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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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死闘

 
前書き
表側の回 

 
~~Side of なのは~~

「誕生日おめでとう!」と言おうとしたら突然、はやてちゃんの傍に魔力を感じる本が表れて私達を弾き飛ばして、それで起き上がった私の目には、はやてちゃんのリンカーコアが吸い込まれていくのが見えた。
サバタさんはあの本を止めようとはやてちゃんの所に行こうとしたけど、暗黒の力を使う彼でも途中までしか進めなかった。でもそこでアリサちゃんが咄嗟の機転を利かせてサバタさんの部屋から持ってきた暗黒剣を渡したのはいいんだけど、何とか近づけた本に暗黒チャージを使ったサバタさんが吸収されてしまった。

私達は茫然とし、はやてちゃんは彼の名を叫んだ。でも事態は私達の気持ちを無視して進み、本が光った直後、はやてちゃんの目の前に膝をつくような姿勢で4人の人影が現れた。

「闇の書の起動を確認しました」

「我ら、闇の書の蒐集を行い、主を守る守護騎士にございます」

「夜天の主の下に集いし者、ヴォルケンリッター」

「主、ご命令を―――」

「んなもんどうでもええわっ! 早くサバタ兄ちゃんを返さんかぁっ!!」

「な!? お、お待ち下さい主!? 一体どうしたというのです!?」

ピンク髪の女性が半泣きでキレているはやてちゃんを前にして、どうしたらいいのかわからずあわあわしている。他の3人も突然目の前で主が怒っている事に戸惑っているみたいだけど、その理由は私達にはよくわかる。

「なんやの!? フェイトちゃんに覚醒イベントがあるって教えてもらってからずっと期待してたのに、いざそうなったらサバタ兄ちゃんを奪ってくって、そんなイベントいらんわっ!! 返して! サバタ兄ちゃんを返してぇ!!」

「お願いですから落ち着いてください、主!? 目覚めたばかりで我々には何故主がお怒りなのかわからないのです!」

ピンク髪の女性の言う事にも一理あるけど、サバタさんが本の中に消えたのと同じタイミングで現れた彼女達が無関係とは流石に思えない。それにサバタさんの存在は私達の中でも大きいけど、フェイトちゃん達が管理局に連れていかれて唯一家族として同じ家にいる彼にはやてちゃんは依存に近い形で懐いていたから、特に執着が強い。なのに急に奪われたら、そりゃあこうなるよ。

でもおかしいなぁ……サバタさんの事は間違いなく大切に思ってるけど、どうも今の私は驚くほど冷静だ。多分、自分より強い感情を発露している人が近くにいると、対称的に落ち着いてくるみたいな感じだろう。怒鳴ってるはやてちゃんには悪いけど、彼女のおかげで今の状況をどう動けばいいのか、客観的な視点で考えられる。

「(サバタさんの安否も気になるけど、今はまずこの人たちの正体を話してもらうのが先だよね)」

「あ~ちょっとそこの3人。悪いようにはしないからこっち来て」

「私達ははやてちゃんの友達なので、危害は加えませんから」

とろとろしてると私より判断力が高いアリサちゃんとすずかちゃんが先に言ったけど、おっとりした金髪の女性と、ツリ目で赤毛の少女と、犬耳が頭に生えてて筋肉の凄い男性は、安心してため息を吐いたり、不審そうな顔をしたり、無表情のままだったりと別々の反応をしながらも大人しく付いてきてくれた。
ピンク髪の女性は置いてきたけど、別にはやてちゃんを落ち着かせるのが面倒で放っておいたんじゃないよ? ほら、彼女達が魔導師で、しかも敵だとしたら皆を守るために私一人で何とかしないといけないでしょ? これは戦略的作戦なんだよ? うん。

