああ。それに『スタン』は相手をマヒ、行動不能にさせる魔法だからしっかり命中させれば動けなくなって襲われる心配は無い。とにかく実践で試してみろ、もし危なくなっても俺がフォローする」

「わ、わかった……やってみるよ」

貰ったばかりの杖を握りしめ、彼女は杖の先端を標的のスパイダーに向けて身構える。スパイダーはまだこちらに気付かないまま、クモの巣を張る作業をしていた。深呼吸をして意を決した“星読み”がスタンを発動、白いエナジー弾が発射される。エナジー弾はスパイダーの背に見事に命中、マヒ効果でスパイダーがその場にうずくまった。

「や、やった! 当たった!」

「上出来だ。あと『スタン』は弾道を操ったり付加効果を追加したりと色々応用が効く。これから機会があれば練習しておいた方が良い」

「はい!」

「次は『インパクト』を使って、マヒしているスパイダーを攻撃するんだ。モンスター相手に情けや容赦は無用、一撃で決めろ」

「わ、わかった……!」

返事をして彼女はスパイダーの背後から恐る恐る近づいていき、再び杖を向けて魔法を発動する。軽い爆発音のようなものを発生させ、マヒで動けないスパイダーは1メートル弱吹っ飛んで沈黙、動かなくなった。
『インパクト』はその名の通り衝撃を与える魔法。しかしその威力は熟練者が使うと2(トン)トラックの全力衝突にも匹敵するようになる。無論、今のは極端な例だが『スタン』と同様に最初に覚えるべき魔法だからこそ、術者の技術や実力が上がれば上がる程、効果が顕著に表れるのだ。武術的に言うなら基礎にして奥義、と言った感じか……。

「……一撃で倒したよ」

「ああ、見事なものだ」

「でも……倒さなければならなかったのかなぁ」

「いくら弱くてもスパイダーはモンスターだ、放置すればヒトや街を襲う。自分の身を守るためにも必要な行為だ」

「綺麗事ばっかり言ってられない、ってことか……」

「そういうわけだ。実践も終わった事だし、そろそろ先に進もうか」

「あ、じゃあしばらくうちに先行させてくれる? 自分はまだまだ弱いから、今の内に練習しておきたい」

「……そうか、確かに早めに“慣れ”ておいた方が良いしな、好きにしてくれ」

彼女が自立するために強くなる必要もあることだし、この提案に異議はなかった。それから『神秘の森』の探索を進める間、彼女が戦闘を行いながら先行していった。もちろん俺も何もしていない訳では無く、時折敵を見逃して危うくなった所を代わりに迎撃したりしている。

そうやってモンスターを倒していきながら俺達は森の最深部……その手前の広場にまでたどり着いた。

「ふぅ……ここが最深部みたい」

「そのようだが……少々厄介な敵が待ち受けていたようだ」

「え?」

広場の中央には鬼が持っていそうなトゲ付の金棒を得物とし、ギザギザの歯をむき出しにして下あごの牙が頭上にまで伸びた、赤茶色の皮膚の怪物が静かに唸り声を響かせて佇んでいた。

「な、なんなのあのバケモノ!? もしかしてあれがアンデッド!?」

「いや……どうやらモンスターの変異体のようだ。体内に入った暗黒物質とどんな生物でも備わっている免疫体との相互作用によって、通常のモンスターとは桁違いの強さを得ている。そしてこの辺りのモンスターの親玉へと成りあがったのがヤツだろう」

