提督がワンピースの世界に着任しました
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プロローグ2
吹雪に案内された応接室で、彼女と向かい合い椅子に座る。妖精さんは、吹雪が座ると同時に肩から飛び降りると、長椅子の間に挟まって設置してある背の低いテーブルの上に着地する。
「それじゃあ、現状を確認するために改めて自己紹介をしよう」
俺の言葉に、吹雪と妖精さんが頷くのを確認。話を進める。
「先ず俺から。と言っても、記憶喪失で自分が誰かなのかよく分かっていない。どうやらここの司令官かも知れないという事で吹雪にこの鎮守府に案内してもらったが……」
俺の現状を妖精さんにも伝えてみた。妖精さんはしばらく俺をジーっと見つめると、ゆっくりと話し始めた。
「あなたは、間違いなくこの鎮守府の司令官ですよ」
妖精さんは真面目な目を俺に向けて、俺が司令官だと断言してくれる。確信している妖精さんの言葉に、俺という存在を知っていたのだろうか、もしかしたら無くした記憶の手がかりが見つかったかと、若干焦りながら妖精さんに質問をする。
「妖精さんは、俺が誰だか知っているか?」
「申し訳ないのですが、司令官が司令官である事以外はわかりません。ただ、艦娘である吹雪さん、妖精である私、そして鎮守府と司令官との間に絆の繋がりを感じます。絆の繋がりから、この鎮守府の司令官で間違いないです」
「……そうか」
“絆”というものがよく分からなかったが、妖精さんだけに感じられる何かで俺はこの鎮守府の司令官であると判断された。色々と聞きたいことがあったが、まずは互いの自己紹介を進める事にする。
「次は吹雪。改めての自己紹介になるが、お願いする」
「はい、司令官」
俺が吹雪に自己紹介をお願いすると、彼女は律儀にも椅子から立ち上がり敬礼した。
「改めまして、特型駆逐艦の吹雪です。先ほど建造が完了し、こちらの鎮守府配属となりました。よろしくお願いします!」
見ていて気持ちのよい敬礼で自己紹介してくれる吹雪。彼女を改めて椅子に座らせて話を続ける。
「吹雪は、この鎮守府にて建造される前の記憶は有るか?」
「いえ、太平洋戦争や深海棲艦との戦いについての知識は有りますが、建造前の記憶についてはありません」
詳しく話を聞いてみると、どうやら建造前の事については知っているが自身で体験した記憶はないとのこと。つまり、今の吹雪は史実や艦隊これくしょん世界の事について事績の記録を記した伝記や資料のようなものを読んで知っているだけの状態であるという。
「彼女を建造したのは妖精さんなのか?」
「えぇ、そうです。本来なら建造は司令官に許可を取り、建造完了も立ち会いのもとに行われるのが基本ですが司令官が鎮守府内に居られず、他の方も居られませんでした。そして、いつまでも現れる様子がなかったので……本当は私が鎮守府の外を探しに行ければ良かったのですが、鎮守府を預かる妖精であるので容易に外に出られない状態でした。鎮守府には私しか居なかったので、外に居ると思われる司令官を探しに行ってもらうために、艦娘を独断で建造を行ってしまいました。勝手に鎮守府の資材を消費してしまい、すみません」
妖精さんは、本当に申し訳無さそうな顔をしてから頭を下げて俺に謝る。その様子に、俺は慌ててしまう。
「いや、俺の方こそすまない。言い訳になるが、記憶喪失で鎮守府に戻ることが出来なかった。それから、どうするべきか悩んでいたところに吹雪と出会えたので助かった。ありがとう」
吹雪が浜辺にいた俺の元に来なければ、この鎮守府に到着するのはかなり後になった、もしかしたら存在すら知らないまま来ることもなかったかもしれない。不用意に島を歩きまわる前に、吹雪と出会えてよかった。妖精さんにお礼を言っておく。
「じゃあ最後に、妖精さんの自己紹介をお願いする」
「わかりました。私は、この鎮守府に宿ることになった妖精です。名前はありませんが、以前は29番と呼ばれていました」
29番? 艦隊これくしょんのゲーム内に図鑑表示という機能があるが、それによるものだろうか? 妖精さんは、更に言葉を重ねる。
「実は私自身も現状どうなっているのか詳しくはわかっておりませんので、お話できることはあまり無いのです。以前は横須賀鎮守府の工廠に所属していましたが、人員整理のために廃棄されました。ところが、気がつけばいつの間にかコチラの鎮守府に居ました」
廃棄か……。しかし、妖精さんも俺と同じように何故この場所にいるのか分からない状態だという。違いは、この鎮守府に来る前の記憶が有るか無いか。
「この鎮守府に他の人は居ないのか?」
「鎮守府内をひと通り探ってみましたが、私達以外には人、艦娘、妖精の全ての気配がありませんでした」
「私も、途中誰も見ませんでした」
妖精さんと吹雪によれば、やはりこの鎮守府内には人がいない言う。しかし、そんなことがありうるのだろうか。確かにゲーム内の描写では艦娘と妖精、そして提督となるプレイヤーしか登場していないと思い出していたが……。考えてもわからないので、聞いてみる。