で、リビングのテーブルを囲んで全員着席してから、彼女達にひとまず自己紹介してもらった。

「湖の騎士、シャマルです」

「……鉄槌の騎士、ヴィータ」

「盾の守護獣、ザフィーラ」

「私は高町なのは。はやてちゃんの友達です」

「アリサ・バニングスよ」

「月村すずかです」

「なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんね。部屋に置いてきたのは烈火の将シグナムで、本来は私達の意見をまとめる役なんだけど今は取り込み中みたいだから、代わりに私が話をするわね」

「はい、わかりました。シャマルさん」

という事で、ちゃんとお話する場が出来た……んだけど、

「その前にあたしから訊かせろ。……てめぇ……管理局の魔導師か?」

ヴィータちゃんは私を睨みながらそう言ってきた。確かにこの面子じゃあ私だけ魔導師だけど、そこまで警戒する必要があるのかな。彼女とは仲良くなりたいし、嘘はつきたくないから正直に話そう。

「私は魔導師だけど、管理局に所属はしてないよ? ヴィータちゃん」

「本当か? 裏でこっそり連絡してたりしねぇよな?」

「してないよ。何ならいっそデバイスも預けようか?」

「ッ! ………わかったよ、少しは信用してやる。だけど少しでもおかしな真似したら、あたしがアイゼンで叩き潰すからな!」

「大丈夫、私達を信じて」

この時私は知らなかったが、さり気なく彼女達の世界の小噺の落ちに値する発言をしていたらしい。でもおかげで警戒心も抑えられたみたいだし、結果オーライかな?

ま、もし力づくで来てたら遠慮なくOHANASHIしてたけどね、ウフフフ……。

「お~い、ダークなのはが出てるわよ~?」

「はっ! いけないいけない……」

アリサちゃんに指摘されて、座ったままシャキッと気を付けする。時の庭園で暗黒物質が宿ってから偶にこういった衝動が現れる時があるんだけど、絶対に飲み込まれるな、とサバタさんにきつく念を押されている。
サバタさんの弟のジャンゴさんもヴァンパイアの血が宿ってるようだけど、こういう衝動は闇の力を表に出している時以外は出てこないらしい。ジャンゴさんは月光仔の血も流れてるからそういう衝動に耐性があるけど、私は太陽仔でも月光仔でもない身で暗黒物質を宿してるから、飲み込まれるのはいろんな意味で危険なのだそうだ。でも戦いになったらうっかり発現しやすくなるから、その時は結構意思を固くする必要がある。

「さてと……そっちの話もまとまったようだし、単刀直入に訊くわ。その闇の書? それって一体何なの?」

そこからの話をまとめると、闇の書は魔力と魔法を集めるロストロギアで、666ページ分の魔力を集めると主……この場合ははやてちゃんに大いなる力が与えられて、願いが叶うとかなんとか。でもその性質上、初期起動の今は魔力がほとんどなくて、管理局とは幾度も敵対してるから近くに主以外の他の魔導師がいたことで、つい管理局の待ち伏せなんじゃないかと思ったらしい。ひとまず居合わせたのは偶然だということを、しっかり話してわかってもらった。

「闇の書のことは、まあ表向きはわかったわ」

「表向きって……どういう意味かしら?」

「魔力を集めれば願いを叶えるロストロギア。なんか以前も似たような物があったんだけど、それは正しく願いを叶えられる代物じゃなかったわ。それにさっき、はやてを守ろうとしたサバタを吸収したんだもの、願いを叶えるなんて肩書きは正直眉唾ものなのよね」

まあ、ジュエルシードが叶えられる願いなんて、子猫の大きくなりたい想いが限界だしね。しかも|あれ≪巨大化≫もまともに叶えたとは言い難いし、この短期間で“願いを叶える”という言葉に夢を見れなくなった高町なのは、9歳の夜でした。