「ど、どうしよう……旅が始まった直後でこんなヤバいのを相手にしなきゃいけないの……? うち、生き残れる気がしないんだけど……」

「ま、今のおまえの実力じゃ難しいな。下がってろ、ヤツは俺が滅する」

「ひ、一人で大丈夫なの……?」

「案ずるな。敵が見えていれば俺の辞書に敗北の二文字は無い」

そう告げても未だに心配そうに見つめてくる彼女に、さっさと物陰などに隠れるよう指摘。慌てて彼女は来た道を戻り、木陰に隠れて小動物のように小さくなって見守っていた。

向こうも金棒を振り上げて準備が整った所で……戦闘開始だ。

ヤツは俺の立っている場所に向けて金棒を振り下ろし、俺は横に転がって避ける。その際、空振った金棒が地面を叩き、地面が軽く揺れる。
あの金棒……まともに当たったら危険だな。
安全策としては暗黒ショットで遠距離から地道に攻撃していくべきなのだろうが、俺はその方法を頭ですぐに却下した。なぜなら変異体とはいわゆる暗黒物質に馴染みにくいモンスターが、完全に馴染む途中で留まっているみたいなものだからだ。下手に撃ち込んで完全に順応するような事があれば、こちらの攻撃は全て逆効果となる。
即ち変異体相手では短期決戦が定石……そしてもう一つ、身体の急激な変化で変異体は常に体力を消耗している。その状態は完全体となるまで続き、そのために変異体は他のモンスターよりも多くエネルギーを補給……ヒトや生物どころかモンスターやアンデッドまで食べ、食料になるものをとにかく襲うのだ。ただ……エネルギーが枯渇しているにも関わらず、身体がより変異しようものなら今度は自らの生命まで削ってしまう事になる。そこに俺の勝機がある。

空腹と飢えで冷静な判断が出来ず、見境無く金棒を振り回してくる変異体の攻撃は読みやすく、バックステップやサイドステップで避け続ける。こいつはかなり血が昇りやすいようで、避ける度に威力は上がっても鋭さが鈍くなっていった。この森にはもうほとんどスパイダーしかいなかったから、コイツはここ最近まともに食べておらず、その分エネルギーも枯渇していることだろう。つまり見た目は威風堂々としてるが、実際は餓死寸前と言える訳だ。

やれやれ、来るのがもう少し遅ければ勝手にくたばっていたかもしれない……タイミングが悪かったか? いや、近くには太陽樹に守られているとはいえアースガルズの街がある。変異体も見境なく結界を突き破るだろうし、恐らくもう少し遅ければコイツはあの街を襲っていた可能性が高い。となるとある意味タイミングは良かったのか?

「ま、どっちだろうと構わんが……恨むなよ」

渾身の力で叩き潰そうと大きく振り降ろして来る金棒をゼロシフトで避け、そのまま連続的な動作でヤツの口元に暗黒銃の銃口を向ける。

「たっぷり味わっとけ!」

ヤツの体内に入り込むように暗黒スプレッドを発射、急激な暗黒物質の摂取によって追い付かなくなる変異の代償。それによって身体を維持するエネルギーも完全に尽き、変異体は白目をむいて口から黒い霧を吐き出しながら仰向けに倒れる。一陣の風が吹くと、変異体はボロボロと身体が崩れていき、砂状になって地面に消えていった。

「勝っちゃった!? 勝っちゃったよ、サバタ!!」

「その言い方だと俺が負ける事を望んでた風に聞こえるぞ、“星読み”」

「あ!? ご、ごめん、そんなつもりじゃないから!?」

「フッ……それぐらいわかってるさ」

木陰から飛び出してさっきは喜んでいた彼女は、いじられたと気づくとむくれて軽くポカポカと殴ってきた。軽く流せばいいのに毎度毎度、彼女は律儀に反応してて面白く思える。

さて……ここに訪れた目的である『地竜の爪』を手に入れるために広場の奥、森の最深部へと足を踏み入れた俺達は……。

「うわぁ~…………すごぉ~い!」

「これはまた……興味深い光景だな」

恐らく吸血変異によって枯れて空洞となった大樹の中で、未だに水を送る機能が残っていて湧き水として作られた清らかな泉、その周りから新たな木々の苗がしっかり根を張っていた。既に大樹の上の方は折れて空洞に太陽の光が直接入り込むようになっており、新世代の木々はその眩い光に向かって一直線に力強く伸びる、躍動感のある光景……。