「鎮守府に人が居ないというのはあり得るのか?」
「通常、艦娘を保持する鎮守府や部隊の運営は少数精鋭が基本的なので、他の艦娘を保有しない部隊に比べて人員は圧倒的に少ないです。しかし、1つの鎮守府に司令官が1人だけというのは聞いたことがありません」
妖精さんの言葉に、やっぱり普通では無い事を知る。
「他の鎮守府や上層部に連絡を取ることは出来ないのか?」
「通信は試してみましたが、繋がりませんでした。技術的な機械のトラブルを疑ってみましたが、特に故障した部分は見当たらなかったです。引き続き通信は試みますが、通信できない原因が判らないので、繋がる可能性は低いと考えます」
容赦なく妖精さんが、今の状況について報告してくれる。さて、指示を仰ぐべき人が居ないとなると……。
「この鎮守府について他に何か分かることは有るか?」
「鎮守府にある資料をあたってみましたが、今のところめぼしい情報は見つけられていません。唯一分かった事は、この鎮守府名が神威鎮守府という名前だということだけです」
「神威? ということは北海道なのか?」
神威という言葉に、北海道小樽市にある神威岬が思い浮かんだが、北海道に鎮守府があった事なんて知らない。ゲームでも鎮守府、警備府、基地、どれも神威という場所はなかったと思う。そんな風に知識を探っていると、吹雪が答えてくれた。
「司令官、私の記憶が正しければ北海道には鎮守府が設置されていないはずです。私が聞いたことのある一番北にある防衛拠点は大湊警備府でした。そして、北海道全域の防御はその大湊警備府が担っていました」
吹雪が、思い出しながらそう語る。さらに吹雪の言葉に、妖精さんが補足して説明してくれる。
「たしか、北海道の室蘭に鎮守府を設置する計画がありましたが、青森の大湊に変更になったはずです。それ以後、北海道に基地を置く計画が実行されたという記録は無かったはずです」
吹雪が語る事が本当ならば、この神威鎮守府とは一体何なのだろうか。
人が居ない、通信が出来ない、そして俺、吹雪、妖精さんの3人共、現状が把握できない状態なので手の施しようがない。もしかしたら、妖精さんが鎮守府内の気配を見逃した可能性はあるが、今まで俺は吹雪、妖精さん以外に出会っていない事実を考えると、この鎮守府には俺たちしか居ない可能性が確かに高い。そして、妖精さんや吹雪と同じく俺も神威鎮守府というものは聞いたことがない。
と、考えてみたが現状ではこれ以上の事を知るのは難しそうで、考えても仕方ないと諦めて、俺達の経緯については後回しにして、別の重要な事について考える。
「この鎮守府に現在貯蓄されている資材は、どのくらいある?」
「現在資材の貯蓄はかなり豊富です。おおよそですが、吹雪さん1隻ならば1万回位は満タン補給で出撃できる量です」
人は居ないのに、何故か資材は貯蓄されているようだ。量もかなり多いようである。妖精さんの言葉から考えるに、吹雪の燃費は弾薬20、燃料15ぐらいだったはずだから、1万回出撃可能とするとおおよそ資材は20万ぐらいと考える。かなり多いだろう。だがそれは、吹雪1隻のみを運用する場合であって、艦娘を増やせば消費も多くなり、20万という数は直ぐに消費されてしまうだろう。それに、よくよく考えてみたら今の計算はあくまでゲーム知識によって算出したものだから、見当違いの可能性もある。後で再確認する必要があるか……。
「艦娘を増やすことは可能か?」
他の鎮守府、もしくは大本営などの上層部に連絡がつくまで、この鎮守府を離れる訳にはいかない。もしかしたら、この鎮守府周辺に深海棲艦が居るかもしれない。いや、居るだろうと考えて防衛のための戦力も用意したほうが良いかと思い、聞いてみる。
「艦娘の建造は可能です。ただし、現在は開発資材を5つしか保有していませんから、最大でも5隻までなら建造可能ということです。現時点では、本部との連絡が取れないため開発資材の確保が非常に難しいので、建造は慎重に行わなければならないと考えます」
ゲームだったら開発資材は任務報酬として一日に何個か手に入れることができたが、海軍との連絡が取れない今、資材配給が無いということで慎重にならざるを得ないか……。
更に数時間、吹雪と妖精さんとの話し合いを経て、ある程度は現状について理解することができた。しかし、分かったこと以上に分からないことも山ほどあり、頭を悩ませる事になった。
だが、考えている暇も勿体無いと思い、とりあえずは思いつくままに手を付けられる所から進めることにしたのだった。
俺は、後に知ることになる。今いる世界が、“艦隊これくしょん”の世界ではなく“ONE PIECE”という作品を元にした世界である事を……。
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