「吸収……先程から主が仰っていたが、もしやそのサバタという者は、起動時の結界に入り込んできたのか?」

「あれが結界なのかどうかはさておき、闇の書をどうにかしようと近づきはしたわね」

「という事は恐らく、闇の書の自己防衛機能が働いたのだと考えられるわ。普通は起動時に主以外近づける人間なんていないのだけれど、それを突破されて緊急対策でサバタさんを取り込んだのだと思うわ。起動時の闇の書は、干渉を図る意味では最も無防備なタイミングとも言えるもの」

「なるほど……それなら少なくともサバタは生きてるってことね。なら大丈夫よ、きっと」

「うん、それどころか普通に自力で出てくるんじゃないかな? ……私の時のように」

「あはは……考えてみればサバタさんも色々大変だよね……」

「おめぇら、こんな状況でよく笑えるなぁ。主なんか未だに取り乱してるってのに。シグナムのやつ、将のくせに必死に助けを求めてきてるぜ」

ヴィータちゃんの言う通り、耳をすましてみると号泣しているはやてちゃんの声と、戸惑っている様子のシグナムさんが慌てる様子が聞こえてくる。彼女の気持ちを思うと私たちも落ち込んでしまい、場に話しにくい空気が流れる。

「……気を取り直して、話を進めるわ。さっき蒐集とか言ってたけど、蒐集されたらどうなるわけ?」

「リンカーコアが小さくなって、最悪魔法が使えなくなるどころか、身体機能に異常をきたす可能性もあるわ。もちろん、それはやり過ぎた場合の話で、抑えた吸収量なら問題なく回復するから」

「へぇ~、でも痛みを与えたり迷惑をかけるという点を考えると、はやてなら蒐集禁止とか言いそうね。あの子はそういう優しさを持ってるんだし」

「そうだね。守護騎士の皆さんも、はやてちゃんが落ち着いたらちゃんと話してみるとわかるよ。きっと大切に扱ってくれるから」

「…………」

これまで戦いばかりの日々だったのと、蒐集を命令されて当たり前だと思ってたからか、守護騎士の3人は大切に扱ってくれる、という内容に戸惑っていた。

「……我々を人として扱う、そんな主なのか?」

「蒐集しなくて済むって、本当に信じられるか? やっぱり願いを叶えたくて、あたしらにまた手を汚させたりするんじゃないのか?」

「私たちはこれまでずっと、主のために誰かを傷つけながら、魔力を集め続けてきた。それを本当にやめられるなら……これ以上の幸福は無いわ」

「でもよぉ……サバタって奴、主の兄ちゃんなんだろ? 返してって泣きながら言ってたし、取り戻すためにどうにかしろって言ってくるかも……」

「闇の書の内部に関しては我々ではどうしようもない。彼女達が言うように、その兄上が自力で出てくる事を期待するしかあるまい」

「だけど……ただの魔導師なら闇の書から出れる可能性はどうしても低いわよね。強力なレアスキルか何かでもない限り、流石に……」

あ、そっか。守護騎士の人達は暗黒物質の性質を知らないんだ。サバタさんの暗黒の力は、魔力を消し去る力。闇の書の中身は要するに魔力の塊、リンカーコアに近い性質とも言える。少なくとも魔力を基にしてるようじゃ、サバタさんを捕らえる事は不可能。私のバインドでも一時的になら捕らえられるけど、彼の体に宿る暗黒物質が魔力を分解してすぐに破壊してしまうから、極端な話、管理局がロストロギアに使う封印魔法すら太刀打ちできないんじゃないかな?