「こんな神秘的な場所がすぐ近くにあったなんて……! 『神秘の森』の由来はここからなのかもしれないね!」

「そうだな……何より驚くべきなのはこの湧き水だ。吸血変異の源であるダークマターが降り注ぐ外世界に野ざらしなのに、一切暗黒物質に汚染されていないんだ」

「内陸に降る雨は汚染されてて飲めないのに、ここは自然の力で浄化してるんだ……!」

「……世界にアンデッドが現れようと、種の滅びが目前に迫ろうと、生きようとする力はかくあるものなのか……」

「うちも……この子達みたいに、闇に負けず生きなきゃいけないと教えられたよ……」

彼女が感動で心を包んでいる間に、俺は泉の傍の地面に刺さっていた一本の爪を見つける。アース属性が内包されているこれが、探していた『地竜の爪』のようだ。

「…………」

拾ったそれを荷物にしまいながら、俺は思う。
クイーンの命令でこういう物を集める……人類の敵たるヴァンパイアの計画を進めるための旅に、果たして人間の彼女をこのまま連れて行っても良いものなのか? ……まあ、内密に俺自身の策も進めているから正確には違うのかもしれないが……それでも先程のような変異体と戦う可能性が高く、危険である事には変わりない。少なくとも暗黒城に戻るまでには別れないといけないが……魔女である彼女が平穏にいられる場所を見つけたら、その時は……。

「それが『地竜の爪』? じゃあまず一つ目だね!」

「あ? ああ……そうだな」

「サバタってなんか暗いなぁ~、もっと明るくいこうよ! 上向いて行かないとね!」

「俺はともかく、おまえはそれでいいさ……」

逆境に立ち向かう支えを得られたのなら、それはそれで構わない。それに彼女の旅も彼女が安息の場所を見つけるまで、一人では対処できない危険から俺が守っていればいいだけか。ま、同行者がいるというのも案外悪くない。