「なのはさん、そのサバタさんが持ってる力とか、何か知ってるなら教えてく――――ッ!? これは……マズい!!」

突然シャマルさんの顔色が悪くなって、咄嗟に周囲に結界を張った。魔力を持たない人間を弾き出す結界の効果によって、隣にいたアリサちゃんとすずかちゃんの姿が消える。緊急事態が発生したのだと判断した私はレイジングハートを構えておく。

「尋常じゃない様子だけど、大丈夫なの……?」

苦しそうにシャマルさんは頭を抱えて蹲り、ザフィーラさんも眉間にしわを寄せて歯を噛み締めながら胸を抑え、ヴィータちゃんは意識の方で何かに抵抗している様子でデバイスのハンマーを構えた。

「あ、頭の中に……! 何かが……!!」

「恐らく……闇の書の中で何かが起きた事で……書が我らに異分子を排除せよ、と命令してきているのだ……!! その対象は恐らく……この場にいる主以外の人間全てだ!!」

「クソ……か、身体が、言う事を聞かねぇ! おい、高町にゃのは……悪ぃ、あたしを倒してくれ!!」

「え、ヴィータちゃん!?」

倒せって、今のヴィータちゃんはやけに苦しそうだし、そんな病人に鞭打つみたいな事はしたくない。あと、“にゃのは”じゃなくて“なのは”なんだけど……。

「いいから早く戦闘準備をしろ! チクショウ……もう、抑え……られねぇ……!! ガッ、アガァアアアア!!」

「ッ!!」

とにかく言われるままセットアップした瞬間、辛そうな雄叫びを上げたヴィータちゃんの目が虚ろになり、私に向けてハンマーを振り回してきた。レイジングハートが発動してくれたプロテクションのおかげでダメージは無かったものの、私の体躯は窓を突き破って外に投げ出される。
フライヤーフィンを展開して上空に退避すると、私を追いかけてヴィータちゃんが飛び出し、いくつか鉄球を打ち出してくる。フェイトちゃんとの戦闘経験のおかげで弾道予測が出来る私は、その鉄球を身のこなしでかわしながら、シューターで相殺して対処する。結界をシャマルさんがギリギリのところで張ってくれたおかげで、人目を気にせず戦えそうだ。

他の守護騎士の皆は何とか自我を保って堪えているようだけど、ヴィータちゃんだけ闇の書の強制命令が強く効いてしまったのか、こうして突然の戦闘になってしまったようだ。彼女はまだバリアジャケットが設定されていないのか、現れた時の格好である黒タイツのままだから防御力は低いと思う。けど、彼女のハンマーの攻撃力は高く、なめてかかると痛い目に遭うから、あまり直撃を受ける訳にはいかない。

「いいよ、相手になってあげる」

そう言ってニヤリと笑みを向けると、無表情で襲い掛かって来るヴィータちゃん。こんな状況になったのは十中八九、サバタさんが何かしているに違いないと私は確信している。だから私の役目は、彼の戦いが終わるまで撃墜されないよう凌ぐことだ。

「フフ……少し頭冷やそうか、ヴィータちゃん」

彼女が振り回すハンマーを避けながら、遅延型のバインドを多く設置していく。やり方はフェイトちゃんの時と同じ、まず相手の動きを拘束して止めることだ。

設置、設置、設置、設置、設置、とにかく設置。シューターによる牽制攻撃も交えながら、とにかく過剰と言える程バインドを設置していく。一方で本人の意識ではないとはいえ、しびれを切らしたヴィータちゃんはデバイスに搭載されている謎の機構を使って弾丸の薬莢を射出、魔力が爆発的に上昇する。

「ラケーテンハンマー……!!」

ジェット噴射でハンマーに凄まじい回転速度を乗せ、全身を使ってこちらに全力攻撃を仕掛けてくるヴィータちゃん。そのプレッシャーは一瞬冷たい汗をかかせる程だけど、私に迫ってくるヴィータちゃんに、周囲から無数の鎖が伸びて絡みつく。そう、さっきまで私が設置し続けたチェーンバインドを一斉発動させたのだ。
実は内心で結構必死だったから、正直自分でもどれだけ設置したのかわからない。でもおかげでヴィータちゃんの速度が目に見える勢いで衰えていき、最終的に完全に動きを止める事に成功した。両手、両足、胴体、肘、膝、ハンマー、目に見える場所全てチェーンバインドで縛られたヴィータちゃんはビクとも動けなくなり、状況はこちらの絶対的優位になった。

「そうそう、倒せってさっき言われたんだよねぇ……」

レイジングハートをカノンモードにシフト、先端に魔力を集中させる。目標は……当然ヴィータちゃん。バインドもずっと発動していられるとは限らないし、いっそ撃墜してしまえば問題ないからね。

「行くよ? ディバイン……バスター!!」

「―――――ッ!!!」

解き放った砲撃がヴィータちゃんに伸び、着弾、爆発が起こる。防御魔法を張る暇も無く、そもそも微動だに出来ない状態だから魔法を発動させるのが不可能なヴィータちゃんは、今の攻撃で撃墜まではいかなくても、少なくないダメージを被ったはずだ。

「そう思ってたんだけど……予測が甘かったかなぁ」

煙が晴れた時、ヴィータちゃんは無事だった。彼女が無事だったのは、別の誰かが今の砲撃を受け止めたからだ。そして受け止めたのは……犬耳の男性だった。

「ザフィーラさん……あなたも意識が……」

盾の守護獣たるザフィーラさんが参戦してしまえば、状況は2対1、実力もそうだが普通に数の上でも不利だ。だけど……バインドがまだ残っているから、ヴィータちゃんは解放されていない。つまり今の内なら1対1の状況で戦え―――、

「飛竜……一閃……!」

突然、横から蛇腹状に伸びてきた剣がヴィータちゃんを拘束していたバインドの鎖を切断、せっかく行動不能にしたヴィータちゃんが解放されてしまった。攻撃してきた方を見ると、虚ろな目をしているシグナムさんが、西洋剣を構えてこちらを見据えていた。

「シグナムさんまで……」

これで3対1、だけど今日は私の運が最悪なのか、状況は更に悪い方向に走ってしまう。バインドを設置している間にシューターで与えたヴィータちゃんの損傷が、彼女を包んだ緑色の光によって回復してしまう。ザフィーラさんの背後を見ると、最後のヴォルケンリッター、湖の騎士の姿が……。

「シャマルさんも……。歴戦の騎士相手に4対1って、これ勝ち目あるの……?」

戦力差を見て絶望的なこの状況。ヴィータちゃん一人でも苦戦してたのだから、今の私一人でヴォルケンリッター全員を相手に勝利を収める事は、あまり言いたくないけどまず不可能だろう。
こうなったら……、

「限界ギリギリまで逃げのびるしかない……!」

直後、これまでのお返しと言わんばかりに始まる、ヴォルケンリッター全員の総攻撃。ヴィータちゃんの鉄球に追い回され、ザフィーラさんの拳が防御魔法越しに強い衝撃を伝え、シグナムさんの剣がバリアジャケットを切り裂いていく。対するこちらもシューターやバインド、バスターで相手の陣形を乱そうとするも、豊富な実戦経験のある彼女達にそのような小細工は最小限の対処で済まされてしまう。

瞬時の回避、刹那の攻防、これまで生きてきた人生の中でもとりわけ思考と行動をフル活動させて凌ぎ続ける。時々喰らう攻撃でバリアジャケットがどんどん破損していくけど、そうなっても向こうの連携の勢いは微塵も衰えない。

「ハァ……ハァ……」

それから実際はもっと短いかもしれないが、30分ぐらい猛攻撃を耐え凌ぎ、バリアジャケットはもう原型がほとんど残っていないぐらい損傷して、あまり多くない体力も底をついて息も上がっていた。熟練の戦士4人を相手に、よくここまで持ち堪えたと自分で褒めてやりたいぐらいだ。