「ここの用事は果たした、次の探し物を見つけに行くぞ」

「は~い! 次の目的地はうち、“星読みのザジ”さんにお任せあれ~! ……読めたっ! ここより遥か西、海に面した街の北にある遺跡……そこに探し物があるよ!」

「西の海沿いの街……確か近くまでなら使われなくなった線路が通っていたはずだ。となるとまずは線路沿いに進むのが吉か……」

「線路って、旧世界だと“デンシャ”って乗り物がすっごい速さで走ってたんだっけ?」

「文献によるとそうらしい。昔はなんとか大陸横断鉄道って名前があったらしいが……とにかく行ってみるぞ」

今更だが“星読み”は探し物を見つけるこの旅にうってつけ過ぎる人材な気がしてきた。正直、早めに会えて良かったかもしれない……。

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of サバタ(一時休憩)~~

「これが最初のダンジョン攻略までの話だが……なぜ皆ジト目なのだ?」

「いや……最初のザジさんの出会いの話は辛すぎやったけど、それを乗り越えて二人で旅するのは普通にええなって思うわ。ただ、ちょいと仲良すぎへんか?」

「そうか? 偽りの母とはいえ、しっかり教わった“男の務め”を果たしているだけなのだが……」

「[ヤバい、サバタ兄ちゃんって実はクイーンって奴に光源氏計画されてたんちゃう? やないとこんな女泣かせな人間にならんやろ]」

「[た、確かにヴァンパイアに育てられているにも関わらず、この器量の良さに配慮、精神……何らかの思惑があってもおかしくありません]」

「[なぁなぁ、ヒカル……ゲジゲジ? って何なんだ? あたし本とか読まねぇからわかんねぇよ]」

「[光源氏っていうのは……まあ簡単に言うと、年下の少年を理想的な男性に育て上げて美味しく頂いちゃおうとする話だよ、ヴィータちゃん]」

「[え……マジかよ、なのは!? た、確か誘拐されて育ったんだったな、サバタって。じゃ、じゃあもしかして!?]」

「[幼少期にヴァンパイアにさらわれて、そこで英才教育を受けて理想的な男性に育て上げる光源氏計画……シャマルビィームが吹き出すネタが湧いてくるわッ!!]」

「あんたら念話で相談するんじゃないッ! 魔力が無い私達じゃついていけんでしょうがッ!!」

「ツッコミを入れられる時点でついていけてると思うよ、アリサちゃん……」

三者三様の有様を見せる彼女達の反応を前にして、俺はただ疑問を浮かべるだけだった。唯一無言だったネロは考える仕草を見せながら、質問してきた。

「……兄様は確かその当時、ヴァンパイアの居城に匿われていたのだろう? なのに何故普通に外の世界を出歩いているのだ? その集めている物が関係しているのか?」

「ああ。俺が集めていた4つの道具は、各属性のエナジーを暗黒城に送り込む触媒としてクイーンから集めてくるよう命令された物なのだ。いずれやって来るであろう太陽少年と死の大地イストラカンのイモータルとの戦いで発生するエネルギーを最大限利用するためにな」

「だがその旅の最中に家族や知り合いに出会えば、連れ戻される可能性は十分にあるはずだ。その危険を冒してまでクイーンは兄様を旅に送ったのか?」

「いや……連れ戻される心配が無かった、と言う方が正確か。知っての通り、俺の身体はダークマターに侵されている。たとえ身体を蝕もうと俺が生きるために必要なダークマターを、親父たちの力では焼却は出来ても取り除く事は出来ない。それに暗黒仔に片足が入っていた俺は、もう人間の世界に戻れないと自分で納得していたからな。親父に会えたとしても、自分から帰る事を否定していただろう」

「そう、なのか……。しかし、ザジ殿と旅をしている間は人間の世界に順応しているのではないか? 少し言い方は悪いが、魔女のような扱いを受けていないから何とかなったのではないか?」

「確かにネロの言う通り、戻ろうと思えば俺は戻れたのかもしれん。しかし戻れたとしても、やはり俺は戻らない道を選んだに違いない」

「どうしてそう言い切れるのだ?」

ネロの質問に他の女性陣も興味津々に身体を乗り出して聞こうとしている。嘆息した俺は、郷愁の意を込めて告げる。

「彼女の…………カーミラのいる所が、俺の望む居場所だったからな……」

この世界の未来も守り、俺が愛した彼女の存在を聞き、皆は一気に申し訳なさそうな顔をする。別に気を悪くさせるために言ったのではないんだが……そう受け取られても仕方ないか。

「なんちゅうか、告白してないのにフラれた感じになってしもうたな、ザジさん……」

「一途に想われるってのは女冥利に尽きると思うけど、選ばれなかったらその分哀しいわね」

「昼ドラみたいにドロドロしてないけど……ザジさんにとってこれだけサバタさんは心の支えになってるのに好きな人が他にいるって知ったら、きっと辛いだろうね」

「ずっと傍に寄り添ってくれる少女を一途に想う主人公、しかし彼に生きがいを与えてくれた彼女は諦めきれず、横恋慕を企む昼ドラ展開……妄想が膨らみ過ぎてもうたまらないわッ!!」

「ヴィータ、そろそろシャマルを黙らせるぞ」

「あいよ、シグナム。勝手に一人で盛り上がってんじゃねぇよ、シャマル」

「げふぅっ! し、シャマル死すとも、妄想は死せず……ガクッ」

「……シャマルはいつからこうなってしまったのだ?」

「さ、さあ……? ところでこの旅って最後はどうなるのかな?」

「そうそう! 腐れ縁って前に言っとったし、旅が終わった後も感動の再会とかがあったりするんやろ? なあなあ、どうなん?」

「おまえ達、結論を急ぎ過ぎだぞ。ま、少しだけバラすなら、はやてが言うような感動の再会にはならなかったぐらいだな」

「え、そうなん? 一緒に旅をしたんやし、また会えたら絶対嬉しく思うはずやろ、普通? ましてやそれが自分の命を救ったり、戦い方を教えてくれたりした相手なら尚更そうなってもおかしくないやん」

「はぁ……そういう話は全て話し終えてからにしてくれ。ちゃんと最後に理由も判明するから」

そして会話を切った俺は、続きの話を始めるのだった。

 
 

 
後書き
神秘の森を旅したはずのサバタが『世紀末世界では、こんな澄み切った空気は吸血変異の影響でどこにも存在していない』と言った理由は、文字通り今は無くなっているため。 
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