でも、ここまでされても彼女達の攻撃は止まらない。一方的に蹂躙された私は……魔力どころか体力も限界に達して、視界がぐらついている。疲労がピークに達した私の大きな隙を彼女達が見逃すはずが無く、ヴィータちゃんが弾丸を射出して先程の大威力回転攻撃をしてくる。距離的に回避出来そうにないから残った魔力を使ってプロテクションを張り、彼女のハンマーと衝突。しかし耐え切れず砕け散ってしまい、もろに攻撃を受けた私の体は吹っ飛び、更に飛ばされた先で待ち受けていたザフィーラさんのアッパーで追撃をもらう。ピンポールのようにぶっ飛ばされた私に、トドメと言わんばかりに上空から弾丸を射出したシグナムさんが、炎の纏った一閃を放つ。

「みぎゃぁッ!」

防御魔法が展開出来ず私はダイレクトに斬られ、撃墜されてしまう。彼女達の攻撃の勢いに負けて墜落した場所は結界の範囲内にあったビルの何階か。崩れずに残った壁に寄りかかって意識が朦朧としている私の前にヴォルケンリッター4人が降り立つ。

「これより、異分子の排除を行う……」

「う………サ、バタさ……」

これで……終わりなの? 私、ここまで頑張ったのに、このまま終わるの……? そんな…………イヤだ。こんな所で、負けられない……! まだ、ここで倒れる訳にはいかない!!

……ごめんなさい、サバタさん。散々止められてたアレを使うしかないみたいです。

「トランス・ダーク!!」

『ッ!!』

瞬間、体内の暗黒物質が私の体を糧に周囲に放出され、枯渇した魔力の代わりに暗黒の力が補充される。雰囲気が一変した私に危機感が働いたシグナムさんが、すぐさま剣で突き刺して来た。単純ながら洗練された突きで、満身創痍の私が避ける事も防ぐ事も、本来ならあり得ない。
しかし……殺気のこもった彼女の剣を、私は両手で掴み、辛うじて胸に刺さる寸前で食い止めた。力づくで止めたせいで手に深い裂傷が入り、掴んだ手から剣を伝って血が流れていき、魔力で構成されている白いバリアジャケットを赤く汚していく。

「ッ!?」

本人の意識が無くても、剣を素手で止めた事にシグナムさんは驚いていた。剣を引き抜こうと上下左右に動かすシグナムさんだけど、想像以上に強い力で私が掴んでいるせいで取り戻せずにいた。

「このトランス・ダークはね……暗黒物質が宿った事で、私の中で目覚めた闘争本能を暴走させるようなものなの……」

「……?」

「普通の人に例えると……アドレナリンを脳内に過剰分泌した状態に近くなるんだ。つまりね……!」

ビュンッ! ドゴォッ!!!

剣を離した一瞬で、先程とは比べ物にならない速度でシグナムさんの胴に掌底を放ち、まるで大型トラックに衝突したかのように彼女の体が吹っ飛んでいき、壁に叩き付けられる。
その光景を呆然とした面持ちでヴィータちゃん達が見た後、すぐに私を警戒するように身構える。

「こうやって、通常時より何倍も強くなるんだよ!!」

さあ、好き放題やられた分、お返しをしないとね!
と言っても、暗黒の力は私の体や精神に負担が大きいから、ちゃんと人間に戻れる最低限の制限時間を設けている。今の私がトランス・ダークを使ってても大丈夫な時間は、せいぜい10秒。
たった10秒だけど、されど10秒。トランス・ダークを使用している間は、お兄ちゃんやお父さんに匹敵する身体能力を得ている。神速のような人間を越えた技を武器とする御神の剣士にとって、10秒というのは相手を制するのに十分過ぎる時間だ。

「まず一人……!」

ヴォルケンリッターのリーダー的存在のシグナムさんが一撃でやられた事で、たった一発でも脅威と判断したザフィーラさんがヴィータちゃんとシャマルさんの前に出てこちらに先行してくる。突貫して放たれた彼の拳は、私に届く寸前に張られた桃色のシールドによってほんの一瞬阻まれる。

「二人目ッ!」

残り少ない魔力で作ったプロテクションはすぐに壊れるけど、それで稼いだ数瞬の間にレイジングハートで抜き胴を放つ。デバイス越しに鍛え上げられた彼の筋肉の固い感触が伝わってくるが、同時に確かな手ごたえも私の手に届く。

崩れ落ちるザフィーラさんの後ろでは、私の速度に対応しきれずにいるヴィータちゃんが鉄球を呼び出そうとしていた所だったが、それは即ち、現在は反撃出来ない、という事である。身を翻してヴィータちゃんに接敵、魔力を込めてコーティングしたレイジングハートで彼女の胴を穿つ。えぐり込むように入った突きは、ヴィータちゃんの戦闘継続を不可能にさせる威力を誇り、そのまま蹲る。

「三人目ッ!」

そして後方支援なのに勝利を確信して前に出て来たシャマルさんは反応が追い付けずに、未だに硬直している。そんな彼女に私はヴィータちゃんを突いた姿勢のまま、レイジングハートの矛先を向ける。
だけどここでトランス・ダークを使用して10秒経ってしまったから、安全のために解除する。先程の圧迫した雰囲気が収まって、怒涛の反撃が終わったのかと一瞬思うシャマルさんだけど、それは間違いである。なぜなら、この場には先程までの長期戦で使われた魔力が散乱している。それを集めて解き放つ魔法を、今一度披露させてもらう!

「アバババババッッ!!!???」

あ、ごめんヴィータちゃん。魔力チャージの巻き添え喰っちゃってるけど、外してる暇が無かったんだ。悪いけど、大人しく受け止めてね。

「スターライ―――うぐッ!?」

突然私の胸から手が出て来て、リンカーコアを摘出されてしまう。視界の向こうでシャマルさんが光の膜に手を入れている事から、恐らくこれは彼女の魔法だろう。
しまった……完全に詰めを誤った、これは私のミスだ……。魔力もエナジーも枯渇して、痛みと疲労でもう指を動かす事すら難しい。悔しいが、敗北を認めるしかない……。

「ッ!! な、のは……ちゃん……!」

本人の意識が消えていたはずのシャマルさんが私の名前を呼ぶ。きわどいタイミングだったけど、自我を取り戻してくれたみたい。それを確認してほっと安心した私は、すぐに力が抜けて意識を手放した。彼が全て解決してくれたのだと、本能で理解したから……。

そして私達の戦いに決着がついた同時刻、謎の点滅を繰り返していた闇の書は、ページが勝手に開いて誰も発動していないのに魔法陣が展開される。

そこから……人間の手が出てきた。本の端を掴むと、そのまま力を込めて、ゆっくりと本体が出てくる。これだけ見るとホラー映画を彷彿とさせる画だけど、はやては全然怖く思わなかった。むしろ嬉しく思っていた。なにせ……、

「フッ、やれば案外何とかなるものだな、俺の暗黒の力も捨てたものではない」

「この短時間で、兄様一人にこれまでの認識を木端微塵に打ち砕かれたぞ、私は」

「さ、サバタ兄ちゃん……!!」

「どうした、そんな泣き顔で。……ああ、そうだったな。はやて、誕生日おめでとう」

「サバタ兄ちゃぁ~~んっ!!!」

銀髪の綺麗な女性を引き連れて、彼が帰ってきてくれた。二度目はやっぱりきつかったはやてちゃんは、ほろりと涙を流しながら彼に抱き付いていた。ちなみに一度目はヴァナルガンド、二度目は闇の書の事で、今更だけどサバタさんって実は結構不幸体質なんじゃないかな? この短期間で2回……世紀末世界も含めたら3回も何かに取り込まれてるんだもの。

 
 

 
後書き
なのは版トランス・ダークは、見た目がジャンゴのように半ヴァンパイア化はしません。代わりに目が妖しく光ります。 
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